これは幻想消説2の続きです。まずそちらをお読みになって小一時間ほど読むかどうか迷って、読むと決意してくださった方のみお読み下さい。俺設定注意。
ここは博麗神社。
「おい霊夢、大丈夫か?」
魔理沙が心配そうに声を掛けている。
「・・・・・・」
霊夢はと言うと目を半開きにしてとても眠そうにしている。
「・・・・・・大丈夫じゃなさそうだな」
やれやれと息を吐く
「お~~い」
ぺしぺしと顔を叩いてみるが反応が遅い。霊夢は眠れないでいた。またあの悪夢を見るのが怖いのだ。
「目を、さ~~~ま~~~~~~せ~~~~~~!!」
ぱーーーーん!!
「いったーーーーーーーーーい!!!」
魔理沙の平手打ちが霊夢の顔面にクリティカルヒットした。あなたは本マグロに叩かれた事はあるだろうか?無いならこの痛みは判らないだろう。
魔理沙の必殺「 手巣斑怒陰破苦吐 」過去に一度しか使ったことが無い。アリスに「ネーミングセンスがそもそも田舎よ」と言われた時だ。なんの名前かと聞かれればもちろん今の手巣・・・デスハンドインパクトの事だ。
「お、目を覚ましたか?」
「な、何すんのよ!!」
霊夢は頬を赤らめて・・・訂正、真っ赤に腫らして抗議した。
「いつに無くぼーっとしてるからだぜ」
「あんたねえ!かなりクリアに死神が欠伸している所を見ちゃったわよ!!」
「なあ、そろそろおでん以外も食べたいんだが・・・頼む!!」
魔理沙は霊夢に懇願したが、あまり効果は無かった。
「諦めなさい」
「ちくしょーー!!」
魔理沙は神社を飛び出した。まあビンタされて許可する霊夢でも無いだろうが
「さて、私は・・・マヨヒガにでも」
こうして霊夢はマヨヒガへと、飛んでいった。
此処は白玉楼、言うなれば冥界である。
「よ~~む~~~お腹すいたわ~~~」
「はいはーい、ちょっとお待ち下さーーい」
卓袱台で従者の作る料理を待っているのは、終わらない冬の異変の張本人、西行寺幽々子。亡霊嬢で、死を操れる。そしてよ~む~などと間延びした声で呼ばれたのは魂魄妖夢、二刀流の半人半幽であり白玉楼の庭師兼剣術指南をしている。
「ところで幽々様、どうするのですか?紅魔館の宴会の方は」
ご飯を幽々子の所に置きながら主に聞いた。そのご飯は我ら凡人から見れば妖夢を本気で労わってあげたい位の量だ。だが妖夢曰く「この程度どうって事ありませんよ」である。しかし時々台所から「これも修行・・・これも修行、家計も火の車と言えど心頭滅却すれば火もまた涼し・・・」という声が聞こえるらしい。
「ん~~、ほうえ、ひっへいわほうはひら(そうね、行って見ましょうかしら)」
「幽々子様、食事中に喋るのはどうかと・・・一応西行寺家のお嬢様なんですし」
「わはいあはえへうほひいあはあわひふ(、私が食べてる時にあなたが聞く)・・・ごく!!からでしょ」
「はぁ、申し訳御座いません」
解読できた妖夢は流石である。
「ははへわいいおほ(判れば良いのよ)」
「ああ、こぼれてますよ、幽々子様」
白玉楼はいつもと変わらない日々だった。
「ねえ妖夢」
幽々子は突然口を開いた。
「何ですか?」
「せめて・・・妖忌にまた会いたかったわね」
幽々子はぽつりと寂し気に言った。
妖忌とは妖夢の祖父であり剣の師匠である。以前は幽々子の従者だったのだが今は消息不明。
「幽々子様・・・」
妖夢は主人のその悲しげな表情に悔しさを憶えた。こんな時何も出来ない自分が不甲斐無いのだろう。
「妖夢・・・」
幽々子は妖夢に近づき顔を近づけた。そして、
「それ♪」
「うひゃあ!?」
がばっと妖夢に抱きついた。
「うふふ♪」
「な、ななななな何をしてるんですか幽々子様!?」
妖夢は顔を真っ赤にして脱出しようとしている。
「ふふふ、逃がさないわよ~~」
「あ、あはははははは!や、止めてください幽々子様!!くすぐったいです!!」
幽々子は妖夢のわき腹をくすぐっている。
「あら、妖夢の弱点みぃつけた♪」
「や、止めてください~~~!!」
それはまるで仲のいい姉妹の様だった。その様子は残念ながら割愛である。約十分間のくすぐり地獄が終了した後、妖夢は幽々子に聞いて見た。
「はあ、はあ、ゆ、幽々子様なぜあのような事を・・・」
妖夢の息が切れている。
「だって妖夢ったら、此処数日顔が怖いだもん~。さっき妖忌の話をした時だって怖かったわよ~」
「え?」
妖夢は自分でも気付いて無かったようだ。
「(私、普段と変わらず皆と、幽々子様と接してきたはずだったんだけどな)」
「皆が判っていなくても私には判るのよ~、何十年一緒に居ると思ってるのよ~」
「幽々子様・・・申し訳御座いません」
「あら、何で謝るの?またお仕置きされたいの?」
手をわきわきと動かすと、それに対して妖夢は顔を青ざめて言った。
「いえ、ご勘弁を」
「ふふ、冗談よ♪」
「幽々子様」
自然と笑顔になってしまう。
「そう、その顔よ妖夢、あなたには笑顔が一番似合うわ」
「やめてください、照れてしまいますよ」
妖夢は顔を赤らめて言った。その時玄関から声がした。
「幽々子様、ただいま戻りました!」
「あの声は・・・妖夢、行ってきて頂戴な」
「はい・・・うわわ!」
ズデデ!!
幽々子様が命じたのであらば、と妖夢はすぐに玄関へ行こうとしたのだが足が痺れてしまい転んでしまった。
「あらあら、妖夢、大丈夫?」
「は、はい」
こうして玄関へよたよたと行ってみればそれは妖夢の師匠が立っていた。
「お、お爺ちゃん!?」
「ははは、こんなに大きくなって・・・どうした?ふらふらと」
「あ、足が痺れちゃって・・・」
「全く、小さい時と全く変わらんなあ」
こうして白玉楼に妖忌が戻ってきた。
「お帰りなさい、妖忌」
「お帰り、お爺ちゃん」
「幽々子様、長い間白玉楼を離れてしまいすみませんでした」
妖忌は土下座をするが幽々子はそれを制する。
「顔をあげなさい妖忌、あなたがまた戻ってきたんだもの、これ以上どうこう問い詰めるつもりは無いわ。」
「ありがとうございます」
「それより妖夢は強くなったのよ~、また稽古してあげて」
「はっ!よし、行こうか妖夢」
「はい師匠!お願いします!」
妖夢は妖忌との修行では祖父と孫では無く師匠と弟子の関係として稽古をする。
「そら!もっと強く打ち込むんだ!そんな振り方ではかわされてしまうぞ!そこは右手の剣で相手の刀の動きを止める!!」
「はい!」
ばしん!!ばし!!と力強い竹刀同士のぶつかり合う音が響く。白玉楼が過去に遡ったかの様な時間だった。
「頑張れ~、よ~~む~~」
幽々子が間延びした声で応援している。
「はい!幽々子様の期待に添えられるよう頑張ります」
幽々子の方を向いた瞬間の事だった。
「隙あり!!」
スパーーン!!
「いったーーーーい!!」
妖忌の竹刀が妖夢の頭を直撃した。
「ふふ、修行が足りないわね」
「うう、そんなー」
此処は竹林、人里のすぐ近くにあり妹紅の家もある。
「あ、輝夜!何しに来たんだ?」
妹紅は背中に翼の様な形の炎をゴウ!と燃え上がらせた。
「妹紅、今日は殺し合う為にきたんじゃないわ・・・」
「え?」
妹紅は少し驚いた。彼女らは会うたびに殺し合いをしているので殺し合い以外の用事など無いからだ。
「ま、またそうやって騙し討ちしようなんて魂胆じゃないだろうな」
実は過去に一度だけあったのだ。だが二度も同じ手にかかる妹紅では無い。
「本当よ。その証拠に今日は蓬莱の玉の枝も、皆置いてきたわ」
本当に武器は無かった。それを知った妹紅の背中の炎も少し弱まる。
「今日は今までの事を謝りたいと思ってるの」
「輝夜・・・私はそんな手に引っ掛からないわよ」
懐からスペルカードをチラつかせる。
「ええ、信じてもらえないのは百も承知だわ。だけど私はあなたと仲直りしたい。だから言うわ。ごめんなさい」
そう言うと輝夜は頭を下げた。気が付けば妹紅の炎も完全に消えていた。
「輝夜・・・お前まさか本気で・・・」
「ええ、本気よ」
「そうか。じ、じゃあ私も・・・」
そう言うと妹紅は目を逸らしながら顔を赤くして言った。
「そ、その今までごめん・・・」
「ふふ、ええ、仲直りよ・・・」
輝夜は優しく微笑んだ。
竹林の中は、とても暖かいものに包まれた。
此処はマヨヒガ、妖怪の賢者とその式、そしてその式がアットホームな日常を描いている。
「あ、藍様ー!お客さーーーん!!」
玄関に居たのは橙、藍の式だ。
「ああ霊夢か。紫様に用があるのか?」
「ええ」
橙に呼ばれて藍が現れた。
「紫様は今は寝ているんだが・・・あっちの部屋だ。起きるまで待ってるといい」
「ありがとう」
霊夢は藍に指差された方へと進んでいった。
「ねえ、藍様。紫様が言ってたアレ、始めなくていいんですか?」
「おおそうだった。ふふ、紫様も人が悪い」
「人じゃないですよ」
「まあ、そうだが」
こうして藍と橙はある事の準備を始めるのだった。
「あら、珍しいわね。あなたの方から来るなんて」
「何よ悪い?」
此処は紫の部屋、部屋の中はどんなものかと言うと、紫曰く「あら、乙女のプライベートを新聞にするなんていい度胸ね♡」なので言えない。これを言われたのは誰だなんて事言わなくても判るであろう。
「まあ、私の睡眠を邪魔されたんだものね」
そう紫は霊夢に言ってみる。顔は笑っているのだが。
「今日はあんたには用は無いわよ、幻想郷の歴史が書いてある本、貸して」
「良いけど、それなら阿求の所に行けば?もしくはハクタクの所、そっちの方が細かく載ってるでしょうに」
「まあ、なんとなくよ」
「あら、私はなんとなくで起こされたの?」
「まあ、いいじゃない。たまには早起きしなさい。もう昼だけど」
「はあ、あっちにあるわよ」
溜息まじりに紫が指差した先には本が置いてあった。どれだけの時間をかけて書き上げたのかは誰にも判らない。実際書きあげたのは藍なので紫も知らない。
藍が眠い目を擦りながら書いてる間紫は寝ていたからだ。朝、紫が目覚めた時の第一声がと言うと・・・
「パ、パンダの式神!?」
である。藍はこの時、式になって初めて殺意と言う物を覚えたらしい。
閑話休題、一通り読み終わったあと霊夢はぐでーっと倒れた。
「あー、だめだ。参考になるものなんてありゃしないじゃない」
「あら、それは残念ね」
紫はクスクスと笑っている。
「残念そうに見えないんだけど・・・」
霊夢はジト目で紫を睨む。
「あらそうかしら?まあ用が済んだなら早く帰ってくれないかしら。私は寝たいのよ」
「・・・・・・」
霊夢は紫のその一言を聞いた瞬間ほんの少しだけ悲しそうな顔をして電源が切れたかの様に佇んだ。
「霊夢?」
紫は少し心配になり霊夢に声を掛けた。
「えっ?そ、そうねごめん。それじゃお休み紫」
「・・・・・・ふふふ♪」
紫は暫くしげしげと霊夢を見つめ考え込んだかと思うと笑い出した。
「な、何よ気持ち悪いわね・・・」
霊夢は一歩退く。
「ねえ霊夢、寂しいならまだ暫く此処に居てもいいわよ?」
紫は優しく聞いて見る。それは親友の様でありながら母の様に。
「何を突然」
霊夢は呆れた様に「はあっ」と溜息を吐く。
「私は寂しくなんか」
「嘘ね」
寂しくなんかないと言い切る前に紫が遮る。それは少しだけ怒ってる様にも見えた。
「あなた、ここ数日誰かに頼った事あった?」
紫は聞いてみたが霊夢はしれっと答えた。
「何よ、知ってる奴の所には一通り聞いて回ったわよ。悪いかしら」
「はあ、やっぱりね・・・」
「何なのよさっきから訳の判らない事ばかり」
霊夢は不機嫌そうに行った。
「私が言ってるのはそう言う事じゃ無くてもっとこう・・・精神的な部分での事よ」
「何を言い出すのかと思えば、私ならその点に関しては問題無いっての」
紫は何もかもお見通し、と言ってるかの様に妖しく笑う。
「あなた最近、自分が責め立てられる悪夢ばかり見るんですってねぇ。魔理沙が言ってたわよ。『私の所為じゃない』って呟きながら寝てるんだぜ!って・・・」
「あいつ・・・」
霊夢は怨むような表情で言う。
「話すだけでも楽になるわ。私でよければ相談に乗るわよ?」
そう言うと紫は霊夢に見えないように小さく背中の後ろで扇子を右から左へ動かした。
「・・・最初は紫に言われたあの一言からよ」
紫は操った。霊夢の嘘と正直の境界を。こうすれば霊夢は自分に嘘を吐かず正直になってくれるからと思ったからだ。
「あら、あなたは大して気にしてない様子だったけど・・・」
そう紫が言うと霊夢は少しだけ泣き始めた。
「ぐす・・・ほ、ほんとは怖かった。責任を・・・感じてた!」
「あらまぁ、ほんとはそんなに気にしてたのね。御免なさい」
紫は謝る。が、霊夢はどんどんしゃべり続ける。
「けれど、どうして・・・っく、如何していいのか判らなかった。・・・だからああ言うしか無かった」
霊夢は泣くのを堪え様と頑張って見るものの、如何しても止まらない。
「その後よ・・・ぐす、悪夢を見た。紫が、皆が・・・お前の所為だって・・・問い詰めてくる」
「なるほどね・・・苦労したのね、この数日間ずっと、ずーっと、悪夢に悩まされて来たのね」
「うん・・・」
紫が母親の様に霊夢を優しく抱く。すると霊夢は紫に身を任せてコクリと頷く。
「あなたがまだちっちゃい時にはお母さんはもう既にこの世に居なかったものね。誰かに頼る事を知らないのも、他人への甘え方を知らないのも無理はないわ」
「うん・・・誰かに甘えた事・・・無かった。だけど、ぐす・・・本当は誰にでもいいから・・・甘えたかった。寂しかった・・・」
霊夢は母親との思い出は数日程度しかなかった。物心付いてすぐに結界を任され、そして母が病に倒れあの世へ旅立ったからだ。
「霊夢、あなたには私や魔理沙、レミリア(・・・は少し幼すぎるわね。)が居るんだからもっと皆に甘えて見なさい。あなたが本当に友達だと思っているなら・・・ね?」
紫は少し考え込んでいた。なぜ彼女は他人に甘えると言う事を知らなかったのか?と、だが結論を出すのにそう長い時間は掛からなかった。なぜなら彼女も霊夢と同じだったからだ。
「なるほどね・・・霊夢、私も一人一種族の妖怪だからお母さんの居ない霊夢の気持ち、判らないでも無いわって・・・」
「すー・・・すー」
「あらまあ♡」
霊夢は紫の膝の上で寝ていた。泣き疲れてしまったのだろうか。それとも自分の中に溜め込まれていた物を全て出し切った事による安心からなのか、それは霊夢にも判らない。
「ふふ♪霊夢、私が悪夢から守ってあげるわ。だから私の膝の上で良ければゆっくりと・・・」
そう言うと紫は霊夢の頭を優しく撫でた。
「お休みなさい・・・霊夢」
「・・・・お母さん」
「あらまあ」
霊夢はとても幸せそうな寝顔でそう言った。
「どんな夢を見てるのかしら」
紫は母親のような笑顔でそう言った。
続く
その30分後の事
「紫様、お疲れ様でした」
そう言って藍が出てきた。
「ああ藍、ばっちりやってくれたかしら?」
紫はまだ膝枕のままだ。
「紫様、良いんですか?霊夢に嫌われても知りませんよ?」
「大丈夫よ」
「そうですか」
「じゃあ藍、霊夢を神社まで返してきて、大丈夫、眠りの深さの境界は操ってあるわ」
「判りました。行って参ります」
「それじゃあ・・・ッ!?」
どっこいしょという言葉がこれほど似合う立ち上がり方は無い、と言えるような立ち上がり方をする紫、すると自分の体の異常に気が付いた。
「ど、どうしました!?紫様!!」
どさっ!!と倒れこむ紫を慌てて支える藍。そして彼女は苦しそうに言う。
「あ、足、痺れちゃった」
苦しそうに足を震えさせる紫に藍は呆れた。
「まったく、何かと思えば・・・よいしょ!」
そう言うと藍は勢い良く紫を抱え立ち上がった。すると足に衝撃が伝わる。
「ああん!もっと優しくしてよ!!」
「やれやれ、此処ですか?今は此処が弱いんですか?」
つんつん、と紫の足を突く。
「ああ!や、やめて藍!あああ!」
「変な声上げないで下さい!!」
こうして3分間、紫の足の痺れが治るまで、藍の日ごろの仕返しが続いた。
ここは博麗神社。
「おい霊夢、大丈夫か?」
魔理沙が心配そうに声を掛けている。
「・・・・・・」
霊夢はと言うと目を半開きにしてとても眠そうにしている。
「・・・・・・大丈夫じゃなさそうだな」
やれやれと息を吐く
「お~~い」
ぺしぺしと顔を叩いてみるが反応が遅い。霊夢は眠れないでいた。またあの悪夢を見るのが怖いのだ。
「目を、さ~~~ま~~~~~~せ~~~~~~!!」
ぱーーーーん!!
「いったーーーーーーーーーい!!!」
魔理沙の平手打ちが霊夢の顔面にクリティカルヒットした。あなたは本マグロに叩かれた事はあるだろうか?無いならこの痛みは判らないだろう。
魔理沙の必殺「 手巣斑怒陰破苦吐 」過去に一度しか使ったことが無い。アリスに「ネーミングセンスがそもそも田舎よ」と言われた時だ。なんの名前かと聞かれればもちろん今の手巣・・・デスハンドインパクトの事だ。
「お、目を覚ましたか?」
「な、何すんのよ!!」
霊夢は頬を赤らめて・・・訂正、真っ赤に腫らして抗議した。
「いつに無くぼーっとしてるからだぜ」
「あんたねえ!かなりクリアに死神が欠伸している所を見ちゃったわよ!!」
「なあ、そろそろおでん以外も食べたいんだが・・・頼む!!」
魔理沙は霊夢に懇願したが、あまり効果は無かった。
「諦めなさい」
「ちくしょーー!!」
魔理沙は神社を飛び出した。まあビンタされて許可する霊夢でも無いだろうが
「さて、私は・・・マヨヒガにでも」
こうして霊夢はマヨヒガへと、飛んでいった。
此処は白玉楼、言うなれば冥界である。
「よ~~む~~~お腹すいたわ~~~」
「はいはーい、ちょっとお待ち下さーーい」
卓袱台で従者の作る料理を待っているのは、終わらない冬の異変の張本人、西行寺幽々子。亡霊嬢で、死を操れる。そしてよ~む~などと間延びした声で呼ばれたのは魂魄妖夢、二刀流の半人半幽であり白玉楼の庭師兼剣術指南をしている。
「ところで幽々様、どうするのですか?紅魔館の宴会の方は」
ご飯を幽々子の所に置きながら主に聞いた。そのご飯は我ら凡人から見れば妖夢を本気で労わってあげたい位の量だ。だが妖夢曰く「この程度どうって事ありませんよ」である。しかし時々台所から「これも修行・・・これも修行、家計も火の車と言えど心頭滅却すれば火もまた涼し・・・」という声が聞こえるらしい。
「ん~~、ほうえ、ひっへいわほうはひら(そうね、行って見ましょうかしら)」
「幽々子様、食事中に喋るのはどうかと・・・一応西行寺家のお嬢様なんですし」
「わはいあはえへうほひいあはあわひふ(、私が食べてる時にあなたが聞く)・・・ごく!!からでしょ」
「はぁ、申し訳御座いません」
解読できた妖夢は流石である。
「ははへわいいおほ(判れば良いのよ)」
「ああ、こぼれてますよ、幽々子様」
白玉楼はいつもと変わらない日々だった。
「ねえ妖夢」
幽々子は突然口を開いた。
「何ですか?」
「せめて・・・妖忌にまた会いたかったわね」
幽々子はぽつりと寂し気に言った。
妖忌とは妖夢の祖父であり剣の師匠である。以前は幽々子の従者だったのだが今は消息不明。
「幽々子様・・・」
妖夢は主人のその悲しげな表情に悔しさを憶えた。こんな時何も出来ない自分が不甲斐無いのだろう。
「妖夢・・・」
幽々子は妖夢に近づき顔を近づけた。そして、
「それ♪」
「うひゃあ!?」
がばっと妖夢に抱きついた。
「うふふ♪」
「な、ななななな何をしてるんですか幽々子様!?」
妖夢は顔を真っ赤にして脱出しようとしている。
「ふふふ、逃がさないわよ~~」
「あ、あはははははは!や、止めてください幽々子様!!くすぐったいです!!」
幽々子は妖夢のわき腹をくすぐっている。
「あら、妖夢の弱点みぃつけた♪」
「や、止めてください~~~!!」
それはまるで仲のいい姉妹の様だった。その様子は残念ながら割愛である。約十分間のくすぐり地獄が終了した後、妖夢は幽々子に聞いて見た。
「はあ、はあ、ゆ、幽々子様なぜあのような事を・・・」
妖夢の息が切れている。
「だって妖夢ったら、此処数日顔が怖いだもん~。さっき妖忌の話をした時だって怖かったわよ~」
「え?」
妖夢は自分でも気付いて無かったようだ。
「(私、普段と変わらず皆と、幽々子様と接してきたはずだったんだけどな)」
「皆が判っていなくても私には判るのよ~、何十年一緒に居ると思ってるのよ~」
「幽々子様・・・申し訳御座いません」
「あら、何で謝るの?またお仕置きされたいの?」
手をわきわきと動かすと、それに対して妖夢は顔を青ざめて言った。
「いえ、ご勘弁を」
「ふふ、冗談よ♪」
「幽々子様」
自然と笑顔になってしまう。
「そう、その顔よ妖夢、あなたには笑顔が一番似合うわ」
「やめてください、照れてしまいますよ」
妖夢は顔を赤らめて言った。その時玄関から声がした。
「幽々子様、ただいま戻りました!」
「あの声は・・・妖夢、行ってきて頂戴な」
「はい・・・うわわ!」
ズデデ!!
幽々子様が命じたのであらば、と妖夢はすぐに玄関へ行こうとしたのだが足が痺れてしまい転んでしまった。
「あらあら、妖夢、大丈夫?」
「は、はい」
こうして玄関へよたよたと行ってみればそれは妖夢の師匠が立っていた。
「お、お爺ちゃん!?」
「ははは、こんなに大きくなって・・・どうした?ふらふらと」
「あ、足が痺れちゃって・・・」
「全く、小さい時と全く変わらんなあ」
こうして白玉楼に妖忌が戻ってきた。
「お帰りなさい、妖忌」
「お帰り、お爺ちゃん」
「幽々子様、長い間白玉楼を離れてしまいすみませんでした」
妖忌は土下座をするが幽々子はそれを制する。
「顔をあげなさい妖忌、あなたがまた戻ってきたんだもの、これ以上どうこう問い詰めるつもりは無いわ。」
「ありがとうございます」
「それより妖夢は強くなったのよ~、また稽古してあげて」
「はっ!よし、行こうか妖夢」
「はい師匠!お願いします!」
妖夢は妖忌との修行では祖父と孫では無く師匠と弟子の関係として稽古をする。
「そら!もっと強く打ち込むんだ!そんな振り方ではかわされてしまうぞ!そこは右手の剣で相手の刀の動きを止める!!」
「はい!」
ばしん!!ばし!!と力強い竹刀同士のぶつかり合う音が響く。白玉楼が過去に遡ったかの様な時間だった。
「頑張れ~、よ~~む~~」
幽々子が間延びした声で応援している。
「はい!幽々子様の期待に添えられるよう頑張ります」
幽々子の方を向いた瞬間の事だった。
「隙あり!!」
スパーーン!!
「いったーーーーい!!」
妖忌の竹刀が妖夢の頭を直撃した。
「ふふ、修行が足りないわね」
「うう、そんなー」
此処は竹林、人里のすぐ近くにあり妹紅の家もある。
「あ、輝夜!何しに来たんだ?」
妹紅は背中に翼の様な形の炎をゴウ!と燃え上がらせた。
「妹紅、今日は殺し合う為にきたんじゃないわ・・・」
「え?」
妹紅は少し驚いた。彼女らは会うたびに殺し合いをしているので殺し合い以外の用事など無いからだ。
「ま、またそうやって騙し討ちしようなんて魂胆じゃないだろうな」
実は過去に一度だけあったのだ。だが二度も同じ手にかかる妹紅では無い。
「本当よ。その証拠に今日は蓬莱の玉の枝も、皆置いてきたわ」
本当に武器は無かった。それを知った妹紅の背中の炎も少し弱まる。
「今日は今までの事を謝りたいと思ってるの」
「輝夜・・・私はそんな手に引っ掛からないわよ」
懐からスペルカードをチラつかせる。
「ええ、信じてもらえないのは百も承知だわ。だけど私はあなたと仲直りしたい。だから言うわ。ごめんなさい」
そう言うと輝夜は頭を下げた。気が付けば妹紅の炎も完全に消えていた。
「輝夜・・・お前まさか本気で・・・」
「ええ、本気よ」
「そうか。じ、じゃあ私も・・・」
そう言うと妹紅は目を逸らしながら顔を赤くして言った。
「そ、その今までごめん・・・」
「ふふ、ええ、仲直りよ・・・」
輝夜は優しく微笑んだ。
竹林の中は、とても暖かいものに包まれた。
此処はマヨヒガ、妖怪の賢者とその式、そしてその式がアットホームな日常を描いている。
「あ、藍様ー!お客さーーーん!!」
玄関に居たのは橙、藍の式だ。
「ああ霊夢か。紫様に用があるのか?」
「ええ」
橙に呼ばれて藍が現れた。
「紫様は今は寝ているんだが・・・あっちの部屋だ。起きるまで待ってるといい」
「ありがとう」
霊夢は藍に指差された方へと進んでいった。
「ねえ、藍様。紫様が言ってたアレ、始めなくていいんですか?」
「おおそうだった。ふふ、紫様も人が悪い」
「人じゃないですよ」
「まあ、そうだが」
こうして藍と橙はある事の準備を始めるのだった。
「あら、珍しいわね。あなたの方から来るなんて」
「何よ悪い?」
此処は紫の部屋、部屋の中はどんなものかと言うと、紫曰く「あら、乙女のプライベートを新聞にするなんていい度胸ね♡」なので言えない。これを言われたのは誰だなんて事言わなくても判るであろう。
「まあ、私の睡眠を邪魔されたんだものね」
そう紫は霊夢に言ってみる。顔は笑っているのだが。
「今日はあんたには用は無いわよ、幻想郷の歴史が書いてある本、貸して」
「良いけど、それなら阿求の所に行けば?もしくはハクタクの所、そっちの方が細かく載ってるでしょうに」
「まあ、なんとなくよ」
「あら、私はなんとなくで起こされたの?」
「まあ、いいじゃない。たまには早起きしなさい。もう昼だけど」
「はあ、あっちにあるわよ」
溜息まじりに紫が指差した先には本が置いてあった。どれだけの時間をかけて書き上げたのかは誰にも判らない。実際書きあげたのは藍なので紫も知らない。
藍が眠い目を擦りながら書いてる間紫は寝ていたからだ。朝、紫が目覚めた時の第一声がと言うと・・・
「パ、パンダの式神!?」
である。藍はこの時、式になって初めて殺意と言う物を覚えたらしい。
閑話休題、一通り読み終わったあと霊夢はぐでーっと倒れた。
「あー、だめだ。参考になるものなんてありゃしないじゃない」
「あら、それは残念ね」
紫はクスクスと笑っている。
「残念そうに見えないんだけど・・・」
霊夢はジト目で紫を睨む。
「あらそうかしら?まあ用が済んだなら早く帰ってくれないかしら。私は寝たいのよ」
「・・・・・・」
霊夢は紫のその一言を聞いた瞬間ほんの少しだけ悲しそうな顔をして電源が切れたかの様に佇んだ。
「霊夢?」
紫は少し心配になり霊夢に声を掛けた。
「えっ?そ、そうねごめん。それじゃお休み紫」
「・・・・・・ふふふ♪」
紫は暫くしげしげと霊夢を見つめ考え込んだかと思うと笑い出した。
「な、何よ気持ち悪いわね・・・」
霊夢は一歩退く。
「ねえ霊夢、寂しいならまだ暫く此処に居てもいいわよ?」
紫は優しく聞いて見る。それは親友の様でありながら母の様に。
「何を突然」
霊夢は呆れた様に「はあっ」と溜息を吐く。
「私は寂しくなんか」
「嘘ね」
寂しくなんかないと言い切る前に紫が遮る。それは少しだけ怒ってる様にも見えた。
「あなた、ここ数日誰かに頼った事あった?」
紫は聞いてみたが霊夢はしれっと答えた。
「何よ、知ってる奴の所には一通り聞いて回ったわよ。悪いかしら」
「はあ、やっぱりね・・・」
「何なのよさっきから訳の判らない事ばかり」
霊夢は不機嫌そうに行った。
「私が言ってるのはそう言う事じゃ無くてもっとこう・・・精神的な部分での事よ」
「何を言い出すのかと思えば、私ならその点に関しては問題無いっての」
紫は何もかもお見通し、と言ってるかの様に妖しく笑う。
「あなた最近、自分が責め立てられる悪夢ばかり見るんですってねぇ。魔理沙が言ってたわよ。『私の所為じゃない』って呟きながら寝てるんだぜ!って・・・」
「あいつ・・・」
霊夢は怨むような表情で言う。
「話すだけでも楽になるわ。私でよければ相談に乗るわよ?」
そう言うと紫は霊夢に見えないように小さく背中の後ろで扇子を右から左へ動かした。
「・・・最初は紫に言われたあの一言からよ」
紫は操った。霊夢の嘘と正直の境界を。こうすれば霊夢は自分に嘘を吐かず正直になってくれるからと思ったからだ。
「あら、あなたは大して気にしてない様子だったけど・・・」
そう紫が言うと霊夢は少しだけ泣き始めた。
「ぐす・・・ほ、ほんとは怖かった。責任を・・・感じてた!」
「あらまぁ、ほんとはそんなに気にしてたのね。御免なさい」
紫は謝る。が、霊夢はどんどんしゃべり続ける。
「けれど、どうして・・・っく、如何していいのか判らなかった。・・・だからああ言うしか無かった」
霊夢は泣くのを堪え様と頑張って見るものの、如何しても止まらない。
「その後よ・・・ぐす、悪夢を見た。紫が、皆が・・・お前の所為だって・・・問い詰めてくる」
「なるほどね・・・苦労したのね、この数日間ずっと、ずーっと、悪夢に悩まされて来たのね」
「うん・・・」
紫が母親の様に霊夢を優しく抱く。すると霊夢は紫に身を任せてコクリと頷く。
「あなたがまだちっちゃい時にはお母さんはもう既にこの世に居なかったものね。誰かに頼る事を知らないのも、他人への甘え方を知らないのも無理はないわ」
「うん・・・誰かに甘えた事・・・無かった。だけど、ぐす・・・本当は誰にでもいいから・・・甘えたかった。寂しかった・・・」
霊夢は母親との思い出は数日程度しかなかった。物心付いてすぐに結界を任され、そして母が病に倒れあの世へ旅立ったからだ。
「霊夢、あなたには私や魔理沙、レミリア(・・・は少し幼すぎるわね。)が居るんだからもっと皆に甘えて見なさい。あなたが本当に友達だと思っているなら・・・ね?」
紫は少し考え込んでいた。なぜ彼女は他人に甘えると言う事を知らなかったのか?と、だが結論を出すのにそう長い時間は掛からなかった。なぜなら彼女も霊夢と同じだったからだ。
「なるほどね・・・霊夢、私も一人一種族の妖怪だからお母さんの居ない霊夢の気持ち、判らないでも無いわって・・・」
「すー・・・すー」
「あらまあ♡」
霊夢は紫の膝の上で寝ていた。泣き疲れてしまったのだろうか。それとも自分の中に溜め込まれていた物を全て出し切った事による安心からなのか、それは霊夢にも判らない。
「ふふ♪霊夢、私が悪夢から守ってあげるわ。だから私の膝の上で良ければゆっくりと・・・」
そう言うと紫は霊夢の頭を優しく撫でた。
「お休みなさい・・・霊夢」
「・・・・お母さん」
「あらまあ」
霊夢はとても幸せそうな寝顔でそう言った。
「どんな夢を見てるのかしら」
紫は母親のような笑顔でそう言った。
続く
その30分後の事
「紫様、お疲れ様でした」
そう言って藍が出てきた。
「ああ藍、ばっちりやってくれたかしら?」
紫はまだ膝枕のままだ。
「紫様、良いんですか?霊夢に嫌われても知りませんよ?」
「大丈夫よ」
「そうですか」
「じゃあ藍、霊夢を神社まで返してきて、大丈夫、眠りの深さの境界は操ってあるわ」
「判りました。行って参ります」
「それじゃあ・・・ッ!?」
どっこいしょという言葉がこれほど似合う立ち上がり方は無い、と言えるような立ち上がり方をする紫、すると自分の体の異常に気が付いた。
「ど、どうしました!?紫様!!」
どさっ!!と倒れこむ紫を慌てて支える藍。そして彼女は苦しそうに言う。
「あ、足、痺れちゃった」
苦しそうに足を震えさせる紫に藍は呆れた。
「まったく、何かと思えば・・・よいしょ!」
そう言うと藍は勢い良く紫を抱え立ち上がった。すると足に衝撃が伝わる。
「ああん!もっと優しくしてよ!!」
「やれやれ、此処ですか?今は此処が弱いんですか?」
つんつん、と紫の足を突く。
「ああ!や、やめて藍!あああ!」
「変な声上げないで下さい!!」
こうして3分間、紫の足の痺れが治るまで、藍の日ごろの仕返しが続いた。