はじめに。
この話は途中で何度か視点が変更されます。
その際には〈side~〉という一文が挟まれます。
幻想郷の中にある霧の濃い湖。
紅魔舘や妖怪の山に隣接するその湖は専ら妖精や妖怪の遊び場となっている。
〈side ice〉
あたいはチルノ、さいきょーの氷の妖精よ!
今日はこーまかんって家の門に住んでいるめーりんのところに遊びに来たの。
「めーりんー、お腹すいたー。」
さっきまでめーりんと弾幕ごっこで勝負をしていて、あたいのお腹はもうペコペコだ。
「そうだねぇ、もうお昼になるんだねー・・・ご飯にしようかな。」
そう言ってめーりんは懐からコッペパンを取り出した。
ここにはよく来るけど、めーりんのご飯はいつもコッペパンしか見たことがない。
「うー・・・」
別にコッペパンがそんなに好きってわけじゃないけど、今のあたいにはすごく美味しそうに見える。
「はいっ。」
「えっ?」
めーりんがコッペパンを半分にしてあたいに渡した。
「お腹すいてるんでしょ?チルノちゃん。」
「いいの?」
今日もたぶんめーりんのご飯はこのコッペパン1個なんだ。
そう思うといくらあたいだって遠慮しちゃう。
「いいよ。よく夏場とかはチルノちゃんにアイスやかき氷作ってもらったり、冷気で涼しくしてもらったりしてるし。」
「そう・・・?じゃあいただきまーす。」
流石こーまかんのコッペパンは違う。何がどう違うかはわかんないけどなんか美味しい気がする。
「チルノちゃーん・・・美鈴さーん・・・」
あたいとめーりんが仲良くコッペパンを食べていると大ちゃんがやってきた。
よくめーりんとかはだいようせーって呼んでるけど、あたいや他の妖精達は皆、大ちゃんって呼んでる。
「大ちゃん、今日来るの遅かったけど寝坊?ちゃんと夜は⑨時に寝なきゃさいきょーにはなれないよ!?」
「うーん・・・なんか昨日から具合が悪くて・・・風邪でもひいちゃったかなぁ・・・」
「そういえば、すごく具合が悪そうですね・・・こういう時は大人しく寝ていた方がいいですよ。」
めーりんがそう言うと大ちゃんはこくんと頷いた。
「うん・・・それで今日はお昼からチルノちゃんと遊ぶ約束してたけど、ちょっと無理そうだから断りにきたの。」
「そっかー・・・残念だけど仕方ないわね!あたい、今日は大ちゃんのかんびょーするよ!!」
あたいは「任せろ!」と胸を叩いてみせた。
「ありがとう・・・チルノ・・・ちゃ・・・ん。」
ドサッ。
いきなり大ちゃんが倒れた。
「大ちゃん!?」
「大妖精さん!?」
あたいとめーりんはびっくりして大ちゃんに駆け寄った。
めーりんがそっと大ちゃんを抱き起こしておでこに手をあてた。
「すごい熱・・・これ絶対風邪なんてもんじゃないよ・・・」
「めーりん!どうしよう!大ちゃんが・・・大ちゃんが・・・!」
今までこんなことがなかったから・・・あたいはどうすればいいのかわからなくてただめーりんにしがみつくしかできなかった。
「・・・お医者さんに診てもらわないと・・・」
「おいしゃさん・・・?」
「うん、たまに永遠亭の鈴仙さんが薬を売りに来たりするから、そのときに聞いたんだけど。」
れーせん・・・ってあの兎のこと?とあたいが考えてるとめーりんはそのまま話を続けた。
「鈴仙さんの師匠が医者でどんな病気や怪我でも治してくれるらしいよ。」
「わかった!!えいえんてーがうさぎでししょーがいしゃでそこに行けば大ちゃんは元気になるのね!!」
そうだけ言うと、私は大ちゃんを背負って飛び出していた。「じたいはいっこくをあらそう」なのだ。
「永遠亭の場所・・・わかるのかな・・・?」
めーりんが心配そうにあたいを見送った。
・・・・・・・
・・・・・
・・・
「えいえんてーってどこ!?」
勢いよく飛び出したのはいいけど、あたいはえいえんてーに行った事がない。
どうしよう、こうしてる間にも大ちゃんはすごく苦しそうにうなされてる。
あたいはさいきょーなんだ!これくらいのピンチなんてあたいにかかれば・・・
「~♪」
丁度いいタイミングで、向こうからみすちーが飛んできた。
「みすちー!いいところに!!」
「んー?どうしたの?チルノ。」
あたいは今までのいきさつ(経緯)をみすちーの話した。
「なるほど、つまり永遠亭に行きたいのね?だったら向こうの竹林の方に行けばいいよ。」
みすちーの指差す方向を見ると、遠くにうっすらと竹林が見えた。
「ありがとみすちー!」
「ん、私も大ちゃんに元気になってもらいたいし、いつでも力になるよ。」
あたいはみすちーに言われた方へ一直線に飛んで行った。
「(絶対、あたいが助けるからね!大ちゃん!)」
そう、心の中で大ちゃんに約束をした。
人里。
妖精や妖怪といった、人外の生物が生活する中、唯一人間が生活している場所である。
人里なのだが、よく人型の妖怪なども買い物に来たりする。
〈side fire〉
私は藤原妹紅、ただの健康マニアの焼き鳥屋さ。
蓬莱の禁忌に手を染め、不老不死の身体になり、長い年月を過ごしてきた・・・
「んー・・・今日は随分と退屈だなー・・・」
私はただぼーっと寝そべって空を見ていた。無限と時間のある私にはこれまでも退屈な日というのは何度もあったが・・・
「ここまで何もやることがないと逆に清清しいくらいだな。」
いつもこの時間は自警団の仕事がある。生憎この幻想郷には永遠亭の八意永琳くらいしか医者らしい医者がいない。
大抵の怪我や病気であれば永遠亭の兎が定期的に薬を売りに来るのでそれで治るだろうが、大病や大怪我の場合、直接診察してもらうしかない。
永遠亭に行くには迷いの竹林を通らなくてはいけない。
だが、その名の通り、素人なら永遠亭にたどり着くどころか帰ることすらできなくなるし、妖怪もかなり住み着いている。
普通の人間にはかなり危険な道中になるのだ。
そこで私が依頼を受けて、道中の案内と警護をするというわけだ。
報酬はいつも気分で決めている。一応焼き鳥屋(何の鳥かは秘密)の収入だけでも生活に困らないからね。
可愛そうな奴、面白い奴なら無料で警護してやるし、逆に感に触る奴なら思い切り高値で引き受ける。それだけだ。
「で、今日の依頼は一件もないわけだ。まぁ無病息災が一番いいんだが・・・」
何ていうか、最近はこの自警団の仕事で依頼主との世間話をするのが楽しみだったため、どうも物足りない気分だ。
ぐぅ~・・・
お腹の虫が私に食べ物をよこせと訴えかけてきた。思わず私は顔を真っ赤にしてまわりを見回した。
いや、まぁ・・・私も一応女だし・・・な?やっぱり少し恥ずかしいんだ。
「う・・・そういえばもう昼だな、丁度人里だし、どっかで食べようかな。」
手ごろな茶店を見つけて、団子を注文した。
私はお茶をすすりながら周りの人の話に耳を傾けた。すると、私の後ろの席に座っていた人がなにやら面白い話をしていた。
「さっきさ、変なの見たんだよ、小さな女の子が自分より背丈の大きな女の子を背負って凄い速さで竹林の方に飛んでいったんだ。」
何の話だろう・・・小さい女の子と大きな女の子か。永遠亭の兎達かその類だろう。
そう考えてると注文していた団子がきた。
「あぁ、どうも。」
私は団子を口に運びつつ、またその話に聞き耳を立てた。
「ありゃきっと妖怪だな、だってよ、背中に蝶の羽みたいなのが生えてたんだ。」
「あぁそりゃ妖精だな、よく湖のとこにいるやつだ。」
「(ふぅん、妖精が竹林に・・・ねぇ。)」
私は最後の一串を食べ、お茶を一気に流し込んだ。
「お代、ここに置いとくよ。」
お金を台の上において、店を出た。そして、竹林の方へと向かってみることにした。
〈side ice〉
「あんた達!そこを退きなさいよ!!」
竹林に入ってしばらくして、あたい達の前に兎の妖怪達が出てきた。
前にあたいが戦ったてゐとかいう奴に似てるけど、こいつらは多分弱っちぃ下っ端だ。
「ふん、あんたらみたいな妖精はこの竹林に入って来るな!ここは私達兎の縄張りよ!」
「そーよ、さっさと湖に帰りなさい!」
好き勝手にこっちに弾幕を撃ってくる。いつもならこんな奴等、あっという間にやっつけられる。
けど・・・今は大ちゃんを背負ってるから、ただ避けるだけで精一杯だ。
「あ、あたいはいしゃに用事があるのよ!」
「医者?あぁ、永琳様のことね。フフッ、バカじゃないの?あんたみたいな低俗な妖精ごときに永琳様が会うわけないでしょ?」
れーせんは以前一緒に遊んだりして面白い奴だったのに・・・こいつらはれーせんとは全然違う・・・
「ほらほら、ちゃんと逃げないと後ろの子に当たっちゃうわよ?」
あいつらの言うとおりだ。あたいはとにかく避け続けないと・・・大ちゃんに当たっちゃう・・・
「あっ!!」
竹がぎっしりと隙間なく生えている場所にでた。
「さ、もう鬼ごっこは終わりよ。」
「チルノ・・・ちゃん・・・もう、帰ろうよ・・・」
「大ちゃん?」
大ちゃんが聞き取れないくらい小さな声であたいに話しかけてきた。
「私は・・・平気だから、ね?きっとすぐ元気なるから、だからチルノちゃんは危険なことしないで・・・」
大ちゃんが笑顔でそう言った。でも・・・その笑顔が、苦しいのに無理やり見せたものだってこと、あたいにはすぐわかった。
「絶対・・・絶対いしゃのとこにいくんだ!!」
兎妖怪達が一斉に弾幕を撃ってきた。あたいはそれを全部避けるために身構えた。
不死「火の鳥 -鳳翼天翔-」
「えっ・・・?」
目の前に大きな鳥がでてきてあたいに迫ってきた弾幕を全部消した。
兎達も驚いてそっちへ振り返る。
「やれやれ、大人数でこんな小さな妖精さんをいぢめるとは・・・輝夜の部下ってのは教育が行き届いてないようだな。」
人間・・・?巫女や魔法使いの仲間?よくわからないけどあたい達を助けてくれたみたいだ。
「姫様を悪く言うな!!」
一匹の兎がその人間に向かって飛んでいった。
「ば、ばか!そいつは!!」
他の兎がその兎を止めようとした・・・そのとき。
ゴォオオオ!!
すごい音と一緒にその人間から炎が生まれてきて、兎を一瞬で丸焼きにした。
「ほぅ、こいつは美味そうな兎だな。」
ニヤリと笑って他の兎達を睨み付ける。
すると兎達は一斉に逃げ出していった。
「大丈夫かい?あんた達。」
「う・・・うん。」
その人間がこっちに近づいてきた。もうさっきの炎とかは消えてなくなった。あたい達の敵じゃないみたい・・・?
「私は藤原妹紅、妹紅でいいよ。あんた達は?」
「あ、あたいはチルノ、こっちは大ちゃん。」
もこーとかいう人間は大ちゃんの方を見てこう言った。
「さっき医者がどうとか言ってたけど・・・そっちの子が病気みたいだな。」
「うん・・・大ちゃんが急に倒れて・・・」
もこーはいきなりあたいの頭を撫でてきた。
「ここまでよく頑張ったな、もう安心していいぞ。私が医者のとこまで連れてってやるよ。」
頭を撫でてくれる奴に悪い奴はいない!これはあたいの長年の経験。
あたいはもこーの言うことを聞いて後ろをついていった。
「チルノ、その子を抱いたまま飛ぶの辛くないか?私が背負ってやろうか?」
「んーん!あたいが大ちゃん運ぶ!約束したんだ、あたいが大ちゃんを元気にするって!」
「そうか、大切なんだな、その子が。」
もこーは何を言ってるんだろう?そんなことあたり前なのに。
「大切に決まってるでしょ?大ちゃんはあたいの友達だもん!」
「そっか、そうだな。」
しばらく飛んでいると、おっきい家が見えてきた。これがえいえんてーらしい。
「あれ・・・?チルノと・・・妹紅・・・さん?」
その家の前であたいの知ってる顔がいた。
「れーせん!!」
「珍しい組み合わせね・・・一体どうしたの?」
「大ちゃんが大変なの!いしゃに会いに来たの!!」
あれ?なんかれーせんが困ってる?あたいなんか変なこと言った!?
「その子の連れが病気らしい、あんたのとこの医者に診てもらうように言ってくれ。」
「わかりました・・・妹紅・・・さんは?」
「妹紅でいいよ。私はその子の警護さ。あんたのとこの兎は教育が行き届いてないみたいだしな。」
この二人は仲が悪いのかな?なんかれーせんがもこーに話すと変な感じがする。
「その子を背負って何もできないチルノに寄って集って弾幕を浴びせるなんて外道なことをしてたんだよ。」
「そう・・・ごめんねチルノ・・・」
れーせんがあたいをそっと抱きしめてくれた。れーせんは悪くないのに・・・やっぱりれーせんはいい奴だと思う。
「それじゃ、私はその子を師匠に診せてくるわね。二人は少しここで待ってて。」
鈴仙が大ちゃんを抱えて奥に入っていった。あたいはもこーと一緒に部屋で待つことになった。
「大ちゃん・・・大丈夫かな・・・」
あたいが大ちゃんのことを心配していると、もこーがあたいの手を握った。
「大丈夫・・・チルノは頑張ったんだ。きっとあの子も元気になるよ。」
やっぱり、もこーもれーせんみたいにいい奴だ。もこーにそう言われると本当に大丈夫な気がしてきた。
・・・・・・・
・・・・・
・・・
しばらくして、れーせんが部屋に入ってきた。
「お待たせ・・・師匠が二人に話があるって・・・」
鈴仙に案内されてあたいともこーは奥の部屋まで連れて行かれた。
「来たわね。」
面白い服を着た人間が部屋に居た。れーせんのししょーで名前はえーりんって言うらしい。
大ちゃんはベッドに寝ていて、さっきよりは少し苦しくなさそうだ。
「今は薬が効いてある程度症状は抑えてあるわ。」
「それじゃ!大ちゃんは元気になるのね!!」
あたいが嬉しそうにそういうとえーりんとれーせんが厳しい顔をしている。
「今の薬はあくまで緊急処置、この子は妖精特有の病気にかかってるわ。」
「それって一体?」
もこーがえーりんに尋ねた。
「人間で言う・・・癌てとこかしらね。細胞を蝕む病気・・・妖怪や妖精はその寿命が全うされるまでは死ぬことはない。
それは、例えば大きな外傷を負ったりしても妖怪なら自分の細胞の一部を再生して元に戻る。
妖精なら自然の中のもの。花や木、風、水、雪なんかを媒体に再生する。そうすることで元の身体に戻ることができる。
この病気はね、その再生することができなくなるのよ。それだけでなく身体を蝕んで、内側から破壊していくのよ。」
このえーりんて人が何を言っているのかは全然わからない、でも、大ちゃんの病気が大変だってことはわかった。
あたいは辛くなっていつの間にかれーせんにしがみついていた。
「れーせん・・・大ちゃん・・・死んじゃうの・・・?」
れーせんが優しく頭を撫でてくれた。それがいつもなら嬉しいのに、今はすごく悲しい・・・
「大丈夫よ。師匠は天才なんだから!この病気だって治せるわ。」
「ホント!?」
「えぇ、この病気は薬さえ飲めばすぐによくなるわ。問題は材料に使うある花がかなり珍しいから入手が困難なんだけど、
幸いにも今はギリギリその花の咲いている周期で、この竹林の奥に咲いているわ。」
よくわかんないけど・・・そのお花があれば大ちゃんが助かるっていうのはわかった。
「それじゃあ師匠、私が取ってきますね。」
れーせんがそう言って部屋を出ようとしたらえーりんが呼び止めた。
「いいえ、あなたは私の手伝いをしてもらうわ。花以外の材料はここにあるけれど、作るのにはかなり複雑で面倒なのよ。
私一人で作るとなるとかなり時間がかかるからあなたに手伝ってもらいたいのよ。」
「でも、生憎今はてゐも出払ってるし、他に人手は・・・」
わかってるよ!ここであたいがやるべきこと!
「行く!あたいが行ってお花を取ってくるよ!!」
「「「(すごく不安だ・・・)」」」
あれ?なんか今すごく失礼なこと言われたような気がする。
「まぁ、ここまで来たんだ。私も手伝ってやるよ。」
もこーがそう言ってあたいの肩をポンッと叩いた。
「大ちゃん・・・待っててね!あたいがすぐお花持って来るから!!」
こうして、あたいともこーはお花を取るためにえいえんてーを出発した。
〈side fire〉
この竹林は本当に迷いやすい。私のように長い年月、この竹林を通っていても、未だに未開の部分が多い。
永琳に渡された地図を頼りに私とチルノはその花の咲く場所へと向かっていった。
「もこー!あそこに花があるよ!あれかな!?」
チルノが嬉しそうに勢いよく飛び出していった。あれはどう見てみ彼岸花である。
「いや、それは違う花だ。」
「そっかー・・・」
今度はさっきの浮かれようが嘘のようにすごく落ち込んだ。
こういう風に何でも一生懸命な奴は嫌いじゃない。その時その時を一生懸命生きている!って感じがして羨ましいのだ。
『死』の恐怖を無くした私は、それと同時に『生』を喜ぶことも忘れてしまった。
だからチルノがすごく羨ましく思えた。
「でもまぁ、あの子・・・大ちゃんか。助かりそうだしよかったな。」
「うんっ!大ちゃんは一人ぼっちだったあたいの初めての友達なんだ!だからホントによかったよ。」
少しだけチルノが寂しそうな顔をした。このことについてはこれ以上聞くべきじゃないかな・・・と思ったが。
どうしても聞いてみたくなって、そのままチルノに質問をした。
「一人ぼっちだったって・・・?」
「あたいは他の皆と違って氷の妖精だから・・・皆寒いの苦手だって言ってあたいはいつも一人ぼっちだった。
でも大ちゃんだけは他の皆と違ってずっとあたいと一緒に居てくれたんだ。」
その話を聞いて、ふとある人物の顔が浮かんだ。私のところにきて余計なお節介ばかりして・・・
それでもどんどん私の心の内側まで入ってくる奴・・・
「でも、あたいもう寂しくないよ!大ちゃんに、レティに、めーりん!みすちー!リグルにルーミアにれーせん・・・
それにもこーとも友達になったし!」
その挙げられた名前の中に何のためらいもなく私の名前が入っていたことに驚いた。
それと同時に心の奥が何か暖かいもので溢れるような感覚になった。
「もこー!今度こそ正解ね!あの花!」
竹林を抜けた先に小さな野原が広がっていた。
そこにひっそりと真っ白な花が咲いていた。どうやらこれが正解の花のようだ。
「あぁ、この花で間違いないな。さっさと摘んで戻ろうか。」
そう言って私は近くにあった白い花を摘もうと手を伸ばした。
神宝「ブリリアントドラゴンバレッタ」
ガガガガガガッ!!
「なっ!?」
私の摘もうとした花は無情な弾幕によって消滅した。
この弾幕は知っている・・・もう何百年もの間、互いに命のやり取りをしてきた相手だ。
「輝夜・・・!」
蓬莱山輝夜・・・千年以上前、私の父親だった人間を侮辱し、不老不死となった私に刺客を送った奴・・・
私はこいつと何百年もの間、殺し合いをしてきた・・・
「まさかこんなところで貴女に会うなんてね・・・丁度いいわ、久しぶりにやりましょうか。弾幕ごっこを・・・ね。」
まずいな・・・私達がここで本気で殺(や)りあったら周囲が一瞬で荒野になってしまう・・・
「悪いな輝夜・・・今は別用で忙しいんだ。お前の相手をしてやる暇なんかない。」
「あら?怖気づいたのかしら?」
いちいち勘に触る奴だ・・・だが・・・ここで私が迂闊に弾幕を出してしまったら・・・
私はそっとチルノに耳打ちをした。
「チルノ・・・私があいつを足止めをしているからその間に花を摘んで逃げるんだ。」
「う・・・うん・・・」
私の態度が少し怖かったのだろうか・・・チルノは怯えたように頷いた。
「いいだろう・・・輝夜!相手になってやるよ!!」
藤原「滅罪寺院傷」
なるべく炎を使わない弾幕を選んだ。これであいつの足止めができればいいが・・・
最悪、今回は奴に負けてもいい。チルノが無事に花を摘んで逃げられるなら・・・
しかし、輝夜は私の想いを簡単に踏みにじってくれた・・・
神宝「サラマンダーシールド」
ゴォオオオオオオオ!!!
轟音と共に、巨大な炎が巻き起こる。
そしてそれはこの野原全てを覆い尽くした・・・
「このっ・・・空気読め!!この蓬莱ニート!!」
「なんだと!!竹林ホームレスのくせにっ!!」
燃え広がった炎が一輪、また一輪と花を焼き尽くしていく・・・
「あぁああああ!!!やめて!!!燃やさないで!!大ちゃんが死んじゃう!!」
チルノが悲鳴をあげる・・・
私は急いで辺りを見回して花を探す。すると、まだ炎が行き届いてない場所に一輪、花が咲いてあった。
「チルノ!そこ!」
私がチルノにその場所を指差す。チルノはそこへ懸命に走っていった。
「よかった・・・もこー!摘んだよ!!」
チルノが嬉しそうに花を手に握り締めていた。
これで・・・あの子は救われる・・・
と、思った矢先・・・ついにチルノのいるところまで炎の渦が迫っていった。
「うわぁあああああ!!」
「チルノ!?」
チルノの身体が炎に包まれた。私は急いで駆け寄り、チルノにまとわりついた火を消した。
「お前・・・身体が・・・」
氷の妖精だからだろうか・・・汗・・・とは呼べない量の水がチルノの身体から流れ出している・・・
「あ・・・あたいは平気だから・・・これを・・・大・・・ちゃんに・・・」
恐らく身を挺して守ったのだろう。その花は無事にその形を留めていた。
「あぁ・・・わかった・・・」
チルノが花を私の方に差し出し、それを私は受け取ろうと手を伸ばした・・・
パシュッ!!
無情にもその花に小さな弾が直撃した。
花はゆっくりと燃えて地面に落ちて消えてしまった・・・
その瞬間、私とチルノ・・・そして、その空間全部の時間が凍りついたように止まった・・・
「全く・・・余所見をするなんていい度胸ね!」
輝夜が私を無視するなとばかりにこちらに言葉を投げかける・・・
「・・・して・・・。」
「うん・・・?」
「返してっ!!お花を!!大ちゃんを返してよ!!」
チルノが大粒の涙を零して輝夜を睨みつけた。
そしてスペルカードを翳して、輝夜に向かって一直線に飛んでいった。
「うわぁああああああああ!!!」
「チルノ!!止せっ!!」
私はまるで自分の声じゃないような甲高い声でチルノを静止した。
しかしチルノには私の声は届かなかった・・・
「な・・・なによこいつ!」
輝夜が弾幕を張る。チルノは避けることすらせず、ただひたすら、輝夜目指して飛んで行った。
凍符「マイナスK」
チルノの氷の弾幕が輝夜を襲った。
わかっている・・・あいつにあの程度のスペルじゃ通用しないこと・・・
「そう、私に挑むのね。いいわ!相手をしてあげる!」
新難題「金閣寺の一枚天井」
ガガガガガガガガッ!!!!
「チルノー!!!!」
直撃を受けたチルノの小さな身体が、ゆっくりと地上に落ちてくる・・・
私は駆け出し、チルノの身体を受け止めた。
「も・・・こー・・・」
「何も・・・喋るな・・・」
「あたい・・・約束守れなかった・・・大ちゃん絶対助ける・・・て・・・」
そう呟くとチルノは目を閉じて動かなくなった。
私の視界が急にぼやけた・・・
私の目から熱い液体が流れ、チルノの頬に落ちた。
「ふんっ、口ほどにもない!妖精風情が私に歯向かうからよ!」
私は安全な場所にチルノを運ぶとそっと地面に寝かせた。
そして・・・私は輝夜の方を振り返った。
「何よ、貴女泣いてるの?どうせ妖精なんて時間が立てばまた生き返るわよ?」
「お前・・・何をしたのかわかってるのか・・・?」
身体が熱い・・・今までの輝夜に対する憎しみなんかよりもっと強い感情・・・
チルノを・・・友達を傷つけられたという・・・怒り・・・
「何をしたかわかってるのかと聞いている!!」
時効「月のいはかさの呪い」
不死「火の鳥 -鳳翼天翔-」
「なっ!?スペルカードを二枚同時に使うなんて卑怯よ!」
「黙れ!!お前は・・・傷つけちゃいけないものを傷つけたんだ!!」
藤原「滅罪寺院傷」
不死「徐福時空」
「お前は・・・あの子の純粋な思いを踏みにじった!!」
滅罪「正直者の死」
虚人「ウー」
「あの子の大切なものを奪った!!」
不滅「フェニックスの尾」
蓬莱「凱風快晴 -フジヤマヴォルケイノ-」
「そして・・・私の大切な友達を傷つけた!!」
「パゼストバイフェニックス」
「蓬莱人形」
「はああああああああ!!!」
感情が暴走して止まらない・・・私はただ、一心不乱に輝夜に対してありったけのスペルを叩き込んだ・・・
「これで・・・終わりだぁああああ!!!!」
「インペリシャブルシューティング」
最後のスペルを唱えると、輝夜の姿はもう消えていた。
跡形もなく消し飛んだか・・・それでも数時間も経てば生き返るのだが・・・
「チルノ・・・」
私はそっとチルノを抱きかかえた。
「う・・・ん・・・」
チルノがそっと目を開けた。どうやら気絶していただけだったようだ。
「もこー・・・あいつは・・・?」
「大丈夫、私がやっつけたよ。」
「・・・お花は?」
「・・・」
言葉が出ない・・・慰めてやりたいのに・・・
ただ、言葉のかわりに涙が出てきた・・・
それで察したのだろう、チルノもまた大粒の涙を流した・・・
「うっ・・・うぅ・・・うぁ・・・うわああああん!!!」
私の胸の中で、チルノはただひたすら、咽び泣いた。
「妹紅・・・?」
後方で私の名前を呼ぶ声がした。
「どうしたんだ!?妹紅!!輝夜にやられたのか!?」
私の知っている声だ。その声の方へ、私は向いた。
「慧・・・音・・・?」
一瞬、思考が停止した、そこに居たのは確かに慧音であった。
しかし、問題はそこではない。彼女が手に持っているものだ。
「慧音・・・その花は・・・」
慧音の両手一杯に摘まれた白い花、それはまさしく、私達が探していたものだった。
「ん?あぁこれか?綺麗な花だからな寺子屋に飾ろうと思ってさっきここで摘んでたんだ。」
「ふっ・・・ふふっ・・・あははははは!!」
「お、おい!どうしたんだ妹紅?」
私はこのあまりにもできすぎた話に思わず笑いがこみ上げてきた。
「チルノ、あれを見てみろ。」
「あ・・・あーっ!!!」
チルノも一瞬で笑顔になった。
「な、なぁ妹紅、事情を説明してくれ。私には何が何だかさっぱりだ。」
「つまり、慧音は最高だってことだよ!」
そう言って私は慧音に抱きついた。
それから数日後・・・
慧音の花のおかげで大妖精はすぐに元気になった。
不覚にも、そのときも私は泣いてしまったが、鈴仙や慧音、それに永琳も瞳を潤ませていたのだ。恥ずかしくなんかない。
むしろ、今まで忘れていた人間らしさを少しだけ取り戻したような気がした。
そして今日は、チルノと大妖精が私と慧音を晩飯に誘ってくれた。
「いらっさーい!今日は貸切よー♪」
夜雀、ミスティアが楽しそうに歌いながら挨拶をしてきた。
「遅かったわね!もこー!けーね!」
「先日はお世話になりました。」
あの時はあまり話すことはできなかったが、この大妖精って子もしっかり者で礼儀正しく、なかなか気に入った。
「今日はみすちーの奢りだからどんどん食べて!!」
「全く、調子がいいんだから・・・でもまぁ、大ちゃんが元気になって私も嬉しいし、今日だけ特別よ。」
「皆さんには心配ばかりかけて・・・本当にすいませんでした。」
まぁそんな感じで、小さな宴会はその規模に反して大盛り上がり、
しばらくして宴会は解散、私達は帰途についた。
「すいません・・・チルノちゃんたら妹紅さんの背中がいいなんて言って。」
私は眠りについたチルノを背負って、歩いていた。
「ん・・・気にしなくていいよ。この子軽いしさ。」
そんな他愛のない話をしていて、私は少し気になったことがあって大妖精に聞いてみることにした。
「ところで・・・チルノから聞いたんだが、大妖精が初めてチルノに声をかけたんだよな?」
「はい、チルノちゃん、あまり他の妖精の子達と仲良くできてないみたいだったので。」
「どうして、チルノと友達になろうと思った?あんただって妖精なんだし寒いのとか苦手だろ?」
大妖精は少し難しそうに考えて、こう答えた。
「寒いのは苦手ですけど・・・それはチルノちゃんと友達になるのと関係ありませんよ。」
大妖精は「だって・・・」と続けてこちらへ振り向き
「こんな素敵な子、友達にならなくちゃ損じゃないですか。」
あぁ、そうか・・・そんなこと、チルノと友達になったときから知っていたことだ。
「妹紅。」
「ん?」
「折角だ、今夜は皆、うちに泊まっていったらどうだ?」
「そうだな、それでいいかい?」
私が大妖精に尋ねると大妖精は笑顔でコクッと頷いた。
「こうしてると何か・・・家族みたいだな。」
私は誰に言うでもなく、小さな声でそう呟いた。
「何か言ったか?妹紅?」
慧音がそう尋ねてきた。私は少しだけ恥ずかしくなって
「いや、なんでもないよ。」
と、誤魔化してやった。
不老不死である私には家族などありはしない。
でも、今だけはこの幸せな時間を過ごしてもいいだろう。
この、家族という関係にも負けない素敵な友達と一緒に過ごす時間を。
END
ぐーやはあの後えーりんにこってり絞られたと信じております(何
みすちーの関西弁も斬新www
とはいえご馳走様でした。
でもみすちーの関西弁は止めた方がいいですよ。
会話が一切無かったわけでもないのにキャラ壊しすぎ。
ともあれ内容は良かった。
GJ~
とても面白かったです。
輝夜は弾幕ごっこで跡形もなく消し飛んだのだから、後書きで永遠亭に
帰ってきた時は、ひょっとしてzenra!?
慧音がタイミング良過ぎるww
ともあれ面白かったです。
真っ直ぐチルノいいですね。