※注意※
この作品には、緋想天のネタバレならびに、若干のオリジナルキャラを含みます
それらに抵抗がない方は、そのまま下へお進みください
一面、透き通った青空の中。自らを遮る物がないことをいいことに、お日様は嬉々として日光を降り注いでいる
幻想郷も今は夏。博麗神社の巫女、博麗霊夢は自分の落とした影に
全身を流れる汗を拭う事なく流していた
「あっつ~・・・」
唸るような、咽からそのまま流れでたような声を絞り出し
けれど砂漠の中のサボテンのように、その場から動こうとしない
別に、ぎらぎらと地面を焦がす太陽から、足元に列を作る蟻の群れを守っているわけではない
ただ、動きたくないだけだった
「ほんっと、最近異常に暑いわね・・・。異変かしら?」
そんな事を口走るが、彼女自身本気にしていない口振りである。
霊夢は、時折思い出したように箒を動かしては
蟻の群れを蹴散らしていた。蟻からすれば、はた迷惑な話だったが。
そんな彼女もいつものこの季節なら、こんな所で苦行に耐える事はなく
神社の縁側でくつろいでいるはずだった。だが今年はそれをしないのには、ある理由がある
くつろげる場所がないのだ
まるでゾンビのごとく、非常に遅い速度で箒を履く霊夢の後ろには
柱という柱を折り曲げ、屋根さえも二つになって自身を押しつぶしている元・神社がある
まるで廃墟のようだった
「まるで。じゃなくて、まさに。よ」
地の文につっこむのはやめていただきたい。だがそんな忠告も意味は無く
周りには、箒を掃く音がむなしく響いている。あとは必死に添い遂げる相手を見つけようと
やっきになっている蝉くらいだった。蝉の合唱団が奏でる不協和音が霊夢の精神を容赦なく削っている
彼女の目は、死んだ魚のようだった
「あらあら。この暑い中頑張るわねぇ」
トカゲですら日陰に逃げる、灼熱地獄に鈴のような声が飛び込んだ
空の蒼を移したような蒼髪を持った天界人、名を比那名居天子である
その傍には、付き人らしい緑の髪の天界人の姿もある
天子は、陽炎ただよう境内にて、帽子の影から細目で太陽を睨む
「今日のお天等様は、一段と元気よねぇ。さすがのあなたもあれにはかなわないか」
くすくすと、霊夢を笑う。そして棒立ちの霊夢の横を通り過ぎて境内の奥へと向かった
その天子を少し距離を開けて追うの付き人の娘。彼女は霊夢に頭を下げて
「お邪魔します。暑いのに大変ですねぇ」
と、笑顔のままで傍を通り過ぎていった
霊夢はあいさつをかわす彼女らには一切目を向けず、濁った瞳は
付き人の娘が持っていた水桶に向けられていた。水桶の中では、日光を反射する満たされた水と
ちゃぷちゃぷと浮かぶ大きな氷の塊、そして、キンキンに冷えているだろうラムネのビンがゆらゆらと揺れている
「あなたもこっちにきたら?いつまでもそこにいたら、ほんとに干からびるわよ?」
天子は付き人の娘が用意した椅子に座り、パラソルが作る影の中でゆったりとくつろいでいる
そんな天子の言葉に誘われるように、霊夢もゆっくりと彼女達の輪に入っていった
パラソルの影に入ると、付き人の娘が椅子を引いてくれた
礼もそこそこにどっかと座り込み、全身の力を抜く
そんな様子の霊夢を見た天子は笑みを浮かべ、付き人の娘を呼ぶ
「あなた、お茶の用意を」
「はい、総領娘様」
天子の指示を聞き入れた彼女は、どこかのメイド顔負けの素早さで
お茶請けのクッキーと冷えたラムネを、丸テーブルの上に用意した
「どうぞ、霊夢さん」
そういって自分の前に置かれたラムネのビンを霊夢は奪い取るように取り上げ
「んく・・・んぐ・・・・っく」
そのまま中身が半分近く、一気に流し込んだ
中に入っているビー玉に栓をさせない高等テクまで使って
「すごいわねぇ・・・」
「すごいですねぇ・・・」
「どうやったらできるのかしら?」と、ビンの中のビー玉を透かすように見る天子
横では付き人の娘が、「すごい、すごい」とどんどん減っていくラムネを見て目を大きくさせている
「っぷは!!・・・見世物じゃないわよ、けほ」
炭酸がきいたのか、目尻に涙を浮かべて睨む霊夢。
そんな彼女の視線を気にせず、天子は、お皿に盛られたクッキーを1つつまんで
「お茶請けもあるわよ?霊夢」
にっこりと、満面の笑顔で霊夢に差し出す。霊夢は黙ったまま腕を突き出し、
盛られた山から一掴みのクッキーを掴み取ると、口に放り込んだ
「自分で、んぐ、やれるわよ」
「ちぇ」
唇を尖らせた天子は、差し出したクッキーをそのまま自分の口に入れた
ゆっくりと噛締め、ラムネと共に流し込んだ後、「そういえば」と口を開く
「なんであんな所でぼーっと突っ立ってたの?」
新しくもらったラムネで額を冷やしつつ
付き人の娘に団扇を仰いでもらっていた霊夢だったが
その言葉を聞いた瞬間、全身からどす黒いオーラを放った
「なんで、ですって・・・・?」
地獄の底から響くような声だった。下から風を受けるように髪が波立ち、
口は耳元まで裂け、ノコギリのような歯が見える。オーラは炎のように霊夢の全身を包みこんでいる
団扇を取りこぼした付き人の娘が、「ひい」と声をあげて、腰が抜けたようにその場にへたり込む
「え?え?私、何か変な事いった?」
何がなんだかわからないといった天子だったが、本能で逃げようと椅子を引く
だが、金縛りにあったかのように逃げる事ができない
顔には汗をだらだらとながし、自分の髪の色のように青冷めている
「あんたの所為じゃないのぉ・・・全部ぅぅぅ!!」
獲物を追い詰めた狩人のように、ゆっくりと天子のほうに身を乗り出す化け物霊夢
霊夢のすさまじい迫力に、蛇に睨まれた蛙のように硬直していた天子。だが
「せ、説明を・・・こ、ここのまま死んだら、ば、化けて出るわよ・・・」
自分がどうしてこうなったか、本気で理解できないと言う天子。
それを聞いた霊夢はさらに怒りのオーラを膨れさせながらも、まだ理性が残る声で
「あなた、説明なさい」
「・・・へ?」
霊夢のオーラに気圧されて、へたり込んでいる付き人の娘に向かって霊夢はいった
言われたほうは、右へ左へ首を振り、無駄な現実逃避をしている
「説明できないなら・・・このままこいつ「ピチューン」するわよ・・・」
「ああああああなたっ!!今すぐ説明しなさいっ!!」
半べそを掻いた天子が精一杯の声をあげて指示をだした。私の無実を証明しろと
それを聞いた付き人の娘はすっくと立ち上がり、ぱんぱんとスカートの埃をはたくと
まるで、ベテランバスガイドのような笑顔を浮かべ
「では、説明入ります。皆様どうかお付き合いください」
と、いって、全てを地の文に丸投げした
事の発端は、天子が神社再建に手を貸すときからはじまる
壊したのは天子なのだから、彼女が直すのが筋というものなのだが
こともあろうに、天子は完成した博麗神社を自分の領土にしてしまうつもりであった
霊夢はそんなことはさせずに、完成したらそのまま追い出すつもりだったのだが
完成を良しとしない方々が、この幻想郷にはたくさんいた
まずは、八雲紫。彼女は天子を目の敵にして、一度は完成を見た神社を吹き飛ばした
その後も、天子が神社再建を行うたびに、妨害工作を企てているのである
その所為で、神社は幾たびも築き、壊されていた。
ならば、天子の力を借りずに神社を建てればいいではないか。と疑問に持つが
それもすでにやっていることである。妖怪達にとって、博麗神社は貴重は宴会場所を提供してくれる場所なのだ
さらに、幻想郷の妖怪を見下してる天界の住人に作られたとあっては、酒もまずくなると言い張り
建築が得意な鬼の萃香や河童などが集って、神社を作り始めた。
霊夢にとっては、一刻でも早く神社を作ってくれるならどちらでもいいのであって、あえて何もいわなかったのだが、それを見過ごす我侭お嬢ではなかった
ある日、妖怪達が神社を作り直すと、空から巨大な岩が落ちてきて、神社を押しつぶした
周りにいた妖怪や手伝いに来ていた里の人間などが揃ってぽかんと口を開けている中
落下した衝撃でできたクレーターの中心にある岩の上に乗っかってた天子はかわいらしく舌を出し、
「ごっめんねぇ。着地場所間違っちゃった。てへ」
と、白々しい嘘をほざいた。この事件がきっかけで、今までは黙って見ていた連中も腰を上げた
とある日では、吸血鬼の姉妹が夜中に境内に忍び込み、
「がおー。食べちゃうぞー!」
「食べちゃうぞー!!」
と、作りかけの神社を炎の剣と紅い槍で根こそぎ破壊していった。
またある日は、
「突然ですが、出張永遠亭のお薬配布サービスです」
と、突然姿を現した学生ウサギがにっこり笑えば
「ぶちまけろウサアアアアアアア!!」
と、境内に突撃したうさぎの集団が、持っていたバケツの中身を言葉道理にぶちまけた。
中に入っていた薬を浴びた柱から、枝がにょきにょき生えてきて
作業をしていた天界人達を襲ったりもした。
他にも
「こんなにも空が青いからー!!おもわず、マスパ撃っちまうんだぜぇぇぇぇ!!」
「こ、こんなにも空が、あ、青いからぁぁ!思わず私もアーティクルサクリファイスゥゥゥ!//////」
やたらテンションの高い黒白魔法使いが魔砲で境内をなぎ払い
恥ずかしいならやめればいいのにと思う人形遣いが、抱えていた大量の自爆人形をあたり一面に放り投げた
時には
「門番さぼってどこいくのー。美鈴ー」
棒読みで、けれどかなりイイ笑顔でナイフばら撒きながら門番を追いかけるメイド長と
「いやあああああ!!なんで私追いかけられてるんですかぁぁぁぁぁ!?」
割と本気で逃げ回ってるハリネズミとなっている中国が境内を駆けずり回り
「あらあらまぁまぁ。そんな所で寝ていると風邪ひくわよ?」
死蝶を引き連れた亡霊嬢の乱入によって、昏睡状態に陥る天界人が続出したり
「斬る斬る斬る斬る切るきるキルKILL----!!」
目が紅い半狂乱の半霊の通り魔の強襲をうけたり
「はいはい、皆さんごくろうさまー!!粥を作ってきたからちょっと休憩しませんかー?」
(くくく、最後の晩餐。特と味わうといいわ!)
「ケロちゃんがいれたお茶もあるよー!!おかわり自由だよー!!」
(飲んだら最後、全身が敏感になってしまう諏訪子茶。せいぜい醜態をさらすがよいわ。ケロケロケロ)
「あのぅ、お二人とも。そういうことはやめたほうが・・・」
(なんていうと思ったか、馬鹿めが!!この際、あの偽巫女にも盛ってやるわぁ!!)
なにやら黒い空気をまとっている三柱が、いかにも怪しい差し入れを盛ってきたりもした
案外、この人達はでられなかった腹いせなのかもしれないが
さらに
「はいはいはーい。美味しい美味しい八目鰻だよー。今日はなんと3割引きだよー」
「そーなのかー。店長、アレ頂戴ー。」
「アレじゃちょっとわかんないなぁ。お品書きはこちらで・・・」
「アレっていうのはお前だよおおおおおおお!!」
「ぎゃああああああああああ!!」
ホラーちっくな食物連鎖が垣間見れたり
さらにさらに
「・・・・おべろっ!!」
「ぱ、パチュリー様?パチュリーさまぁぁぁ!!」
この暑い中、無理しないでいいのに神社までやってきて力尽きた魔女を、小悪魔と皆で介抱もしたりした
まだまだあるが、この際省かせていただく
これらの騒ぎのせいで、神社再建の監視をしていた霊夢は後々の処理をさせられていたのである。
さらに境内は荒れ放題、神社はいつまで立ってもまともに建たないという按配であった
おまけにここ最近の暑さのせいで、彼女の心身は疲れきってきた。
そして話は暗黒ただよう昼下がりに戻る
「説明終わりです」
そう笑顔で礼をした付き人の娘は、疲れた様子で団扇を仰いでいた
「ちょっとちょっとちょっと!!」
金縛りから開放された天子が化け物霊夢を押しのける
「がうっ!!」
「ひぃ!!」
押しのけた時に噛み付かれそうになったが、すんでの所で避ける
「っち」と唾を吐く霊夢は再び天子に襲い掛かろうとして
「少しお待ちください。霊夢さん」
天子と化け物霊夢の間に割って入る影。それは、名無しの付き人の娘だった。
彼女は天子と自分に向かって威嚇をする霊夢に向かって頭を下げる
「霊夢さんのお怒りももっともだとは思いますが、総領娘様のお話も聞いてくださいませんか?この通りです!!」
そういって、さらに深く頭を下げる。今目の前にいる者から視線を外せばどうなるか
それは、天子の前にいる彼女が一番良く知ってるだろうに
「・・・・・」
そんな彼女の言葉が通じたのか。化け物霊夢はゆっくりと、元の霊夢に戻っていった
「少しだけ待ってあげるわ。弁解でも、遺言でもなんでもなさいな」
その霊夢の言葉に、ばっと顔をあげる付き人の娘。彼女は満面の笑顔で
「あ、ありがとうございます!霊夢様!!」
そういって、もう一度深く頭を下げた
霊夢は「ふん」と不機嫌そうににそっぽを向き、自分が座っていた椅子に腰掛ける
そして何故か霊夢を「様」付けで呼んでいる付き人の娘は、すっかり怯えてしまってる天子に向き直り
「総領娘様・・・今謝れば、殺されたりはしませんよ?たぶん」
母が子にかけるような優しい声音で語りかける。
「だだだだって、話聞いてれば悪いのはむしろあっちじゃない。あっちが邪魔しなければ
今頃、立派な神社が・・・」
「あんた・・・まだそんなことを・・・」
付き人の娘の背後で、再び怨嗟の炎がくすぶりつつある。それをさっした彼女は強い口調で
「これ以上は私もかばいきれません!一言、ごめんなさいと言えば、すべて丸く収まるんですよ!おそらく!!」
叱るような口調でいう。そんな彼女の言葉を聞いた天子はキッ、と目を吊り上げ
「だって!!悪いのは私じゃないもん!!悪いのは全部向こうだもん!!」
逆切れだった。顔を真っ赤にしながら目からはぼろぼろと涙を流す。
唇を震わせてるのは、泣き出す一歩手前だからか
「・・・・・」
「・・・・・」
それを聞いた二人は唖然。といった様子だった。
霊夢にいたっては、まるでガスが抜けたようにオーラが消え、テーブルに突っ伏している
「あんた、それじゃまるで子供じゃない・・・」
「し、失礼ね!!あなたよりは年上よ!!」
手を振り回しながら、必死で弁解する。そんな姿もやはり我侭をいう子供そのままだった
深くため息を吐く霊夢。もはや、やる気なんてどっかにいってしまったらしい
天子もそんな様子の霊夢を見て、涙を拭う
だが
「そうですか・・・」
ここで終る事を良しとしない者が一人
「謝る気は毛頭無いと・・・。そう、仰られるんですね・・・」
どうやら化け物は消滅したわけではなく
「総領娘様・・・・いえ、天子様」
別の人物に乗り移っただけだったらしい
「え・・・。」
天子は、自分の目の前で、化け物に変貌していくデジャブを見ることになった
口は大きく裂け、怒りのオーラを身にまとう。いつもは美しいとさえ思う羽衣は
今は、彼女の身体に巻きつく大蛇にしか見えない
いきなりの展開に、天子はおろか、霊夢もついていけない
だが、この後自分がどうなるのかわかるのか、天子はその場から逃げようとした
「シャアアア!!」
「きゃあああ!!」
飛び上がった天子の足に、生き物のように動く羽衣が巻きつく
そのまま地面に叩きつけられた天子は、霊夢に助けを求めた
「霊夢!霊夢!助けて!!」
だが、いままで霊夢が座っていた椅子には、誰もいなかった。さらに、ラムネが浮かんでいた水桶と
クッキーが盛られたお皿も消失している
「!!?」
さすがは、主人公。ただでは消えない
逃げることもできず、助けもこないと知った天子はこっちに這い寄る怪物に向かって言葉を飛ばす
「ど、どうしてあなたが怒るのよ!!関係ないじゃない!!」
その言葉に化け物は固まる。しめたと思ったのか、取り出した緋想剣で羽衣を切りにかかる天子
「・・・関係ない。本当にそう思いますか?」
「・・・へ?」
なかなか切れないな。と悪戦苦闘している時に帰ってきた言葉
それは、天子の意識を羽衣から付き人の娘に誘導した
「覚えてませんか?私、ここで働いていたんですよ?」
「・・・ここで?」
「はい」とうなずく付き人の娘。そして彼女は語りだす
「私は天子様が神社再建に乗り出してから、ずっとお傍で働いていました。
成仏して天界に移り住んでからは初めての地上。柄にもなくはしゃいでおりましたよ」
まるで、故郷を思い起こすような、哀愁に満ちた声だった
「そして、いざ神社を建てるになって、色々な失敗もしました・・・。
時には仲間といがみ合い、助け合いながらも充実した毎日でした」
天子は、彼女の言葉をただ静かに聞いていた
今なら逃げれるかもと、足に力をいれるがびくともせず
さらに両腕まで押さえられてしまったので、もうどうしようもなかった
「けど・・・あの時から全てが変わってしまった」
彼女の声色が変化した。ゴゴゴゴと地響きのようなものがあたりに鳴り響く
「全ては天子様が「めておー♪」なんて、阿呆な遊びをしたせいで・・・・!!」
天子は自らを阿呆と言った彼女に何もいわなかった。いや、いえなかった
両手、両足をしばる羽衣がぎりぎりと万力のように締め付け
おまけに口までふさがれてしまったのである
「・・・・・!・・・・・!?」
びったんびったん暴れる天子
そんな彼女のことなど、まるで気にせず、付き人の娘はさらに語る
「天子様の命で、明日使う材料の数を確認していたら、かわいく飛んできた二人組みの吸血鬼に
神社ごと吹き飛ばされました。柱から生えた枝に色々されて、危うくお嫁にいけなくなる身体になってしまう時もありました。
箒に乗った魔法使いに吹き飛ばされた後、「神風上等」と書いてある鉢巻をまいた人形に抱き付かれました!!」
彼女の怨嗟の叫びは透き通った青空を駆け抜けていく。天子は、ついに全身を巻きつかれて
もはや抵抗もできなくなっている
「なぜか、海岸線を駆け抜けるカップルの男の役ような感じで走っているメイドのなげたナイフが眉間に突き刺さりました!!ほんわかとした幽霊に話し掛けられてあいさつしたら、三途の川で船頭さんがさぼってました!!目を真っ赤にした女の子が迷い込んでたので、声を掛けたら危うく膾斬りにされる所でした!!頼んでも居ない怪しい差し入れの毒見を天子様に頼まれてしたら、気分が悪くなって、全身で感じちゃってあやうくネチョ扱い受けるとこでした!ひっく・・・、夜ご飯に境内の中まであがって来ていた鰻の屋台に行ったら、店主が襲われていたので、助けようとしたら頭かじられました!!ぐすっ!階段上りきった所で血を吐いた人を、その人の付き人の方と一緒に介抱しましたよぉぉ!!他にも、他にもぉ!!うわぁぁぁぁぁぁぁん!!」
最後は泣きながらの独白だった。このときすでに、彼女は化け物ではなく、めそめそと泣く一人の少女に戻っていた
彼女は苦しんでいた。来る日も来る日も、天子の付き人として神社再建の手伝いをしては、騒動に巻き込まれる始末。おまけに、女としての一生すら消えてしまう所だったのである。
傍の茂みで新聞のネタにしようと思っていたパパラッチでさえ、せっかく撮った写真とメモを破いて捨ててしまった。
「天子様が霊夢様に謝れるのでしたら、私ももう何もいいませんでした。でも、でもぉ!どうしてそう強情なんですかああああああ!!」
周りに音は無く、彼女の泣き声だけが響いている。あれほど騒がしかった蝉も、今は静かだった
天子も時折ビクンビクンと不規則に動くが、それだけだった
「そう、そんなことがあったの・・・」
いつの間にやら霊夢が戻ってきていた。彼女はむせび泣く付き人の娘の傍までやってくると、優しく彼女を抱きしめる。ああ、この子も同じなんだと。周りの騒動に巻き込まれて、大切なものを失ったのだと。霊夢は心が温かくなる。
「ほら、もう泣かないの。そろそろあいつを解放しないと、色々めんどうなことになるわ」
「・・・はい」
霊夢に抱きしめられて落ち着いたのか、名無しの天界人は服の袖で涙を拭いた
そして、霊夢に向かって「ありがとう、ございます」と少しうつむいて恥ずかしそうにいった
そうして彼女は自分の羽衣を呼び寄せる
いままで、荒縄もかくやといった様子で、天子の身体に食い込んでいた布の束縛は解け、たやすく天子を解放した
「総領娘様?総領娘様?」
付き人の娘が、動かなくなった天子に声を掛ける
驚いたことに、天子は意識を保っていた。だがしかし、やけに顔が赤く、まるで全力疾走をした直後のように
息が荒い。付き人の娘が助け起こそうとしたがそれを拒み、身体をかばうように立ち上がった。
が、すぐに崩れ落ちるように倒れる。膝が笑っていた
「総領娘様!!」
ただならぬ主人の様子にうろたえる。だが、天子は緋想剣を杖がわりに立ち上がると、要石の上に座り込んだ
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
「ちょっと、あんた・・・まさか」
何かに気づいた様子の霊夢。だが、彼女のもらした言葉は、付き人の娘によって遮られる
「も、申し訳ありません!!」
土下座だった。要石に乗っかって宙に浮いている天子の足元で、彼女は額を地面にこすりつける
さきほどまで彼女が主人にした狼藉を考えれば、斬首すらも生ぬるい
自らに課せられる罰の重さを想像し、身を震わせる付き人の娘
それを見た天子は、いまだ整わない息のままで
「いいわよ・・・別に」
「・・・・え?」
信じられないといった風に、顔をあげる付き人の娘。そんな彼女の顔を見た天子は
ため息をついた後、同じ答えを口にする
「許すっていってるの。悪いのは、私みたいだから・・・」
「総領娘様・・・」
「霊夢も、めんどうかけたわね」
霊夢は「はいはい」と手を振り、「さっさと帰れ」と付け加える
付き人の娘は、主人の言葉を胸に、目を潤ませていた
「だから、もう土下座なんてしなくてもいいわ、汚れるでしょう。立ちなさい」
「は、はい!」
そういって、彼女は立ち上がる。顔にはやわらかい笑みがあった
それを、見た天子は同じように笑みを浮かべ「帰るわよ」といい、要石に座ったまま、すべるように動いていった
「はい!!・・・あっ」
そんな主人を追おうとする付き人の娘は、お茶会セットをそのままにしていた事を思い出す
「し、少々お待ちください!!ただいま片付けますので!!」
「ん、早くね」
そう返事を受けた御付の天界人は、すぐさま、丸テーブルや椅子を折りたたみ、羽衣を巻きつけて引き寄せる。
それから、水桶とお皿が紛失していることに気づき、右往左往する
「ああ、それならここよ。洗っておいたわ」
「あ、ありがとうございます。霊夢様」
文字通り飛んできた彼女に空になった水桶と、綺麗になっているお皿を渡した
「よっと」とそれらを持ち上げる様は、曲芸でもみているようであった
「では、失礼します。また、総領娘様が迷惑をかけるかもしれませんが・・・。」
「もう気にしてないわよ。あなたのおかげでね。」
「そうですか。・・・あの、またお邪魔しても?」
「いいわよ。あいつはごめんだけどね」
「そ、そうおっしゃらずに・・・」
「冷えたラムネとお茶請けを持ってきてくれるなら、歓迎はするわよ」
そういって、霊夢は笑う。つられて、付き人の娘も笑った
くすくすと笑う付き人の娘を、天子はじっと見ていた。いや少し違う。彼女が見ていたのは付き人の娘ではなく
彼女の後ろで、器用にテーブルや椅子やパラソルをつかんで離さない羽衣をだ
物欲しそうに羽衣を見つめる彼女を、霊夢だけが笑う振りをしながら軽蔑するような目で見ていた
終わり
この作品には、緋想天のネタバレならびに、若干のオリジナルキャラを含みます
それらに抵抗がない方は、そのまま下へお進みください
一面、透き通った青空の中。自らを遮る物がないことをいいことに、お日様は嬉々として日光を降り注いでいる
幻想郷も今は夏。博麗神社の巫女、博麗霊夢は自分の落とした影に
全身を流れる汗を拭う事なく流していた
「あっつ~・・・」
唸るような、咽からそのまま流れでたような声を絞り出し
けれど砂漠の中のサボテンのように、その場から動こうとしない
別に、ぎらぎらと地面を焦がす太陽から、足元に列を作る蟻の群れを守っているわけではない
ただ、動きたくないだけだった
「ほんっと、最近異常に暑いわね・・・。異変かしら?」
そんな事を口走るが、彼女自身本気にしていない口振りである。
霊夢は、時折思い出したように箒を動かしては
蟻の群れを蹴散らしていた。蟻からすれば、はた迷惑な話だったが。
そんな彼女もいつものこの季節なら、こんな所で苦行に耐える事はなく
神社の縁側でくつろいでいるはずだった。だが今年はそれをしないのには、ある理由がある
くつろげる場所がないのだ
まるでゾンビのごとく、非常に遅い速度で箒を履く霊夢の後ろには
柱という柱を折り曲げ、屋根さえも二つになって自身を押しつぶしている元・神社がある
まるで廃墟のようだった
「まるで。じゃなくて、まさに。よ」
地の文につっこむのはやめていただきたい。だがそんな忠告も意味は無く
周りには、箒を掃く音がむなしく響いている。あとは必死に添い遂げる相手を見つけようと
やっきになっている蝉くらいだった。蝉の合唱団が奏でる不協和音が霊夢の精神を容赦なく削っている
彼女の目は、死んだ魚のようだった
「あらあら。この暑い中頑張るわねぇ」
トカゲですら日陰に逃げる、灼熱地獄に鈴のような声が飛び込んだ
空の蒼を移したような蒼髪を持った天界人、名を比那名居天子である
その傍には、付き人らしい緑の髪の天界人の姿もある
天子は、陽炎ただよう境内にて、帽子の影から細目で太陽を睨む
「今日のお天等様は、一段と元気よねぇ。さすがのあなたもあれにはかなわないか」
くすくすと、霊夢を笑う。そして棒立ちの霊夢の横を通り過ぎて境内の奥へと向かった
その天子を少し距離を開けて追うの付き人の娘。彼女は霊夢に頭を下げて
「お邪魔します。暑いのに大変ですねぇ」
と、笑顔のままで傍を通り過ぎていった
霊夢はあいさつをかわす彼女らには一切目を向けず、濁った瞳は
付き人の娘が持っていた水桶に向けられていた。水桶の中では、日光を反射する満たされた水と
ちゃぷちゃぷと浮かぶ大きな氷の塊、そして、キンキンに冷えているだろうラムネのビンがゆらゆらと揺れている
「あなたもこっちにきたら?いつまでもそこにいたら、ほんとに干からびるわよ?」
天子は付き人の娘が用意した椅子に座り、パラソルが作る影の中でゆったりとくつろいでいる
そんな天子の言葉に誘われるように、霊夢もゆっくりと彼女達の輪に入っていった
パラソルの影に入ると、付き人の娘が椅子を引いてくれた
礼もそこそこにどっかと座り込み、全身の力を抜く
そんな様子の霊夢を見た天子は笑みを浮かべ、付き人の娘を呼ぶ
「あなた、お茶の用意を」
「はい、総領娘様」
天子の指示を聞き入れた彼女は、どこかのメイド顔負けの素早さで
お茶請けのクッキーと冷えたラムネを、丸テーブルの上に用意した
「どうぞ、霊夢さん」
そういって自分の前に置かれたラムネのビンを霊夢は奪い取るように取り上げ
「んく・・・んぐ・・・・っく」
そのまま中身が半分近く、一気に流し込んだ
中に入っているビー玉に栓をさせない高等テクまで使って
「すごいわねぇ・・・」
「すごいですねぇ・・・」
「どうやったらできるのかしら?」と、ビンの中のビー玉を透かすように見る天子
横では付き人の娘が、「すごい、すごい」とどんどん減っていくラムネを見て目を大きくさせている
「っぷは!!・・・見世物じゃないわよ、けほ」
炭酸がきいたのか、目尻に涙を浮かべて睨む霊夢。
そんな彼女の視線を気にせず、天子は、お皿に盛られたクッキーを1つつまんで
「お茶請けもあるわよ?霊夢」
にっこりと、満面の笑顔で霊夢に差し出す。霊夢は黙ったまま腕を突き出し、
盛られた山から一掴みのクッキーを掴み取ると、口に放り込んだ
「自分で、んぐ、やれるわよ」
「ちぇ」
唇を尖らせた天子は、差し出したクッキーをそのまま自分の口に入れた
ゆっくりと噛締め、ラムネと共に流し込んだ後、「そういえば」と口を開く
「なんであんな所でぼーっと突っ立ってたの?」
新しくもらったラムネで額を冷やしつつ
付き人の娘に団扇を仰いでもらっていた霊夢だったが
その言葉を聞いた瞬間、全身からどす黒いオーラを放った
「なんで、ですって・・・・?」
地獄の底から響くような声だった。下から風を受けるように髪が波立ち、
口は耳元まで裂け、ノコギリのような歯が見える。オーラは炎のように霊夢の全身を包みこんでいる
団扇を取りこぼした付き人の娘が、「ひい」と声をあげて、腰が抜けたようにその場にへたり込む
「え?え?私、何か変な事いった?」
何がなんだかわからないといった天子だったが、本能で逃げようと椅子を引く
だが、金縛りにあったかのように逃げる事ができない
顔には汗をだらだらとながし、自分の髪の色のように青冷めている
「あんたの所為じゃないのぉ・・・全部ぅぅぅ!!」
獲物を追い詰めた狩人のように、ゆっくりと天子のほうに身を乗り出す化け物霊夢
霊夢のすさまじい迫力に、蛇に睨まれた蛙のように硬直していた天子。だが
「せ、説明を・・・こ、ここのまま死んだら、ば、化けて出るわよ・・・」
自分がどうしてこうなったか、本気で理解できないと言う天子。
それを聞いた霊夢はさらに怒りのオーラを膨れさせながらも、まだ理性が残る声で
「あなた、説明なさい」
「・・・へ?」
霊夢のオーラに気圧されて、へたり込んでいる付き人の娘に向かって霊夢はいった
言われたほうは、右へ左へ首を振り、無駄な現実逃避をしている
「説明できないなら・・・このままこいつ「ピチューン」するわよ・・・」
「ああああああなたっ!!今すぐ説明しなさいっ!!」
半べそを掻いた天子が精一杯の声をあげて指示をだした。私の無実を証明しろと
それを聞いた付き人の娘はすっくと立ち上がり、ぱんぱんとスカートの埃をはたくと
まるで、ベテランバスガイドのような笑顔を浮かべ
「では、説明入ります。皆様どうかお付き合いください」
と、いって、全てを地の文に丸投げした
事の発端は、天子が神社再建に手を貸すときからはじまる
壊したのは天子なのだから、彼女が直すのが筋というものなのだが
こともあろうに、天子は完成した博麗神社を自分の領土にしてしまうつもりであった
霊夢はそんなことはさせずに、完成したらそのまま追い出すつもりだったのだが
完成を良しとしない方々が、この幻想郷にはたくさんいた
まずは、八雲紫。彼女は天子を目の敵にして、一度は完成を見た神社を吹き飛ばした
その後も、天子が神社再建を行うたびに、妨害工作を企てているのである
その所為で、神社は幾たびも築き、壊されていた。
ならば、天子の力を借りずに神社を建てればいいではないか。と疑問に持つが
それもすでにやっていることである。妖怪達にとって、博麗神社は貴重は宴会場所を提供してくれる場所なのだ
さらに、幻想郷の妖怪を見下してる天界の住人に作られたとあっては、酒もまずくなると言い張り
建築が得意な鬼の萃香や河童などが集って、神社を作り始めた。
霊夢にとっては、一刻でも早く神社を作ってくれるならどちらでもいいのであって、あえて何もいわなかったのだが、それを見過ごす我侭お嬢ではなかった
ある日、妖怪達が神社を作り直すと、空から巨大な岩が落ちてきて、神社を押しつぶした
周りにいた妖怪や手伝いに来ていた里の人間などが揃ってぽかんと口を開けている中
落下した衝撃でできたクレーターの中心にある岩の上に乗っかってた天子はかわいらしく舌を出し、
「ごっめんねぇ。着地場所間違っちゃった。てへ」
と、白々しい嘘をほざいた。この事件がきっかけで、今までは黙って見ていた連中も腰を上げた
とある日では、吸血鬼の姉妹が夜中に境内に忍び込み、
「がおー。食べちゃうぞー!」
「食べちゃうぞー!!」
と、作りかけの神社を炎の剣と紅い槍で根こそぎ破壊していった。
またある日は、
「突然ですが、出張永遠亭のお薬配布サービスです」
と、突然姿を現した学生ウサギがにっこり笑えば
「ぶちまけろウサアアアアアアア!!」
と、境内に突撃したうさぎの集団が、持っていたバケツの中身を言葉道理にぶちまけた。
中に入っていた薬を浴びた柱から、枝がにょきにょき生えてきて
作業をしていた天界人達を襲ったりもした。
他にも
「こんなにも空が青いからー!!おもわず、マスパ撃っちまうんだぜぇぇぇぇ!!」
「こ、こんなにも空が、あ、青いからぁぁ!思わず私もアーティクルサクリファイスゥゥゥ!//////」
やたらテンションの高い黒白魔法使いが魔砲で境内をなぎ払い
恥ずかしいならやめればいいのにと思う人形遣いが、抱えていた大量の自爆人形をあたり一面に放り投げた
時には
「門番さぼってどこいくのー。美鈴ー」
棒読みで、けれどかなりイイ笑顔でナイフばら撒きながら門番を追いかけるメイド長と
「いやあああああ!!なんで私追いかけられてるんですかぁぁぁぁぁ!?」
割と本気で逃げ回ってるハリネズミとなっている中国が境内を駆けずり回り
「あらあらまぁまぁ。そんな所で寝ていると風邪ひくわよ?」
死蝶を引き連れた亡霊嬢の乱入によって、昏睡状態に陥る天界人が続出したり
「斬る斬る斬る斬る切るきるキルKILL----!!」
目が紅い半狂乱の半霊の通り魔の強襲をうけたり
「はいはい、皆さんごくろうさまー!!粥を作ってきたからちょっと休憩しませんかー?」
(くくく、最後の晩餐。特と味わうといいわ!)
「ケロちゃんがいれたお茶もあるよー!!おかわり自由だよー!!」
(飲んだら最後、全身が敏感になってしまう諏訪子茶。せいぜい醜態をさらすがよいわ。ケロケロケロ)
「あのぅ、お二人とも。そういうことはやめたほうが・・・」
(なんていうと思ったか、馬鹿めが!!この際、あの偽巫女にも盛ってやるわぁ!!)
なにやら黒い空気をまとっている三柱が、いかにも怪しい差し入れを盛ってきたりもした
案外、この人達はでられなかった腹いせなのかもしれないが
さらに
「はいはいはーい。美味しい美味しい八目鰻だよー。今日はなんと3割引きだよー」
「そーなのかー。店長、アレ頂戴ー。」
「アレじゃちょっとわかんないなぁ。お品書きはこちらで・・・」
「アレっていうのはお前だよおおおおおおお!!」
「ぎゃああああああああああ!!」
ホラーちっくな食物連鎖が垣間見れたり
さらにさらに
「・・・・おべろっ!!」
「ぱ、パチュリー様?パチュリーさまぁぁぁ!!」
この暑い中、無理しないでいいのに神社までやってきて力尽きた魔女を、小悪魔と皆で介抱もしたりした
まだまだあるが、この際省かせていただく
これらの騒ぎのせいで、神社再建の監視をしていた霊夢は後々の処理をさせられていたのである。
さらに境内は荒れ放題、神社はいつまで立ってもまともに建たないという按配であった
おまけにここ最近の暑さのせいで、彼女の心身は疲れきってきた。
そして話は暗黒ただよう昼下がりに戻る
「説明終わりです」
そう笑顔で礼をした付き人の娘は、疲れた様子で団扇を仰いでいた
「ちょっとちょっとちょっと!!」
金縛りから開放された天子が化け物霊夢を押しのける
「がうっ!!」
「ひぃ!!」
押しのけた時に噛み付かれそうになったが、すんでの所で避ける
「っち」と唾を吐く霊夢は再び天子に襲い掛かろうとして
「少しお待ちください。霊夢さん」
天子と化け物霊夢の間に割って入る影。それは、名無しの付き人の娘だった。
彼女は天子と自分に向かって威嚇をする霊夢に向かって頭を下げる
「霊夢さんのお怒りももっともだとは思いますが、総領娘様のお話も聞いてくださいませんか?この通りです!!」
そういって、さらに深く頭を下げる。今目の前にいる者から視線を外せばどうなるか
それは、天子の前にいる彼女が一番良く知ってるだろうに
「・・・・・」
そんな彼女の言葉が通じたのか。化け物霊夢はゆっくりと、元の霊夢に戻っていった
「少しだけ待ってあげるわ。弁解でも、遺言でもなんでもなさいな」
その霊夢の言葉に、ばっと顔をあげる付き人の娘。彼女は満面の笑顔で
「あ、ありがとうございます!霊夢様!!」
そういって、もう一度深く頭を下げた
霊夢は「ふん」と不機嫌そうににそっぽを向き、自分が座っていた椅子に腰掛ける
そして何故か霊夢を「様」付けで呼んでいる付き人の娘は、すっかり怯えてしまってる天子に向き直り
「総領娘様・・・今謝れば、殺されたりはしませんよ?たぶん」
母が子にかけるような優しい声音で語りかける。
「だだだだって、話聞いてれば悪いのはむしろあっちじゃない。あっちが邪魔しなければ
今頃、立派な神社が・・・」
「あんた・・・まだそんなことを・・・」
付き人の娘の背後で、再び怨嗟の炎がくすぶりつつある。それをさっした彼女は強い口調で
「これ以上は私もかばいきれません!一言、ごめんなさいと言えば、すべて丸く収まるんですよ!おそらく!!」
叱るような口調でいう。そんな彼女の言葉を聞いた天子はキッ、と目を吊り上げ
「だって!!悪いのは私じゃないもん!!悪いのは全部向こうだもん!!」
逆切れだった。顔を真っ赤にしながら目からはぼろぼろと涙を流す。
唇を震わせてるのは、泣き出す一歩手前だからか
「・・・・・」
「・・・・・」
それを聞いた二人は唖然。といった様子だった。
霊夢にいたっては、まるでガスが抜けたようにオーラが消え、テーブルに突っ伏している
「あんた、それじゃまるで子供じゃない・・・」
「し、失礼ね!!あなたよりは年上よ!!」
手を振り回しながら、必死で弁解する。そんな姿もやはり我侭をいう子供そのままだった
深くため息を吐く霊夢。もはや、やる気なんてどっかにいってしまったらしい
天子もそんな様子の霊夢を見て、涙を拭う
だが
「そうですか・・・」
ここで終る事を良しとしない者が一人
「謝る気は毛頭無いと・・・。そう、仰られるんですね・・・」
どうやら化け物は消滅したわけではなく
「総領娘様・・・・いえ、天子様」
別の人物に乗り移っただけだったらしい
「え・・・。」
天子は、自分の目の前で、化け物に変貌していくデジャブを見ることになった
口は大きく裂け、怒りのオーラを身にまとう。いつもは美しいとさえ思う羽衣は
今は、彼女の身体に巻きつく大蛇にしか見えない
いきなりの展開に、天子はおろか、霊夢もついていけない
だが、この後自分がどうなるのかわかるのか、天子はその場から逃げようとした
「シャアアア!!」
「きゃあああ!!」
飛び上がった天子の足に、生き物のように動く羽衣が巻きつく
そのまま地面に叩きつけられた天子は、霊夢に助けを求めた
「霊夢!霊夢!助けて!!」
だが、いままで霊夢が座っていた椅子には、誰もいなかった。さらに、ラムネが浮かんでいた水桶と
クッキーが盛られたお皿も消失している
「!!?」
さすがは、主人公。ただでは消えない
逃げることもできず、助けもこないと知った天子はこっちに這い寄る怪物に向かって言葉を飛ばす
「ど、どうしてあなたが怒るのよ!!関係ないじゃない!!」
その言葉に化け物は固まる。しめたと思ったのか、取り出した緋想剣で羽衣を切りにかかる天子
「・・・関係ない。本当にそう思いますか?」
「・・・へ?」
なかなか切れないな。と悪戦苦闘している時に帰ってきた言葉
それは、天子の意識を羽衣から付き人の娘に誘導した
「覚えてませんか?私、ここで働いていたんですよ?」
「・・・ここで?」
「はい」とうなずく付き人の娘。そして彼女は語りだす
「私は天子様が神社再建に乗り出してから、ずっとお傍で働いていました。
成仏して天界に移り住んでからは初めての地上。柄にもなくはしゃいでおりましたよ」
まるで、故郷を思い起こすような、哀愁に満ちた声だった
「そして、いざ神社を建てるになって、色々な失敗もしました・・・。
時には仲間といがみ合い、助け合いながらも充実した毎日でした」
天子は、彼女の言葉をただ静かに聞いていた
今なら逃げれるかもと、足に力をいれるがびくともせず
さらに両腕まで押さえられてしまったので、もうどうしようもなかった
「けど・・・あの時から全てが変わってしまった」
彼女の声色が変化した。ゴゴゴゴと地響きのようなものがあたりに鳴り響く
「全ては天子様が「めておー♪」なんて、阿呆な遊びをしたせいで・・・・!!」
天子は自らを阿呆と言った彼女に何もいわなかった。いや、いえなかった
両手、両足をしばる羽衣がぎりぎりと万力のように締め付け
おまけに口までふさがれてしまったのである
「・・・・・!・・・・・!?」
びったんびったん暴れる天子
そんな彼女のことなど、まるで気にせず、付き人の娘はさらに語る
「天子様の命で、明日使う材料の数を確認していたら、かわいく飛んできた二人組みの吸血鬼に
神社ごと吹き飛ばされました。柱から生えた枝に色々されて、危うくお嫁にいけなくなる身体になってしまう時もありました。
箒に乗った魔法使いに吹き飛ばされた後、「神風上等」と書いてある鉢巻をまいた人形に抱き付かれました!!」
彼女の怨嗟の叫びは透き通った青空を駆け抜けていく。天子は、ついに全身を巻きつかれて
もはや抵抗もできなくなっている
「なぜか、海岸線を駆け抜けるカップルの男の役ような感じで走っているメイドのなげたナイフが眉間に突き刺さりました!!ほんわかとした幽霊に話し掛けられてあいさつしたら、三途の川で船頭さんがさぼってました!!目を真っ赤にした女の子が迷い込んでたので、声を掛けたら危うく膾斬りにされる所でした!!頼んでも居ない怪しい差し入れの毒見を天子様に頼まれてしたら、気分が悪くなって、全身で感じちゃってあやうくネチョ扱い受けるとこでした!ひっく・・・、夜ご飯に境内の中まであがって来ていた鰻の屋台に行ったら、店主が襲われていたので、助けようとしたら頭かじられました!!ぐすっ!階段上りきった所で血を吐いた人を、その人の付き人の方と一緒に介抱しましたよぉぉ!!他にも、他にもぉ!!うわぁぁぁぁぁぁぁん!!」
最後は泣きながらの独白だった。このときすでに、彼女は化け物ではなく、めそめそと泣く一人の少女に戻っていた
彼女は苦しんでいた。来る日も来る日も、天子の付き人として神社再建の手伝いをしては、騒動に巻き込まれる始末。おまけに、女としての一生すら消えてしまう所だったのである。
傍の茂みで新聞のネタにしようと思っていたパパラッチでさえ、せっかく撮った写真とメモを破いて捨ててしまった。
「天子様が霊夢様に謝れるのでしたら、私ももう何もいいませんでした。でも、でもぉ!どうしてそう強情なんですかああああああ!!」
周りに音は無く、彼女の泣き声だけが響いている。あれほど騒がしかった蝉も、今は静かだった
天子も時折ビクンビクンと不規則に動くが、それだけだった
「そう、そんなことがあったの・・・」
いつの間にやら霊夢が戻ってきていた。彼女はむせび泣く付き人の娘の傍までやってくると、優しく彼女を抱きしめる。ああ、この子も同じなんだと。周りの騒動に巻き込まれて、大切なものを失ったのだと。霊夢は心が温かくなる。
「ほら、もう泣かないの。そろそろあいつを解放しないと、色々めんどうなことになるわ」
「・・・はい」
霊夢に抱きしめられて落ち着いたのか、名無しの天界人は服の袖で涙を拭いた
そして、霊夢に向かって「ありがとう、ございます」と少しうつむいて恥ずかしそうにいった
そうして彼女は自分の羽衣を呼び寄せる
いままで、荒縄もかくやといった様子で、天子の身体に食い込んでいた布の束縛は解け、たやすく天子を解放した
「総領娘様?総領娘様?」
付き人の娘が、動かなくなった天子に声を掛ける
驚いたことに、天子は意識を保っていた。だがしかし、やけに顔が赤く、まるで全力疾走をした直後のように
息が荒い。付き人の娘が助け起こそうとしたがそれを拒み、身体をかばうように立ち上がった。
が、すぐに崩れ落ちるように倒れる。膝が笑っていた
「総領娘様!!」
ただならぬ主人の様子にうろたえる。だが、天子は緋想剣を杖がわりに立ち上がると、要石の上に座り込んだ
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
「ちょっと、あんた・・・まさか」
何かに気づいた様子の霊夢。だが、彼女のもらした言葉は、付き人の娘によって遮られる
「も、申し訳ありません!!」
土下座だった。要石に乗っかって宙に浮いている天子の足元で、彼女は額を地面にこすりつける
さきほどまで彼女が主人にした狼藉を考えれば、斬首すらも生ぬるい
自らに課せられる罰の重さを想像し、身を震わせる付き人の娘
それを見た天子は、いまだ整わない息のままで
「いいわよ・・・別に」
「・・・・え?」
信じられないといった風に、顔をあげる付き人の娘。そんな彼女の顔を見た天子は
ため息をついた後、同じ答えを口にする
「許すっていってるの。悪いのは、私みたいだから・・・」
「総領娘様・・・」
「霊夢も、めんどうかけたわね」
霊夢は「はいはい」と手を振り、「さっさと帰れ」と付け加える
付き人の娘は、主人の言葉を胸に、目を潤ませていた
「だから、もう土下座なんてしなくてもいいわ、汚れるでしょう。立ちなさい」
「は、はい!」
そういって、彼女は立ち上がる。顔にはやわらかい笑みがあった
それを、見た天子は同じように笑みを浮かべ「帰るわよ」といい、要石に座ったまま、すべるように動いていった
「はい!!・・・あっ」
そんな主人を追おうとする付き人の娘は、お茶会セットをそのままにしていた事を思い出す
「し、少々お待ちください!!ただいま片付けますので!!」
「ん、早くね」
そう返事を受けた御付の天界人は、すぐさま、丸テーブルや椅子を折りたたみ、羽衣を巻きつけて引き寄せる。
それから、水桶とお皿が紛失していることに気づき、右往左往する
「ああ、それならここよ。洗っておいたわ」
「あ、ありがとうございます。霊夢様」
文字通り飛んできた彼女に空になった水桶と、綺麗になっているお皿を渡した
「よっと」とそれらを持ち上げる様は、曲芸でもみているようであった
「では、失礼します。また、総領娘様が迷惑をかけるかもしれませんが・・・。」
「もう気にしてないわよ。あなたのおかげでね。」
「そうですか。・・・あの、またお邪魔しても?」
「いいわよ。あいつはごめんだけどね」
「そ、そうおっしゃらずに・・・」
「冷えたラムネとお茶請けを持ってきてくれるなら、歓迎はするわよ」
そういって、霊夢は笑う。つられて、付き人の娘も笑った
くすくすと笑う付き人の娘を、天子はじっと見ていた。いや少し違う。彼女が見ていたのは付き人の娘ではなく
彼女の後ろで、器用にテーブルや椅子やパラソルをつかんで離さない羽衣をだ
物欲しそうに羽衣を見つめる彼女を、霊夢だけが笑う振りをしながら軽蔑するような目で見ていた
終わり
あるいは、衣玖さんとふたりがかりでてんこをゴニュゴニョ……