※本文は「著 村上春樹/糸井重里 『夢で会いましょう』 講談社文庫」
より、掌編小説『K』から抜き出したパロディになります。
R……アルファベット18番目の文字
(用例)「ある朝目覚めるとRは玄関マットに変身していた」
ある朝目覚めるとRは玄関マットに変身していた。
「参ったなぁ」とRは思った。「よりにもよって玄関マットなんてな」
玄関マットになったRを最初にみつけたのは月刊『幻想郷縁起』の編集者だった。
「冗談はよしてくださいよ」と阿求は言った。「忘年会の余興の練習か何かですか?」
「いや、本気でこうなっちゃったんだよ」とRは言った。
「はぁ、でしたらまぁそれでいいですけれど……。ところで変身届けは済ませましたか?」
「変身届け?」
「所得税の税率が違ってくるんですよ。玄関マットに変身した場合でしたら控除額が
10パーセントくらい低くなっちゃうんです」
「幻想郷も厳しいね」とRは言った。
「いえ、本当ですよ。残念ですね。アイロン台でしたら3パーセントくらいだったのに」
次にRをみつけたのは博霊神社で腋を見せびらかしている巫女だった。彼女は
玄関マットであるRにつまづいて郵便受けで頭を打った。
「あら、ごめんなさい、ずっと徹夜で妖怪を追っかけてたもんだから、だって急に
スキマに落っことされるんだもの、そんなの……。ねぇ、それはそうとどうして
玄関マットなんかになったの?」
「現実逃避だよ」とRは言った。
「可哀想に」と霊夢は言った。「何か私にできることあるかしら?キスしたら人間に戻るとか」
「そういう発想はもう十九世紀で終わったんだよ」とRは言った。
「可哀想に、それはいいんだけど、Rさんそれじゃもうあのお茶飲めないでしょ?
あれ、頂いちゃってもいいかな?」
「いいよ」
「うずまき模様の湯呑みもいらないわよね?」
「いらない」
「あの目の細かい茶こしも気に入ってるんだけどな」
「あげるよ」
「畑も借りといていいかな?」
「こまめに手入れしてくれよ。それからリグルに文句言っといてよ、虫食いが酷いんだ」
「うんうん」
その次にやってきたのは寺子屋の先生だった。
「これは一見玄関マットのようではあるな」と慧音は言った。
「玄関マットそのものだよ」とRは言った。
「実証できるか?」
「足を拭いてみればいい」
慧音は足を拭いた。そしてRが玄関マットであることを認識した。
「またどうして玄関マットなんかに?」
「僕のせいじゃない」
「僕のせいじゃない?」と彼女はくりかえした。「そういう科白はカフカ的というよりも
むしろカミュ的だな。ところで私に何かできることはあるか?」
「寺子屋かマヨヒガなんかの玄関においてもらえるととてもたすかるなぁ」
そしてRは寺子屋の玄関で出版も妖怪退治も教師も抜きに末永く幸せに暮らした。
ただRには心残りがある。
「紫に足を拭かれたいなぁ」
※皆様から温かいお言葉を頂いては、いつも心を癒されています。
本当にありがとうございました。
)名無し1番様
初コメントありがとうございます。この話はホント自己満足だし、元となった
両作品のことを考えるだけで自分のみっともなさに恥ずかしくなってしまいます。
登場人物の職業を曖昧にしたせいで読みにくくもなっていますし。
お口に合わなかったとは思いますが、ご容赦ください。
)名無し2番様
コメントありがとうございます。この本文は原文の文章の名詞と配置を変えた
程度で、殆ど原文によるところの強い小説になっています。霊夢のくだりも
ものをねだる女性の描写を置き換えたものですが、割としっくりきてますよね?
「R」については、作者個人の中ではその人物は決まっているのですが、
あえて設定しないほうがいいかも知れません。藍とかならホントに玄関マット
に化けて、職場放棄したけど主人のことが頭から離れずー、みたいな?
)欠片の屑様
コメントありがとうございます。村上春樹の「世界の終り」などは幻想郷に近い
雰囲気がありますよね。村上ワールドの柔らかい文体の中に潜む厳しい現実、
と個人的には感じているのですが、それを描ける氏はやはり素晴らしい作家だと
思います。私に腕なんてございませんって。作品が素晴らしくって。
っぽいなとは思ってたんですけれど、ホントにカフカのパロディだったんですね。
教えて頂いてありがとうございます。
げじげじザムザが死ななきゃ家族は幸せになれなかったけれど、玄関マットなら
あくせく働いてる人を尻目に女の子の足を拭いてればいいんじゃない、という
氏の脳内が見えた気になったりします。
)名無し4番様
コメントありがとうございます。
霖之助「何事も動じない男はモテるってけーねが言ってた」
)名無し5番様
コメントありがとうございます。ホントは「R」はうどんげで、子供との触れ合いを
大切にしろ、て師匠に洗脳されちゃいました。
作者だったら絶対マットに頬ずりしますね。
可能性の一つではありますが。
)名無し6番様
コメントありがとうございます。落とせないの……アタシ。皆様からいつも
指摘を頂いて気をつけようとは思うんですけれど、これがなかなかどうも……。
ご指摘ありがとうございます。精進させて頂きます。
)物干し竿様
コメントありがとうございます。最終鬼畜褌。既出ですか。すいません。
)名無し8番様
コメントありがとうございます。原作はネタの宝庫ですよ。この本のコンセプトは
二人の著者が作った外来語辞典、というもので、例えば『アスパラガス』なんかは
夜人を襲う凶悪な植物として描かれていたりするなど「ありえない」話が
非常に想像力を描き立てられます。
個人的には本作品の原作『K』と、『パン』をお勧めさせて頂きます。『パン』は
違う出版社で『パン屋再襲撃』という続編(的)が出版されておりまして、
こちらも秀逸ですよ。
糸井氏のエッセイ的な軽い文章はとても気持ちが明るくなれますよ。
)名無し9番様
コメントありがとうございます。アイロンの下りは原作を全くいじっていません。
ホント、作者の発想力はバケモノだと思います。阿求の原作側の人物は
税理士で、細かい数字を追っているこの職業を皮肉ったのだろうと
個人的に感じました。
※今作は読みづらいものだったかもしれませんが、このように多くのコメントを
頂いて、感激です。今一度、ありがとうございました。
より、掌編小説『K』から抜き出したパロディになります。
R……アルファベット18番目の文字
(用例)「ある朝目覚めるとRは玄関マットに変身していた」
ある朝目覚めるとRは玄関マットに変身していた。
「参ったなぁ」とRは思った。「よりにもよって玄関マットなんてな」
玄関マットになったRを最初にみつけたのは月刊『幻想郷縁起』の編集者だった。
「冗談はよしてくださいよ」と阿求は言った。「忘年会の余興の練習か何かですか?」
「いや、本気でこうなっちゃったんだよ」とRは言った。
「はぁ、でしたらまぁそれでいいですけれど……。ところで変身届けは済ませましたか?」
「変身届け?」
「所得税の税率が違ってくるんですよ。玄関マットに変身した場合でしたら控除額が
10パーセントくらい低くなっちゃうんです」
「幻想郷も厳しいね」とRは言った。
「いえ、本当ですよ。残念ですね。アイロン台でしたら3パーセントくらいだったのに」
次にRをみつけたのは博霊神社で腋を見せびらかしている巫女だった。彼女は
玄関マットであるRにつまづいて郵便受けで頭を打った。
「あら、ごめんなさい、ずっと徹夜で妖怪を追っかけてたもんだから、だって急に
スキマに落っことされるんだもの、そんなの……。ねぇ、それはそうとどうして
玄関マットなんかになったの?」
「現実逃避だよ」とRは言った。
「可哀想に」と霊夢は言った。「何か私にできることあるかしら?キスしたら人間に戻るとか」
「そういう発想はもう十九世紀で終わったんだよ」とRは言った。
「可哀想に、それはいいんだけど、Rさんそれじゃもうあのお茶飲めないでしょ?
あれ、頂いちゃってもいいかな?」
「いいよ」
「うずまき模様の湯呑みもいらないわよね?」
「いらない」
「あの目の細かい茶こしも気に入ってるんだけどな」
「あげるよ」
「畑も借りといていいかな?」
「こまめに手入れしてくれよ。それからリグルに文句言っといてよ、虫食いが酷いんだ」
「うんうん」
その次にやってきたのは寺子屋の先生だった。
「これは一見玄関マットのようではあるな」と慧音は言った。
「玄関マットそのものだよ」とRは言った。
「実証できるか?」
「足を拭いてみればいい」
慧音は足を拭いた。そしてRが玄関マットであることを認識した。
「またどうして玄関マットなんかに?」
「僕のせいじゃない」
「僕のせいじゃない?」と彼女はくりかえした。「そういう科白はカフカ的というよりも
むしろカミュ的だな。ところで私に何かできることはあるか?」
「寺子屋かマヨヒガなんかの玄関においてもらえるととてもたすかるなぁ」
そしてRは寺子屋の玄関で出版も妖怪退治も教師も抜きに末永く幸せに暮らした。
ただRには心残りがある。
「紫に足を拭かれたいなぁ」
※皆様から温かいお言葉を頂いては、いつも心を癒されています。
本当にありがとうございました。
)名無し1番様
初コメントありがとうございます。この話はホント自己満足だし、元となった
両作品のことを考えるだけで自分のみっともなさに恥ずかしくなってしまいます。
登場人物の職業を曖昧にしたせいで読みにくくもなっていますし。
お口に合わなかったとは思いますが、ご容赦ください。
)名無し2番様
コメントありがとうございます。この本文は原文の文章の名詞と配置を変えた
程度で、殆ど原文によるところの強い小説になっています。霊夢のくだりも
ものをねだる女性の描写を置き換えたものですが、割としっくりきてますよね?
「R」については、作者個人の中ではその人物は決まっているのですが、
あえて設定しないほうがいいかも知れません。藍とかならホントに玄関マット
に化けて、職場放棄したけど主人のことが頭から離れずー、みたいな?
)欠片の屑様
コメントありがとうございます。村上春樹の「世界の終り」などは幻想郷に近い
雰囲気がありますよね。村上ワールドの柔らかい文体の中に潜む厳しい現実、
と個人的には感じているのですが、それを描ける氏はやはり素晴らしい作家だと
思います。私に腕なんてございませんって。作品が素晴らしくって。
っぽいなとは思ってたんですけれど、ホントにカフカのパロディだったんですね。
教えて頂いてありがとうございます。
げじげじザムザが死ななきゃ家族は幸せになれなかったけれど、玄関マットなら
あくせく働いてる人を尻目に女の子の足を拭いてればいいんじゃない、という
氏の脳内が見えた気になったりします。
)名無し4番様
コメントありがとうございます。
霖之助「何事も動じない男はモテるってけーねが言ってた」
)名無し5番様
コメントありがとうございます。ホントは「R」はうどんげで、子供との触れ合いを
大切にしろ、て師匠に洗脳されちゃいました。
作者だったら絶対マットに頬ずりしますね。
可能性の一つではありますが。
)名無し6番様
コメントありがとうございます。落とせないの……アタシ。皆様からいつも
指摘を頂いて気をつけようとは思うんですけれど、これがなかなかどうも……。
ご指摘ありがとうございます。精進させて頂きます。
)物干し竿様
コメントありがとうございます。最終鬼畜褌。既出ですか。すいません。
)名無し8番様
コメントありがとうございます。原作はネタの宝庫ですよ。この本のコンセプトは
二人の著者が作った外来語辞典、というもので、例えば『アスパラガス』なんかは
夜人を襲う凶悪な植物として描かれていたりするなど「ありえない」話が
非常に想像力を描き立てられます。
個人的には本作品の原作『K』と、『パン』をお勧めさせて頂きます。『パン』は
違う出版社で『パン屋再襲撃』という続編(的)が出版されておりまして、
こちらも秀逸ですよ。
糸井氏のエッセイ的な軽い文章はとても気持ちが明るくなれますよ。
)名無し9番様
コメントありがとうございます。アイロンの下りは原作を全くいじっていません。
ホント、作者の発想力はバケモノだと思います。阿求の原作側の人物は
税理士で、細かい数字を追っているこの職業を皮肉ったのだろうと
個人的に感じました。
※今作は読みづらいものだったかもしれませんが、このように多くのコメントを
頂いて、感激です。今一度、ありがとうございました。
自分の感性と読解力のなさが悲しくなってくる。
で、一体誰?
やはりそこは、作者さまの腕と愛があってこそ出来うる話なのでしょうね。
原作はカフカの変身のオマージュなのだとか。
Rは誰なのか
Rは本当に玄関マットになったのか。
もしかしたら気持ちだけ玄関マットになったつもりじゃないのか
なにせ疲れているとはいえ霊夢が足を引っ掛けるぐらいだしな
ただ玄関でマットの気持ちになって横になっているだけかもしれない
面白かったです
シュールですね
原作を読んでみます。
アイロンでわらうことになるとは