※このお話は Passing each other(Ver.時) とのクロスオーバー的なものとなっております。
読む際はそこだけ注意をお願いいたします。
あと、矛盾等ございましたら遠慮なく突っ込みくださいませ
「ふぅ……晩御飯の仕込みはこれぐらいでいいかな……神奈子さまも諏訪子さまもよく食べるんだもんなぁ。
特に諏訪子さま。あのちっこい体のどこに入ってるんでしょう……神奈子さまは……まぁ、ねぇ」
私は着けていたエプロンを外し、書置きを書き始める。内容はなんでもない。今日は魔理沙さんの所に行ってくるので昼はいない。昼ご飯の準備はすませてあるから
しっかり食べてくださいだとか、夜までには戻るようにしますとか、そんな他愛のない事だ。しかし、こういう事も書いておかないと、あの二人は私を探しに幻想郷中を探し回るだろう。
それを書き終わると私は外出の用意を始める。家事の為ポニーテールにしていた髪を一旦おろし、髪留めを使って左側だけを止める。
そして外の世界から持ってきたお気に入りのカバンを持つと、待ち合わせをしている魔法使いの元へと行くことにした。
「いってきます」
私、東風谷早苗が幻想郷に来てからまだ日は浅い。こちらに来たのは外の世界ではもう信仰を得られなくなってしまったから。
外の世界はもう神には頼らなくなった。移動には馬ではなく自動車。連絡には矢文ではなく電話。あの世界に自然など殆ど残ってはいない。
そのくせ、いざ自分の力ではどうしようもない事が起きると神に祈る。そんな都合のいい神がいるものか。
だから私は幻想郷へやってきた。神奈子さまと諏訪子さま、あの2人となら素敵な世界が作れるはずだと思ったから。
こちら側にも巫女はいた。そこは計算の内だった。例えその巫女がどうであれ、神社を貰い受けるつもりだったから。
幸い、その神社は参拝客が極端に少なく、信仰がまったくと言っていいほどなかった為、簡単に譲ってもらえると思っていた。
それがそもそもの間違いだった。その巫女は力だけはとてつもなく強かったのだ。結果。私たちはその巫女に敗れた。
でも、何故か心は不思議と穏やかだった。そりゃあ、最初の頃は多少根に持ったりもしたが、、あの巫女――博麗霊夢と関わる内にそんな事で悩むのが馬鹿らしく思えた。
彼女を介して幻想郷の人たちと触れ合う内に私の中で何かが確実に変わっていった。
そして、やっとこちらでの生活が落ち着いてきたのであの時のお詫びも兼ね、プレゼントを贈ることにした。
古典的だがその分、効果は抜群のはずだ。それといっしょに食糧でも差し入れすれば今後の関係は良好になるだろう。
今日魔法使いの所へ行くのは、霊夢さんの好みを聞くためだったりする。
「……って、これじゃ打算過ぎですよね。そんな余計な事はいらないんです。私はただ、霊夢さんと仲良くなりたいだけなんですから」
「すみません、ちょっと遅れちゃいましたね」
「遅刻は罰金だぜ。という訳で何か食べ物をくれると魔理沙さんはすごい喜ぶと思うんだぜ」
「そういうと思ってちょっとしたお菓子作ってきました。外の世界のだからお口に合うか分からないけど――」
「いいっていいって。早苗の作るモンにハズレなんかなかったしな。それじゃあ、歓迎するぜ。――ようこそ我が霧雨亭へ。今日はごゆるりとお寛ぎくださいませ、マドモワゼル」
「クスクス……魔理沙さん面白い。その言い方だとまるであのお屋敷のメイド長さんみたい」
「なっ、ななな何言ってんだ早苗!変な事言うと家にいれねーぞ!」
「残念でした♪もう入っちゃったもんねー ……わぁ、意外と可愛いものとか持ってるのね、にあわなーい」
「うあー!!出てけ出てけー!!私の家に入るなー!!」
「ったく、早苗がそんな意地悪だなんて知らなかったぜ」
「クス、ごめんなさいね、このぐらい逞しくないと外の世界じゃやっていけなかったのよ」
「うへ、外ってそんなにヤバいとこなのか?ここから出たとしてもそんなとこには行きたくねーな」
「大丈夫ですよ、きっと外の世界から『魔理沙?こっちから願い下げだね!』って言われるのがオチですから」
「ぐっ……本当に逞しくなったなぁ、お前。初めの頃のナヨナヨっとした感じが嘘のようだぜ……」
ここまで逞しくなったのも主な原因は霊夢さんと魔理沙さんのお陰だろう。
しかし、魔理沙さんは見ててちょっかい出したくなるなぁ……ちょっとからかおっちゃおうかな?
「お褒めにあずかり、光栄です。あ、台所借りるね? ……へぇ、魔理沙ん、緑茶派なんだ。あの人形遣いとよく紅茶飲んでたからてっきり紅茶派だと思ってた」
「……何か今、変な呼び方しなかったか?」
「気のせいですよ、魔理沙さん♪」
フフ、まずは軽いジャブっと。本番はこの後この後……
「ものすごくおちょくられた気がするぜ…… まぁ、私の周りには紅茶が好きな奴のほうが多いからな。自分で淹れるときはもっぱら緑茶だぜ」
「そっか、今日のお菓子は紅茶が合うんだけど、緑茶にする?」
「いーや、紅茶が合うなら紅茶だ。美味しいものには美味しいお茶を。これは料理を食べるときの最低条件だぜ。……それに、緑茶は私好みのを淹れてくれる奴がいるからな」
「えー?何か言った?」
「いや、なんでもないぜ。それよりお菓子はまだかー?早くしないと霊夢の好み教えてやんねーぞー!」
「もう、少しは落ち着いて待ちなさいよ。がっついて食べたって味なんてわからないでしょ?」
「美味そうなモンいつまでも出さない方が悪いんだぜ。だから早く早くはーやーくー!!」
「はいはい…… お待たせ。今日のお菓子はねモンブランっていうの。栗を使ったケーキの一種よ。穣子さまたちからおすそわけで沢山いただいたからちょっと作りすぎちゃって」
「んじゃいっただきまーす! ……うん、美味いっ!!やっぱ早苗の作るモンは美味いなぁ!」
よし、ここで……
「ん~……今日もダメかぁ。結構自信作だったんだけどなぁ……」
「ん?お菓子のことか?めちゃくちゃ美味いぜ?どこが失敗したってんだよ?」
「いやね?魔理沙さん、いっつもある人のお菓子とか料理食べる時、すっごい幸せそうな顔するんですよねー。私の料理じゃ見せてくれないんですもの」
「ばっ……!そそそそんな事ないぜ!ただ咲夜の作るもんはどこか一味違うんだよ!早苗のだって十分美味いぜ!?」
ビンゴ!ここまでアッサリかかってくれると逆に心配になっちゃいますね。詐欺とかに引っ掛からないといいんですけど。
まぁ、そんな事はほっといてここは一気に責め立てますか♪
「誰も咲夜さんなんて言ってませんよ?ふーん……やっぱり魔理沙さんは咲夜さんの事が……」
「わー!わー!わー!ちっ、違……!」
「わぁ、魔理沙さん顔真っ赤。さすが『恋符』の使い手ですね♪」
「う、うわぁーん!!早苗がいじめるー!!」
あらら、泣きだしちゃった。ちょっとやりすぎたかな?
んー、でも魔理沙さんの泣き顔可愛いっ。なんか、こう、もっと苛めたく……
「ふぐっ……早苗のばかぁ~……ひっく、ひっく……」
って今日はこんな事をしに来たんじゃないんでした。あんまり怒らせて機嫌を損ねる前にフォローしとかないと……
霊夢さんの好みを教えてもらえなかったら今日来た意味がなくなっちゃう。
「もう、悪かったって言ってるじゃないですか……お詫びに今度面白い文献持ってきますから。いい加減に機嫌直してくださいよ」
「ひくっ……本当だな?本当に持ってきてくれるんだな?」
「私は誰かさんと違って嘘はつきませんから。……ほら、可愛い顔が台無しですよ?」
「う~……てか顔が近いぜ……誰かに見られたらどうすんだ……」
「こんな僻地に来る人なんてめったにいませんよ……っと、はい、キレイになりました」
「ん、今物音がしなかったか? ……おーい、誰かいるのかー?」
「じゃあ、私ちょっと外見てきますね」
そう言って私は外に出る。軽く家の周りを探してみるが人影は見つからない。と、薪置場の近くでお菓子包みを拾った。中は……クッキーかな?
「魔理沙さん、こんなの拾ったんですけど……」
「んあ?クッキーか、これ? まぁ、大方アリスの奴が落としていったんだろうさ。んじゃ、遠慮なくいっただきまーすっとな。うん、美味い。でもこの味は……」
「わぁ、これ、すっごく美味しい…… クッキーに抹茶が混ぜてあるのね。クッキーの甘さを殺しすぎず、それでいて抹茶の風味もしっかり残してある…… アリスさんってすっごくお菓子作り上手なんですね」
「違う…… あいつは抹茶なんてもんは使わないはずだ…… まさか!?」
急に魔理沙さんの顔が険しくなる。誰か思い当たる人がいるのだろうか?
「ねぇ魔理沙さん、これ作った人わかる……ってなんで箒掴んでるんですか?まるで今すぐどこかに飛んでいきそうな……」
「よくわかったなその通りだぜそんじゃあ私はちょっと出かけてくるぜ霊夢の好みの話はまた今度だー!!」
ノンブレスで言いたい事を言い終わるや否やもの凄いスピードで魔理沙さんは外へと飛び出していった。あの方角だとあの紅いお屋敷かな?流石は文さんと並ぶほどの速さだ、もう姿が……って!
「ちょ、待ってくださいよ魔理沙さん!今日がギリギリなんですって!置いていかないでくださいー!」
私は律義に飲んだカップに水を入れ、流し台に置くと魔理沙さんの後を追いかけ、外へと飛び出した――
「くそっ、役に立たない門番だぜ!」
「流石に門番さんは悪くないんじゃ……」
「だって屋敷から外に出るにはあそこ通るだろ?だから知ってると思ったのに……ああっ、くそ!」
当てずっぽうかと思ったらそうでもなかったようだ。ちょっと反省。流石は幾つもの異変を解決しただけの事はある、という事か。
「あとあいつの行きそうな所っていったら……やっぱり霊夢んとこか?輝夜んとこには誰かが病気にでもかからない限り行かないだろうし、あの亡霊の所は行く理由がない。
最近ちょくちょく来てたみたいだしな、そもそもレミリアの傍からあんまり離れないはずだからな……」
「魔理沙さん、探偵にでもなった方がいいんじゃないですか?すごい洞察力……」
「人間観察は魔法使いの常識だぜ……っと。見えてきたな」
ドクン、っと心臓が脈打つ。まさか今日ここに来るとは思ってなかった。服とか乱れてないかな?寝癖とかついてないかな?
「ここにいなかったら……っと、人の気配がするな。それも二人分ぐらい」
なんだその勘は。魔理沙さん、文さんと一緒に新聞屋やれば恐ろしい事になるんじゃないだろうか。
「へへ、おーい霊夢、誰といっしょ……」
部屋の中を見た魔理沙さんの声が止まる。何かあったのだろうか?魔理沙さんの後ろから部屋の中を覗き込む。そこには……
咲夜さんに押し倒されている霊夢さんの姿があった――
「おい……!咲夜、お前なにして――」
魔理沙さんが何か言いながら霊夢さんたちの所へ詰め寄る。でも、私の頭の中は違うコトでもう一杯だった。
どうして霊夢さんが咲夜さんに押し倒されているのだろう。私が知らなかっただけであの2人はそういう関係だったのだろうか……
もう何が何だかわからなくなってきた。もしかして、いや、もしかしなくても私がやろうとしている事は無駄なのだろうか。
そうに決まってる。ちゃんとした人がいるのに他の人からの贈り物なんて貰いたくもないだろう。
急に、頭の中から熱が一気に引いた感じがした。それと同時に、今、この場にいる私が、酷く、滑稽に見えて――
気がついたら、私は逃げ出すように、その場から駈け出していた。
何処をどう走ったのだろうか。気がつくと日は落ち、辺りは暗闇に包まれていた。
「はぁ……私、馬鹿みたい。一人で勝手に恋い焦がれて、勝手に失恋して……挙句の果てにこんなよくわからないとこに迷いこんじゃうし……」
そう、普段の私なら別に誰が誰に押し倒されてようと気にも留めなかっただろう。ここまでヘコむのはその人が自分の中で本当に特別な存在になっていたから。
こんな思いをするのは中学の時、好きだった先輩に振られた時以来だ。だから、この気持ちは間違いなく、恋だった。
「はぁ……しばらく霊夢さんには会いづらいなぁ……博麗神社に用事が出来たら神奈子さまに行ってもらおうっと……それと宴会にも出れないよね……」
負が負を呼ぶスパイラル。そういえばスパイラルっていう漫画あったなぁ。アライヴになってから読まなくなったけどどういう話なんだろ。
アライヴって言えばコミックアライヴなんて月刊誌も確か出てた気がする。あれ、押入れの同人誌全部処分したっけ――
「って、何考えてんだろ、私。――そろそろ帰らないと。諏訪子さまたちが『早苗ー、ごーはーんー』なんて言いながら箸でお茶碗叩いてそう……」
そうと決めたらさっさと帰ろう。帰り道は分からないが大丈夫。しばらく歩けば『奇跡』が起こって『何故か』自分の知ってる道へ出るだろう。
――不意に、闇がその密度を増したような気がした。
私は慌てて周囲を見渡してみる。さっきまで見えたたはずの木々が見えなくなっていた。
おかしい。いくら夜とはいえ、月の光で少しはその形を捉えることができるはず。となればこれは……
「あなたは食べてもいい人類?」
「くっ、やっぱり妖怪!?」
「私はお腹が減ってるのだー。だからあなたを食べてもいーい?」
「ちょ、ちょっと待ってよ、お腹減ってるだけなの?だったらこれあげるから……」
そう言って私はカバンの中からお菓子の余りを取り出す。ちょっと量は少ないが、女の子のようだし、これぐらいで足りるだろう。
「んー?これ食べていいのかー?それじゃーいただきまーす。……うん、美味い。でもまだ物足りないなー。やっぱりあなたも食べていーい?」
「冗談じゃない……! 奇跡『白昼の……』ッ!?」
さっきまで周りにあるだけだった闇が私を覆い尽くしている!? スペルを発動させるには発動させたいカードと唱えるスペル名が一致していなければならないが
これでは私がどのカードを持ってるかなんてわからない……!
「いつもいつもスペルカードで負けてるからなー。スペルカードさえなければ大丈夫だろー。というわけでいただきまーす」
妖怪が言い終わるや否や背後から殺気が膨れ上がる!
「くっ!?」
体を捻りなんとか避ける。こちらも通常弾を撃ってみるが全て闇の中へと飲み込まれていった。
流石に、まずい。相手からはこちらの位置は丸見え、対するこちらはまるでわからない。このままではなぶり殺しだ。
「あうっ!?」
肩に鋭い痛みが走る。なんとなく血が流れている感じがする。ちょっとばかしもっていかれたか。いよいよもってマズイ。
止血しなければならないが止まるわけにはいかない。しかし止まったらあいつのいい的。どんづまりか。
考えがまとまらない。視界が霞んでいる気がする。思った以上に出血が激しいという事か。ならばもう、いちかばちかに賭けるしかない。
懐を漁り、一枚のカードを選ぶ。そして私はカードを頭上に掲げ、その名前を呼ぶ――!
「奇跡『神の風』!!」
しかし、無情にもスペルは発動されなかった。
はは、やっぱり当てずっぽうじゃダメか。これで私の人生も終わり。あーあ、散々な一日だったなぁ。想い人が押し倒されてるのを見て、失恋して、挙句の果てに死ぬのか。
今日は厄日だったなぁ…… 出かける前に雛さまに厄をとってもらえばよかった。
「諦めたのかー?それじゃーいただきまーすなのだー」
妖怪が真正面からやってくる。姿は見えずとも気配でわかる。これで終わりだ。神奈子さま、諏訪子さま、先立つ不孝をお許しください。
ああでも、最後に奇跡を起こせるのなら――
――もう一度、彼女の姿を見たかった
「はい、そこまでにしときなさい」
――奇跡は起きないから奇跡って言うんですよ? なんて言ったのはどこの誰だっけ。
「あう!? な、なにをするだぁーなのかー!?」
「何を言ってるのよ……人間は食べるなって、前にも言ったわよね?」
――この『奇跡』は私の力なのだろうか。それとももっと別な力なのだろうか。
「うぅ、でもすごくお腹が空いたのだー。さっき貰ったものぐらいじゃ膨れないのだ―」
「だったらあの夜雀の所にでも行きなさいな。対価さえ払えば鰻食べさせてくれるそうだからね」
「そーなのかー」
――闇が、晴れる。私が待ち望んだ『奇跡』は
「大丈夫だった?早苗」
――いつもの気だるそうな、でも少しだけ焦りを浮かべた顔でそこにいた。
「まったく……ルーミアにも困ったもんね」
今、私たちは慧音さんの家にお邪魔している。あの後、私は気を失い、霊夢さんが私をおぶって連れてきてくれたらしい。……重くなかったかなぁ。
「っと、これでよし。大丈夫?痛くない?」
「は、はい。……ありがとうございました。霊夢さんが来てくれなかったら今頃……でも、よく私があそこにいるってわかりましたね?」
「んー、まぁ、勘よ勘。私の勘は鋭いんだから」
ふと、会話が途切れる。なんとなく、というか普通に気まずい。居心地が悪い。そもそもここに来てからまともに霊夢さんの顔を見ていない。
このままここに居てもどうしようもない。慧音さんにも迷惑だし、帰ろう。
「それじゃあ慧音さん、お邪魔しました。私帰りますね」
「あ、待ちなさいよ早苗!」
私は霊夢さんの制止を振り切って外にでた。その姿を見て慧音さんが『痴話げんかもほどほどになー』とか言っていたがどこをどうみたらそんな話になるのだろう。
意外と慧音さんは人を見る目がないのか?
「だからっ、早苗待ちなさいってば!」
「何なんですか!? 助けてくれたことには感謝してます! お礼もいいました! 他に何が――!?」
――言いかけた言葉は
――目の前にいる人の
――熱く、柔らかい唇によって
――泡となって消えた
「なっ、何をするんですか!? そもそも霊夢さんには咲夜さんが――」
「はいストップ。まずはそこから説明しなきゃね……」
「……てな訳よ。あれはただ単に咲夜が足をすべらせただけ。そもそも咲夜は魔理沙ラヴなんだから。私を好きになるとかはありえないわね」
「うぅ、という事は……」
「そ、全部あんたの勘違い」
一気に顔が赤くなるのが分かる。orz←まさに気分はこんな感じだ。穴があったら埋まりたい……
「それにしても早苗はテンパると逃げ出しちゃうのねー。魔理沙みたく激昂するタイプなら楽だったんでしょうけど……」
うう……ホントに恥ずかしい。これはあれよね、『さなちゃん、自爆にも負けず』のスペカ使うべきよね……
そういえばどうして霊夢さんはパジャマのままなのだろう?
「あの、霊夢さん?」
「なによ」
「どうしてパジャマのままなんですか?」
「へ? ……あ」
霊夢さんの頬が朱に染まった気がする。え、何? パジャマのままで出てくるほど焦ってたって事? どうしよう、凄い、嬉しい。
「霊夢さん」
「な、なによ?」
「…ありがとうございます」
「…ん」
「さて、じゃああんたの家まで行きますか」
「え?私、一人でも帰れますよ?」
「はいはい、とっとと行くわよ?大体そんなカッコで帰ったら『早苗、どこのどいつにやられた? 大丈夫、ちょっとお話してくるだけだから……』
ってあの二神が出張ってくるに決まってるんだから。そうならない為にもフォローしてあげるわよ」
「あー……」
その光景が余裕で浮かび上がる。確かにあの二人ならその程度の事は余裕でしそう、というかするだろう。
ここは大人しく霊夢さんの好意に甘えておこう。
「じゃあ、よろしくお願いします」
「最初っから素直にそういえばいいのよ……早く帰らないとあの二神、ハラペコで倒れてるんじゃないの?」
「そ、そうでした! 霊夢さん、急ぎましょう!」
何故か、私はお箸でお茶碗を乱れうちする二人を幻視してしまった……
守矢神社への帰り道、私は今日の目標を達成すべく、意を決して霊夢さんに質問してみた。
「あ、あの霊夢さんっ!」
「なぁに?私、早苗からのプレゼントなら何でも嬉しいわよ?」
「霊夢さんの好きな――って、へ?」
イマ、ナンテイッタンデショウカ、レイムサン?
トイウカナンデワタシガプレゼントシヨウトシテルコトヲシッテイマスカ?
「ああ、魔理沙がね『早苗がお前の好み知りたがってるんだがお前好きなもんとかあんのか?』って聞いてくるから」
あんちくしょう……今度会ったらいじめ抜いてやる。それこそ今日の比じゃないぐらいに……
「それで、早苗?」
「はっ、はい!なんでしょう!?」
「プレゼント、期待してていいんでしょう?」
その時の霊夢さんの陽だまりのような優しい微笑みを、私は一生忘れないだろう――
数日後――
私は紅魔館の前にいた。今日ここに来たのは咲夜さんから料理を習うためだった。
「と、言う訳で咲夜さんにお会いしたいんですけど……」
「とりあえず、本人に聞いてみたらどうですか? ……咲夜さーん! 早苗さんが来ましたよー!」
美鈴さんが咲夜さんを呼ぶ。すると最初からそこにいたかのように咲夜さんが現れた。
「御苦労さま、美鈴。 ……あら、早苗じゃない、どうしたの? こんな急に」
「えっと、咲夜さんから料理を教わりたくて……やっぱり今日は忙しいですか?」
「いいえ、今日の仕事はあらかた片付いたから、別に構わないわよ?」
「そうですか! じゃあ、よろしくお願いいたします!」
「ええ……じゃあお嬢様に代わって……ようこそ紅魔館へ。 歓迎するわね、早苗」
あー、やっぱ魔理沙さんのアレは咲夜さん仕込みか……フフ、これでまたからかっちゃおうっと。
「ここが厨房ね」
「お邪魔します」
厨房へと入る。流石、というべきか。 そこにはここ幻想郷で手に入るありとあらゆる食材、調味料が揃っていた。
「すごく広い……それに材料や器具までしっかり揃ってる……」
「ここにはお嬢様やパチュリーさまたちの他にメイドも住んでいますから。必然的にこうなってしまいますよ」
「はぁ、私も諏訪子さまたちに言ってもうちょっと揃えてもらおうかしら……」
「なら、使っていない調理器具があるからそれを持っていくといいわ。使われないまま放置されるよりも、使ってくれる人の所へ行く方が器具としても本望でしょう」
「わぁ……ありがとうございます! 咲夜さん!」
「さて、それじゃ作り始めるけど……何がいいかしら?」
「そうですね……家じゃあ基本和食なので、洋食のレパートリーを増やしたいですね。後は……お菓子も少々」
「なるほど……なら簡単な所から始めましょうか」
教わり始めてから結構な時間が経った。咲夜さんは手際よく何品も作っていく。
私はメモをとるのでいっぱいいっぱいだった。……ちょっと、悔しい。だから、私は
――イジワルをすることにした。
「咲夜さん」
「何かしら?」
「咲夜さんって料理を作ってるときどんなこと考えてます?」
「え……? うーん……大体は食べる人のことを考えるかしらね。 どんな味付けや盛り付けの仕方をすれば喜んでくれるか……とかね」
ふーん、そうなんですかぁ、なんて相槌をいれながら私はニヤァ、っと意地の悪い笑みを浮かべる。
「そっかぁ……だからなんですね。咲夜さんの料理の秘密がわかっちゃいました」
「えっ……?」
「クッキーも宴会の料理も魔理沙さんが食べますもんね。だから咲夜さんの『愛』がたっぷり入ってたわけですねぇ、ご馳走様です」
ハーァ、なんてわざとらしい溜息をつくことも忘れない。
「なっ!?」
おーおー、動揺してる動揺してる。顔なんか真っ赤じゃないですか。
「フフッ、顔、赤くなってますよ? 咲夜さんったらかーわいい♪」
「う、うるさいわよ!」
いきなりナイフが飛んでくる。あっぶな……何をしてくれるんだ、このメイド長は。
「ちょ、ナイフは投げるものじゃないですよ!」
「いいえ、ナイフは投げるものよ!!」
こうして、料理を教わるはずが、いつの間にか弾幕勝負にへと変わっていった。
誰だ、この人の事を『完全で瀟洒な従者』なんて呼んだ奴は。少なくとも今私の眼の前にいる人は
――ただの恋する乙女じゃないか
読む際はそこだけ注意をお願いいたします。
あと、矛盾等ございましたら遠慮なく突っ込みくださいませ
「ふぅ……晩御飯の仕込みはこれぐらいでいいかな……神奈子さまも諏訪子さまもよく食べるんだもんなぁ。
特に諏訪子さま。あのちっこい体のどこに入ってるんでしょう……神奈子さまは……まぁ、ねぇ」
私は着けていたエプロンを外し、書置きを書き始める。内容はなんでもない。今日は魔理沙さんの所に行ってくるので昼はいない。昼ご飯の準備はすませてあるから
しっかり食べてくださいだとか、夜までには戻るようにしますとか、そんな他愛のない事だ。しかし、こういう事も書いておかないと、あの二人は私を探しに幻想郷中を探し回るだろう。
それを書き終わると私は外出の用意を始める。家事の為ポニーテールにしていた髪を一旦おろし、髪留めを使って左側だけを止める。
そして外の世界から持ってきたお気に入りのカバンを持つと、待ち合わせをしている魔法使いの元へと行くことにした。
「いってきます」
私、東風谷早苗が幻想郷に来てからまだ日は浅い。こちらに来たのは外の世界ではもう信仰を得られなくなってしまったから。
外の世界はもう神には頼らなくなった。移動には馬ではなく自動車。連絡には矢文ではなく電話。あの世界に自然など殆ど残ってはいない。
そのくせ、いざ自分の力ではどうしようもない事が起きると神に祈る。そんな都合のいい神がいるものか。
だから私は幻想郷へやってきた。神奈子さまと諏訪子さま、あの2人となら素敵な世界が作れるはずだと思ったから。
こちら側にも巫女はいた。そこは計算の内だった。例えその巫女がどうであれ、神社を貰い受けるつもりだったから。
幸い、その神社は参拝客が極端に少なく、信仰がまったくと言っていいほどなかった為、簡単に譲ってもらえると思っていた。
それがそもそもの間違いだった。その巫女は力だけはとてつもなく強かったのだ。結果。私たちはその巫女に敗れた。
でも、何故か心は不思議と穏やかだった。そりゃあ、最初の頃は多少根に持ったりもしたが、、あの巫女――博麗霊夢と関わる内にそんな事で悩むのが馬鹿らしく思えた。
彼女を介して幻想郷の人たちと触れ合う内に私の中で何かが確実に変わっていった。
そして、やっとこちらでの生活が落ち着いてきたのであの時のお詫びも兼ね、プレゼントを贈ることにした。
古典的だがその分、効果は抜群のはずだ。それといっしょに食糧でも差し入れすれば今後の関係は良好になるだろう。
今日魔法使いの所へ行くのは、霊夢さんの好みを聞くためだったりする。
「……って、これじゃ打算過ぎですよね。そんな余計な事はいらないんです。私はただ、霊夢さんと仲良くなりたいだけなんですから」
「すみません、ちょっと遅れちゃいましたね」
「遅刻は罰金だぜ。という訳で何か食べ物をくれると魔理沙さんはすごい喜ぶと思うんだぜ」
「そういうと思ってちょっとしたお菓子作ってきました。外の世界のだからお口に合うか分からないけど――」
「いいっていいって。早苗の作るモンにハズレなんかなかったしな。それじゃあ、歓迎するぜ。――ようこそ我が霧雨亭へ。今日はごゆるりとお寛ぎくださいませ、マドモワゼル」
「クスクス……魔理沙さん面白い。その言い方だとまるであのお屋敷のメイド長さんみたい」
「なっ、ななな何言ってんだ早苗!変な事言うと家にいれねーぞ!」
「残念でした♪もう入っちゃったもんねー ……わぁ、意外と可愛いものとか持ってるのね、にあわなーい」
「うあー!!出てけ出てけー!!私の家に入るなー!!」
「ったく、早苗がそんな意地悪だなんて知らなかったぜ」
「クス、ごめんなさいね、このぐらい逞しくないと外の世界じゃやっていけなかったのよ」
「うへ、外ってそんなにヤバいとこなのか?ここから出たとしてもそんなとこには行きたくねーな」
「大丈夫ですよ、きっと外の世界から『魔理沙?こっちから願い下げだね!』って言われるのがオチですから」
「ぐっ……本当に逞しくなったなぁ、お前。初めの頃のナヨナヨっとした感じが嘘のようだぜ……」
ここまで逞しくなったのも主な原因は霊夢さんと魔理沙さんのお陰だろう。
しかし、魔理沙さんは見ててちょっかい出したくなるなぁ……ちょっとからかおっちゃおうかな?
「お褒めにあずかり、光栄です。あ、台所借りるね? ……へぇ、魔理沙ん、緑茶派なんだ。あの人形遣いとよく紅茶飲んでたからてっきり紅茶派だと思ってた」
「……何か今、変な呼び方しなかったか?」
「気のせいですよ、魔理沙さん♪」
フフ、まずは軽いジャブっと。本番はこの後この後……
「ものすごくおちょくられた気がするぜ…… まぁ、私の周りには紅茶が好きな奴のほうが多いからな。自分で淹れるときはもっぱら緑茶だぜ」
「そっか、今日のお菓子は紅茶が合うんだけど、緑茶にする?」
「いーや、紅茶が合うなら紅茶だ。美味しいものには美味しいお茶を。これは料理を食べるときの最低条件だぜ。……それに、緑茶は私好みのを淹れてくれる奴がいるからな」
「えー?何か言った?」
「いや、なんでもないぜ。それよりお菓子はまだかー?早くしないと霊夢の好み教えてやんねーぞー!」
「もう、少しは落ち着いて待ちなさいよ。がっついて食べたって味なんてわからないでしょ?」
「美味そうなモンいつまでも出さない方が悪いんだぜ。だから早く早くはーやーくー!!」
「はいはい…… お待たせ。今日のお菓子はねモンブランっていうの。栗を使ったケーキの一種よ。穣子さまたちからおすそわけで沢山いただいたからちょっと作りすぎちゃって」
「んじゃいっただきまーす! ……うん、美味いっ!!やっぱ早苗の作るモンは美味いなぁ!」
よし、ここで……
「ん~……今日もダメかぁ。結構自信作だったんだけどなぁ……」
「ん?お菓子のことか?めちゃくちゃ美味いぜ?どこが失敗したってんだよ?」
「いやね?魔理沙さん、いっつもある人のお菓子とか料理食べる時、すっごい幸せそうな顔するんですよねー。私の料理じゃ見せてくれないんですもの」
「ばっ……!そそそそんな事ないぜ!ただ咲夜の作るもんはどこか一味違うんだよ!早苗のだって十分美味いぜ!?」
ビンゴ!ここまでアッサリかかってくれると逆に心配になっちゃいますね。詐欺とかに引っ掛からないといいんですけど。
まぁ、そんな事はほっといてここは一気に責め立てますか♪
「誰も咲夜さんなんて言ってませんよ?ふーん……やっぱり魔理沙さんは咲夜さんの事が……」
「わー!わー!わー!ちっ、違……!」
「わぁ、魔理沙さん顔真っ赤。さすが『恋符』の使い手ですね♪」
「う、うわぁーん!!早苗がいじめるー!!」
あらら、泣きだしちゃった。ちょっとやりすぎたかな?
んー、でも魔理沙さんの泣き顔可愛いっ。なんか、こう、もっと苛めたく……
「ふぐっ……早苗のばかぁ~……ひっく、ひっく……」
って今日はこんな事をしに来たんじゃないんでした。あんまり怒らせて機嫌を損ねる前にフォローしとかないと……
霊夢さんの好みを教えてもらえなかったら今日来た意味がなくなっちゃう。
「もう、悪かったって言ってるじゃないですか……お詫びに今度面白い文献持ってきますから。いい加減に機嫌直してくださいよ」
「ひくっ……本当だな?本当に持ってきてくれるんだな?」
「私は誰かさんと違って嘘はつきませんから。……ほら、可愛い顔が台無しですよ?」
「う~……てか顔が近いぜ……誰かに見られたらどうすんだ……」
「こんな僻地に来る人なんてめったにいませんよ……っと、はい、キレイになりました」
「ん、今物音がしなかったか? ……おーい、誰かいるのかー?」
「じゃあ、私ちょっと外見てきますね」
そう言って私は外に出る。軽く家の周りを探してみるが人影は見つからない。と、薪置場の近くでお菓子包みを拾った。中は……クッキーかな?
「魔理沙さん、こんなの拾ったんですけど……」
「んあ?クッキーか、これ? まぁ、大方アリスの奴が落としていったんだろうさ。んじゃ、遠慮なくいっただきまーすっとな。うん、美味い。でもこの味は……」
「わぁ、これ、すっごく美味しい…… クッキーに抹茶が混ぜてあるのね。クッキーの甘さを殺しすぎず、それでいて抹茶の風味もしっかり残してある…… アリスさんってすっごくお菓子作り上手なんですね」
「違う…… あいつは抹茶なんてもんは使わないはずだ…… まさか!?」
急に魔理沙さんの顔が険しくなる。誰か思い当たる人がいるのだろうか?
「ねぇ魔理沙さん、これ作った人わかる……ってなんで箒掴んでるんですか?まるで今すぐどこかに飛んでいきそうな……」
「よくわかったなその通りだぜそんじゃあ私はちょっと出かけてくるぜ霊夢の好みの話はまた今度だー!!」
ノンブレスで言いたい事を言い終わるや否やもの凄いスピードで魔理沙さんは外へと飛び出していった。あの方角だとあの紅いお屋敷かな?流石は文さんと並ぶほどの速さだ、もう姿が……って!
「ちょ、待ってくださいよ魔理沙さん!今日がギリギリなんですって!置いていかないでくださいー!」
私は律義に飲んだカップに水を入れ、流し台に置くと魔理沙さんの後を追いかけ、外へと飛び出した――
「くそっ、役に立たない門番だぜ!」
「流石に門番さんは悪くないんじゃ……」
「だって屋敷から外に出るにはあそこ通るだろ?だから知ってると思ったのに……ああっ、くそ!」
当てずっぽうかと思ったらそうでもなかったようだ。ちょっと反省。流石は幾つもの異変を解決しただけの事はある、という事か。
「あとあいつの行きそうな所っていったら……やっぱり霊夢んとこか?輝夜んとこには誰かが病気にでもかからない限り行かないだろうし、あの亡霊の所は行く理由がない。
最近ちょくちょく来てたみたいだしな、そもそもレミリアの傍からあんまり離れないはずだからな……」
「魔理沙さん、探偵にでもなった方がいいんじゃないですか?すごい洞察力……」
「人間観察は魔法使いの常識だぜ……っと。見えてきたな」
ドクン、っと心臓が脈打つ。まさか今日ここに来るとは思ってなかった。服とか乱れてないかな?寝癖とかついてないかな?
「ここにいなかったら……っと、人の気配がするな。それも二人分ぐらい」
なんだその勘は。魔理沙さん、文さんと一緒に新聞屋やれば恐ろしい事になるんじゃないだろうか。
「へへ、おーい霊夢、誰といっしょ……」
部屋の中を見た魔理沙さんの声が止まる。何かあったのだろうか?魔理沙さんの後ろから部屋の中を覗き込む。そこには……
咲夜さんに押し倒されている霊夢さんの姿があった――
「おい……!咲夜、お前なにして――」
魔理沙さんが何か言いながら霊夢さんたちの所へ詰め寄る。でも、私の頭の中は違うコトでもう一杯だった。
どうして霊夢さんが咲夜さんに押し倒されているのだろう。私が知らなかっただけであの2人はそういう関係だったのだろうか……
もう何が何だかわからなくなってきた。もしかして、いや、もしかしなくても私がやろうとしている事は無駄なのだろうか。
そうに決まってる。ちゃんとした人がいるのに他の人からの贈り物なんて貰いたくもないだろう。
急に、頭の中から熱が一気に引いた感じがした。それと同時に、今、この場にいる私が、酷く、滑稽に見えて――
気がついたら、私は逃げ出すように、その場から駈け出していた。
何処をどう走ったのだろうか。気がつくと日は落ち、辺りは暗闇に包まれていた。
「はぁ……私、馬鹿みたい。一人で勝手に恋い焦がれて、勝手に失恋して……挙句の果てにこんなよくわからないとこに迷いこんじゃうし……」
そう、普段の私なら別に誰が誰に押し倒されてようと気にも留めなかっただろう。ここまでヘコむのはその人が自分の中で本当に特別な存在になっていたから。
こんな思いをするのは中学の時、好きだった先輩に振られた時以来だ。だから、この気持ちは間違いなく、恋だった。
「はぁ……しばらく霊夢さんには会いづらいなぁ……博麗神社に用事が出来たら神奈子さまに行ってもらおうっと……それと宴会にも出れないよね……」
負が負を呼ぶスパイラル。そういえばスパイラルっていう漫画あったなぁ。アライヴになってから読まなくなったけどどういう話なんだろ。
アライヴって言えばコミックアライヴなんて月刊誌も確か出てた気がする。あれ、押入れの同人誌全部処分したっけ――
「って、何考えてんだろ、私。――そろそろ帰らないと。諏訪子さまたちが『早苗ー、ごーはーんー』なんて言いながら箸でお茶碗叩いてそう……」
そうと決めたらさっさと帰ろう。帰り道は分からないが大丈夫。しばらく歩けば『奇跡』が起こって『何故か』自分の知ってる道へ出るだろう。
――不意に、闇がその密度を増したような気がした。
私は慌てて周囲を見渡してみる。さっきまで見えたたはずの木々が見えなくなっていた。
おかしい。いくら夜とはいえ、月の光で少しはその形を捉えることができるはず。となればこれは……
「あなたは食べてもいい人類?」
「くっ、やっぱり妖怪!?」
「私はお腹が減ってるのだー。だからあなたを食べてもいーい?」
「ちょ、ちょっと待ってよ、お腹減ってるだけなの?だったらこれあげるから……」
そう言って私はカバンの中からお菓子の余りを取り出す。ちょっと量は少ないが、女の子のようだし、これぐらいで足りるだろう。
「んー?これ食べていいのかー?それじゃーいただきまーす。……うん、美味い。でもまだ物足りないなー。やっぱりあなたも食べていーい?」
「冗談じゃない……! 奇跡『白昼の……』ッ!?」
さっきまで周りにあるだけだった闇が私を覆い尽くしている!? スペルを発動させるには発動させたいカードと唱えるスペル名が一致していなければならないが
これでは私がどのカードを持ってるかなんてわからない……!
「いつもいつもスペルカードで負けてるからなー。スペルカードさえなければ大丈夫だろー。というわけでいただきまーす」
妖怪が言い終わるや否や背後から殺気が膨れ上がる!
「くっ!?」
体を捻りなんとか避ける。こちらも通常弾を撃ってみるが全て闇の中へと飲み込まれていった。
流石に、まずい。相手からはこちらの位置は丸見え、対するこちらはまるでわからない。このままではなぶり殺しだ。
「あうっ!?」
肩に鋭い痛みが走る。なんとなく血が流れている感じがする。ちょっとばかしもっていかれたか。いよいよもってマズイ。
止血しなければならないが止まるわけにはいかない。しかし止まったらあいつのいい的。どんづまりか。
考えがまとまらない。視界が霞んでいる気がする。思った以上に出血が激しいという事か。ならばもう、いちかばちかに賭けるしかない。
懐を漁り、一枚のカードを選ぶ。そして私はカードを頭上に掲げ、その名前を呼ぶ――!
「奇跡『神の風』!!」
しかし、無情にもスペルは発動されなかった。
はは、やっぱり当てずっぽうじゃダメか。これで私の人生も終わり。あーあ、散々な一日だったなぁ。想い人が押し倒されてるのを見て、失恋して、挙句の果てに死ぬのか。
今日は厄日だったなぁ…… 出かける前に雛さまに厄をとってもらえばよかった。
「諦めたのかー?それじゃーいただきまーすなのだー」
妖怪が真正面からやってくる。姿は見えずとも気配でわかる。これで終わりだ。神奈子さま、諏訪子さま、先立つ不孝をお許しください。
ああでも、最後に奇跡を起こせるのなら――
――もう一度、彼女の姿を見たかった
「はい、そこまでにしときなさい」
――奇跡は起きないから奇跡って言うんですよ? なんて言ったのはどこの誰だっけ。
「あう!? な、なにをするだぁーなのかー!?」
「何を言ってるのよ……人間は食べるなって、前にも言ったわよね?」
――この『奇跡』は私の力なのだろうか。それとももっと別な力なのだろうか。
「うぅ、でもすごくお腹が空いたのだー。さっき貰ったものぐらいじゃ膨れないのだ―」
「だったらあの夜雀の所にでも行きなさいな。対価さえ払えば鰻食べさせてくれるそうだからね」
「そーなのかー」
――闇が、晴れる。私が待ち望んだ『奇跡』は
「大丈夫だった?早苗」
――いつもの気だるそうな、でも少しだけ焦りを浮かべた顔でそこにいた。
「まったく……ルーミアにも困ったもんね」
今、私たちは慧音さんの家にお邪魔している。あの後、私は気を失い、霊夢さんが私をおぶって連れてきてくれたらしい。……重くなかったかなぁ。
「っと、これでよし。大丈夫?痛くない?」
「は、はい。……ありがとうございました。霊夢さんが来てくれなかったら今頃……でも、よく私があそこにいるってわかりましたね?」
「んー、まぁ、勘よ勘。私の勘は鋭いんだから」
ふと、会話が途切れる。なんとなく、というか普通に気まずい。居心地が悪い。そもそもここに来てからまともに霊夢さんの顔を見ていない。
このままここに居てもどうしようもない。慧音さんにも迷惑だし、帰ろう。
「それじゃあ慧音さん、お邪魔しました。私帰りますね」
「あ、待ちなさいよ早苗!」
私は霊夢さんの制止を振り切って外にでた。その姿を見て慧音さんが『痴話げんかもほどほどになー』とか言っていたがどこをどうみたらそんな話になるのだろう。
意外と慧音さんは人を見る目がないのか?
「だからっ、早苗待ちなさいってば!」
「何なんですか!? 助けてくれたことには感謝してます! お礼もいいました! 他に何が――!?」
――言いかけた言葉は
――目の前にいる人の
――熱く、柔らかい唇によって
――泡となって消えた
「なっ、何をするんですか!? そもそも霊夢さんには咲夜さんが――」
「はいストップ。まずはそこから説明しなきゃね……」
「……てな訳よ。あれはただ単に咲夜が足をすべらせただけ。そもそも咲夜は魔理沙ラヴなんだから。私を好きになるとかはありえないわね」
「うぅ、という事は……」
「そ、全部あんたの勘違い」
一気に顔が赤くなるのが分かる。orz←まさに気分はこんな感じだ。穴があったら埋まりたい……
「それにしても早苗はテンパると逃げ出しちゃうのねー。魔理沙みたく激昂するタイプなら楽だったんでしょうけど……」
うう……ホントに恥ずかしい。これはあれよね、『さなちゃん、自爆にも負けず』のスペカ使うべきよね……
そういえばどうして霊夢さんはパジャマのままなのだろう?
「あの、霊夢さん?」
「なによ」
「どうしてパジャマのままなんですか?」
「へ? ……あ」
霊夢さんの頬が朱に染まった気がする。え、何? パジャマのままで出てくるほど焦ってたって事? どうしよう、凄い、嬉しい。
「霊夢さん」
「な、なによ?」
「…ありがとうございます」
「…ん」
「さて、じゃああんたの家まで行きますか」
「え?私、一人でも帰れますよ?」
「はいはい、とっとと行くわよ?大体そんなカッコで帰ったら『早苗、どこのどいつにやられた? 大丈夫、ちょっとお話してくるだけだから……』
ってあの二神が出張ってくるに決まってるんだから。そうならない為にもフォローしてあげるわよ」
「あー……」
その光景が余裕で浮かび上がる。確かにあの二人ならその程度の事は余裕でしそう、というかするだろう。
ここは大人しく霊夢さんの好意に甘えておこう。
「じゃあ、よろしくお願いします」
「最初っから素直にそういえばいいのよ……早く帰らないとあの二神、ハラペコで倒れてるんじゃないの?」
「そ、そうでした! 霊夢さん、急ぎましょう!」
何故か、私はお箸でお茶碗を乱れうちする二人を幻視してしまった……
守矢神社への帰り道、私は今日の目標を達成すべく、意を決して霊夢さんに質問してみた。
「あ、あの霊夢さんっ!」
「なぁに?私、早苗からのプレゼントなら何でも嬉しいわよ?」
「霊夢さんの好きな――って、へ?」
イマ、ナンテイッタンデショウカ、レイムサン?
トイウカナンデワタシガプレゼントシヨウトシテルコトヲシッテイマスカ?
「ああ、魔理沙がね『早苗がお前の好み知りたがってるんだがお前好きなもんとかあんのか?』って聞いてくるから」
あんちくしょう……今度会ったらいじめ抜いてやる。それこそ今日の比じゃないぐらいに……
「それで、早苗?」
「はっ、はい!なんでしょう!?」
「プレゼント、期待してていいんでしょう?」
その時の霊夢さんの陽だまりのような優しい微笑みを、私は一生忘れないだろう――
数日後――
私は紅魔館の前にいた。今日ここに来たのは咲夜さんから料理を習うためだった。
「と、言う訳で咲夜さんにお会いしたいんですけど……」
「とりあえず、本人に聞いてみたらどうですか? ……咲夜さーん! 早苗さんが来ましたよー!」
美鈴さんが咲夜さんを呼ぶ。すると最初からそこにいたかのように咲夜さんが現れた。
「御苦労さま、美鈴。 ……あら、早苗じゃない、どうしたの? こんな急に」
「えっと、咲夜さんから料理を教わりたくて……やっぱり今日は忙しいですか?」
「いいえ、今日の仕事はあらかた片付いたから、別に構わないわよ?」
「そうですか! じゃあ、よろしくお願いいたします!」
「ええ……じゃあお嬢様に代わって……ようこそ紅魔館へ。 歓迎するわね、早苗」
あー、やっぱ魔理沙さんのアレは咲夜さん仕込みか……フフ、これでまたからかっちゃおうっと。
「ここが厨房ね」
「お邪魔します」
厨房へと入る。流石、というべきか。 そこにはここ幻想郷で手に入るありとあらゆる食材、調味料が揃っていた。
「すごく広い……それに材料や器具までしっかり揃ってる……」
「ここにはお嬢様やパチュリーさまたちの他にメイドも住んでいますから。必然的にこうなってしまいますよ」
「はぁ、私も諏訪子さまたちに言ってもうちょっと揃えてもらおうかしら……」
「なら、使っていない調理器具があるからそれを持っていくといいわ。使われないまま放置されるよりも、使ってくれる人の所へ行く方が器具としても本望でしょう」
「わぁ……ありがとうございます! 咲夜さん!」
「さて、それじゃ作り始めるけど……何がいいかしら?」
「そうですね……家じゃあ基本和食なので、洋食のレパートリーを増やしたいですね。後は……お菓子も少々」
「なるほど……なら簡単な所から始めましょうか」
教わり始めてから結構な時間が経った。咲夜さんは手際よく何品も作っていく。
私はメモをとるのでいっぱいいっぱいだった。……ちょっと、悔しい。だから、私は
――イジワルをすることにした。
「咲夜さん」
「何かしら?」
「咲夜さんって料理を作ってるときどんなこと考えてます?」
「え……? うーん……大体は食べる人のことを考えるかしらね。 どんな味付けや盛り付けの仕方をすれば喜んでくれるか……とかね」
ふーん、そうなんですかぁ、なんて相槌をいれながら私はニヤァ、っと意地の悪い笑みを浮かべる。
「そっかぁ……だからなんですね。咲夜さんの料理の秘密がわかっちゃいました」
「えっ……?」
「クッキーも宴会の料理も魔理沙さんが食べますもんね。だから咲夜さんの『愛』がたっぷり入ってたわけですねぇ、ご馳走様です」
ハーァ、なんてわざとらしい溜息をつくことも忘れない。
「なっ!?」
おーおー、動揺してる動揺してる。顔なんか真っ赤じゃないですか。
「フフッ、顔、赤くなってますよ? 咲夜さんったらかーわいい♪」
「う、うるさいわよ!」
いきなりナイフが飛んでくる。あっぶな……何をしてくれるんだ、このメイド長は。
「ちょ、ナイフは投げるものじゃないですよ!」
「いいえ、ナイフは投げるものよ!!」
こうして、料理を教わるはずが、いつの間にか弾幕勝負にへと変わっていった。
誰だ、この人の事を『完全で瀟洒な従者』なんて呼んだ奴は。少なくとも今私の眼の前にいる人は
――ただの恋する乙女じゃないか
みんな初々しくてかわいいなぁ