※このお話は Passing each other(Ver.奇) とクロスオーバーしています。
読む際はそこに注意をしてお読みください。
「ふぅ…これでとりあえず仕事はあらかた片付いたわね。」
私は今日の仕事を終え、止めていた時間を解除した。
すると、周囲は何事もなくいつもどおりの時間が流れ出した。
私は十六夜咲夜。ここ紅魔館の主であるレミリア・スカーレットお嬢様の元で働くメイド長だ。
紅魔館は多くの妖精メイドを雇っているのだけれど、妖精というのは気ままで自由な生き物のため、なかなか十分な仕事ができる者は少ない。
そのしわ寄せは全て私に来ているのだけど、今のように時間を操ることができるので問題ではない。
お嬢様や妹のフラン様、図書室の管理をしているパチュリー様に門番の美鈴。
彼女達と一緒に過ごしているこの生活は私にとってかけがえのない幸せな時間である。
「ぜったい…だってば。」
「いえ…ですよ。」
私が廊下を歩いていると、ふと、空き部屋になっている部屋の中からひそひそと話し声が聞こえてきた。
「またメイド達がさぼってお喋りしてるのね…」
注意しようと私はドアノブに手をかけた…が私はドアを開けず、話を聞くことにした。どうやら話の話題は私のことらしい。
「だからね。絶対メイド長はお嬢様が好きなんですよ。」
「えー?私が思うに本命は門番長だよー。」
「門番長とメイド長は仲悪そうに見えるけど?いつも門番長はメイド長に怒られてナイフ投げられてるの見るし。」
「いやいやー、それはアレですよ。愛情の裏返し!好きだけど素直になれない・・・あぁもう!メイド長ったら可愛すぎー!!」
「あら、ありがとう。」
私は気付かないようにメイド達の背後に立ってそう答えた。
「め…メイド長!?」
「いつからそこにっ!?」
「絶対メイド長は~…あたりからかしらね。」
メイド達の顔色が面白いように青ざめていく。
「貴女達、こんなところで油を売ってないでさっさと与えられた仕事にもどりなさい。」
そう言ってにっこりと微笑んであげるとメイド達は蜘蛛の子を散らすように走り去っていった。
「まったく…」
勝手に自分の知らないところで噂話をされるというのはいい気分ではない。
それも間違っていることを言われるのは尚更である。
確かにお嬢様は私を拾ってくれて、この紅魔館に居場所を与えてくれた方。憧れや尊敬なんて言葉では到底表せないくらい私には大切なヒト。
美鈴も普段はどこか甘いところがあり仕事をよくサボることもあるが、互いに信頼しあえる良い友人もしくは家族のように思っている。
でも私が本当に好きなのは…
自室に戻り、そっと机の引き出しから一枚の写真を取り出した。以前、天狗の新聞記者から貰ったものだ。
その写真にはまるで太陽のように眩しい笑顔をした少女の姿が写っていた。
「魔理沙…」
無意識のうちに声に出してしまっていた。そう、私の好きな人は霧雨魔理沙・・・魔法の森に住む魔法使いだ。
最初のうちは特になんの感情も抱かなかった。ただ、よく図書館の書物を持っていく侵入者。とだけ思っていた。
でも、侵入する回数が増える度、自然と彼女と話す機会が増えた、そしていつのまにか平然とお茶を飲みにくるようになった。
そして私は彼女を知った…
自分勝手ではあるが、裏表のないその性格。負けず嫌いで、人知れず努力をしているその直向な姿勢。こちらまで明るくなるその屈託のない笑顔…
そんな魔理沙を見ていると、ついつい彼女に対して甘くなってしまう。
そして、まるで彼女のスペル…恋の魔法にあてられたかのように、気がついたら私は魔理沙のことを好きになっていた。
「そろそろね・・・」
今日はいつもより早く仕事を終わらせた。最近の魔理沙は妖怪の山にばかり行っているみたいであまり紅魔館に来ない。
まぁ、自分でも侵入してくるのを楽しみにしているのはどうかと思うけど・・・
とにかく、そういうわけで今日は魔理沙に会いに行こうと思い、仕事を全て片付けたのだ。
私は結っていたリボンを解くと引き出しから数本リボンを取り出した。そして鏡の前で様々なリボンを試して髪を結い始めた。
「青…はちょっと違うかしら・・・ピンクは・・・私のキャラじゃないわね…黄色…赤…水玉…」
鏡を見ながらリボンを真剣に選んでみた。どうもどの色も柄もしっくりこない。
そんな風にリボンを選んでいる間に随分と時間が経ってしまった。
「…何してるんだろう私。魔理沙に会いに行くだけなのに、リボンひとつ選ぶだけで日が暮れそうだわ。」
なんとなく鏡とにらめっこをしている自分が滑稽に思え、私はいつもどおり、緑のリボンで髪を結び、魔理沙の家へと向かった。
・・・・・・・
・・・・・
・・・
魔法の森、日の光をほとんど通さない深い森、その奥にある小さな家。そこが魔理沙の家である。
私は小さな袋を持って、魔理沙の家へと向かった。
この袋にはさっき料理の下ごしらえをするときについでに焼いた抹茶のクッキーが入っている。
魔理沙は紅茶よりも緑茶を好んでいたため、普通のクッキーよりもこうしたものの方が好きかと思い一手間加えて作ってみた。
「喜んでくれると嬉しいんだけど・・・」
魔理沙の家の前についた。どうやら魔理沙は家にいるようだ、部屋の中に人の気配がある。
私は魔理沙の家のドアをノックしようとした・・・が、私はふと何かが気になりノックすることを止めた。
「・・・他に誰かいる・・・?」
ふと、話し声が聞こえたため私はそっと回り込んで、窓から中の様子を覗き込んでみた。
私の位置からは魔理沙の後ろ姿と、その正面に見知らぬ少女がいた。いや、私は彼女を知っている。確か・・・
「東風谷早苗・・・だったかしら?」
霊夢と魔理沙が妖怪の山から帰ってきた頃から宴会にも参加しに来ていた子。
私は宴会の間は料理やお嬢様の世話で忙しかったからあまり喋ったことはなかったけど、霊夢や魔理沙、あとあの新聞記者なんかと楽しそうに話をしているところは見たことがある。
その早苗が魔理沙と楽しそうに会話をしていた。早苗が笑って魔理沙に何か話すと、魔理沙は慌てふためいて反論している。
いつも私に見せたことのないような彼女の素顔を見ているような気がした。
なんだか面白くない・・・認めたくはないけれど、恐らく私は早苗に妬いているんだろう。
「なんで私は覗きなんてしているのかしら・・・私はただ魔理沙に会いにきたのだから、先客が居ようが関係ないわよね。」
今、お邪魔したら魔理沙の迷惑になるかしら・・・一瞬そんなマイナス思考の考えが頭をよぎる。
「でもまぁ・・・本当にお邪魔だったらこのお菓子だけ置いてさっさと帰ればいいだけのことだしね。当初の目的である魔理沙の顔を見ることはできたし・・・」
そう思い、玄関の方へ向かおうとした・・・と、次の瞬間!
「え・・・?」
私の目に映ったもの、それは早苗が身を乗りだし、魔理沙の顔に自分の顔を近づけていく光景だった。
「(き、キス!?)」
カランッ!
思わずそばにあった薪の束を崩してしまった。
「誰かいるのか?」
突然魔理沙が振り向いた。私は慌てることなく・・・というかそれよりもショックが強すぎて慌てる余裕なんかなく、ただその場から逃げ出した。
後から気付いたのだけれど、どうやらクッキーの袋はこのときに落としてしまっていたようだ。
・・・・・・・
・・・・・
・・・
魔理沙の家から逃げ出した私は途方にくれていた。
魔理沙は誰からも好かれるからきっとこういうことはあるに違いないと思っていた。
だが、思っているのと実際に見るのとではやはりそのショックは大きく違っていた。
「それにしても・・・いつの間にあの子とそんな仲に・・・」
魔理沙に好意を持っている者は把握しているつもりだった。そして魔理沙が彼女達に対してどう思っているのかもある程度知っているつもりだ。
パチュリー様にフランお嬢様、人形使いのアリス、そして霊夢・・・
パチュリー様は魔理沙にとても好意を持っている。しかしそれはパチュリー様とお嬢様の関係と同じで『親友』という関係がぴったりだろう。
魔理沙の方も恐らくそう思っているはず・・・
フランお嬢様は長い年月を生きてきたとはいえ、その思考はまだ子供のもの。恋愛感情というのはまだあまりわかっていない様子で、
言うならば魔理沙のことを姉のように慕っているといった感じだ。そして魔理沙も妹のようにフランお嬢様を可愛がっている。
アリスは明らかに魔理沙を好きだとわかる。もちろんそれは愛しているという意味で・・・魔理沙もその気持ちに気付いていると思う。
それ以上のことは第三者である私には判断ができないが、もしかすると二人の間にはすでにそういう関係ができているのでは?と思うことはあった。
そして私の思う本命は・・・霊夢だ。私が魔理沙と出会って、もうずいぶんと経つが、到底二人の時間の足元にも及ばない。
以前、魔理沙は霊夢をいつか倒したい好敵手だと言っていたが・・・魔理沙にとって霊夢はそれ以上のかけがえのない存在であることは傍から見れば一目瞭然であった。
「霊夢なら仕方がない・・・そう思ってたんだけどね・・・」
霊夢と魔理沙の二人がそういう関係になるのなら、私は喜んで祝福してあげようと思っていた。しかし、全く予想外の人物がでてきた。
一体魔理沙は彼女のどんなところを好きになったのだろう?そして早苗は魔理沙をどのくらい好きなのだろう?
自分の好きな人が好きになった相手・・・それがどんな人か知りたいと思うのは自然なことではないだろうか?
「早苗のことを知っている人物・・・か。」
まず新聞記者だの河童だのが頭に浮かんだが、それと同時に同じくらい彼女を知っていそうな人物が浮かんだ。
「霊夢・・・ね。」
そして、まるで狙っていたかのように、私の目の前には博霊神社がある。
「霊夢なら彼女がどんな人物なのかよく知っているかも・・・」
そう思って、私は神社の中へと入っていった。
すでに夕日が沈みかけ、闇があたりを包みかけていた。
普段ならこの時間帯は鬼やスキマ妖怪と共に夕食を食べている頃だが、台所にも茶の間にもそんな形跡はない。
留守かなと思ったが、念のため霊夢の部屋の方へ足を運んでみると、彼女はそこにいた。
霊夢はすでに寝間着に着替え、布団を敷いて寝る準備をしていた。
「こんな時間にもう寝るなんて・・・随分と早いわね。」
「ここ最近、宴会だの妖怪退治だのでまともに休んでないのよ、いいでしょ別に。」
不機嫌そうに霊夢がそう答える。あまり機嫌を損ねるとまともに質問に答えてくれそうにないので私はさっさと聞くことにした。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど・・・東風谷早苗について。」
私が彼女の名前を出すと霊夢が一瞬、驚いたような顔をした。
「なんで急に早苗の事を聞くの?しかもわざわざこんな時間に押しかけて。」
「特に他意はないわ。宴会なんかで顔を合わせるのに私はまともに彼女を知らなかったから。あと押しかけたわけじゃなくて用事のついでに立ち寄ったのよ。」
よくもまぁこう次から次へと言い訳が出るものだと我ながら驚いた。
「ふーん・・・まぁいいわ。あの子は・・・そうね、気立てがよくて誰からも好かれる感じかしら。ちょっと気弱なところもあるけどしっかり者だし・・・」
最初はめんどくさそうにしていた霊夢だが、話し始めるとずいぶんと嬉しそうに話している。霊夢がここまで人を良く言うのもめずらしい。
「そうそう、あの子料理もすごく上手なのよ?それに笑顔がすごく柔らかくて傍にいるとこっちまで笑顔になるような・・・」
ここに来なければよかった。いつの間にかそんな風に思っていた。霊夢の口から早苗の事を聞くたび、彼女が素敵な子だということばかり証明されていく。
料理については私も負けていない自信はある。だが見ている方まで笑顔にする柔らかい笑顔なんて・・・逆立ちしたって私にはできるわけがない。
「何よあんた、そんな辛そうな顔して・・・何かあったの?」
「別に・・・なんでもないわ。ただ・・・そんな素敵な子なら魔理沙が好きになっても仕方ないって思っただけよ。あんなに仲がいいんだもの、当然よね。」
「ちょっと!あんなに仲がいい・・・って何のことよ!?早苗と魔理沙がどうかしたの!?」
いきなり霊夢がすごい剣幕で私に掴みかかって問い詰めてきた。
ドサッ。
突然のこともあり、私は布団に足をとられバランスを崩しそのまま霊夢と一緒に倒れこんだ。
「もう・・・どうしたのよ霊夢・・・」
私達は布団の上に倒れこみ、ちょうど私が霊夢の上に覆いかぶさるようになった。
霊夢は転んだ拍子にお尻を強く打ちつけたらしく、目に涙を浮かべたまま痛そうに唸っていた。
寝間着がはだけて、妙に艶かしい状態だ。
「おい……!咲夜、お前なにしてんだよ!」
いきなり後ろから強い口調で私を呼ぶ声がした。振り返るとそこには魔理沙と早苗の二人が立っていた。
なぜか魔理沙はすごく怒っているようだ。
「魔理沙・・・?どうしてここに・・・」
と、私が言うか言わないかのうちに急に早苗が何も言わずに飛び出して行ってしまった。
一瞬、走り去る彼女がすごく悲しい顔をしていたような気がした。
「ごめん、咲夜、魔理沙はあんたに任せるわ!」
霊夢が勢いよく上体を起こすと、そのまま立ち上がり、早苗が走り去っていった方へ走っていった。
「咲夜・・・きちんと説明してもらおうか。なんでお前が霊夢にあんなことしてたのか・・・」
「あんなことって・・・あれはただ事故で転んだだけで・・・って、何で魔理沙に説明する必要があるのよ。」
魔理沙には早苗という好きな人がいる。それなのに何故私と霊夢のことでそんなに怒るのだろう?
「魔理沙・・・貴女、まさか霊夢が好きだからなんて言うんじゃないでしょうね!?早苗がいるのに!」
「はぁ?なんでそこで早苗が出てくるんだよ!」
魔理沙が何を言っているのかわからない、いや、それ以前に私自信が何を言っているのかわからない。
「私が貴女の家を訪ねたとき・・・あの子とキスしてたじゃない!」
「キスって・・・あの時の・・・」
魔理沙は何か思いあたったようだ。ほら、やっぱりあの子とできてたんじゃないの・・・
ああもう駄目・・・胸の奥から感情があふれ出してくる・・・
「なんで・・・なんで貴女はいつもそうなの!?どうしていつも貴女の周りには必ず誰かがいるのよ!?」
自分でも驚くような感情の爆発。魔理沙も驚いた顔でただずっと私を見ている。
「私は・・・私はパチュリー様やアリスのように貴女と共通するものなんかなにもない!フランお嬢様のように無邪気でも素直でもない!
霊夢に比べて貴女と過ごした時間も少ないし、ましてやあの子のような笑顔なんかできるわけがない!」
頭ではもうこれ以上喋るなと自分を静止している。けれど、溢れる感情が勝手に私の口を開かせる・・・
「でも・・・それでも私は・・・魔理沙が好きなの!」
その言葉を口にした瞬間、私の感情の暴走は止まった。そして、その時初めて、自分が泣いていたことに気付いた。
「・・・馬鹿みたいでしょ?何が完全で瀟洒なメイドよ・・・聞いて呆れるわ。」
「咲夜・・・」
「・・・もうほっといて・・・・んぅ!?」
唐突に私の唇に柔らかいものが触れた。そして次の瞬間、それが魔理沙の唇だということがわかった。
「・・・ぷはっ、キスって結構緊張するもんだな。」
「な・・・何をするのよっ!?」
いきなりあんなことをされ、私の顔は一気に真っ赤になった。当の本人も顔を赤くしていた。
「咲夜が好きだからキスしたんだ。」
魔理沙の言葉に一瞬、まるで時間が止まったかのようにあたりが静かになった。
そして、私が魔理沙が口にした言葉の意味を捉える間もなく、魔理沙はさらに言葉を繋げた。
「私はずっと、咲夜が好きだったんだ・・・私が嬉しいときや辛いとき、いつも咲夜が一番にそれを分かち合ってくれた。
いつも私のことを見守ってくれたから、私は安心して無茶なこともできた。そんな咲夜だったから私は心を許して甘えることができたんだ・・・それに。」
魔理沙がいつものように眩しい笑顔でこう答えた。
「咲夜が私に微笑んでくれるから、私はいつも笑っていられるんだぜ。」
魔理沙はずるい・・・そんなこと言われたら・・・そんな笑顔を見せられたら・・・
「もう嫌いになんてなれないじゃない・・・」
・・・・・・・
・・・・・
・・・
それから、私と魔理沙はお互いに今日のことを話した。
あのキスのことも私の勘違いだったとわかった。
それに、早苗がどうして魔理沙と一緒に居たかも。
「それにしても、今日は咲夜の以外な一面を見せてもらったぜ。」
魔理沙が意地悪そうにそう言ってきた。
「そうね、でも私のこんな姿を見せるのは・・・貴女だけよ。」
そう言うと魔理沙は顔を真っ赤にして顔をそらした。そう簡単に魔理沙のいいようにはさせない。
と、ちょうどその時、空を飛んでいく二人の巫女の姿が目に映った。
「あっちも上手くいったみたいね。」
「しっかし、来訪者を残してどっかに行くとは随分と素敵な巫女さんだな。」
「まぁいいじゃないの?・・・とは言え主の居ない家に居座るのはあまりいいとは言えないわね。・・・そろそろ帰りましょうか。」
そう私が言うと魔理沙も「そうだな。」と頷いた。
「もうお腹がぺこぺこだぜ。」
「よかったらうちに来る?ちょうどこれから夕食の時間よ。」
「生憎、私は和食派だぜ?」
「あら、それは丁度いいわ、今日のメニューは珍しく和食よ。」
「へぇ、そいつは嬉しい偶然だな。」
「えぇ、嬉しい偶然ね。」
そんなやり取りをしながら、私達は紅魔館へと向かった。
秋の夜空は、綺麗な星達を飾り、幻想郷全体に穏やかな風を吹かせた。
~後日~
私が仕事をしていると、ふと美鈴に呼ばれた。どうやら私に来客のようだ。
「御苦労様、美鈴。 ・・・あら、早苗じゃない、どうしたの? こんな急に。」
「えっと、咲夜さんから料理を教わりたくて・・・やっぱり今日は忙しいですか?」
早苗は申し訳なさそうな感じでそう言ってきた。特に断る理由もなかったため、私はそれを引き受けることにした。
「いいえ、今日の仕事はあらかた片付いたから、別に構わないわよ?」
「そうですか! じゃあ、よろしくお願いいたします!」
「ええ・・・じゃあお嬢様に代わって・・・ようこそ紅魔館へ。歓迎するわね、早苗」
私がそう言うと、早苗はクスッと可笑しそうに笑ったような気がした。
「ここが厨房ね」
「お邪魔します。」
「どうぞ。」
そう言って私は早苗を紅魔館の厨房に案内した。
「すごく広い…それに材料や器具までしっかり揃ってる・・・」
早苗は嬉しそうに厨房を見渡す。
「ここにはお嬢様やパチュリー様達の他にメイドも住んでいるから。必然的にこうなってしまうのよ。」
「はぁ、私も諏訪子様達に言ってもうちょっと揃えてもらおうかしら・・・」
「なら、使っていない調理器具があるからそれを持っていくといいわ。使われないまま放置されるよりも、使ってくれる人の所へ行く方が器具としても本望でしょう。」
「わぁ・・・ありがとうございます! 咲夜さん!」
早苗は嬉しそうに笑った。とても柔らかい、温かみのある笑顔。霊夢の言っていたとおり、この子の傍にいるとこちらまで笑顔になってしまいそうだ。
「さて、それじゃ作り始めるけど・・・何がいいかしら?」
「そうですね・・・家じゃあ基本和食なので、洋食のレパートリーを増やしたいですね。後は……お菓子も少々。」
「なるほど・・・なら簡単な所から始めましょうか。」
こうして私は料理を作り始めた。早苗は生真面目にしっかりとメモを取り、レシピを書き込んでいった。
こっちまで明るくしてくれるその笑顔やこういう努力家なところは魔理沙のそれと似ていると感じた。
「咲夜さん。」
早苗はメモを取ることを一旦止めて、ふと、何か思いついたらしく、私に尋ねてきた。
「何かしら?」
「咲夜さんって料理を作ってるときどんなこと考えてます?」
「え・・・?うーん・・・大体は食べる人のことを考えるかしらね。どんな味付けや盛り付けの仕方をすれば喜んでくれるか・・・とかね。」
私がそう言うと早苗はイヤラシイ笑みを浮かべた。
「そっかぁ・・・だからなんですね。咲夜さんの料理の秘密がわかっちゃいました。」
「えっ・・・?」
「クッキーも宴会の料理も魔理沙さんが食べますもんね。だから咲夜さんの『愛』がたっぷり入ってたわけですねぇ、ご馳走様です。」
「なっ!?」
この娘はいきなり何を言うか・・・いきなりそんなことを言われ、私はつい取り乱してしまった。
「フフッ、顔赤くなってますよ?咲夜さんったら可愛い♪」
「う、うるさいわよ!」
私は手元にあったナイフを投げた。早苗はぎりぎりのところでそれを避ける。
「ちょ、ナイフは投げるものじゃないですよ!」
「いいえ、ナイフは投げるものよ!!」
こうして、料理を作るはずが、いつのまにか弾幕勝負へと発展していった。
まったく・・・霊夢、この東風谷早苗という子は貴女が思っているようなただ可愛らしいだけの子じゃないわ・・・
――とんでもない食わせ者よ。
END