※緋想天のネタバレがあります。
例の天人の事件は一段落ついたようだが、まだ天気は戻っていない。
一度空に舞い上げた気質はおいそれとは元に戻らないという事か。
私はそのせいで妖怪の山に居辛くなってしまった。
なにせ私がいる限り大量の雨が降り続けるのだから土砂崩れや増水の危険性が出てくる。
私の家に被害が出るだけならまだしも、他の天狗に被害が及ぶのはまずい。
またあらぬ噂をでっちあげられる事になるだろう。
ただでさえ私は人間に関わりすぎている事で眼をつけられているというのに…。
真に天狗の世は住みにくい。何百年経っても慣れない。
今はこうしてあてもなく空を彷徨っている。カメラも文花帖も持たずに、だ。
正直言って機嫌が悪い。
空を思うがままに飛んでいればそういう気分も薄らぐものではあるが、この嵐ではそうも行かない。
少しなら風を操り雨を凌ぐ事も出来る。しかしそれをせず私は強い雨に打たれながらフラフラと飛んでいた。
そういう気分だった。
「烏は水が苦手だと思っていたが、そういう事もないんだな」
いつの間にか…嵐と物思いに耽っていたせいで気付かなかったと思いたいが…
霧雨魔理沙が近くを飛んでいた。「濡れ鼠」という形容そのままの様相だった。
「…私は翼に頼って飛んでいる訳じゃないからね」
「なぁ、今回の事は記事にしないのか?」
「…とりあえず相槌ぐらいは打ちなさい」
……どうもこの人間は苦手だ。少しだけだけど。
頭は悪くない癖に、考えないで行動する。それでいて巫女のような超然とした態度とも違う。
こういう直情的な人間は、記事にするには面白いのだが会話をするのは疲れる。
向こうの直接的な言葉にこちらは考えて答えてしまうからだ。
取材時なら気にならないんだけどね。あいにく、今の私は機嫌が悪い。
疲れる会話をするような気分ではない。
「……記事にはしないわ。やんごとなきお方の事は記事にしにくいのよ」
「へー。おまえでもそういうの気にするんだな」
「前に言ったでしょう?組織に属するという事は自分の意思だけでは動けなくなる事だとね」
「ふーん」
天狗のような閉鎖的な社会は権威に弱い。
天人や比那名居一族の権威などどうでも良さそうな物だが、とにかく「そういう事」らしい。
ならば従わなければならない。
まさしく天狗とは「天の狗」。自由気ままには動けない。
私としてはこんな天気を作り出した犯人を、思うがままに新聞でバッシングしたい所なんだけどね…。
「それで、おまえはホントに水は平気なのか?」
「だから……。悪いけど、用がないならもう消えてくれないからしら?貴方と会話するのは疲れるしね」
「私の家の温泉に入っていくか?」
…ん?
「ああ、水は平気でも風呂は苦手なのか?烏の行水なんて云うしな…いや行水って風呂の事じゃないのかな…?」
「ちょ、ちょっと待ちなさい。急に何を言ってるの?」
「私は今から風呂に入る、目の前にズブ濡れの奴がいる、風呂に誘う…普通だぜ?」
どういう論法だ。
普通はそこまで仲の良い訳でもない存在を、自分の家の風呂に誘うなんて事はしない。
「どういう風の吹き回しよ」
「風を読むのは得意なんじゃないのか?」
「いいかげんにしなさい。言ったでしょう?貴方と会話するのは疲れる、と。
それに取材以外ではあまり人間とは関わりたくないの。貴方こそ風邪を引く前に早く帰りなさい」
「いや、待て、落ち着け。実はおまえに謝ろうと思ってたんだ」
…謝る?また訳のわからない事を言い出した。やはりこの人間の言葉は直接的すぎて理解に時間がかかる。
彼女は何か言い辛そうにした後、こう言った。
「こないだはにべもなく追い返して悪かったな…いや、霧雨続きで機嫌が悪かったんだ。
あの時は天子の仕業だって事もわかんなかったしな。だから、風呂はその礼だぜ。」
…?
…そういえばそんな事もあったが…。しかし…気にしていたのか?いつもの事じゃないの。
いや、確かにいつもとは違ったか?何か会話が短かったような気がする。
だからといってわざわざ謝る事か?
嵐の中(と、私は思っていた)強引に取材に行ったのは私の方だし、追い返されるのもいつもの事。
それを風呂に招待してまで謝る?分からない。何か意図があるのだろうか…?
「何難しい顔してるんだよ…まだ怒ってるのか?できれば許して欲しいんだぜ…」
「え?いや、別に私は怒ってないわよ?」
「そうなのか?本当に?」
「え、ええ」
「それは良かったぜ。珍しく元気がなさそうに飛んでいたからな。私のせいで悪かったな」
「えっ?」
ああ、この人間は勘違いしていたのか。私がフラフラと、機嫌悪そうに飛んでいたのを自分のせいだと思ってしまったのか。
だから風呂に誘ったり、謝ったりして私の機嫌を治そうとしていたのか。
わかってみれば単純な話だった。
やはり単純すぎて理解に時間がかかってしまった。
単純すぎて、その優しさに気付かなかった。
「で、風呂は入る気ないのか?温泉だからすぐに入れるんだぜ。服も魔法ですぐに乾かせるし」
「…何度も言わせないで。取材以外で必要以上に人間と関わる事はできないのよ」
「そうか…。じゃあ、私は帰るぜ。また今度な」
「おっと。ところで霧雨魔理沙さん」
「あー?」
「最近貴方の家で何か変わった事はありませんでしたか?」
「………ああ、地震が来るって聞いたから結構がんばって片付けたぜ。結局来ないみたいだけどな」
「あややや!それはいいですね!霧雨魔法店新装開店ですか?よろしければ取材のためにお邪魔させていただきたいのですが」
「…本当に難しい生き物だな。天狗って」
「あなたほどではありませんよ」
「私は普通だぜ」
温泉の中で彼女に天人の話を詳しく聞いた。
バッシングに関してはともかく、面白いネタになりそうだ。明日にでも天に取材に行く事にする。
また何か言われるだろうが、その時はまたこの温泉に入りにこよう。
外の雨音が何か弱まったような気がした。
例の天人の事件は一段落ついたようだが、まだ天気は戻っていない。
一度空に舞い上げた気質はおいそれとは元に戻らないという事か。
私はそのせいで妖怪の山に居辛くなってしまった。
なにせ私がいる限り大量の雨が降り続けるのだから土砂崩れや増水の危険性が出てくる。
私の家に被害が出るだけならまだしも、他の天狗に被害が及ぶのはまずい。
またあらぬ噂をでっちあげられる事になるだろう。
ただでさえ私は人間に関わりすぎている事で眼をつけられているというのに…。
真に天狗の世は住みにくい。何百年経っても慣れない。
今はこうしてあてもなく空を彷徨っている。カメラも文花帖も持たずに、だ。
正直言って機嫌が悪い。
空を思うがままに飛んでいればそういう気分も薄らぐものではあるが、この嵐ではそうも行かない。
少しなら風を操り雨を凌ぐ事も出来る。しかしそれをせず私は強い雨に打たれながらフラフラと飛んでいた。
そういう気分だった。
「烏は水が苦手だと思っていたが、そういう事もないんだな」
いつの間にか…嵐と物思いに耽っていたせいで気付かなかったと思いたいが…
霧雨魔理沙が近くを飛んでいた。「濡れ鼠」という形容そのままの様相だった。
「…私は翼に頼って飛んでいる訳じゃないからね」
「なぁ、今回の事は記事にしないのか?」
「…とりあえず相槌ぐらいは打ちなさい」
……どうもこの人間は苦手だ。少しだけだけど。
頭は悪くない癖に、考えないで行動する。それでいて巫女のような超然とした態度とも違う。
こういう直情的な人間は、記事にするには面白いのだが会話をするのは疲れる。
向こうの直接的な言葉にこちらは考えて答えてしまうからだ。
取材時なら気にならないんだけどね。あいにく、今の私は機嫌が悪い。
疲れる会話をするような気分ではない。
「……記事にはしないわ。やんごとなきお方の事は記事にしにくいのよ」
「へー。おまえでもそういうの気にするんだな」
「前に言ったでしょう?組織に属するという事は自分の意思だけでは動けなくなる事だとね」
「ふーん」
天狗のような閉鎖的な社会は権威に弱い。
天人や比那名居一族の権威などどうでも良さそうな物だが、とにかく「そういう事」らしい。
ならば従わなければならない。
まさしく天狗とは「天の狗」。自由気ままには動けない。
私としてはこんな天気を作り出した犯人を、思うがままに新聞でバッシングしたい所なんだけどね…。
「それで、おまえはホントに水は平気なのか?」
「だから……。悪いけど、用がないならもう消えてくれないからしら?貴方と会話するのは疲れるしね」
「私の家の温泉に入っていくか?」
…ん?
「ああ、水は平気でも風呂は苦手なのか?烏の行水なんて云うしな…いや行水って風呂の事じゃないのかな…?」
「ちょ、ちょっと待ちなさい。急に何を言ってるの?」
「私は今から風呂に入る、目の前にズブ濡れの奴がいる、風呂に誘う…普通だぜ?」
どういう論法だ。
普通はそこまで仲の良い訳でもない存在を、自分の家の風呂に誘うなんて事はしない。
「どういう風の吹き回しよ」
「風を読むのは得意なんじゃないのか?」
「いいかげんにしなさい。言ったでしょう?貴方と会話するのは疲れる、と。
それに取材以外ではあまり人間とは関わりたくないの。貴方こそ風邪を引く前に早く帰りなさい」
「いや、待て、落ち着け。実はおまえに謝ろうと思ってたんだ」
…謝る?また訳のわからない事を言い出した。やはりこの人間の言葉は直接的すぎて理解に時間がかかる。
彼女は何か言い辛そうにした後、こう言った。
「こないだはにべもなく追い返して悪かったな…いや、霧雨続きで機嫌が悪かったんだ。
あの時は天子の仕業だって事もわかんなかったしな。だから、風呂はその礼だぜ。」
…?
…そういえばそんな事もあったが…。しかし…気にしていたのか?いつもの事じゃないの。
いや、確かにいつもとは違ったか?何か会話が短かったような気がする。
だからといってわざわざ謝る事か?
嵐の中(と、私は思っていた)強引に取材に行ったのは私の方だし、追い返されるのもいつもの事。
それを風呂に招待してまで謝る?分からない。何か意図があるのだろうか…?
「何難しい顔してるんだよ…まだ怒ってるのか?できれば許して欲しいんだぜ…」
「え?いや、別に私は怒ってないわよ?」
「そうなのか?本当に?」
「え、ええ」
「それは良かったぜ。珍しく元気がなさそうに飛んでいたからな。私のせいで悪かったな」
「えっ?」
ああ、この人間は勘違いしていたのか。私がフラフラと、機嫌悪そうに飛んでいたのを自分のせいだと思ってしまったのか。
だから風呂に誘ったり、謝ったりして私の機嫌を治そうとしていたのか。
わかってみれば単純な話だった。
やはり単純すぎて理解に時間がかかってしまった。
単純すぎて、その優しさに気付かなかった。
「で、風呂は入る気ないのか?温泉だからすぐに入れるんだぜ。服も魔法ですぐに乾かせるし」
「…何度も言わせないで。取材以外で必要以上に人間と関わる事はできないのよ」
「そうか…。じゃあ、私は帰るぜ。また今度な」
「おっと。ところで霧雨魔理沙さん」
「あー?」
「最近貴方の家で何か変わった事はありませんでしたか?」
「………ああ、地震が来るって聞いたから結構がんばって片付けたぜ。結局来ないみたいだけどな」
「あややや!それはいいですね!霧雨魔法店新装開店ですか?よろしければ取材のためにお邪魔させていただきたいのですが」
「…本当に難しい生き物だな。天狗って」
「あなたほどではありませんよ」
「私は普通だぜ」
温泉の中で彼女に天人の話を詳しく聞いた。
バッシングに関してはともかく、面白いネタになりそうだ。明日にでも天に取材に行く事にする。
また何か言われるだろうが、その時はまたこの温泉に入りにこよう。
外の雨音が何か弱まったような気がした。
隠れた優しさ、というより遠回しな優しさという感じが。魔理沙らしくてディ・モールト良いですけども
隠れた優しさ……うーん、
誰かが困ってるのを知る→困っている原因を不言実行で勝手に何とかしてしまう→困ってた人が後からそのことを知って、「ひょっとしてあの人が……?」と薄々と気付きつつも、結局真相はうやむやのままになる
とかそんな感じかなぁ?