夜になると寂しさを感じて誰かに会いたくなる。
それは私だけなのだろうか。
「妹紅、起きているか?」
「お、慧音か?まぁ上がってちょうだい。寒いでしょう。」
「あぁ、お邪魔させてもらうよ。」
私は歴史の半獣、上白沢慧音。幻想郷では珍しい人間と妖怪のハーフだ。
私は人間に対する意識が非常に強い。
妖怪の『人間を食物的に求める衝動』と人間の『人を愛する心』が重なったためではないかと考えているが、それは定かではない。
でも、傍に気軽話せる相手がいると、その人の所へと自然に足が動いてしまう。
「最近はよく来るようになったね。」
「いつも夜遅くに済まないな。特に用があって来たというわけでもないのだが。」
「いや、逆にそっちの方が嬉しい。なんか凄く親しまれている感じがするし。」
「そう言ってもらえるとこちらも嬉しい。」
妹紅はいつも私を笑顔で迎えてくれる。
この笑顔を見ると私の心が満たされていくのがわかる。
私はこの時、妹紅にどんな顔をしているのだろうか。
少しは彼女の笑顔に応えられる笑顔はできているのだろうか。
「今から羊羹を食べようと思ってたんだ。タイミングいいな、慧音。」
「この時間に羊羹か?あまり体に良くないと思うが。」
「何言ってるの。この時間に食べるから余計においしいんじゃない。大人のおやつってやつだよ。」
「まったく、しょうがない奴め。」
「慧音はいらないの?」
「馬鹿者。女の子は甘い物に弱いのだ。」
「くくっ、そうこなくちゃ。」
妹紅は羊羹を戸棚から、そして皿と包丁を食器棚から取り出す。
私も手伝いのつもりでお茶の用意を始めた。
こうやって共同作業をしていると二人で生活しているみたいで面白かったりする。
「慧音、お客さんなんだから座ってなきゃ。」
「いいんだ。私がやりたいことだから。」
そう、これは私がやりたいことなんだ。
妹紅と一緒に、妹紅と同じ、妹紅の隣で・・・唯一、他の誰にも譲りたくない私だけの仕事。
「そうか?じゃあ全部任せちゃおうかな。」
「何言ってやがんだ。」
「・・・ごめんなさい。」
妹紅の家には湯飲み茶碗は二つしかない。
まずこの家にくる客人は私か決闘目的で来る月の姫である。
だからこの二つの茶碗を使うのも私と妹紅だけ。
大した違いのない二つの茶碗はいつの間にかどちらが使うか決まって、雑貨屋で買った安物も今では夫婦茶碗のように重宝されている。
「・・・あぁ?」
「どうしたの?湯飲みになんか付いてた?」
「妹紅・・・この口紅の跡はなんだ?」
「あ、ごめん。ちゃんと洗えてなかったな。ちょっと貸してくれ。」
「これは誰のなんだ?」
「な、なに恐い顔してんのさ?」
「誰のなんだって聞いてんだよ!!」
「ひぃっ!?か、輝夜のです!」
そういえば最近は二人が暴れているという事を聞かないな。
二人の殺し合いも終わったということなのだろうか。
それなら喜ばしいことだな。心が大人に成長したということだ。
「・・・流し台を借りるぞ。」
「う、うん。」
流し台の中に置いてある、水が溜まった桶に茶碗を入れて洗う。
妹紅も一人暮らしが長いとはいえ、まだまだだな。
元から大雑把な性格だから仕方ないのかもしれないが、食器洗いもまともにできんとは。
やはり私がちゃんと世話をしてやらなければ人間らしい生活はできないのだろうな。
「ごめんね、なんか洗わせちゃって。」
「いや、いいんだ。ところで輝夜がきたのか?」
「あぁ、二日前になんか来てね。
妙に粧しこんでるから流石に殺しあうつもりはないってすぐわかったよ。」
「へぇ、珍しいな。何かしたのか?」
「いやぁ別に何も?なんか一方的に自分の服を自慢してきたよ。」
「はは、あいつらしいな。」
なんだ、女の子らしくていいじゃないか。
これから二人の関係はこうやって少しづつ変わっていくのだろうな。
私も色々な意味で妹紅と一緒に成長していきたい。
「私も悔しいからさ『私だってちょっとお洒落すればいい女になるんだぞ!』って言っちゃったよ。」
「お前は元がかわいいからな。」
「えー、そんなことないよ。」
流し台から戻り、再び妹紅と向き合う。
いつ見てもかわいい顔だ。
他の者に見せるのが勿体無いぐらいの国宝ものだ。
「慧音だってかわいいよ。」
「ははっ、褒めたって何も出ないぞ。」
正直かわいいと言われるのは嬉しいな。
しかし恥ずかしさもあって、私は目を逸らして『よく』洗った『自分』の茶碗に再びお茶を淹れた。
そして淹れたお茶をすぐに飲み干した。
熱さを感じながらも落ち着かない心をどうにかしたかったのだ。
「ふぅっ。」
ようやく落ち着いたところで再び妹紅を見た。
どうやら私を待っていてくれたようで、話の続きを聞かせてくれた。
ふふっ、かわいいやつめ。
「それでね、今度私に合う服を持ってくるらしくて、サイズを測ってもらったの。」
ぱりんっ
「あ、慧音!?茶碗が割れたよ!」
「・・・おい。」
「え?」
「それはどこまで測らせたんだ?」
「いやー・・・よくわからないな。恥ずかしながら服とかに疎いもんでね、へへ。」
「へへじゃねぇよっ!!!」
「ひぃっ!?」
「どこを測ったんだ!!?」
私たち二人の関係が世間的に秘密であっても、二人の関係の中で秘密という言葉は欲しくない。
私はそれを切に願う。
「は、裸になって色々触られた程度しかわからないですぅ・・・」
「ちぃッ!!」
私が知らない間にそんな信頼関係を築いていたか。
ちょっと嫉妬しちゃうかな。
でも、私は妹紅の一番の理解者であると自負している。
彼女のためなら私の全てを捧げてもいい。
「・・・妹紅、私もお前に合いそうな服を見つけたんだが。」
「え、ほんとに?今度持ってきてよ。」
「サイズを測りたいから服を脱いでもらってもよろしいか?」
「あぁ、輝夜がくれたメモがあるからそれを」
「輝夜に見せて私に見せられないってか?」
「い、いや、そういうわけじゃないですけど・・・」
「じゃあいいよな!?お前の全てを見せてくれるよな!?」
私は上白沢慧音。
誇り高きワーハクタクである。
いやこんなのもいいけどもww
旦那だと考えると怖い。
ていうか姫様も大概にしてくださいw
慧音は(過去は分かりませんが、少なくても現在は)『半獣』なので何も問題はないんですがね