永遠亭某日
医師 八意永琳
患者 霧雨魔理沙
「あ痛たた…竹やぶの中を飛ぶのは危険だなぁ…」
霧雨魔理沙が竹林を行く。
箒に跨り高速で。
弾幕を掠りつつ高速で。
しかし弾幕は掠ったら点数になるけども、葉っぱを掠ると血が出ます。
スピードがあるからなおさらだ。
「あ、そーいや永遠亭が近くに在ったな、ちょっと寄って行こう」
こうしてまた、被害者が増えるのでありました。
永遠亭に到着した霧雨さん。
挨拶もそこそこに済まし、どんどん奥へ。
永琳の診察室の前までやってきました。
「おーっす、永琳居るか~?」
しかし返事は返ってきません。
「?おーい、魔理沙さんが傷の手当てを受けに来たぞ~」
……
「どうしたんだろ?」
がらがらと扉を開け中に入る。
すると永琳は中のベッドで新聞を顔に乗せて眠っていた。
「あ~…サボってら、どこぞの死神と変わらないなぁ」
つかつかと歩み寄る魔理沙。
「おーい永琳、ちょっとケガしたんだ」
新聞をとりあげた。
「ちょっと見て…」
ひゅんっ!
声を掛けると同時に首筋に当てられる矢。
永琳は体を起こし、魔理沙を威嚇した。
「う、うわっ!」
「うるさいっ」
一喝される魔理沙。
「あなた…ここに来るまでに誰かにつけられなかった?」
「ひ…一人だぜ?」
「……帰りなさい」
再び横になろうとする永琳。
それを必死に止めようとする魔理沙。
「ちょ!治療してくれよ!」
「悪いわね…もう店じまいよ」
「まだ日が高いぜ!?サボるにも程があるだろ!」
「うるさい…早く帰りなさい」
「うるさいじゃない!傷薬くらいくれよ!」
「……しつこい娘ね…」
永琳は面倒くさそうに体を起こし、ベッドに座る。
「じゃああなた聞くけど、幾ら持ってきたのよ?」
「幾らって…金とるのか!?知り合いだろ?」
ド厚かましいにも程がある気がする。
「ふふふ…いい度胸してるじゃない…気に入ったわ、座りなさい」
「幻想郷縁起の内容を無視するなよ…」
ぶつぶつと言いながら椅子に座る。
「いい?無料で治すのは今回限りよ?見せてみなさい」
「…いや、手とか足にちょっと傷が…」
葉で切った部分を差し出す魔理沙。
「うっ…これは厄介ね…」
「んな訳あるか!」
「ホント運が良かったわね…私じゃなきゃ今頃…」
「誰でも治せるだろ!?ただの切り傷だぜ!永琳…お前ホントに医者か?」
思ったことを聞いてみた。
「…まぁ医者と言っても、日の当たるトコじゃやってけない、不老不死の医者よ」
そう言って遠くを見る永琳。
「まぁそりゃそうだろうけど…」
「とりあえず、何でこんなコトになったのか…訳を聞かせてもらおうかしら?」
姿勢を正す永琳。
「まぁ私に依頼する位なんだから、相当切羽詰まってるんだろうケド」
「いや、近所にあったから寄っただけだぜ?」
「なるほど…訳アリって事ね」
「なんだよ、なるほどって…」
「言いなさい…その訳を」
「…この近所を飛んでたら、葉っぱが当たって手とかを切ったんだよ」
「…ふぅん……まぁ詰まるところ、やばいコトにクビ突っ込んで、組織に追われたからココまでトンズラして来たって訳ね」
「そんなコト言ってない!言ってないぜ!!」
「まぁ私もプロよ…一度診るって決めた以上、地獄の底まで面倒を診て上げるわ」
「いや、こんな傷で地獄まで行ったら閻魔怒らないか?」
膝を叩き、気合を入れる永琳。
そして魔理沙の目を見つめ、ゆっくりと口を開く。
「でも先に言っておくわ、私は蓬莱の薬は使わない!」
「当たり前だ!!切り傷治すのに不老不死にされてたまるか!」
「まず消毒よ…」
永琳は魔理沙にゆっくり近づき、傷口に顔を持っていく。
「ととと…な、何する気だよ!?」
「消毒よ!ケガ人がガタガタ言わないの!!」
「舐めて消毒しようとするなよ!!そこに消毒薬があるだろ!!」
机の上にある消毒薬の入ったビンを指差す魔理沙。
「アレを使えっての!?…ホント大した度胸してるわね…」
「度胸とかいいから…早くしてくれよ…」
ビンを掴み、蓋を開く永琳。
そしてそれをおもむろに自分の口元へと運ぶ。
「って待てーー!!」
「黙りなさい!ケガ人が医者のする事に口出しするんじゃないの!!」
「口の中を筆頭に、粘膜と言う粘膜がただれるぞ!!」
「…それを堪えるから医者なのよ…」
「違う!絶対違う!!」
「私の生き様を見てなさい!!」
「だから待てーー!!」
何だかんだで消毒も終わった。
「次は止血ね…でもここにあるものじゃ……」
「何でもいいから早くしてくれよ…」
止血する物を探す永琳。
もうすでにうんざりしている魔理沙。
正直、止めなきゃならない程の血も流れていない。
「あ、それでいいや、その軟膏塗ってくれよ」
「こ…これを使うの?」
「何だよ、ヤバイ物なのか?」
「い…いえ、別に…」
永琳は机の上にあった軟膏を手に取り、蓋を開けた。
(臭いは…大丈夫だな)
魔理沙は警戒していた。
ビンに詰まった半固体のモノを見る。
自分も薬を作る立場上、それがただの軟膏だと言う事は分かった。
しかし問題はそれを扱う永琳の動きである。
軟膏を指で掬おうとするが、明らかに手先が震えている。
「…大丈夫か?」
「ま、任せなさいっ、私は…医者よ!!」
何とか軟膏を指に乗せた。
「じゃ、じゃあいくわよ…」
「……」
片手で魔理沙の手を持ち、もう片方の手の指先を傷口に近づける。
永琳の手はまだ震えている。
指先は傷口に近づいていく。
3cm…2cm…1cm
「駄目!!出来ない!!」
叫ぶ永琳。
「何でだよ!!」
指をぬぐい、頭を抱える永琳。
「…私は昔…軟膏を塗り間違えたことがあってね……」
「塗りなおせばいいじゃないか!」
「それ以来…軟膏を塗ろうとすると、手が震えるようになってしまったのよ…」
「大丈夫かよ…って言うか、お前が医者に行けよ!!」
「姫…本当にごめんなさい…」
遠くを見つめ、涙を浮かべる永琳。
「輝夜はさっきドグダミの様子を見てたぞ!?って言うかいいのか、姫に薬草の世話させてて…」
「姫……姫……!!」
泣き出す永琳。
なんだか泣きたくなる魔理沙。
何とか落ち着いた永琳。
「もういいぜ、霊夢と遊ぶ約束をしてるんだ」
「…霊夢? あの博麗霊夢ね?」
「他にどの霊夢が居るんだ?」
「あの娘は気をつけなさい…昔、弾が当たったハズなのに被弾しなかった娘よ…蓬莱の薬無しで不死身なのよ!」
「ただ単に当たり判定が小さいだけだろ!?」
永琳がゆっくりと立ち上がった。
「…あなたはここで休んでなさい…」
「な、何だよ!?」
「かつては私も6ボスを務めた身…博麗霊夢に目にモノ見せてやるわ」
足を引き摺りながら部屋から出ようとする永琳。
「ちょ、ちょっと待てよ!」
「いいから…任せなさい!!」
がらがらっ…
戸を開き、部屋から出て行く永琳。
「ああ、それと…説教する気は無いけど…」
後ろを振り向く永琳。
「私みたいな医者になっちゃ駄目よ…」
「絶対にならない!あんたの様な人間にもなりたくない!」
がらがらっ、ぴしゃん!
「……どうしたと言うのだ?」
魔理沙はぼそりと呟いた。
がらがらっ…
そして再び開く戸。
永琳が戻ってきたのだ。
「えっ?どうしたんだ?」
「姫が外に居るのよ!!」
「さっきそう言っただろうが!!」
(終)
言われてみればたしかにインパルス。
問題は、このコメ見た瞬間、脳内変換されてしまって2度目は魔理沙とえーりんで読めないことだな。
永琳がこの調子で輝夜は普段どうしているんだろう。
>葉っぱを掠ると血が出ます
日本語としては正しいけど、むしろそれは被弾してる…