※オリキャラぽい子がいます。苦手な方は「戻る」ボタンを押してください
「お嬢様、紅茶が入りました」
サクヤが私の前に紅茶を置く。置き方に優雅さか欠けるが、一々言う必要もないだろう。
…ふん、香りは合格。
今日みたいに私の機嫌が悪い日はどうしたらいいのか、ちゃんとわかっているところが小憎たらしい。
香りを楽しんだ後、一口飲んでカップを置いた。
「どうでしょうか?」
不安そうに羽をパタパタと動かせながら、そう問いかけてくる。
ああ、ウルサイ。サクヤならそんな不安そうな顔をするな。
まったく、どこのどいつだ。メイド長をサクヤなんて呼ばせるようにしたのは。
そうだ、あの時は確かパチェが………
あの時、つまり咲夜が死んでから一週間後のことだ。
そのあいだ、私はひどい有様だった。咲夜の死を受け入れることができずにずいぶんと荒れていた。
心配してきてくれたフランの縋って泣き、パチェを追い返し、美鈴にあたった。妖精メイドなんて何匹消滅させたかわからないくらいだ。
覚えていないが、私はことあるごとに咲夜の名を繰り返し呼んでいたらしい。
そんなときにパチェが「この子がサクヤよ」と一匹の妖精メイドを連れてきた。初めて親友を殺してやろうと思ったけれど、その妖精メイドが持っている紅茶から懐かしい香りがしていた。
聞けば咲夜が生前にいろいろと教え込んでいたらしい。
そんなことをするくらいなら、なぜ私と一緒にいる時間をもっともたなかったのか。そう問いかけたかった。
けれどそのおかげで私が『咲夜の紅茶』を飲めたのは、まぎれもない事実だった。
そのせいでついそのメイドをメイド長にまで上げてしまった。それにパチェが「サクヤ」「サクヤ」と呼ぶせいで、いつの間にか私も「サクヤ」などと呼んでしまっていた。
咲夜に及びはしなかったが、サクヤもよくやってくれた。
だけどそのサクヤも今はもういない。
腹の立つことにサクヤも別の妖精メイドにいろいろと教え込んでいたらしく、その妖精メイドに後を任せていなくなってしまった。
私と一緒にいすぎたせいで妖精として外れてしまいそうだった。なんて自分の口で伝えればいいものを。
それに私がそんなことを気づかないとでも思っていたのか。私は咲夜にもサクヤにも大切なことは伝えられないままじゃないか。私のものなんだから勝手にいなくなるな、バカ共め!
サクヤの後を継いだ妖精メイドもサクヤに負けず劣らずなかなかのものだった。それでつい、そうだサクヤと間違えたわけじゃない。うっかりだ。ついつい「サクヤ」などと声をかけてしまっていた。
偶然にもそれを聞いたパチェが「メイド長をサクヤと呼ばせましょう」などと言い出したんだ。まったく余計なことをしてくれる。
そして今日の私が不機嫌な理由がそのパチェにある。
一週間くらい前に「小悪魔が消えちゃう。どうしよう!」とか言って泣き出したんだ。それも私と二人きりのときにだ。どうしようはこっちの台詞だった。
親友のパチェのことは嫌いじゃない。むしろ好きと言ってもいいくらいだ。昔、黒白の魔法使いに奪われたときなんか…、そんな昔のことはどうでもいい。
問題は今だ。パチェが私のところに来たのが一週間前、それから私はパチェと会っていない。
食事にも出てこないし、パーティにも出てこない。二、三日なら会わないことはよくあったが、一週間ともなると初めてだ。
パチェだって少しは一人になりたいときがあるだろう。あのときの私のように。
ん、誰だ? 私は立ち直らせてもらったとか言ったやつは。いい度胸だ、前に出ろ。渾身のグングニルを味あわせてやる。
ふん、まあいい。貴様なんかと戯れている暇なんてないんだ。
「お嬢様、もう飲まれないのですか?」
ああもう、おどおどするな。お前のことは信頼しているんだ。だからもっと堂々としろ。
サクヤの態度に少しだけイラつきながら、紅茶を飲み干した。
…少しぬるい。これくらいなら許してやるのも主の寛大さを見せるということでいいか。
「なかなかよかった、これからもこの調子で頼む」
そう声をかけるとサクヤがほっとしたような顔を浮かべた。
コンコン
扉がノックされて外から「サクヤさまー、西館二階のお掃除が終わりましたー」と間延びした声が聞こえた。
怒ったような表情をつくってサクヤを睨みつけると「申し訳ございません、失礼します」と真っ青になって早足で扉へと向かっていった。
しばらくしたら外からサクヤの声もメイドの声も聞こえなくなった。
おそらく副メイド長に指示をだしに行ったんだろう。
さあ、私も親友を迎えに行こう。
もし魔理沙なら「いつまでも泣いていたって仕方ないぜ」とかでも言って無理やり連れ出すんだろうか。それなのにパチェはきっと嬉しそうなんだ。
私にはできない。だから私は私のやり方でパチェを連れ出そう。魔理沙には決して真似できない方法でな!
コンと一度だけ図書館の扉をたたく。
「パチェいる?」
返事はない。
扉に手をかけて押すと古めかしい音を立てて開いていった。
…咲夜がいないのにこの図書館は広いままだな。変な魔法でも使ったのか?
小悪魔がいなくなってから既に五日がたっている。一週間前のパチェの取り乱し方から考えると…何処にいるだろう?
思い返すと私はパチェのことをよく知らない。
「パチェー、どこにいるのパチェー。パチュリー・ノーレッジー?」
パチェは何があろうと図書館の中だけで完結してしまう。たった一つの例外を除いて―。
「ねえ、返事くらいしてよー」
これまで長いこと暮らしていたから
「パチェってばー」
これから永いこと暮らしていくから
「いるなら返事しろー」
私は、今更ながらパチェのことをもっと知りたいと思った。
「こんなところにいたのか」
広大な図書館を飛び回ってようやく見つけた親友は小悪魔のいた部屋にいた。
机に向かって本を開いて一所懸命何かを書いている。何を書いているのか読めはしないが、きっと小悪魔のことなんだろう。
「ぱーちぇ、なにしてるのー?」
首に手を回してぎゅっと抱き…抱き?
「レミィ、重いわ」
「背もたれがあたって痛い。立って」
後ろから抱きつくつもりが、背もたれ越しなんてっ…!
「離れてくれたら考えるわ」
「立ってくれたら考えるわ」
「ねえレミィ、私は重いの」
「ねえパチェ、私は痛いの」
「あなたは小さくて軽いつもりなのかもしれないけれど、私には重いの」
「このいすの背もたれって堅いの。パチェが揺らすたび体が削れそうだわ」
「大丈夫よ、あなたの胸は削れるほどないわ」
くっ! この着やせ魔女め!
「そんなこというと吸うわよ」
「灰になりたいならどうぞ」
「そっちのほうが痛いからやめておくわ」
「そう、じゃあ離して」
「ふふん、残念だがそれとこれとは話が別だ」
「変なところで威張らなくていいわよ。永遠に幼き紅い月さん」
「永遠に紅い幼き月だ! わざと間違えただろう、この引きこもりの大図書館め」
「動かない大図書館よ。あなたこそわざと間違えたでしょう」
「久しぶりに全力で弾幕りあうか?」
「完全に消滅する覚悟はできてるかしら?」
「そっちこそ干からびる覚悟はあるのか?」
「…意地悪ね、レミィは」
この会話のテンポが心地良い。ねえパチェ、貴女も同じように感じてくれている?
「悪魔だからな」
言ってから失言だと気づいた。見れないけれど、ひょっとするとパチェの顔は…。
「悪魔にもいろいろあるわよ」
「うん、ごめん」
「ねえ、私は落ち込んでいるわけじゃないわよ。むしろいつもより調子がいいくらいだわ。小悪魔がいないのは寂しいけれど、何時までもそこで止まっていてもダメなのよ。あの子だったらきっとそう言うわ。レミィもいてくれるんでしょう。それに…」
これからは少しずつ外にも出てみるわ。と言葉を締めくくった。
あーあ、せっかくパチェの落ち込んだ顔が見れると思ったのに。
「そんなことを考えているとは意外だったわ」
「!? とうとう読心術まで身につけたのかこの魔女め!」
「口に出していたんだから、読心術も何もないわよ」
「あうぅ…」
「レミィ」
パタンと本が閉じられて
「あなたと話していたら」
立ち上がると同時に私の手をほどく
「おなかがすいたわ」
貴女は私に向き直って
「少し遅いけれど一緒に食べない?」
笑った。
「そういえば私も食べてないな」
なかなか見れないけれど
「じゃあ決まりね」
私は
「本はよかったのか?」
優しく微笑むその顔が
「書く時間も、書きたいこともいっぱいあるもの」
大好きだ。
「そうか」
私の後ろに控えていた咲夜はいなくなってしまったけれど―、
片手はフランとつないで―、
もう片手はパチェとつないで―、
前には美鈴が私たちを守るように立っていて―、
周りにはサクヤと妖精メイドたちがいて―、
紅魔館は、私はなんて幸せなんだろう。
もういなくなってしまうことは怖くない。いなくなってもここに残っているんだから。
「お嬢様、紅茶が入りました」
サクヤが私の前に紅茶を置く。置き方に優雅さか欠けるが、一々言う必要もないだろう。
…ふん、香りは合格。
今日みたいに私の機嫌が悪い日はどうしたらいいのか、ちゃんとわかっているところが小憎たらしい。
香りを楽しんだ後、一口飲んでカップを置いた。
「どうでしょうか?」
不安そうに羽をパタパタと動かせながら、そう問いかけてくる。
ああ、ウルサイ。サクヤならそんな不安そうな顔をするな。
まったく、どこのどいつだ。メイド長をサクヤなんて呼ばせるようにしたのは。
そうだ、あの時は確かパチェが………
あの時、つまり咲夜が死んでから一週間後のことだ。
そのあいだ、私はひどい有様だった。咲夜の死を受け入れることができずにずいぶんと荒れていた。
心配してきてくれたフランの縋って泣き、パチェを追い返し、美鈴にあたった。妖精メイドなんて何匹消滅させたかわからないくらいだ。
覚えていないが、私はことあるごとに咲夜の名を繰り返し呼んでいたらしい。
そんなときにパチェが「この子がサクヤよ」と一匹の妖精メイドを連れてきた。初めて親友を殺してやろうと思ったけれど、その妖精メイドが持っている紅茶から懐かしい香りがしていた。
聞けば咲夜が生前にいろいろと教え込んでいたらしい。
そんなことをするくらいなら、なぜ私と一緒にいる時間をもっともたなかったのか。そう問いかけたかった。
けれどそのおかげで私が『咲夜の紅茶』を飲めたのは、まぎれもない事実だった。
そのせいでついそのメイドをメイド長にまで上げてしまった。それにパチェが「サクヤ」「サクヤ」と呼ぶせいで、いつの間にか私も「サクヤ」などと呼んでしまっていた。
咲夜に及びはしなかったが、サクヤもよくやってくれた。
だけどそのサクヤも今はもういない。
腹の立つことにサクヤも別の妖精メイドにいろいろと教え込んでいたらしく、その妖精メイドに後を任せていなくなってしまった。
私と一緒にいすぎたせいで妖精として外れてしまいそうだった。なんて自分の口で伝えればいいものを。
それに私がそんなことを気づかないとでも思っていたのか。私は咲夜にもサクヤにも大切なことは伝えられないままじゃないか。私のものなんだから勝手にいなくなるな、バカ共め!
サクヤの後を継いだ妖精メイドもサクヤに負けず劣らずなかなかのものだった。それでつい、そうだサクヤと間違えたわけじゃない。うっかりだ。ついつい「サクヤ」などと声をかけてしまっていた。
偶然にもそれを聞いたパチェが「メイド長をサクヤと呼ばせましょう」などと言い出したんだ。まったく余計なことをしてくれる。
そして今日の私が不機嫌な理由がそのパチェにある。
一週間くらい前に「小悪魔が消えちゃう。どうしよう!」とか言って泣き出したんだ。それも私と二人きりのときにだ。どうしようはこっちの台詞だった。
親友のパチェのことは嫌いじゃない。むしろ好きと言ってもいいくらいだ。昔、黒白の魔法使いに奪われたときなんか…、そんな昔のことはどうでもいい。
問題は今だ。パチェが私のところに来たのが一週間前、それから私はパチェと会っていない。
食事にも出てこないし、パーティにも出てこない。二、三日なら会わないことはよくあったが、一週間ともなると初めてだ。
パチェだって少しは一人になりたいときがあるだろう。あのときの私のように。
ん、誰だ? 私は立ち直らせてもらったとか言ったやつは。いい度胸だ、前に出ろ。渾身のグングニルを味あわせてやる。
ふん、まあいい。貴様なんかと戯れている暇なんてないんだ。
「お嬢様、もう飲まれないのですか?」
ああもう、おどおどするな。お前のことは信頼しているんだ。だからもっと堂々としろ。
サクヤの態度に少しだけイラつきながら、紅茶を飲み干した。
…少しぬるい。これくらいなら許してやるのも主の寛大さを見せるということでいいか。
「なかなかよかった、これからもこの調子で頼む」
そう声をかけるとサクヤがほっとしたような顔を浮かべた。
コンコン
扉がノックされて外から「サクヤさまー、西館二階のお掃除が終わりましたー」と間延びした声が聞こえた。
怒ったような表情をつくってサクヤを睨みつけると「申し訳ございません、失礼します」と真っ青になって早足で扉へと向かっていった。
しばらくしたら外からサクヤの声もメイドの声も聞こえなくなった。
おそらく副メイド長に指示をだしに行ったんだろう。
さあ、私も親友を迎えに行こう。
もし魔理沙なら「いつまでも泣いていたって仕方ないぜ」とかでも言って無理やり連れ出すんだろうか。それなのにパチェはきっと嬉しそうなんだ。
私にはできない。だから私は私のやり方でパチェを連れ出そう。魔理沙には決して真似できない方法でな!
コンと一度だけ図書館の扉をたたく。
「パチェいる?」
返事はない。
扉に手をかけて押すと古めかしい音を立てて開いていった。
…咲夜がいないのにこの図書館は広いままだな。変な魔法でも使ったのか?
小悪魔がいなくなってから既に五日がたっている。一週間前のパチェの取り乱し方から考えると…何処にいるだろう?
思い返すと私はパチェのことをよく知らない。
「パチェー、どこにいるのパチェー。パチュリー・ノーレッジー?」
パチェは何があろうと図書館の中だけで完結してしまう。たった一つの例外を除いて―。
「ねえ、返事くらいしてよー」
これまで長いこと暮らしていたから
「パチェってばー」
これから永いこと暮らしていくから
「いるなら返事しろー」
私は、今更ながらパチェのことをもっと知りたいと思った。
「こんなところにいたのか」
広大な図書館を飛び回ってようやく見つけた親友は小悪魔のいた部屋にいた。
机に向かって本を開いて一所懸命何かを書いている。何を書いているのか読めはしないが、きっと小悪魔のことなんだろう。
「ぱーちぇ、なにしてるのー?」
首に手を回してぎゅっと抱き…抱き?
「レミィ、重いわ」
「背もたれがあたって痛い。立って」
後ろから抱きつくつもりが、背もたれ越しなんてっ…!
「離れてくれたら考えるわ」
「立ってくれたら考えるわ」
「ねえレミィ、私は重いの」
「ねえパチェ、私は痛いの」
「あなたは小さくて軽いつもりなのかもしれないけれど、私には重いの」
「このいすの背もたれって堅いの。パチェが揺らすたび体が削れそうだわ」
「大丈夫よ、あなたの胸は削れるほどないわ」
くっ! この着やせ魔女め!
「そんなこというと吸うわよ」
「灰になりたいならどうぞ」
「そっちのほうが痛いからやめておくわ」
「そう、じゃあ離して」
「ふふん、残念だがそれとこれとは話が別だ」
「変なところで威張らなくていいわよ。永遠に幼き紅い月さん」
「永遠に紅い幼き月だ! わざと間違えただろう、この引きこもりの大図書館め」
「動かない大図書館よ。あなたこそわざと間違えたでしょう」
「久しぶりに全力で弾幕りあうか?」
「完全に消滅する覚悟はできてるかしら?」
「そっちこそ干からびる覚悟はあるのか?」
「…意地悪ね、レミィは」
この会話のテンポが心地良い。ねえパチェ、貴女も同じように感じてくれている?
「悪魔だからな」
言ってから失言だと気づいた。見れないけれど、ひょっとするとパチェの顔は…。
「悪魔にもいろいろあるわよ」
「うん、ごめん」
「ねえ、私は落ち込んでいるわけじゃないわよ。むしろいつもより調子がいいくらいだわ。小悪魔がいないのは寂しいけれど、何時までもそこで止まっていてもダメなのよ。あの子だったらきっとそう言うわ。レミィもいてくれるんでしょう。それに…」
これからは少しずつ外にも出てみるわ。と言葉を締めくくった。
あーあ、せっかくパチェの落ち込んだ顔が見れると思ったのに。
「そんなことを考えているとは意外だったわ」
「!? とうとう読心術まで身につけたのかこの魔女め!」
「口に出していたんだから、読心術も何もないわよ」
「あうぅ…」
「レミィ」
パタンと本が閉じられて
「あなたと話していたら」
立ち上がると同時に私の手をほどく
「おなかがすいたわ」
貴女は私に向き直って
「少し遅いけれど一緒に食べない?」
笑った。
「そういえば私も食べてないな」
なかなか見れないけれど
「じゃあ決まりね」
私は
「本はよかったのか?」
優しく微笑むその顔が
「書く時間も、書きたいこともいっぱいあるもの」
大好きだ。
「そうか」
私の後ろに控えていた咲夜はいなくなってしまったけれど―、
片手はフランとつないで―、
もう片手はパチェとつないで―、
前には美鈴が私たちを守るように立っていて―、
周りにはサクヤと妖精メイドたちがいて―、
紅魔館は、私はなんて幸せなんだろう。
もういなくなってしまうことは怖くない。いなくなってもここに残っているんだから。