「師匠ー!」
永遠亭でこの言葉を使うのは一人しかいない。
けれどもその声に永琳は聞き覚えがなかった。
声は男の声で、骨に響いてきそうな低く渋い声。寂れた酒場でバーテンにバーボンとか言うのが似合いそうな声。
首を傾げていたのは少しだけで、永琳はその声の主が誰かわかった。
とたとたと足音が永琳の部屋に近づき、ふすまが開く。
「師匠ー! 元に戻してください!」
永琳の部屋に入ってきたのは、長髪でウサ耳の170cm半ばな、がっしりとした男。劇画調な顔が特徴的だ。
着るものがなかったのか、シーツを体に巻いている。
「ウドンゲ立派になって」
「そんな泣きまねはいいですからっ」
ハンカチを目に当てる永琳にウドンゲと呼ばれた男が言った。
声が変わっているのに、口調はそのままだから違和感爆発。
「昼ご飯食べ終わってのんびりしてたら、体が変化したんです。
こんなことできるの師匠だけでしょ!」
「作ってみた薬の効果を知りたくてつい」
「やっぱりですか!?」
「私自身に薬は効きにくいから、ほかの人で試すしかないでしょう?
それで変化の際に痛かったりした?」
「いえ何事も無く変化しました、じゃなくて!
なんでそこで私ですか!?」
「姫の男姿はなんとなく見たくはなくて、てゐは雰囲気で気付いたのか私に近寄らなかったからよ」
守護すべき主まで薬実験の対象に入っていることが、永琳の薬に対する妥協しないという情熱がみてとれるような気がする。
「元に戻してください」
「十二時間すれば元に戻るわよ。
中和剤とか作るのはもっと時間かかるから、そのままでいるしかないわ」
ウドンゲはそれを聞いて溜息一つ。諦めたらしい。
なかなかに諦めが早い。こういったことに慣れているせいだろうか。
「どうしてこんな薬を作ろうと思ったんですか?」
「幻想郷は女の子同士のカップルが多いでしょ?
それで子供が欲しくなって相談されたとき、対応できるように先に作っておこうと考えたのよ。
親切心からで下心はないわ」
昔の人はそれを余計なお世話と言った。
「永琳~、ここ?」
ちょっと煤けた感じの輝夜が永琳たちのいる部屋に入ってくる。
「姫、帰ってこられたのですか? 少し早いように思われるのですが」
「ちょっと用事ができて……ね…………永琳?」
「はい」
「そちらはどなたかしら」
ウドンゲをじっとみつめて聞く。
どことなく顔が赤く見える。ぱたぱたと服の埃を落とし、髪を撫で付ける。
永琳は、そんな見慣れない輝夜の様子を訝しく思いながら答えた。
「ウドンゲですが?」
「そう、ウドンゲさんって言うのね。
はじめまして、私は蓬莱山輝夜といいます」
輝夜は礼儀正しく頭を下げた。
輝夜の反応に二人は困惑する。
「姫? ウドンゲですよ? 鈴仙です。
姫はいつもイナバって呼んでますよ?」
「え? イナバ?
……そういえばどことなく面影があるような。
どうしてこんな素敵な姿に?」
「「素敵っ!?」」
「素敵じゃないの。まさに私の理想よ」
理想とまでっと師弟はさらに驚く。
その反応を気にせず驚くウドンゲの手を取る輝夜。
「まあ、原因はいいわ。
鈴仙どこか景色のいいところにでも行って、これからのことを語り合いましょう」
「これからのことってなんですか!?」
「決まってるじゃないの、結婚式はいつだとか、新居をどうするかよ」
戸惑うウドンゲに即答した。
本当に好みのタイプらしい。
昔結婚を迫られたときに断った理由は、好みのタイプがいなかったからだろうか。そう思えるほどの積極性を見せる。
「ま、待ってください姫!
結婚だなんてお母さん許しませんよ!」
ちょっと混乱している永琳。なぜかお母さん発言だ。
「せめて難題、そうっ難題を出してウドンゲがそれを突破してからそういった話をしてくださいっ」
「ええー?」
「そうでないと認めません!」
「仕方ないわねー。どんな問題がいいかしら?」
なにげにウドンゲを置き去りにして話が進んでいた。
当事者たるウドンゲは、元に戻ったら結婚話はなくなるだろうとはなから問題解決を諦めていた。
この時点でどうにかしようと動いていれば、あとで苦労することはなかったのではなかろうか。
考える輝夜はいい問題を思いついたのか、ウドンゲに命じる。
「お酒とコップを持ってきなさい」
「わかりました」
ウドンゲは持ってきたお酒をコップを輝夜に渡す。
輝夜はお酒をついで飲み、半分ほど残し、コップをウドンゲに渡す。
「飲んで」
「はあ」
言われたとおり飲む。
「これで鈴仙は難題を突破したわ」
「姫、まったく意味がわかりません」
「説明するの? 仕方ないわね。
私が指定したものを取ってくるというのは、以前私が出した難題と同じことよね。
今回も同じで鈴仙は指定されたものを持ってきたわ。これで難題突破よ」
「ちなみに難題の名は?」
「三々九度」
「いろいろと突っ込みたいのですが、どこから突っ込めばいのか。
とりあえず、そこまでウドンゲと結婚したいのですか?」
「だって私もう千才をとうに過ぎてるのよ? いきおくれじゃない。チャンスはしっかり掴まないと」
永琳がさらに何か言おうとしたとき、庭から妹紅の輝夜を呼ぶ声が聞こえてきた。
「あ、妹紅待たせてたの忘れてた」
ウドンゲと腕を組み、庭に面した廊下に出て妹紅に告げる。
「今日は用事できたから帰っていいわ」
「お前っ」
輝夜の勝手なものいいに怒りかけた妹紅が、輝夜の隣にいるウドンゲを見て固まった。
そして輝夜と似たような反応を示す。
「お父様に似てる」
漏れた呟きが風に流れて消えた。
どうやら妹紅の父親像は美化されまくって化学反応を起こし、とんでもないことになっているらしい。
ちらちらとウドンゲを見る妹紅に、一同はもしかしてという思いが胸中をよぎる。
そんな妹紅に輝夜が先手を打つ。
「鈴仙は私と結婚したから」
「なっ!? そんな女とはすぐに離婚したほうがいい!」
「正式な手順踏んでないから、結婚したとはいえないけどね」
「そうなのか!?」
永琳の言葉にわかりやすいくらいに、安心したという表情になる。
「ちょっと永琳!」
「なんですか姫?」
輝夜が永琳に食って掛かっている間に、妹紅がウドンゲに近づいて嬉しそうに話し出す。
この様子だと妹紅もウドンゲの正体に気付いてないらしい。
妹紅とウドンゲの接点はそう多くなかったから、気付かなくとも仕方ないんだろう。
妹紅に気付いた輝夜がウドンゲから離そうとして、一触即発な雰囲気となり殺し合いが始まろうとかと思われた。
しかし、
「ここで暴れないでください!」
このウドンゲに言葉に二人は素直に従って、ぴりぴりとした空気が緩んだ。
これに永琳が驚いた表情になり、すぐに面白いといった表情になった。いかにも何か企んでいますといった永琳。それに誰も気付いていない。
「三人ともどこか落ち着ける場所に行って、お互いのことを話し合ったらどう?
もっと深くそれぞれのことを知るというのは、大事だと思うわ」
「師匠?」
これまでと違うことを言い出した永琳にウドンゲが首を傾げるが、怪しむ前に二人に引っ張られて永遠亭から出て行った。
「さーて薬を量産しないと」
三人を見送った永琳は性別変換薬量産のため自室に戻る。
先ほどの輝夜と妹紅の反応から、二人の殺し合い回数を減らすのにウドンゲ(男ver)が役立つとわかった瞬間、永琳は薬の量産を決意した。
ライバルがいるから結婚はそう簡単にできはしないと考えたので、輝夜を促すようなことも言えたのだ。
永琳の狙い通り、二人の殺し合いは回数を減らした。ウドンゲ(男ver)が止めれば大抵は争いを止めたのだ。
回数がゼロにならなかったのは、ウドンゲのいないところでウドンゲ(男ver)の取り合いが発展したから。
殺し合いの回数が減ったかわりにウドンゲの苦労は激増した。
そのことが予測できていて、薬を作った永琳は外道だった。
永遠亭でこの言葉を使うのは一人しかいない。
けれどもその声に永琳は聞き覚えがなかった。
声は男の声で、骨に響いてきそうな低く渋い声。寂れた酒場でバーテンにバーボンとか言うのが似合いそうな声。
首を傾げていたのは少しだけで、永琳はその声の主が誰かわかった。
とたとたと足音が永琳の部屋に近づき、ふすまが開く。
「師匠ー! 元に戻してください!」
永琳の部屋に入ってきたのは、長髪でウサ耳の170cm半ばな、がっしりとした男。劇画調な顔が特徴的だ。
着るものがなかったのか、シーツを体に巻いている。
「ウドンゲ立派になって」
「そんな泣きまねはいいですからっ」
ハンカチを目に当てる永琳にウドンゲと呼ばれた男が言った。
声が変わっているのに、口調はそのままだから違和感爆発。
「昼ご飯食べ終わってのんびりしてたら、体が変化したんです。
こんなことできるの師匠だけでしょ!」
「作ってみた薬の効果を知りたくてつい」
「やっぱりですか!?」
「私自身に薬は効きにくいから、ほかの人で試すしかないでしょう?
それで変化の際に痛かったりした?」
「いえ何事も無く変化しました、じゃなくて!
なんでそこで私ですか!?」
「姫の男姿はなんとなく見たくはなくて、てゐは雰囲気で気付いたのか私に近寄らなかったからよ」
守護すべき主まで薬実験の対象に入っていることが、永琳の薬に対する妥協しないという情熱がみてとれるような気がする。
「元に戻してください」
「十二時間すれば元に戻るわよ。
中和剤とか作るのはもっと時間かかるから、そのままでいるしかないわ」
ウドンゲはそれを聞いて溜息一つ。諦めたらしい。
なかなかに諦めが早い。こういったことに慣れているせいだろうか。
「どうしてこんな薬を作ろうと思ったんですか?」
「幻想郷は女の子同士のカップルが多いでしょ?
それで子供が欲しくなって相談されたとき、対応できるように先に作っておこうと考えたのよ。
親切心からで下心はないわ」
昔の人はそれを余計なお世話と言った。
「永琳~、ここ?」
ちょっと煤けた感じの輝夜が永琳たちのいる部屋に入ってくる。
「姫、帰ってこられたのですか? 少し早いように思われるのですが」
「ちょっと用事ができて……ね…………永琳?」
「はい」
「そちらはどなたかしら」
ウドンゲをじっとみつめて聞く。
どことなく顔が赤く見える。ぱたぱたと服の埃を落とし、髪を撫で付ける。
永琳は、そんな見慣れない輝夜の様子を訝しく思いながら答えた。
「ウドンゲですが?」
「そう、ウドンゲさんって言うのね。
はじめまして、私は蓬莱山輝夜といいます」
輝夜は礼儀正しく頭を下げた。
輝夜の反応に二人は困惑する。
「姫? ウドンゲですよ? 鈴仙です。
姫はいつもイナバって呼んでますよ?」
「え? イナバ?
……そういえばどことなく面影があるような。
どうしてこんな素敵な姿に?」
「「素敵っ!?」」
「素敵じゃないの。まさに私の理想よ」
理想とまでっと師弟はさらに驚く。
その反応を気にせず驚くウドンゲの手を取る輝夜。
「まあ、原因はいいわ。
鈴仙どこか景色のいいところにでも行って、これからのことを語り合いましょう」
「これからのことってなんですか!?」
「決まってるじゃないの、結婚式はいつだとか、新居をどうするかよ」
戸惑うウドンゲに即答した。
本当に好みのタイプらしい。
昔結婚を迫られたときに断った理由は、好みのタイプがいなかったからだろうか。そう思えるほどの積極性を見せる。
「ま、待ってください姫!
結婚だなんてお母さん許しませんよ!」
ちょっと混乱している永琳。なぜかお母さん発言だ。
「せめて難題、そうっ難題を出してウドンゲがそれを突破してからそういった話をしてくださいっ」
「ええー?」
「そうでないと認めません!」
「仕方ないわねー。どんな問題がいいかしら?」
なにげにウドンゲを置き去りにして話が進んでいた。
当事者たるウドンゲは、元に戻ったら結婚話はなくなるだろうとはなから問題解決を諦めていた。
この時点でどうにかしようと動いていれば、あとで苦労することはなかったのではなかろうか。
考える輝夜はいい問題を思いついたのか、ウドンゲに命じる。
「お酒とコップを持ってきなさい」
「わかりました」
ウドンゲは持ってきたお酒をコップを輝夜に渡す。
輝夜はお酒をついで飲み、半分ほど残し、コップをウドンゲに渡す。
「飲んで」
「はあ」
言われたとおり飲む。
「これで鈴仙は難題を突破したわ」
「姫、まったく意味がわかりません」
「説明するの? 仕方ないわね。
私が指定したものを取ってくるというのは、以前私が出した難題と同じことよね。
今回も同じで鈴仙は指定されたものを持ってきたわ。これで難題突破よ」
「ちなみに難題の名は?」
「三々九度」
「いろいろと突っ込みたいのですが、どこから突っ込めばいのか。
とりあえず、そこまでウドンゲと結婚したいのですか?」
「だって私もう千才をとうに過ぎてるのよ? いきおくれじゃない。チャンスはしっかり掴まないと」
永琳がさらに何か言おうとしたとき、庭から妹紅の輝夜を呼ぶ声が聞こえてきた。
「あ、妹紅待たせてたの忘れてた」
ウドンゲと腕を組み、庭に面した廊下に出て妹紅に告げる。
「今日は用事できたから帰っていいわ」
「お前っ」
輝夜の勝手なものいいに怒りかけた妹紅が、輝夜の隣にいるウドンゲを見て固まった。
そして輝夜と似たような反応を示す。
「お父様に似てる」
漏れた呟きが風に流れて消えた。
どうやら妹紅の父親像は美化されまくって化学反応を起こし、とんでもないことになっているらしい。
ちらちらとウドンゲを見る妹紅に、一同はもしかしてという思いが胸中をよぎる。
そんな妹紅に輝夜が先手を打つ。
「鈴仙は私と結婚したから」
「なっ!? そんな女とはすぐに離婚したほうがいい!」
「正式な手順踏んでないから、結婚したとはいえないけどね」
「そうなのか!?」
永琳の言葉にわかりやすいくらいに、安心したという表情になる。
「ちょっと永琳!」
「なんですか姫?」
輝夜が永琳に食って掛かっている間に、妹紅がウドンゲに近づいて嬉しそうに話し出す。
この様子だと妹紅もウドンゲの正体に気付いてないらしい。
妹紅とウドンゲの接点はそう多くなかったから、気付かなくとも仕方ないんだろう。
妹紅に気付いた輝夜がウドンゲから離そうとして、一触即発な雰囲気となり殺し合いが始まろうとかと思われた。
しかし、
「ここで暴れないでください!」
このウドンゲに言葉に二人は素直に従って、ぴりぴりとした空気が緩んだ。
これに永琳が驚いた表情になり、すぐに面白いといった表情になった。いかにも何か企んでいますといった永琳。それに誰も気付いていない。
「三人ともどこか落ち着ける場所に行って、お互いのことを話し合ったらどう?
もっと深くそれぞれのことを知るというのは、大事だと思うわ」
「師匠?」
これまでと違うことを言い出した永琳にウドンゲが首を傾げるが、怪しむ前に二人に引っ張られて永遠亭から出て行った。
「さーて薬を量産しないと」
三人を見送った永琳は性別変換薬量産のため自室に戻る。
先ほどの輝夜と妹紅の反応から、二人の殺し合い回数を減らすのにウドンゲ(男ver)が役立つとわかった瞬間、永琳は薬の量産を決意した。
ライバルがいるから結婚はそう簡単にできはしないと考えたので、輝夜を促すようなことも言えたのだ。
永琳の狙い通り、二人の殺し合いは回数を減らした。ウドンゲ(男ver)が止めれば大抵は争いを止めたのだ。
回数がゼロにならなかったのは、ウドンゲのいないところでウドンゲ(男ver)の取り合いが発展したから。
殺し合いの回数が減ったかわりにウドンゲの苦労は激増した。
そのことが予測できていて、薬を作った永琳は外道だった。
男化した鈴仙のビジュアルで真っ先に浮かんだのがセガールでした
姫様ゴルゴ13とか好きなのかな。
ここは是非とも続編を…