「……わぅ…」
妖怪の山に住む哨戒をしている白狼天狗の椛は困っていた
「…どっ、どうしよう…」
毎年、この時期になると白狼天狗にはある問題が発生する
それを何とかするためにその年の終わりの時に
その問題を一気に解決するのだが……
「わう~…もっと早く気づいておけば…」
目の前の問題を見て椛が頭を抱えた
「……こんなに…たまってしまうなんて…」
妖怪の山の中に置いて、椛はそれなりに強い
だが、階級で言えば下っ端である
当然、年の終わりにはかなりの仕事が来る
となれば、自分の事はとりあえず置いておく事になり
「…わぅ~…どうしよう…こんなに一杯処理するのは無理ですし…」
気がつけば、その問題を隠して置く場所が
もう満杯になってしまっていた
(……な、なんとかしないと…)
他の人に話すなんて、そんな恥ずかしい事はできない
椛が腕を組んで考え込んで、一つの案が浮かんだ
「そうです!これなら何とかごまかせます!」
次の日、椛は部屋に一日篭り
その問題を誤魔化す為に作業にいそしむ事になった
そして数日後…
「…よし、これで一時的にごまかせます」
額の汗を拭って、すっかり形を変えたその問題の物を
「…後は今年の終わりにこれを処分すれば…」
そう呟いてからそれを押入れの中に入れて扉を閉めた
此処までは椛の計画通りであった
だけど、そんなうまくいかないのが世の常である
それから随分日が経って椛も
押入れに問題の物を入れている事を
忘れそうになっていた頃
「飲んでますか~椛~?」
「わぅ~…文様飲みすぎですよ~!」
仕事が休みの日に椛の憧れであり上司である
射命丸文と一緒に夜雀の屋台でお酒を飲んでいた
「ちんちん…そろそろお店閉める時間だよ~♪」
「わう?もうそんな時間ですか?…文様そろそろ時間ですよ」
お店の店主にそう告げられて
椛が酔っている文に声をかける
「うぇ~?まだまだこれからですよ?」
椛の言葉に未だお酒を片手に持ってそう告げる
「ですから…お店閉めるのに邪魔になりますから帰りますよ!」
「えぇ~?…まだ飲み足りないですよ椛~」
「わう~お店を閉めるのに邪魔になりますから…」
椛が文を宥めてお店から連れ出そうとしていた
「でしたら~また別の所でのむましょ~」
「わう~分かりましたから…あ、すいませんこれ御代です」
「ちんちん♪まいどあり~♪」
「うふふふっ…飲みまふよ~」
「分かりましたから…無理しないでくださいよ~」
酔っ払っている文の肩を支えて夜雀の屋台から移動する椛
「文様…次は何処に行かれるんですか?」
「夜雀の屋台以外で飲める所に決まっているじゃないですか~」
「…どこですか?」
椛の言葉に、酔った文がしばらく考え込むと
飲める場所を答えていく
「博麗神社?」
「…この時間に行ったら、脇巫女にシバキ倒されますよ…」
「守谷神社?」
「わぅ…守谷神社の巫女さんも疲れているですよ?」
「う~ん…石鹸屋!」
「しゃめいまる!…って!?これは私の台詞じゃないですよ!」
酔っ払いの言葉にもきちんと声を返す椛
「う~ん…他に飲みにいける所と言えば…」
文が考え込むのを見て、椛が小さく答えた
「…家に来ますか?」
椛の言葉に文は即答した
「是非!」
これが、一番初めの間違いであった
計画を完全に実行するためには
誰も家の中に入れるべきではなかったのだ
「さあ!飲みますよ~」
「わう…分かりましたから、落ち着いてください」
椛の家についてから
文は酒を飲み、椛はその相手を務めた
それからしばらく経って…
「すぅ…すぅ…」
「…あやや?…椛…寝ちゃったんですか?」
疲れた椛が文よりも先に眠ってしまったのだ
それを見た文がしばらく考え込んでから
「…よいしょ…」
「わぅ~……」
椛を持ち上げてベッドの上に寝かせた
そして、布団を掛ける
此処までなら、なんとも無かった
だが、相手が椛の家によく来ている
文だからこそ問題だったのだ
「…さて、私も眠くなってきました…」
文がそう言うと、ソファで横になろうとして
「…あ~…少し寒いですね」
寒さを感じたので
「毛布借りますね、椛」
椛が問題の物を隠した押入れの中を探し始めた
「…え~と……あっ…」
そして、遂にそれを見つけられてしまったのだ
「いいのがありました」
「わぅ~…わう?」
朝、椛が目を覚ますといつの間にかベッドの上にいた
(わぅ…確か…昨日は…)
寝ぼけた頭でしばらく考えていると
「あっ…文様…」
昨日あった飲み会の事を思い出す
「わう…先に寝てしまうなんて…文様に申し訳無い事しちゃった…」
椛が少し自己嫌悪になっていると
「起きましたか椛」
「わう?文様…」
てっきり帰ってしまったと思っていた文が椛の前に現れた
寝たままでは失礼と思った椛がベッドから起き上がる
「わぅ…すいません先に寝てしまいまして」
椛が頭を下げようとしたのを、文が止める
「いいんですよ…私も勝手に眠ってしまいましたし」
文がそう答えてから
「そうそう、寒かったから毛布一つ借りました」
「…わう?…毛布…」
文の言葉を聞いて、椛が考え込む
(わう…毛布なんて……!?)
椛が文が借りた物が何か悟った
「…いや~、椛も良い物持ってますね」
椛が毛布の正体に気がついた事を悟った文が
昨日、自分が包まっていた物を取り出す
「椛…これくれませんか?」
「わ、わう~!?」
文の言葉に、椛が首を横に振る
「だ、駄目です!…そのような物、文様が使っちゃ」
「あやや?これはかなり上質な物ですよ?」
椛の言葉に、文がそう言って返そうとしなかったら
「お、お願いです!…お願いですから~」
遂に、椛が泣き出してしまった
流石に、文もこれは想定していなかった
「わ、分かりましたから!…泣き止んでください」
「わぅ~~」
文が持っていた物を、椛に返す
すると椛がそれを急いで押入れの中に隠した
「…ひっぐ…ひっぐ…」
それでも、椛は泣き止まなかったので文が椛に謝る
「ごめんなさい…大切な物だったんですね」
文が、それが大切な物だったと思っていたら
「ひっぐ…ち、違い…ます…」
椛がその言葉に、首を横に振る
「…でしたら、なんで?」
大切な物でないのなら、なんでそこまで泣いているのか
「あ、文様に…ひっぐ…だけは…見られたくなかったのに…えっぐ…」
椛が泣きながら、そう呟いた
文が先ほど持っていた物を改めて思い出す
「…あの毛皮の服がですか?」
「…わぅ…」
その言葉に、椛が少しだけ頷く
「かなり上質な毛皮だと思うのですが…」
文の言葉に、椛が首を横に振り
「あれは……毛皮なんかじゃ…」
そこまで呟くと、椛が顔を赤くしてさらに泣きそうになる
「毛皮じゃないんですか?」
文の言葉に、椛が小さく頷く
「では…あれは一体なんなのですか?」
「……わぅ~…」
文に問われて、椛が低く唸ってから
観念して、その正体を告げた
「あれは……わ、私の…抜毛です…」
文はその言葉を聞いて、何故椛があそこまで
毛皮の服を取り返そうとしたのかよくわかった
「…わう…は、白狼天狗は…とある季節になると
尻尾と耳から毛が生え変わるんです…」
白狼天狗の毛は、意外と強靭だから
かなりの高温でないと燃やせない
故に、正月にそれを一斉に集めて燃やすのだが
「で、でも…忙しくって…気がついたら…その…箱一杯に…」
椛はそれをすることができなかった
故に、それを隠しておく場所が一杯になってしまったのだ
「だ、だから…一時的に違う物に変えて…」
「お正月に燃やそうとしたのですね?」
文の言葉を聞いて、椛が頷く
「…わぅ~…よりにもよって、文様にばれてしまうなんて…」
椛がそう言って、顔を紅くする
「大丈夫ですよ…誰にも言いませんし、新聞にもしませんから」
いくら文でも、自分の部下であり親友である
椛の事を新聞に載せようとは思わない
「わう…それもあるんですけど…」
文の言葉に椛が反応する
「…それ以上に…恥ずかしいんです…」
さらに赤くなった椛、それを見た文がおもむろに立ち上がり…
「も~みじ~♪」
「わう!?」
後ろから抱きついた
「やっぱり、椛の毛皮の服、貰っていきますね」
「な!?なんでですか!だ、駄目です!汚いですから!」
文の腕の中でじたばたと暴れる椛
だが、文はそんな事気にしないで
「でしたら、新聞に載せますよ?」
「わ、わう~(涙)そ、そんな…」
文の脅迫に再び泣きそうになる椛
「汚くなんか無いですよ?…ですから貰っていきます」
「だ、駄目ですって…」
それでも、椛は首を横に振る
「むぅ…仕方ありませんね」
椛は文が諦めたのかと思って、ほっとしたら
「…仕方がありません、椛があれをくれるまでこのままです」
「わ、わう~~!?」
しばらくの間、椛も我慢していたが
「はむっ…」
「わぅ!?み、耳…ハムハムしないでください!」
「…はむはむ……(さわさわ)」
「やっ!?し、尻尾…尻尾は駄目です~」
文の執拗な攻撃に結局屈した
文が持って行った毛皮ですが…
「使ってますよ?…これ凄く頑丈ですし
何より、椛に守って貰っているのと同じですから」
後に、文が着ていたこの服を欲しいと言う人が
大量に出てきたが、誰一人として
その素材の正体は分からなかったという
「椛~♪今度はマフラーお願いしますね♪」
「絶対に嫌です(赤)」
(鼻血を噴き出させて死亡)
ナルガXな私には是非欲しいものですな!
>でも、本物にはかないませんね…(もふもふ)
>「…わぅ…(赤)」
本当にいいもんだ
其れはなんという『火鼠の衣』?(戌繋がりで戌の半妖の衣服で,
かわいい椛と文のお話をありがとう♪
Gグラビやバルカン狩りに貸してくれませんか?