『八』の ばいすうの なまえを もつてきは ⑨!
幻想郷は今、バカの坩堝と化していた。
患者の尻にネギを生ける藪医者、
ていへんかけるたかさ=あたい! と叫びだす天狐、
奇跡のシンクロを起こし参拝客の尻にオンバシラをぶち込む神、
ようじょのしたぎはあしたのげんき! という理論武装の元、目に付く幼女の服を切り裂くメイド長――
最悪だ。バカの楽園だ。
しかも実力はそのまんまだから手に負えない。
時を止めて服を切り裂くのはまだ解る。
でもネギ刺すだけの作業に天網蜘網捕蝶の法はおかしいよね。
『如何なる者も逃さない天にも地にも張り巡らされた光の蜘蛛の巣。監視から逃れる事はもはや不可能だ。ついでに映画倫理も監視するぞ』ってやかましいわ。
というか、アイシクルフォール(Easy)を使うノリでラストワード使わないで頂戴。
ネギ刺す前に被弾した人とか、尻が二つに割れてるじゃない。
……元から? ごめん。
出来ることならさっさと治してしまいたいが、幻想郷の便利屋ツートップがバカになっているから無理だった。
だと言うのに、始まりは紫の一言だった。
「幻想郷には『八』の名を持つ実力者が多いわね。ちょっとバカにしてみましょうか」
自分が含まれてることは考えてなかったの? バカなの? いや、バカだけど。
こんなことならまだ三の倍数でバカになってくれた方が良かった。
っていうか八の倍数で⑨って何でデスよりも条件厳しいのよ。チルノの癖して死を超越してんじゃないわよ。
「れいむ~、みてみて、けっかいにあなをあけてみたの~」
襖越しに紫の声。これ⑨化と言うよりも幼女化なんじゃないかしら。
言葉だけ聞くと特殊な性癖を持つ人はコロッと騙されそうだけどコイツ見た目はおいさっきなんつったババアァァァ!!!
必死の形相で紫の元へ駆け寄ると、そこには神社一個分の大穴。
様々なものが吸い込まれるようにして、外界に流れていく。
幻想郷終わったな。
怒りが三百六十度回ってヘブン状態に移行した。
さっさと穴を塞げば良いのに、ずっと突っ立ていたせいで被害が大きくなっていく。どうするんだろね、これから。
そんなことを思いながらボーッとしていると、目の前を大きな長方形の物体が横切った。
「私のお賽銭箱ッ!」
年中無休の賽銭箱に、何故私は反応したのだろう。今になっても解りません。
不覚に気付いて後ろを向くと、幼女のような老女の紫。
グッバイ楽園。こんにちは新たな私。
涙を拭いながら、私は外界に吸い込まれていった――
⑨
で、ここは何処だろう。
てっきり外界と繋がってるのかと思ったけど、なんか体が軽いし。
道行く人々が霊夢だ、腋巫女だと騒ぎ出した。何で知ってんの? ストーカーか? 殺すか? と思っていると、オンバシラとネギが尻に刺さった。グッジョブ、神奈子、永琳。
っていうかなんでこいつらまでここに居るんだろう。どうせなら早苗がくれば良かったのに。作者の趣味的な意味で。
無いものを嘆いても仕方が無いので、とりあえず前に進むことにした。
会う人皆が騒いでいるけど、数秒後には尻が刺さって目も当てられない状態になった。
見渡してみると標的は男だけのようだ。⑨化してもマナーは守る、何て立派なんだろう。
そんな真摯な立ち振る舞いに目頭が熱くなる中、咲夜は一人、裸の幼女を誘拐してきた。お前もう帰れ。
「警察の者ですが」
ほら見ろ警察来ちゃったよ。
赤の他人を装ってそそくさと立ち去ろうとする私。
すいませんね、私この子たちをお家に連れて帰らないとならないんで。
「テロ特別措置法により、貴方達を逮捕します」
肩をむんずと掴まれて、逃がしてはくれない。
そして女性な上に幼女で無いので、誰の助けも期待できなかった。対策が早すぎる。ここの警察は何て有能なんだろう。
しかし幼女営利(?)誘拐なら咲夜をサクリファイスに逃げ出すつもりだったが、テロ行為は身に覚えが無い。
その旨を伝えると、婦警は永琳と神奈子を顎で指した。そこには、花咲く笑顔で道行く男の処女を奪う破壊天使が居た。永琳とか、こういうときだけ天才性を発揮するから困る。手際の良さも相まって被害者は四桁を越えていた。すごいや、人類史上類を見ない性犯罪の完成だ。
って、いやいやちょっと待て。道行く男の処女を奪ったらテロですか。聞いたこと無いぞそんな事例。
「私もありません」
ですよねー。
⑨
で、結局捕まってるし。
あれから一ヶ月たった。日に日に刑務所が心地よく感じられる自分が嫌になる。これからどうなるんだろう。正直出オチの感が否めないから、そこらへんは作者にすら解らない。
神社に居た頃と全く変わらないご飯を喉に流し込んでいると、突如スキマが開いた。この展開はもしかして……。
「貴方も捕まってたのね。助けに来たわ霊夢。さっさとこんなところ脱出しましょう」
ほーら、紫だ。さすが便利屋トップタイ。ご都合主義にはもってこいだ。ていうかお前も捕まってたのか。何したんだ。
「それがここ一ヶ月のことは何も覚えてないのよ。咲夜とか永琳とかもそうらしいわ。気付いたら刑務所の中に居たとか」
仕方が無いので私は一ヶ月前に起こった事を説明した。
紫のとち狂った言動のせいでバカの楽園と化したこと。藍が実は平行四辺形だったこと、神奈子と永琳、奇跡のツートップが完成したこと、紳士条約を土足で踏みにじった咲夜が幼女を誘拐したこと――
最初こそ胡散臭い笑みを絶やさなかったが、話が進むにつれ神妙な面持ちになっていった。反省したのだろうか? そんなことを思っていると、紫が言った。
「陰謀の香りがするわね……」
するかボケ。
⑨
そんなこんなで色々あったけど、私は無事幻想郷に戻ってこれた。
これが幻想郷縁起に書かれていた月面戦争の真相だ。
幻想郷の精鋭達が、化学兵器どころか公僕一人に負けている。月とは恐ろしいところだ。
もうあんな体験はこりごりなので、紫にはきつく言いつけておいた。
それが功を奏したのかは定かではないが、みんな以前のような奇行に及ぶことは無くなった。
咲夜は完全で瀟洒な従者に戻った。夜の王に向ける、満月のような笑みを携えて。
藍は常識的な苦労人に戻った。橙に向ける愛情は、或いは親バカと言えるのかも知れないが、それは大妖怪の見せる温かみのある一面でもある。
永琳は天才の名を取り戻した。だというのに彼女は、今日も必死で薬を配るために東奔西走する。それすらも楽しいとでも言うように。
神奈子は親しみと威厳を兼ね備えた神に戻った。今日も彼女は、己を信じる者を、いや、信じない者にすら人徳を分け与える。信じることの大切さを、誰よりもよく知っているから。
みんな、あるべき位置に戻った。
楽園は今日も何事も無く回っている。この前の⑨騒ぎなど、無かったかのように。
全ては元に戻り、バカの発作は収まった。
そう、全ては、⑨(まるく)収まったのだ――
うめええええwwwww
でもそれ以上に最後のが上手すぎるwwww
そっか、公僕に負けるのか…w