Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

桑摘みの話

2008/06/10 12:40:32
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 魔理沙はいつものように空を飛び、神社へと向かっていた。
 太陽は梅雨に入ったとは思えないほどこうこうと輝き、少女の肌を
焼く。魔法使いの割に健康的な彼女ではあっても、今日の日差しは
むしろ不健康だった。
 涼もう、と慌しい氷精のところへ出向いてみれば、湖には青い服が
浮かんでいるだけだった。
 溶けたか。
 次の冬まで見ることはないな、と諦め、霊夢なら暑さ防止の結界でも
作れるだろ、と決めつけ神社へと向かうことにした。
 神社の庭に降り立ち、縁側で茶でも飲んでいるだろう霊夢を探す、が
どこにも見当たらない。人の気配がしなかった。まず誰も訪れることのない
正面に回ると、賽銭箱の前に紙が貼られていることに気づく。
 御用の方はお賽銭ののち、山の裏手へ
 何となく持参していた小さなキノコを賽銭箱へ放り込み、魔理沙は裏手へと
飛び立った。

 裏手の森には好き勝手に花粉をばらまいて繁殖したであろう、雑多な
木が思い思いに立っており、溢れんばかりの初夏の匂いを放っている。
 むさ苦しい木々の隙間をくぐっていると、森の中に目立つ赤い点が一つ、木に
寄り添って浮かんでいるのが見えた。霊夢だ。
 「あら、魔理沙じゃない。お賽銭入れた?」
 近づくなりいつもの挨拶をされ、ああ、と生返事をする。霊夢はいつもの巫女服に
市女笠を被り、竹籠を背負っていた。
 「何してんだ?」
 「葉っぱ取ってんの」
 と背中を向け、竹籠の中身を見せた。なるほど、一枚一枚が広い青々と
した葉がそろそろと納められている。と、霊夢が側に佇んでいる木が桑の木で
あることに気づいた。乱雑な木々が生い茂るこの森で、よく見ればこの周辺だけ
桑の木が数本、等間隔に並んでいる。
 「何だ、絹でも作るのか?」
 「うちは蚕はいないけどね。里に持ってくの」
 里から頼まれててね、と霊夢は続ける。笠の藁目からこぼれた光が彼女の頬を
撫でており、なんとも涼しげだ。
 お茶にしましょうか、と霊夢は言った。どうやら丁度区切りがついた頃に
出くわしたらしい。魔理沙はまあ、頷いた。
 「なぁ、お前、暑気封じの結界なんか使える?」
 「何それ?」
 暑さからは逃れなさそうだ、と魔理沙は思った。

 神社へと戻ると、霊夢は井戸へと回り、魔理沙は東の縁側に寝転んだ。
そよそよと微かに流れる風が、心を落ち着かせる。暑いことに変わりはないが。
 あ゛ー、とむさ苦しい声を上げ、魔理沙は目を瞑った。
 霊夢のおとなしい足音が近づいてくる。と、冷たいモノが頬に触れた。
 涼しい。
 「井戸で冷やしといたの」
 と、湯呑みが魔理沙の枕もとに置かれる。目を閉じたまま湯呑を器用に探り当て、
こんこんと冷えたお茶を飲む。少し強い苦みが渇いた喉に心地良い。
 一気に飲み干されて空になった湯呑を見て、霊夢は溜め息をついた。
 「おかわりいる?」
 ん、とだけ返ってきた声を聞いて、霊夢はお茶を汲みに行った。
  ささやかな足音さえ遠のく。
  虫達はみんみん。
  空気もそよそよ。
  太陽なんてさんさん。
 私達は、包まれている。

 「いい加減起きなさいよ」
という声で、魔理沙はまどろみの世界から戻ってくる。
 目を開けると、日差しは少し紅く翳っていた。
 座りなおしてみれば、手元にはぬるくなったであろうお茶が入った湯呑と、
木の実を包んだ和紙が置かれていた。桑の実だ。
 「少し摘んできたの」
 くろぐろと熟れた藍色の実を、無遠慮に一つ口に放り込む。舌で押し潰すと、
ちょっとかびっぽい甘味が口の中に広がった。
 旨いな、と魔理沙は呟く。霊夢は何も答えず、ただ実を口に入れた。
 魔理沙はようやく霊夢を見る。市女笠を脱いだ彼女は、いつものリボンをして
いなかった。無遠慮に後ろに流れる髪を、先の方で緩くまとめている。
 収穫で汗を掻いていたのだろう、肌から女が匂い立つ。
 「あ~、何だ、絹が着たいのか?」
 魔理沙が聞いてもさあね、と気のない返事が返ってくる。
 遠くを見るな。目で語るな。女め。
 「嫁ぐんならレミリアだな」と言ってみた。
 霊夢は全く想像していなかったらしく、変な目で魔理沙を見た。魔理沙は
笑って自分の歯に指をさしてやる。鏡を見せるよりずっと速い。
 桑の果肉で口元が真っ赤に光る二人は、傍から見ればさぞ恐ろしげに見えたことだろう。

 次の日からは数日雨が降り続いた。
 ある日霊夢がお賽銭箱を見に行ってみれば、箱の中身は黴だらけだった。

  ※いつも温かいコメントを頂き、ありがとうございます。皆様のお言葉によって
   書く勇気が湧いたり、その日一日が楽しくなります。舞い上がったりします。

    )名無し1番様
     初コメントありがとうございます。確かに構成が拙作「お茶摘みの話」と
     殆ど変わらなく、マンネリ感があるように自分でも感じました。もう少し
     日常にしても、こう書き方を変えたいものだったんですが。
     カビを生やしたかったんで敢えてズボラな霊夢さんにさせて頂きました。
     もっと守銭奴ですよねー。

    )名無し2番様
     コメントありがとうございます。私は子供の頃体格がひ弱で、木に登れるように
     なったのは小学校3,4年でしたでしょうか。初めて自分の力で地面や人を
     見下ろした時は、単純に嬉しかったですね。
     桑の実って市販されているのでしょうか。スーパーなどでは見たことないんですが、
     意識していないだけかも。

    )名無し3番様
     コメントありがとうございます。市女笠は作者の趣味です。働いている女性は
     色気はないけれど、なんか違うけれど似通った魅力がある、と訳のわからない
     ことに信望してしまっています。
     「さわやか」なんて褒め言葉、もう、なんとしょう!自分、とても喜んでます。

    )名無し4番様
     コメントありがとうございます。「大好き」なんてなんてなんてああ恥ずかしい!
     凄い嬉しいです。精進させて頂きます。
     この二人は物理的にも精神的にも距離感があいまいなんじゃないかな、
     と個人的に思っている点からこんな話が出てきました。

  ※まともな返事を伝えられているのか、この喜びを伝えられたかなどいつも不安では
  ありますが、今一度、ありがとうございました。
 このような所まで読んで頂き誠に有難う御座います。
 皆様の温かいご意見・ご感想をお待ちしております。宜しければどうか一言、
お言葉を残し下さいませ。
 では今一度、有難う御座いました。
慶賀
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
あー、こう、何かいつも通りって感じで落ち着きますね。
しかし雨とはいえ数日も賽銭箱を見に行かぬとは、霊夢も霊夢だなw
2.名前が無い程度の能力削除
桑の実か…。子供の頃、木に登って食べましたね。
いまでもあるのかなぁ…
3.名前が無い程度の能力削除
>市女笠を被り
うわ、見たい

さわやかですね。
桑の実を食べて芯だけ口に残る感じを思い出しました。
4.名前が無い程度の能力削除
このらしさがたまらない。大好きだ。
貴方の書いた二人の日常話もっと読んでみたいです。