空に昇るは三日月。
空を流れる天の川。
空が覆われる星の群れ。
蓬莱山輝夜は、空を眺める。
陽光西の大地に沈み、眩いばかりの紅空は、気づけば藍色から群青へと、ゆっくりと染め上げられていった。
そして空がどんどん黒く染まる度に、月が。川が。星が。瞬き、輝く。どの全ても、腹立たしいまでに。憎らしいほどに美しい。
輝夜は、それに向かって大きく手を伸ばした。掌を、大きく開いて向けて。どれだけ伸ばしても星は掴めない。月も掴めない。それでも手を伸ばす。その手は何を意味しているのだろうか。
「輝夜」
「……永琳か」
「ええ」
輝夜はけして後ろを振り向く事の無く、答える。
八意永琳は、その背の三つ編みをふわり、と揺らしながらゆっくりと輝夜の方に歩く。そして輝夜の横に立つと、同じように空を眺めた。
「いつだったかしら、次の大宴会」
「文月の三つ目の日の曜日。あと一ヶ月もあるわよ。気が早いわ」
「久し振りの大宴会だもの。ちょっとぐらい気が早くたっていいじゃない」
「……そうね」
永琳は、その言葉を聞いて頷いた。
永遠亭が取り仕切る久々の大宴会。真夜中に行われるという事もあってか、妖怪たちを大勢集める予定である、という風に言ってある。
どうせ永遠亭自体が殆ど妖怪の住処みたいなものだ。別に妖怪がいくら来たところで何ら問題はない、と輝夜は思っている。
「その日は大安みたいだし。絶好の宴会日和じゃないかしら」
「……宴会に大安も何もあったものじゃないと思うけれど…」
「どういうものでも縁起を担ぐものよ。少なくともそう思えば次の宴会もきっといいものになる。そうは思わない?」
「……悪い宴会がどんなものか、というのが気になるわね」
「さぁ?楽しめないものかしら」
「愚問だった?」
「聞くまでは無かったわね」
そう言って、輝夜は軽く乾いた笑い声を上げた。永琳は慣れたようにして悲哀とも歓喜とも取れる微笑みを浮かべて、ふぅと溜息をついた。
輝夜は、もう一本の手もまた強く、空に向けて伸ばす。横でそれをみる永琳は、首をかしげて、輝夜に聞く。
「どうしたの?」
「綺麗よね」
「……空?」
「そうね、それもまた美しい。でも」
大きく向けたその先には。
無数に漆黒の空を舞い、明かりのように夜空を染め上げる瞬き煌めく星々の群れが。
鋭い曲線を描いた掛け方によって、満月よりもまた、切れ味を持った輝きを持つ三日月が。
星々の群れによって作られた、空を流れる一流の河が。
――その全てが。全て美しく輝く。
「この暗い漆黒の夜空を照らすように瞬く彼らは。酷く、美しいわ。綺麗過ぎて、思わず嘆願してしまいそうなぐらいだわ」
「……そうね」
「どれもが美しい。あの曲線を印す三日月が。あの群れを為す星々が。あの流星を作り出すような河が。そして――それを際立たせる、この漆黒の夜空が。何もかもが、全て美しい」
空を眺める。
地上に居る自分達など――ちっぽけな物だと、思ってしまう。この空に輝く彼らに比べて、自分たちはどれほど美しいのだろうか?
その美しさが羨ましく。――手を伸ばす。
嫉妬では無い。称賛だ。
願いながら、思いながら。輝夜は夜空に掌を向けた。
「美しく、あれ」
お前たちは、主役だ。誰一人として脇役などあり得ない。
誰もがみな。宴会の時でさえ。きっと、お前達は最高の主役になれる。それだけで自分達は、酔う事が出来るだろう。酒に酔わずとも、お前達が私達を完全に酔わせてくれるだろう。お前達はそれほどまでに美しい。
輝夜は、そう考えながら空に向かって微笑んだ。
「私にとってはね」
「ん?」
両肩に、手がかけられた。
暖かいその手は、ふと感ずると普段から感じている物。
わかっていながらも、輝夜は振り向く。
そこには、いつも自分の傍にある英凛の微笑みがあった。
「貴女が美しい、と思うわ」
「……そうかしら」
「ええ、綺麗よ。輝夜」
永琳は、輝夜の髪を撫でながら呟く。
輝夜はそれを聞いて、嬉しそうに微笑んだ。
空を眺めれば、そこには煌めく主役たち。
「私にとってもね。永琳。イナバ達も。他に来る連中もみな。主役。誰一人、私の周りで輝く者の中で脇役はあり得ない」
「そして、輝夜も。主役の一人」
「――ありがとう、永琳」
愛おしく、娘を見るような眼で永琳は輝夜の黒い綺麗な髪を撫で続けた。
その感覚を嬉しく思いながら、輝夜は空を見上げる。
全てが主役となる大宴会の日は近い。
空を流れる天の川。
空が覆われる星の群れ。
蓬莱山輝夜は、空を眺める。
陽光西の大地に沈み、眩いばかりの紅空は、気づけば藍色から群青へと、ゆっくりと染め上げられていった。
そして空がどんどん黒く染まる度に、月が。川が。星が。瞬き、輝く。どの全ても、腹立たしいまでに。憎らしいほどに美しい。
輝夜は、それに向かって大きく手を伸ばした。掌を、大きく開いて向けて。どれだけ伸ばしても星は掴めない。月も掴めない。それでも手を伸ばす。その手は何を意味しているのだろうか。
「輝夜」
「……永琳か」
「ええ」
輝夜はけして後ろを振り向く事の無く、答える。
八意永琳は、その背の三つ編みをふわり、と揺らしながらゆっくりと輝夜の方に歩く。そして輝夜の横に立つと、同じように空を眺めた。
「いつだったかしら、次の大宴会」
「文月の三つ目の日の曜日。あと一ヶ月もあるわよ。気が早いわ」
「久し振りの大宴会だもの。ちょっとぐらい気が早くたっていいじゃない」
「……そうね」
永琳は、その言葉を聞いて頷いた。
永遠亭が取り仕切る久々の大宴会。真夜中に行われるという事もあってか、妖怪たちを大勢集める予定である、という風に言ってある。
どうせ永遠亭自体が殆ど妖怪の住処みたいなものだ。別に妖怪がいくら来たところで何ら問題はない、と輝夜は思っている。
「その日は大安みたいだし。絶好の宴会日和じゃないかしら」
「……宴会に大安も何もあったものじゃないと思うけれど…」
「どういうものでも縁起を担ぐものよ。少なくともそう思えば次の宴会もきっといいものになる。そうは思わない?」
「……悪い宴会がどんなものか、というのが気になるわね」
「さぁ?楽しめないものかしら」
「愚問だった?」
「聞くまでは無かったわね」
そう言って、輝夜は軽く乾いた笑い声を上げた。永琳は慣れたようにして悲哀とも歓喜とも取れる微笑みを浮かべて、ふぅと溜息をついた。
輝夜は、もう一本の手もまた強く、空に向けて伸ばす。横でそれをみる永琳は、首をかしげて、輝夜に聞く。
「どうしたの?」
「綺麗よね」
「……空?」
「そうね、それもまた美しい。でも」
大きく向けたその先には。
無数に漆黒の空を舞い、明かりのように夜空を染め上げる瞬き煌めく星々の群れが。
鋭い曲線を描いた掛け方によって、満月よりもまた、切れ味を持った輝きを持つ三日月が。
星々の群れによって作られた、空を流れる一流の河が。
――その全てが。全て美しく輝く。
「この暗い漆黒の夜空を照らすように瞬く彼らは。酷く、美しいわ。綺麗過ぎて、思わず嘆願してしまいそうなぐらいだわ」
「……そうね」
「どれもが美しい。あの曲線を印す三日月が。あの群れを為す星々が。あの流星を作り出すような河が。そして――それを際立たせる、この漆黒の夜空が。何もかもが、全て美しい」
空を眺める。
地上に居る自分達など――ちっぽけな物だと、思ってしまう。この空に輝く彼らに比べて、自分たちはどれほど美しいのだろうか?
その美しさが羨ましく。――手を伸ばす。
嫉妬では無い。称賛だ。
願いながら、思いながら。輝夜は夜空に掌を向けた。
「美しく、あれ」
お前たちは、主役だ。誰一人として脇役などあり得ない。
誰もがみな。宴会の時でさえ。きっと、お前達は最高の主役になれる。それだけで自分達は、酔う事が出来るだろう。酒に酔わずとも、お前達が私達を完全に酔わせてくれるだろう。お前達はそれほどまでに美しい。
輝夜は、そう考えながら空に向かって微笑んだ。
「私にとってはね」
「ん?」
両肩に、手がかけられた。
暖かいその手は、ふと感ずると普段から感じている物。
わかっていながらも、輝夜は振り向く。
そこには、いつも自分の傍にある英凛の微笑みがあった。
「貴女が美しい、と思うわ」
「……そうかしら」
「ええ、綺麗よ。輝夜」
永琳は、輝夜の髪を撫でながら呟く。
輝夜はそれを聞いて、嬉しそうに微笑んだ。
空を眺めれば、そこには煌めく主役たち。
「私にとってもね。永琳。イナバ達も。他に来る連中もみな。主役。誰一人、私の周りで輝く者の中で脇役はあり得ない」
「そして、輝夜も。主役の一人」
「――ありがとう、永琳」
愛おしく、娘を見るような眼で永琳は輝夜の黒い綺麗な髪を撫で続けた。
その感覚を嬉しく思いながら、輝夜は空を見上げる。
全てが主役となる大宴会の日は近い。
参加数を100→250にした時点でやばいと思ってますが。>月の宴