注:「吾輩は毛玉である」を先に読むことをお勧めします。
前回のあらすじ
子曰く、「毛玉すげえ」。
拝啓
初夏の日差しを浴びた向日葵が、私たちの季節が来るねと囁いているのが目に浮かぶような日々が続いております。
顔も声も知らぬ皆様、いかがお過ごしでしょうか。
吾輩は毛玉である。名前は要らない。
現在、自分はメイド長から休暇を取るよう言い渡されている。
理由は一通り全部聞いたが、何分頭の悪い自分には中途半端にしか理解できなかった。
かいつまんで言うと、昨日の新月の夜、我等がお嬢様の御姿を目にしたメイド軍団が片っ端からピチュり、彼女らの復活に時間がかかるので、その間モップは開店休業になってしまう。
なので、骨休めならぬ毛休めとして、自分は紅魔館の外に作られた休憩所でしばらくお休み、と言う訳だ。
この休憩所はとても気持ちが良い。
上を見れば、吸い込まれそうな青空。たまに氷精。
上を見れば、蒼と白で描かれた、幻想的な天然の芸術。たまに流れ弾。
上を見れば、今日も巫女さんや魔法使いや妖精や天狗が飛んで行く。たまに神様。
何故上ばかり見ているかと問われれば、上しか見えないから、と答える他無い。
大図書館の司書さんの、「風に吹かれて飛んで行ったら大変ですからね」との心遣いにより、自分は今、特製のハンモックに寝ているのだ。
ふらふらと飛ばされないように、洗濯バサミで体を固定してもらっている。
毛が痛まないように、ギザギザが無い木製の洗濯バサミを使っている辺りに、司書さんの優しさが感じ取れる。
ただ、寝返りをうつ事も出来ないほど固定しなくてもいい気もする。
うとうとしていると、「ちょっといいですか?」と声をかけられた。
生憎と自分は喋る口を持っていないが、今の声の持ち主にはさしたる問題にはならない。
こちらへやって来たのは、紅魔館の門番長にして極彩の龍、そして紅魔の母性の化身たる紅美鈴。自分は美鈴さんと呼んでいる。
美鈴さんは、相手が思っていることや言外に伝えたいことを、正確にしっかりと受け止めてくれる、包容力に溢れる女性である。
あのメイド長が唯一愚痴をこぼす相手、と言えば、どれだけ凄い人物かは理解して頂けるだろう。
胸に関して連想した愚か者は今すぐ筋トレ3時間。
いつも絶やさぬ女神の微笑で、自分のハンモックの隣まで歩いて来ると、持参したらしい小さな椅子に腰かけたようだ。
空しか見る事の出来ない自分は、音で判断する他無い。
手荷物をごそごそと扱う様な音がした後、自分の目の前に野菜が現れた。
視界の端には、美鈴さんの指。そして彼女はこう告げる。
「お昼ごはん、一緒に食べましょうか。」
今日のお昼は、自分は生ハムとタマネギを野菜の葉で巻いて作った一口サラダをいくつか。美鈴さんはサンドイッチらしい。
余ってる材料で作ってみたんです。そう言う彼女の言葉には、まるで秘密のプレゼントを用意してきた子供のような無邪気さと、長年の経験から生み出された食事に対する熱意が同居しているように思えた。
この美味しさを忘れないように、今日の業務日誌に書き留めておこう。
昼食の傍ら、美鈴さんの仕事の事が話題に上がった。
美鈴さんのような、力はとても強いが比較的人間に近い妖怪が相手であれば、毛玉であっても意思の疎通は完璧である。会話くらいはお手の物だ。
門番長としての仕事は、ただ単に「門番の代表として、侵入者を追い返す」と言うものとは全く違う。
あの真紅の門を訪れる者は、とにかく数が多く、種類も多いのだ。毛玉とはえらく違う。
例えば白黒の魔法使い。既にやる事は分かっているので、全力で戦い、負けると分かっていても戦い抜き、負けてもめげずに門番として仕事を続ける。
例えば七色の魔法使い。既にお客様だと分かっているので、失礼の無いように心がけつつ、他の侵入者にも警戒しなくてはならない。
例えば氷の妖精。既に⑨だと分かっているので、一緒に遊んであげつつ、門番としての務めも果たさなくてはいけない。
万が一お客様を凍らせたら洒落にならない。
他にも、人間の里から出前にきた人間や、ただの迷子や、無限の彼方からやって来た格闘家や、あれやそれやこれや。毛玉の頭では理解できない世界が、あの門には存在する。
だが、毛玉にも一つだけ断言できる事がある。
『紅美鈴は最高の妖怪の部類に入る』と言う事だ。
それを聞いて、美鈴さんは照れ笑い。そんな笑顔も素敵。
胸に関して連想した駄目な連中は今からフルマラソン。
脚に関して連想した罪袋共は断線の刑。
楽しい昼食の時間も終わり、自分は休憩、美鈴さんは仕事に戻る。
休憩と言えど休暇と言えど、空を見続けるのはどうも飽きてきそうだ。
……掃除してえなあ。
一方その頃。
「ねえさくや、どうしてさくやしかメイドがいないの?」
「他のメイドはお嬢様の御姿を見て、嬉しさの余り倒れてしまったからですよ、お嬢様。」
「じゃあさくや、どうしてさくやはへいきなの?」
「私は完璧で瀟洒なメイドだからですわ、妹様。」
「さくや、きょうはさくやしかいないの?」
「さくや、いなくならないの?」
「ええ、私はいつでもお嬢様と妹様のお二人のお傍にいますわ。」
『さくや大好きー!』
十六夜咲夜、心の中でひっそり微笑む。
『 計 画 通 り 』
どこか遠く。
「ヤゴコロ印の薬効はぁァァァァァァァ!!」
「世界一いぃィィィィィィ!!!」
『ウサーーーーー!!!!』
森の道具屋。
「ふむ、永遠亭の新薬2つか、どれどれ……」
名称:クラリック
用途:服用することで、精神的な動揺やショック、およびそれによるミスを抑える。
「なるほど、あの優曇華院と言う子のためだな。で、もう片方は、と。」
名称:堕天
用途:体内に注入することで、肉体的に堅牢になる。副作用として、精神的に脆くなる。
「解毒薬、と言うか対抗薬かな。専用の注射器が必要らしいけど、永遠亭なら使えるだろう。」
ヒマしてる閻魔様。
「あのメイド長が前者を飲み、時間を止めている間に他のメイド全員に後者を使用……。」
長考。
「メイド長、十六夜咲夜。」
長考。
「無罪!」
えー。
「胸に関して連想した者は有罪、地獄行き!異議は認めません!有罪ですっ!!」
泣かないで下さい閻魔様。
前回のあらすじ
子曰く、「毛玉すげえ」。
拝啓
初夏の日差しを浴びた向日葵が、私たちの季節が来るねと囁いているのが目に浮かぶような日々が続いております。
顔も声も知らぬ皆様、いかがお過ごしでしょうか。
吾輩は毛玉である。名前は要らない。
現在、自分はメイド長から休暇を取るよう言い渡されている。
理由は一通り全部聞いたが、何分頭の悪い自分には中途半端にしか理解できなかった。
かいつまんで言うと、昨日の新月の夜、我等がお嬢様の御姿を目にしたメイド軍団が片っ端からピチュり、彼女らの復活に時間がかかるので、その間モップは開店休業になってしまう。
なので、骨休めならぬ毛休めとして、自分は紅魔館の外に作られた休憩所でしばらくお休み、と言う訳だ。
この休憩所はとても気持ちが良い。
上を見れば、吸い込まれそうな青空。たまに氷精。
上を見れば、蒼と白で描かれた、幻想的な天然の芸術。たまに流れ弾。
上を見れば、今日も巫女さんや魔法使いや妖精や天狗が飛んで行く。たまに神様。
何故上ばかり見ているかと問われれば、上しか見えないから、と答える他無い。
大図書館の司書さんの、「風に吹かれて飛んで行ったら大変ですからね」との心遣いにより、自分は今、特製のハンモックに寝ているのだ。
ふらふらと飛ばされないように、洗濯バサミで体を固定してもらっている。
毛が痛まないように、ギザギザが無い木製の洗濯バサミを使っている辺りに、司書さんの優しさが感じ取れる。
ただ、寝返りをうつ事も出来ないほど固定しなくてもいい気もする。
うとうとしていると、「ちょっといいですか?」と声をかけられた。
生憎と自分は喋る口を持っていないが、今の声の持ち主にはさしたる問題にはならない。
こちらへやって来たのは、紅魔館の門番長にして極彩の龍、そして紅魔の母性の化身たる紅美鈴。自分は美鈴さんと呼んでいる。
美鈴さんは、相手が思っていることや言外に伝えたいことを、正確にしっかりと受け止めてくれる、包容力に溢れる女性である。
あのメイド長が唯一愚痴をこぼす相手、と言えば、どれだけ凄い人物かは理解して頂けるだろう。
胸に関して連想した愚か者は今すぐ筋トレ3時間。
いつも絶やさぬ女神の微笑で、自分のハンモックの隣まで歩いて来ると、持参したらしい小さな椅子に腰かけたようだ。
空しか見る事の出来ない自分は、音で判断する他無い。
手荷物をごそごそと扱う様な音がした後、自分の目の前に野菜が現れた。
視界の端には、美鈴さんの指。そして彼女はこう告げる。
「お昼ごはん、一緒に食べましょうか。」
今日のお昼は、自分は生ハムとタマネギを野菜の葉で巻いて作った一口サラダをいくつか。美鈴さんはサンドイッチらしい。
余ってる材料で作ってみたんです。そう言う彼女の言葉には、まるで秘密のプレゼントを用意してきた子供のような無邪気さと、長年の経験から生み出された食事に対する熱意が同居しているように思えた。
この美味しさを忘れないように、今日の業務日誌に書き留めておこう。
昼食の傍ら、美鈴さんの仕事の事が話題に上がった。
美鈴さんのような、力はとても強いが比較的人間に近い妖怪が相手であれば、毛玉であっても意思の疎通は完璧である。会話くらいはお手の物だ。
門番長としての仕事は、ただ単に「門番の代表として、侵入者を追い返す」と言うものとは全く違う。
あの真紅の門を訪れる者は、とにかく数が多く、種類も多いのだ。毛玉とはえらく違う。
例えば白黒の魔法使い。既にやる事は分かっているので、全力で戦い、負けると分かっていても戦い抜き、負けてもめげずに門番として仕事を続ける。
例えば七色の魔法使い。既にお客様だと分かっているので、失礼の無いように心がけつつ、他の侵入者にも警戒しなくてはならない。
例えば氷の妖精。既に⑨だと分かっているので、一緒に遊んであげつつ、門番としての務めも果たさなくてはいけない。
万が一お客様を凍らせたら洒落にならない。
他にも、人間の里から出前にきた人間や、ただの迷子や、無限の彼方からやって来た格闘家や、あれやそれやこれや。毛玉の頭では理解できない世界が、あの門には存在する。
だが、毛玉にも一つだけ断言できる事がある。
『紅美鈴は最高の妖怪の部類に入る』と言う事だ。
それを聞いて、美鈴さんは照れ笑い。そんな笑顔も素敵。
胸に関して連想した駄目な連中は今からフルマラソン。
脚に関して連想した罪袋共は断線の刑。
楽しい昼食の時間も終わり、自分は休憩、美鈴さんは仕事に戻る。
休憩と言えど休暇と言えど、空を見続けるのはどうも飽きてきそうだ。
……掃除してえなあ。
一方その頃。
「ねえさくや、どうしてさくやしかメイドがいないの?」
「他のメイドはお嬢様の御姿を見て、嬉しさの余り倒れてしまったからですよ、お嬢様。」
「じゃあさくや、どうしてさくやはへいきなの?」
「私は完璧で瀟洒なメイドだからですわ、妹様。」
「さくや、きょうはさくやしかいないの?」
「さくや、いなくならないの?」
「ええ、私はいつでもお嬢様と妹様のお二人のお傍にいますわ。」
『さくや大好きー!』
十六夜咲夜、心の中でひっそり微笑む。
『 計 画 通 り 』
どこか遠く。
「ヤゴコロ印の薬効はぁァァァァァァァ!!」
「世界一いぃィィィィィィ!!!」
『ウサーーーーー!!!!』
森の道具屋。
「ふむ、永遠亭の新薬2つか、どれどれ……」
名称:クラリック
用途:服用することで、精神的な動揺やショック、およびそれによるミスを抑える。
「なるほど、あの優曇華院と言う子のためだな。で、もう片方は、と。」
名称:堕天
用途:体内に注入することで、肉体的に堅牢になる。副作用として、精神的に脆くなる。
「解毒薬、と言うか対抗薬かな。専用の注射器が必要らしいけど、永遠亭なら使えるだろう。」
ヒマしてる閻魔様。
「あのメイド長が前者を飲み、時間を止めている間に他のメイド全員に後者を使用……。」
長考。
「メイド長、十六夜咲夜。」
長考。
「無罪!」
えー。
「胸に関して連想した者は有罪、地獄行き!異議は認めません!有罪ですっ!!」
泣かないで下さい閻魔様。
無限の彼方からやってきた格闘家で吹いたw
よく見かけるからなぁ、彼女…
そして美鈴の母性については激しく同意する
筋トレ3時間にフルマラソンに断線のうえに有罪か……。
あと、後半の奴ら。少しは毛玉を見習えぇぇぇ!!
分かる人にしか分からんなwww
さー、筋トレ筋トレ
さすが孔子様wwwwwww
あと、メイド長と薬師と閻魔はダメすぎるwww
そう何度も胸を強調されると有罪にならざるを得ない。
全体に骨のある文章で、よく構成されていると思います。
短いながらキャラのイメージが掴みやすかった。
次回も期待させてもらいます^^
マラソンいってきまーす