霧の湖にチルノという氷の妖精がいます。
彼女はわりと好戦的で、仲の良いもの以外になんでもない理由で勝負を吹っかけてきます。
大抵は誤魔化されて、勝負するということ自体を忘れてしまいますが、中には力押しでチルノをどうにかしてしまう人もいるのです。
今日もそんな人物の一人霧雨魔理沙に勝負を吹っかけて、負けてしまいました。
次は勝つのだとリベンジに燃えても、明日になれば忘れているでしょう。
でも今は負けたばかりで復讐に燃えながら、湖のほとりで寝転んでいます。
寝ていればいつも勝手に怪我が治るので、今回も同じように寝転んでいようと思ったのです。
そこに誰かが近づいてきます。
「また弾幕ごっこで怪我したの?」
チルノが声のした方向を見ると、知った顔がチルノを見下ろしています。
「あっうどんだ。飴ちょうだい~」
「ウドンゲ。何度言ったらわかるのよ」
現れたのは永遠亭の薬師の弟子、鈴仙・優曇華院・イナバです。
ウドンゲはポケットから飴を取り出して、チルノの口の中に放り込みます。
初めて二人が出会ったときに、勝負を吹っかけてきたチルノの相手をしないために飴をあげたことがきっかけで、懐かれたのでした。
以来、会うたびに飴をあげてもらうという関係です。
「なにしてるのさ?」
「紅魔館に薬を届けるのよ。
チルノはこんなとこで傷だらけでなにしてるの」
「魔理沙に負けて、怪我が治るの待ってる」
「ああ、それで傷だらけなの。
ちょっと待ってて」
そう言うとウドンゲはハンカチを水筒に入れている水で濡らし、チルノの傷を拭いて行きます。
次に常備している簡易治療セットを取り出して、チルノを手際よく治療していきます。
「これでよしっと」
「なにしたの?」
怪我したところに貼られたガーゼを不思議そうに見て言いました。
「なにって傷の治療よ。怪我したらいつもしてるんでしょ?」
「んーん。こんなことしなくても治るよ」
「そうなの? でも傷口からばい菌が入ったりするかもしれないから、次からは水で洗うくらいはしたほうがいいわ」
「よくわからないけどわかった」
「よくわからないって……まあいいわ。
私はもう行くわ。じゃあまたね」
「ばいばい」
ウドンゲは湖上を飛んで紅魔館へと向かいました。
それを見送ったチルノが何かを思い出し立ち上がります。
「お礼言うの忘れた」
それは仲の良い大妖精から教えられたことでした。
悪いことをしたら謝る、何かしてもらったらお礼を言う。できれば恩返しもする。
お礼を言って、恩返しをするためチルノはウドンゲを追って紅魔館に向かいました。
紅魔館の近くまでくると、屋敷から轟音が聞こえてきました。
賑やかだなと思いながらチルノは屋敷に入ろうとします。
しかし入ることはできませんでした。
「チルノちゃん? 何か用事ですか?」
紅魔館の門番である紅美鈴に止められたからです。
「うどんにお礼を言うの!」
「うどんに? 食事になってくれてありがとう?」
「?」
見当はずれなことを言う美鈴にチルノも首を傾げます。
さすがにそれはちょっとおかしいと美鈴も思い、考えて正解にたどり着きました。
ヒントは普段は屋敷に入ろうとしないチルノが入ろうとしたこと。ウドンゲがきていたこと。チルノの怪我の治療がされていたことでした。
「鈴仙さんにお礼を言いたいってことですか」
先にやってきたウドンゲに治療のお礼を言いたいのだろうと推測した美鈴は、迷うそぶりを見せます。
なぜなら今日はフランドールが屋敷内で暴れているからです。
チルノの実力では危ないと判断した美鈴が、しばらくここで待つように言おうとした瞬間、屋敷内からウドンゲの悲鳴が聞こえてきました。
運悪くフランドールと鉢合わせて、遊びに巻き込まれたウドンゲが上げた悲鳴です。
「あっうどんの声だ」
「ちょっと待ってチルノちゃん!」
美鈴の制止を聞かずにチルノは屋敷内へと飛んでいきました。
仕方無しに美鈴も屋敷へと入っていきます。門番隊に警備を怠らないように言っておいて。
チルノは屋敷に入るとすぐに、フランドールに追い回されているウドンゲを発見しました。
ウドンゲを助けるため氷の弾幕を飛ばします。それはレヴァンテインの炎に溶かされ冷たい水となってウドンゲに降り注ぎます。
「また客? 遊ぶ? 遊んで? 遊ぼ?
楽しみね、あははははははははははっ!」
フランドールは新たな標的に興味が移ります。今度の標的は今の標的のように逃げてばかりではなさそうなので、楽しみといったところでしょうか。
好戦的な雰囲気を感じ取ったのかチルノもやる気です。ウドンゲにお礼を言うということを忘れているのかもしれません。
二人は弾幕を飛ばしあいます。その余波が美鈴に助けられるまで、ウドンゲに降り注ぎます。
二人の勝負は長続きしませんでした。魔理沙と咲夜に止められたからです。
遊べてわりと満足できたフランドールは地下へと帰っていきます。
チルノも魔理沙の「なにしてるんだ?」という言葉に目的を思い出して、ウドンゲを探します。
ウドンゲを助け出した美鈴がチルノに、ウドンゲは帰ったと教えました。
永遠亭の方向を聞いたチルノはそっちへと飛んでいきます。
途中で道を間違えたり、蛙を凍らせたり、大蝦蟇と諏訪子に怒られたりして時間を食いましたが永遠亭に到着しました。
迷いやすい竹林では運良く妹紅に出会い、氷と引き換えに道案内をしてもらいました。
「うどんはどこだろ?」
日が暮れて暗い庭から永遠亭内に入っていきます。
暗いおかげで誰かにみつかることはありません。
屋内には入らず、月明かりだけを頼りに窓から部屋の中を覗き、ウドンゲを探します。
「いた!」
いくつめかの窓を覗きこんだとき、布団の中で寝ている苦しげなウドンゲを発見しました。
窓から入ろうとしたとき、先に誰かが部屋に入ってきました。
会話が聞こえてきます。
「具合はどうかしら?」
「熱さましがきいて、だいぶ楽になりました」
「それにしてもあなたも運が悪いわね?
ただの弾幕ごっこなら多少の怪我で済んだのに。
冷たい水や氷をあびるはめになっただなんて」
「あははは」
チルノは胸が締め付けられるような気がしました。
ウドンゲがあんな状態なのは自分のせいだと気付いたからです。
「ゆっくり休みなさい。ただの風邪だから、無茶しなければすぐによくなるわ」
「はい」
「それじゃ私はもう行くわ。
水はここに置いておくから喉が渇いたら飲みなさい。
誰かと話すとしたら短めにね」
永琳はそれだけ言って部屋を出て行きます。
再び部屋にはウドンゲ一人だけになりました。
今のうちだとチルノは窓を開け、部屋に入ります。
それにウドンゲは気付きました。
「チルノ?」
「うどん、ごめんなさい」
「どうして謝るの?」
「だってうどんが風邪になったの私のせいだもん」
「そんなこと謝らなくていいわ。
確かに原因だけど、腰が抜けて動けなかったから自業自得よ。
昔は怖がりはしても、腰が抜けるなんてことなかったのに」
「でも本当はお礼を言って恩返ししたかったのに」
「お礼と恩返し?」
「怪我を治してくれた」
ガーゼを指差しチルノは言いました。。
ウドンゲは当たり前のことをしただけで、わざわざお礼と恩返しなどしてもらわなくてもいいことでした。
だからその心遣いだけで嬉しかったようです。
そのことをチルノに伝えましたが、チルノはそれで納得はできません。
なにかしたいと言うチルノにウドンゲは少し困ってしまいました。
そのとき出て行った永琳が再び部屋に入ってきて、チルノを連れて行きました。
十分ほどして、氷枕を持った永琳だけが戻ってきます。
「師匠、チルノはどうしたんです?」
「帰らせたわ。あの子がいると眠れないでしょう?」
「そうですが、追い払ったりなんかしてませんよね?」
「してないわ。ちゃんと説得して帰らせたもの。
少し頭を上げるわよ」
永琳はウドンゲの頭を少し浮かせて、できた隙間に氷枕を入れます。
「気持ちいいです」
「よかった。あの子も喜ぶわよ。
その中の氷はあの子が作ったんだから。
あなたのためにできることを教えたら、気合入れて氷作っていたわ。
おかげで氷室に氷がたくさんあって、夏に困らないわね」
「……そう……ですか」
「眠そうね。
ゆっくり休みなさい」
額に浮いている汗を拭きとった永琳は立ち上がります。
うとうととしているウドンゲに伝言を伝えて部屋を出て行きました。
伝言とはチルノからのものです。
内容は「ありがとう」
言えなかったお礼を永琳に伝えていたのです。
寝ているウドンゲがうっすらと笑みを浮かべたので、たしかに伝わったのでしょう。
彼女はわりと好戦的で、仲の良いもの以外になんでもない理由で勝負を吹っかけてきます。
大抵は誤魔化されて、勝負するということ自体を忘れてしまいますが、中には力押しでチルノをどうにかしてしまう人もいるのです。
今日もそんな人物の一人霧雨魔理沙に勝負を吹っかけて、負けてしまいました。
次は勝つのだとリベンジに燃えても、明日になれば忘れているでしょう。
でも今は負けたばかりで復讐に燃えながら、湖のほとりで寝転んでいます。
寝ていればいつも勝手に怪我が治るので、今回も同じように寝転んでいようと思ったのです。
そこに誰かが近づいてきます。
「また弾幕ごっこで怪我したの?」
チルノが声のした方向を見ると、知った顔がチルノを見下ろしています。
「あっうどんだ。飴ちょうだい~」
「ウドンゲ。何度言ったらわかるのよ」
現れたのは永遠亭の薬師の弟子、鈴仙・優曇華院・イナバです。
ウドンゲはポケットから飴を取り出して、チルノの口の中に放り込みます。
初めて二人が出会ったときに、勝負を吹っかけてきたチルノの相手をしないために飴をあげたことがきっかけで、懐かれたのでした。
以来、会うたびに飴をあげてもらうという関係です。
「なにしてるのさ?」
「紅魔館に薬を届けるのよ。
チルノはこんなとこで傷だらけでなにしてるの」
「魔理沙に負けて、怪我が治るの待ってる」
「ああ、それで傷だらけなの。
ちょっと待ってて」
そう言うとウドンゲはハンカチを水筒に入れている水で濡らし、チルノの傷を拭いて行きます。
次に常備している簡易治療セットを取り出して、チルノを手際よく治療していきます。
「これでよしっと」
「なにしたの?」
怪我したところに貼られたガーゼを不思議そうに見て言いました。
「なにって傷の治療よ。怪我したらいつもしてるんでしょ?」
「んーん。こんなことしなくても治るよ」
「そうなの? でも傷口からばい菌が入ったりするかもしれないから、次からは水で洗うくらいはしたほうがいいわ」
「よくわからないけどわかった」
「よくわからないって……まあいいわ。
私はもう行くわ。じゃあまたね」
「ばいばい」
ウドンゲは湖上を飛んで紅魔館へと向かいました。
それを見送ったチルノが何かを思い出し立ち上がります。
「お礼言うの忘れた」
それは仲の良い大妖精から教えられたことでした。
悪いことをしたら謝る、何かしてもらったらお礼を言う。できれば恩返しもする。
お礼を言って、恩返しをするためチルノはウドンゲを追って紅魔館に向かいました。
紅魔館の近くまでくると、屋敷から轟音が聞こえてきました。
賑やかだなと思いながらチルノは屋敷に入ろうとします。
しかし入ることはできませんでした。
「チルノちゃん? 何か用事ですか?」
紅魔館の門番である紅美鈴に止められたからです。
「うどんにお礼を言うの!」
「うどんに? 食事になってくれてありがとう?」
「?」
見当はずれなことを言う美鈴にチルノも首を傾げます。
さすがにそれはちょっとおかしいと美鈴も思い、考えて正解にたどり着きました。
ヒントは普段は屋敷に入ろうとしないチルノが入ろうとしたこと。ウドンゲがきていたこと。チルノの怪我の治療がされていたことでした。
「鈴仙さんにお礼を言いたいってことですか」
先にやってきたウドンゲに治療のお礼を言いたいのだろうと推測した美鈴は、迷うそぶりを見せます。
なぜなら今日はフランドールが屋敷内で暴れているからです。
チルノの実力では危ないと判断した美鈴が、しばらくここで待つように言おうとした瞬間、屋敷内からウドンゲの悲鳴が聞こえてきました。
運悪くフランドールと鉢合わせて、遊びに巻き込まれたウドンゲが上げた悲鳴です。
「あっうどんの声だ」
「ちょっと待ってチルノちゃん!」
美鈴の制止を聞かずにチルノは屋敷内へと飛んでいきました。
仕方無しに美鈴も屋敷へと入っていきます。門番隊に警備を怠らないように言っておいて。
チルノは屋敷に入るとすぐに、フランドールに追い回されているウドンゲを発見しました。
ウドンゲを助けるため氷の弾幕を飛ばします。それはレヴァンテインの炎に溶かされ冷たい水となってウドンゲに降り注ぎます。
「また客? 遊ぶ? 遊んで? 遊ぼ?
楽しみね、あははははははははははっ!」
フランドールは新たな標的に興味が移ります。今度の標的は今の標的のように逃げてばかりではなさそうなので、楽しみといったところでしょうか。
好戦的な雰囲気を感じ取ったのかチルノもやる気です。ウドンゲにお礼を言うということを忘れているのかもしれません。
二人は弾幕を飛ばしあいます。その余波が美鈴に助けられるまで、ウドンゲに降り注ぎます。
二人の勝負は長続きしませんでした。魔理沙と咲夜に止められたからです。
遊べてわりと満足できたフランドールは地下へと帰っていきます。
チルノも魔理沙の「なにしてるんだ?」という言葉に目的を思い出して、ウドンゲを探します。
ウドンゲを助け出した美鈴がチルノに、ウドンゲは帰ったと教えました。
永遠亭の方向を聞いたチルノはそっちへと飛んでいきます。
途中で道を間違えたり、蛙を凍らせたり、大蝦蟇と諏訪子に怒られたりして時間を食いましたが永遠亭に到着しました。
迷いやすい竹林では運良く妹紅に出会い、氷と引き換えに道案内をしてもらいました。
「うどんはどこだろ?」
日が暮れて暗い庭から永遠亭内に入っていきます。
暗いおかげで誰かにみつかることはありません。
屋内には入らず、月明かりだけを頼りに窓から部屋の中を覗き、ウドンゲを探します。
「いた!」
いくつめかの窓を覗きこんだとき、布団の中で寝ている苦しげなウドンゲを発見しました。
窓から入ろうとしたとき、先に誰かが部屋に入ってきました。
会話が聞こえてきます。
「具合はどうかしら?」
「熱さましがきいて、だいぶ楽になりました」
「それにしてもあなたも運が悪いわね?
ただの弾幕ごっこなら多少の怪我で済んだのに。
冷たい水や氷をあびるはめになっただなんて」
「あははは」
チルノは胸が締め付けられるような気がしました。
ウドンゲがあんな状態なのは自分のせいだと気付いたからです。
「ゆっくり休みなさい。ただの風邪だから、無茶しなければすぐによくなるわ」
「はい」
「それじゃ私はもう行くわ。
水はここに置いておくから喉が渇いたら飲みなさい。
誰かと話すとしたら短めにね」
永琳はそれだけ言って部屋を出て行きます。
再び部屋にはウドンゲ一人だけになりました。
今のうちだとチルノは窓を開け、部屋に入ります。
それにウドンゲは気付きました。
「チルノ?」
「うどん、ごめんなさい」
「どうして謝るの?」
「だってうどんが風邪になったの私のせいだもん」
「そんなこと謝らなくていいわ。
確かに原因だけど、腰が抜けて動けなかったから自業自得よ。
昔は怖がりはしても、腰が抜けるなんてことなかったのに」
「でも本当はお礼を言って恩返ししたかったのに」
「お礼と恩返し?」
「怪我を治してくれた」
ガーゼを指差しチルノは言いました。。
ウドンゲは当たり前のことをしただけで、わざわざお礼と恩返しなどしてもらわなくてもいいことでした。
だからその心遣いだけで嬉しかったようです。
そのことをチルノに伝えましたが、チルノはそれで納得はできません。
なにかしたいと言うチルノにウドンゲは少し困ってしまいました。
そのとき出て行った永琳が再び部屋に入ってきて、チルノを連れて行きました。
十分ほどして、氷枕を持った永琳だけが戻ってきます。
「師匠、チルノはどうしたんです?」
「帰らせたわ。あの子がいると眠れないでしょう?」
「そうですが、追い払ったりなんかしてませんよね?」
「してないわ。ちゃんと説得して帰らせたもの。
少し頭を上げるわよ」
永琳はウドンゲの頭を少し浮かせて、できた隙間に氷枕を入れます。
「気持ちいいです」
「よかった。あの子も喜ぶわよ。
その中の氷はあの子が作ったんだから。
あなたのためにできることを教えたら、気合入れて氷作っていたわ。
おかげで氷室に氷がたくさんあって、夏に困らないわね」
「……そう……ですか」
「眠そうね。
ゆっくり休みなさい」
額に浮いている汗を拭きとった永琳は立ち上がります。
うとうととしているウドンゲに伝言を伝えて部屋を出て行きました。
伝言とはチルノからのものです。
内容は「ありがとう」
言えなかったお礼を永琳に伝えていたのです。
寝ているウドンゲがうっすらと笑みを浮かべたので、たしかに伝わったのでしょう。
優しくなれる。