注:『休載』=『打ち切り』なんて話ではありません。
随分と昔の事になる。
白玉楼でいつものように修行をしていた妖忌と妖夢が、幽々子に呼び止められた。
それが、きっかけだった。
「あなた達はいっつも修行が厳しすぎるわ。」
唐突に今度は何を言い出すかと思ったら、説教だった。
言いたくは無いが、お嬢様に対して割と諦めている妖忌には、それなりに予測の範囲内だった。
「庭師としての仕事もこなして、妖夢への稽古を欠かさないでいるのは良い事よ。でも妖忌、あなたのペースで稽古をしてたら、妖夢のもう半分も死んじゃうじゃない。」
この辺まで聞くと、さすがに二世紀ほど仕えている年期は伊達では無く、話の目的は大体読めてくる。
おそらく、このままおやつの時間にするか、妖夢への稽古を一日休ませつつ妖夢で遊ぶか、このどちらかだろう。
念のため、前者に誘導すべく返答しておく。
「確かに。では、ここらで少し休憩としましょう。稽古も丁度きりの良い所でしたから。」
「だ~め。」
いかん、完璧に後者だ。妖忌は早速後悔する。後悔は先に立てるもの。
妖夢はこれからお嬢様が何を言い出すかよく分かっていないらしく、構えを解いたまま停止している。
「今日一日休んだところで、明日からはまた同じ稽古でしょう?それじゃあ意味が無いの。」
一日休憩させるつもりだったのだろうか、と言う妖忌の思惑から外れて、幽々子の言葉は続く。
「下の館に遊びに行ってらっしゃい。話はつけているし、門番はかなりの腕前らしいから、きっといい勉強になるわ。」
遊びだか勉強だか、はっきりして下さい幽々子様。
そんな台詞を、妖忌はかろうじて飲み込んだ。
白玉楼を離れ、地上に降り立つと、本当に紅魔館の門番が出迎えて来た。
妖忌からすれば、この時点で驚愕どころでは済まない。だが平常心を保てるのは、彼の強さである。
紅美鈴と名乗ったその門番は、三日の間、二人を客人としてもてなすようにと言われているのだと言う。
だが、美鈴に出会った時から、妖忌の腹は決まっていた。
彼女がかなりの実力を持っている事を、妖忌はすでに見抜いていたのだ。
早速、館の中で休むのではなく、門番達と共に美鈴の仕事ぶりを見てみたいと妖忌が進言すると、意外なほどあっさりと承諾された。
レミリアと言う紅魔館の主が、既に妖忌が館内に入る事は無いだろうと分かっていたかららしい。
運命を操る程度の能力を有すると言うが、いつか手合わせ出来ないだろうか、と妖忌は心の隅で思った。
そして、そんな考えはすぐに消え失せた。
美鈴自身が、とてつもなく強い事が分かったからである。
侵入者が来ないままに美鈴の勤務時間が終わったので、早速妖忌は試合を申し込んだ。
快くその申し出を受けた美鈴は、妖夢に「近くにいたら危ないから、ここで待っててね?」と優しく声をかけ、妖夢の安全を確保してから、妖忌の前に立った。
お互いの間合いは遠い。剣も届かない位置では、美鈴の拳も届かないだろう。
よろしくお願いします、と礼をし、二人は構える。
行きますよ、と言う合図と共に、美鈴はまっすぐに妖忌に向かって走り、間合いを詰めようとする。
それを迎撃するように、妖忌は白楼剣の代わりにと渡された短剣を、逆手に持ちかえた。
その時には、もう決着がついていた。
長刀を持つ左手に何かが触れる感触が有った時には、既に美鈴は妖忌を射程に捉えていた。
左手への感触が、美鈴の能力が作り上げた偽物だと理解して、即座に右手の短剣と左手の長刀で美鈴を挟むように反撃。
しかし、右手の短剣は既に折られていて、美鈴は長刀を軽々と回避する。
左手に、気を練って作った「剣が何かが触れた感触」を当てている間に、右手に「変化の無い感触」を当てておいて剣を折る。
それだけの事を、妖忌が気付かないほど精密な早業でこなしていたと知り、妖忌は己の負けを悟った。
正に一瞬。
その一瞬からは、妖忌は様々な事を学んだにしろ、妖夢にはよく分からなかっただろう。
如何に素質が有るとしても、今の攻防は「美鈴の遠当てに対し、妖忌があっさり負けた」としか見えなかっただろうし、実際に妖夢は首を傾げている。
その為、妖忌は自分の不甲斐無さを後悔しつつ、門番隊や美鈴と共に、妖夢への稽古のつけ方を学ぶ事となった。後悔は後を絶たない。
こんなに妖夢は可愛いんだから、もっと可愛がってあげないと駄目でしょう、と言われた。
稽古に私情を挟むのはどうかと妖忌は思う。
日々の鍛錬は大事ですけど、毎日ずーっと稽古って言うのは問題が有るでしょう、と言われた。
一日でも休みを作ると、妖夢が幽々子様に遊ばれて疲れ果てるから仕方が無いと妖忌は思う。
妖夢を預けてくれたら、立派な剣士にして見せます、と言われた。
埋めておいた。
二日目の夜、明日の朝が来ればまた普段通りの生活に戻ると言う時に、ついに紅魔館への襲撃が起こった。
と言っても、相手の強みと言えば数が多いだけ。統制は取れていないし、別段怖い相手では無い。
蹴散らすのは簡単なのだが、問題がいくつかある。
まず、妖精門番隊よりは敵が強い。
敵一体に対して、門番隊二十人でやっと拮抗できる程度なので、大人しく下がってもらった方が士気が下がらない分役に立つ。妖夢を抱えて逃げる役を奪い合っていたので、投げておいた。
次に、数が多い。
襲撃してきたこの妖怪達がその気になれば、人間の里くらいなら肉壁で覆えるんじゃないかと言うほどに多い。
……組体操して襲ってきた方が、雪崩を起こせる分強かったんじゃなかろうか、と妖忌は思う。
少々頭が悪かろうと、襲撃者は襲撃者。
美鈴と二人で、撃退に打って出る事となった妖忌。
何故こんな事態になったかは考えず、この状況で妖夢に教えられることを見出そうと発想の転換。
その為に、声高らかに名乗りを上げる。
襲撃者よ、退くがいい!我こそは冥界の剣士にして西行寺の庭師、魂魄妖忌!
妖怪が鍛えたこの剣に、天地人妖、森羅万象、斬れぬものなど何一つ無い!!
数は多いが所詮は数しか強みの無い妖怪。
斬り捨て続けて十分もすれば、逃げるか斬られるかのどちらかしか残ってはいなかった。
つまらぬものを斬ったとは思わない。
斬った全てから学べる限りを学び、知れる限りを知る。それが魂魄の道である。
翌日、白玉楼に帰る事になった。
門番隊の中に、本格的に名残惜しそうにしている妖精が数十人居たので沈めておいた。
何か無用の疲れを背負ったように思えるが、妖夢には十分な休息になった様だし良しとしよう、と妖忌は思う。長い半人生、後悔はしない時もある。
美鈴とまた手合わせ願えるかを聞くと、またいつでも、と言う答えが返って来た。
いい経験になったものだ、とあの時は本当にそう思った。
何せ帰ってからの方が問題だったのだ。
幽々子のわがままがレベルアップし、庭の手入れが中途半端なままになり、妖忌の負担はむしろ増えた。
妖夢は平気なように見えるが、半霊を見れば落ち込んでいるのは一目瞭然。
色々と気苦労は増えたが、何より喜ぶべき事もある。
この時の経験を妖夢は忘れず、そして活かすことが出来たのだ。
弟子に教えられる時が来た時、妖忌は旅立った。
あの頃、自分は剣に頼り過ぎていた。
楼観剣と白楼剣に、斬れぬものなど何一つ無いと信じていた。
だが、それでは剣士としては永遠に半人前でしかない。
剣が全てを斬れるなら、それに斬らせるも斬らせぬも剣士の腕次第。
そう考えていたあの頃の妖忌は、今にして思えば青すぎた。
だから、今も妖忌は必ず声高らかに名乗りを上げる。弟子譲りの口上と共に。
我は剣士、魂魄妖忌!
天地人妖、森羅万象、我が手の剣に斬れぬものなどあんまり無い!!
随分と昔の事になる。
白玉楼でいつものように修行をしていた妖忌と妖夢が、幽々子に呼び止められた。
それが、きっかけだった。
「あなた達はいっつも修行が厳しすぎるわ。」
唐突に今度は何を言い出すかと思ったら、説教だった。
言いたくは無いが、お嬢様に対して割と諦めている妖忌には、それなりに予測の範囲内だった。
「庭師としての仕事もこなして、妖夢への稽古を欠かさないでいるのは良い事よ。でも妖忌、あなたのペースで稽古をしてたら、妖夢のもう半分も死んじゃうじゃない。」
この辺まで聞くと、さすがに二世紀ほど仕えている年期は伊達では無く、話の目的は大体読めてくる。
おそらく、このままおやつの時間にするか、妖夢への稽古を一日休ませつつ妖夢で遊ぶか、このどちらかだろう。
念のため、前者に誘導すべく返答しておく。
「確かに。では、ここらで少し休憩としましょう。稽古も丁度きりの良い所でしたから。」
「だ~め。」
いかん、完璧に後者だ。妖忌は早速後悔する。後悔は先に立てるもの。
妖夢はこれからお嬢様が何を言い出すかよく分かっていないらしく、構えを解いたまま停止している。
「今日一日休んだところで、明日からはまた同じ稽古でしょう?それじゃあ意味が無いの。」
一日休憩させるつもりだったのだろうか、と言う妖忌の思惑から外れて、幽々子の言葉は続く。
「下の館に遊びに行ってらっしゃい。話はつけているし、門番はかなりの腕前らしいから、きっといい勉強になるわ。」
遊びだか勉強だか、はっきりして下さい幽々子様。
そんな台詞を、妖忌はかろうじて飲み込んだ。
白玉楼を離れ、地上に降り立つと、本当に紅魔館の門番が出迎えて来た。
妖忌からすれば、この時点で驚愕どころでは済まない。だが平常心を保てるのは、彼の強さである。
紅美鈴と名乗ったその門番は、三日の間、二人を客人としてもてなすようにと言われているのだと言う。
だが、美鈴に出会った時から、妖忌の腹は決まっていた。
彼女がかなりの実力を持っている事を、妖忌はすでに見抜いていたのだ。
早速、館の中で休むのではなく、門番達と共に美鈴の仕事ぶりを見てみたいと妖忌が進言すると、意外なほどあっさりと承諾された。
レミリアと言う紅魔館の主が、既に妖忌が館内に入る事は無いだろうと分かっていたかららしい。
運命を操る程度の能力を有すると言うが、いつか手合わせ出来ないだろうか、と妖忌は心の隅で思った。
そして、そんな考えはすぐに消え失せた。
美鈴自身が、とてつもなく強い事が分かったからである。
侵入者が来ないままに美鈴の勤務時間が終わったので、早速妖忌は試合を申し込んだ。
快くその申し出を受けた美鈴は、妖夢に「近くにいたら危ないから、ここで待っててね?」と優しく声をかけ、妖夢の安全を確保してから、妖忌の前に立った。
お互いの間合いは遠い。剣も届かない位置では、美鈴の拳も届かないだろう。
よろしくお願いします、と礼をし、二人は構える。
行きますよ、と言う合図と共に、美鈴はまっすぐに妖忌に向かって走り、間合いを詰めようとする。
それを迎撃するように、妖忌は白楼剣の代わりにと渡された短剣を、逆手に持ちかえた。
その時には、もう決着がついていた。
長刀を持つ左手に何かが触れる感触が有った時には、既に美鈴は妖忌を射程に捉えていた。
左手への感触が、美鈴の能力が作り上げた偽物だと理解して、即座に右手の短剣と左手の長刀で美鈴を挟むように反撃。
しかし、右手の短剣は既に折られていて、美鈴は長刀を軽々と回避する。
左手に、気を練って作った「剣が何かが触れた感触」を当てている間に、右手に「変化の無い感触」を当てておいて剣を折る。
それだけの事を、妖忌が気付かないほど精密な早業でこなしていたと知り、妖忌は己の負けを悟った。
正に一瞬。
その一瞬からは、妖忌は様々な事を学んだにしろ、妖夢にはよく分からなかっただろう。
如何に素質が有るとしても、今の攻防は「美鈴の遠当てに対し、妖忌があっさり負けた」としか見えなかっただろうし、実際に妖夢は首を傾げている。
その為、妖忌は自分の不甲斐無さを後悔しつつ、門番隊や美鈴と共に、妖夢への稽古のつけ方を学ぶ事となった。後悔は後を絶たない。
こんなに妖夢は可愛いんだから、もっと可愛がってあげないと駄目でしょう、と言われた。
稽古に私情を挟むのはどうかと妖忌は思う。
日々の鍛錬は大事ですけど、毎日ずーっと稽古って言うのは問題が有るでしょう、と言われた。
一日でも休みを作ると、妖夢が幽々子様に遊ばれて疲れ果てるから仕方が無いと妖忌は思う。
妖夢を預けてくれたら、立派な剣士にして見せます、と言われた。
埋めておいた。
二日目の夜、明日の朝が来ればまた普段通りの生活に戻ると言う時に、ついに紅魔館への襲撃が起こった。
と言っても、相手の強みと言えば数が多いだけ。統制は取れていないし、別段怖い相手では無い。
蹴散らすのは簡単なのだが、問題がいくつかある。
まず、妖精門番隊よりは敵が強い。
敵一体に対して、門番隊二十人でやっと拮抗できる程度なので、大人しく下がってもらった方が士気が下がらない分役に立つ。妖夢を抱えて逃げる役を奪い合っていたので、投げておいた。
次に、数が多い。
襲撃してきたこの妖怪達がその気になれば、人間の里くらいなら肉壁で覆えるんじゃないかと言うほどに多い。
……組体操して襲ってきた方が、雪崩を起こせる分強かったんじゃなかろうか、と妖忌は思う。
少々頭が悪かろうと、襲撃者は襲撃者。
美鈴と二人で、撃退に打って出る事となった妖忌。
何故こんな事態になったかは考えず、この状況で妖夢に教えられることを見出そうと発想の転換。
その為に、声高らかに名乗りを上げる。
襲撃者よ、退くがいい!我こそは冥界の剣士にして西行寺の庭師、魂魄妖忌!
妖怪が鍛えたこの剣に、天地人妖、森羅万象、斬れぬものなど何一つ無い!!
数は多いが所詮は数しか強みの無い妖怪。
斬り捨て続けて十分もすれば、逃げるか斬られるかのどちらかしか残ってはいなかった。
つまらぬものを斬ったとは思わない。
斬った全てから学べる限りを学び、知れる限りを知る。それが魂魄の道である。
翌日、白玉楼に帰る事になった。
門番隊の中に、本格的に名残惜しそうにしている妖精が数十人居たので沈めておいた。
何か無用の疲れを背負ったように思えるが、妖夢には十分な休息になった様だし良しとしよう、と妖忌は思う。長い半人生、後悔はしない時もある。
美鈴とまた手合わせ願えるかを聞くと、またいつでも、と言う答えが返って来た。
いい経験になったものだ、とあの時は本当にそう思った。
何せ帰ってからの方が問題だったのだ。
幽々子のわがままがレベルアップし、庭の手入れが中途半端なままになり、妖忌の負担はむしろ増えた。
妖夢は平気なように見えるが、半霊を見れば落ち込んでいるのは一目瞭然。
色々と気苦労は増えたが、何より喜ぶべき事もある。
この時の経験を妖夢は忘れず、そして活かすことが出来たのだ。
弟子に教えられる時が来た時、妖忌は旅立った。
あの頃、自分は剣に頼り過ぎていた。
楼観剣と白楼剣に、斬れぬものなど何一つ無いと信じていた。
だが、それでは剣士としては永遠に半人前でしかない。
剣が全てを斬れるなら、それに斬らせるも斬らせぬも剣士の腕次第。
そう考えていたあの頃の妖忌は、今にして思えば青すぎた。
だから、今も妖忌は必ず声高らかに名乗りを上げる。弟子譲りの口上と共に。
我は剣士、魂魄妖忌!
天地人妖、森羅万象、我が手の剣に斬れぬものなどあんまり無い!!
まあ剣だけで全てを倒せる訳じゃないですからね~
後美鈴ですがやはり弾幕ごっこが流行る前はそれ相応の強さがありますね。
それを美味く活用できなかったのが無念ですね…
接近戦なら恐らく最強クラスでしょうに…
つくづく残念です
いくら何でも美鈴が妖忌に勝てるとは思えませんが…
しかしよく考えたら美鈴が3ボスで妖忌の弟子が5ボスなのは弾幕ごっこの話ですからありえなくはない?
それより厳格でもなくカオスに壊れてるわけでもない妖忌が珍しかったです。
「埋めておいた」「組体操して襲ってきた方が、雪崩を起こせる分強かったんじゃなかろうか」などという妖忌は初めて見ました。