ぼ
く
の
か
ん
が
え
た
さ
い
ぎ
ょ
う
あ
や
か
し
――嗚呼。
「何て綺麗で……大きな桜なんだろう……」
大きなスコップを担いで、私はそう呟いた。
――桜(あなた)は、人を狂わせすぎる。
――――
桜の花弁が(ひらり)そうひらりと舞って私の盲目の如く狭き世界しか見(まみ)えぬ目の前を(ひらり)通過する。
そよ風が流れて(ひらり)花弁はスイミー(ひらり)のように群れとな(ひらり)り桜の木から新たに花弁が散(ひらり)る。
それ(ひらり)何度も繰り返さ(ひらり)れて桜吹雪どこ(ひらり)ろかまる(ひらり)で桜(ひらり)雪崩(ひらり)の(ひらり)よ(ひらり)(ひらあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!! ひらひらひらひらやかましいわっ!!!!
そう叫んで桜の魚群を血に伏さんと手刀を振るうと、なにやら覚えのある匂いが鼻腔を貫いた。
ああしっているぞ。
この酸化した鉄屑のような匂い、
美しく人工物として最高の輝きを得た誇り高き銀を劣化させた出来損ないのような匂い、
中世の時代から吸血鬼の餌と成り下がった人体の足かせのようなこの匂いは、
スッと桜の花弁の匂いをかいだ。
それだけで快感の余り腰が抜けそうになる。
血だ。
血の、匂いだ。
その匂いは一瞬にして私の鼻腔を蹂躙し、荒廃させ、犯すようにしながら体中に廻ってやがて私の血の一切合財と混血(ブレンド)した。
ああ、ああ……ああ!!
そうなのね。そうなのね!
同士がいるのね!
私と同じく桜に魅せられ視界から入り込んだ無限の悦びに支配された者がッ!
ならば――
私はそう思い、須臾の間に手の平に貯めた桜の花弁を飲み干した。
もぐもぐもぐもぐもぐ、ごっくん――
嗚呼――
私はとうとう、瞬く間に訪れる限りない快感に、腰を抜かして膝を折った。
先程の血の匂いは、やはり人間のものだ。
ならばこの松坂牛すら小屋を突き破って逃げ出すこの通をも唸らず絶品具合は……
人間だ。
人間だった者の、肉の味だ。
「うふふふふふふふふうふふ」
抜かした腰をそのままに、私はシャベルで土を掘った。
腕の力だけで掘れるものかと不安になったがしかし、土はプリンのように軽々と掘れた。
……もしやこれは本当にプリンでh「ジャリジャリ」まずッ! 土じゃねえか!
そんな三文自己対談コントを繰り広げているうちに、目的のものを掘り起こした。
死人のように白い体躯。
細すぎる手は花弁すら掴めず、細すぎる足は自らの体を支えることすら出来ず。
骨だった。
人間だった者の、骨だ。
「ああっ……!」
ひしと抱き合う私と……骨。
やはり居たのね、人間の分際にして桜に魅せられた愚かな私の同種!
身を桜に捧げて朽ちらせた先駆者をなんと呼べばいいのだろう?
兄弟?
穴から掘り出したから穴兄弟?
……ううん、卑猥だわ。この桜の前では全てを清く保っていないと!
「貴方の名前は何だった?」
返事は無い。
ならばなんと呼びましょう?
名前が無いのは不便だわ。
家族……いいえ、兄弟……いいえ、双子……いいえ。
どれも似つかわしくない。
桜が貴方で……いや、貴方でさえ桜に宿る無限の意思の一つならば……。
「初めまして……『私の一部になる者』」
抱擁、接吻して再び骸を土に帰す。
さようなら、横たわる……『私の一部になる者』
私は亡骸を埋めた隣に穴を掘る。
先程の亡骸が居た位置よりも、ずっとずっと深く深く。
やがて私は、穴を掘り終えた。
人一人入れるくらいの大きな穴。
私は空を飛んでその穴を俯瞰する。
まるで地獄が大口を開けているよう……しかし、私は、天よりも更に祝福に満ちた世界への穴を開けたのだ。
私は自分が掘った穴に入り、土をかぶせて地中に埋まった{どうやって埋まったかはな・い・しょ!(はぁと)}
そして私はその中から、大地を震わす裂帛の気合で叫んだ{どうやって叫んだかはな・い・しょ!(はぁと!)}
「名も知らぬ麗しの桜よッ!!」
穴の中で、桜の木を支えるような体勢で踏ん張る。
自己主張の乏しい胸から今にも飛び出さんとする心臓(いけにえのいちぶ)を必死で抑えて、私は続ける。
「私は貴方に魅せられた! もし望んで叶うことならば、どうか私の献身を受け止めていただきたい! 我が望みは唯一つ! 『貴方を支える骸になることッ!』」
途端。
私の足に、腹に、薄い胸に、首に木の根が絡みつく。
「っあ……」
木の根元が脈打つ。
それと同時に私の体が音速の如くやつれていった。
肉は腐り、脳がトロけて流れ出す――
――独白(らすとわーど☆)――
こうして私の一生は終わりを告げたわけでございます。
母体の中で安堵のみを貪み人間という社会の奴隷となる前に死んだ赤子と、奴隷に成り下がることを条件に生きながらえた私とどちらが幸福なのでしょうか? 聞くまでもありませんね。
故に私は母なる大地に還るのです。
本当は母の体に還りたかったのですがそれは叶いそうになかったので、銀河一素晴らしい桜の下で、銀河一素晴らしい桜を支える誇りに酔いしれながら、永眠(ねむ)るのです。
ああ、おかあさんおかあさん。
母体回帰。母体回帰。
この桜はまるでお母さんのようです。
このさくらのきにねむるいしきのひとつになるのは、たいそうあんどできるのでしょうね――
――遺言(おーわり☆)――
そして私は、この桜――西行妖と言うらしい――の一つとなった。
無限の意識の一つとなった。
争いも諍いも無い、死しても死せぬ精神世界。
私は桜、桜は私。
孤独も恐怖もありゃしない。
ああ、何て素晴らしいんだろう!
この素晴らしさを、目の前でシャベルを持って惚けている男にも伝えてやりたいっ!
どうやって伝えてやろうかと悩んでいると、男が口を開いた。
「何て綺麗で……大きな桜なんだろう……」
――嗚呼。
そうだ、忘れていた。
たったついさっきのことなのに。
そして、恍惚とした表情を浮かべる男を見て思い出した。
桜(わたし)は、人を狂わせすぎる――
――ボーダーオブライフ(人はどこからどこまで生きていて、どこからどこまでが死んでいると言えるのでしょーか?)――
く
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た
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か
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――嗚呼。
「何て綺麗で……大きな桜なんだろう……」
大きなスコップを担いで、私はそう呟いた。
――桜(あなた)は、人を狂わせすぎる。
――――
桜の花弁が(ひらり)そうひらりと舞って私の盲目の如く狭き世界しか見(まみ)えぬ目の前を(ひらり)通過する。
そよ風が流れて(ひらり)花弁はスイミー(ひらり)のように群れとな(ひらり)り桜の木から新たに花弁が散(ひらり)る。
それ(ひらり)何度も繰り返さ(ひらり)れて桜吹雪どこ(ひらり)ろかまる(ひらり)で桜(ひらり)雪崩(ひらり)の(ひらり)よ(ひらり)(ひらあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!! ひらひらひらひらやかましいわっ!!!!
そう叫んで桜の魚群を血に伏さんと手刀を振るうと、なにやら覚えのある匂いが鼻腔を貫いた。
ああしっているぞ。
この酸化した鉄屑のような匂い、
美しく人工物として最高の輝きを得た誇り高き銀を劣化させた出来損ないのような匂い、
中世の時代から吸血鬼の餌と成り下がった人体の足かせのようなこの匂いは、
スッと桜の花弁の匂いをかいだ。
それだけで快感の余り腰が抜けそうになる。
血だ。
血の、匂いだ。
その匂いは一瞬にして私の鼻腔を蹂躙し、荒廃させ、犯すようにしながら体中に廻ってやがて私の血の一切合財と混血(ブレンド)した。
ああ、ああ……ああ!!
そうなのね。そうなのね!
同士がいるのね!
私と同じく桜に魅せられ視界から入り込んだ無限の悦びに支配された者がッ!
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私はそう思い、須臾の間に手の平に貯めた桜の花弁を飲み干した。
もぐもぐもぐもぐもぐ、ごっくん――
嗚呼――
私はとうとう、瞬く間に訪れる限りない快感に、腰を抜かして膝を折った。
先程の血の匂いは、やはり人間のものだ。
ならばこの松坂牛すら小屋を突き破って逃げ出すこの通をも唸らず絶品具合は……
人間だ。
人間だった者の、肉の味だ。
「うふふふふふふふふうふふ」
抜かした腰をそのままに、私はシャベルで土を掘った。
腕の力だけで掘れるものかと不安になったがしかし、土はプリンのように軽々と掘れた。
……もしやこれは本当にプリンでh「ジャリジャリ」まずッ! 土じゃねえか!
そんな三文自己対談コントを繰り広げているうちに、目的のものを掘り起こした。
死人のように白い体躯。
細すぎる手は花弁すら掴めず、細すぎる足は自らの体を支えることすら出来ず。
骨だった。
人間だった者の、骨だ。
「ああっ……!」
ひしと抱き合う私と……骨。
やはり居たのね、人間の分際にして桜に魅せられた愚かな私の同種!
身を桜に捧げて朽ちらせた先駆者をなんと呼べばいいのだろう?
兄弟?
穴から掘り出したから穴兄弟?
……ううん、卑猥だわ。この桜の前では全てを清く保っていないと!
「貴方の名前は何だった?」
返事は無い。
ならばなんと呼びましょう?
名前が無いのは不便だわ。
家族……いいえ、兄弟……いいえ、双子……いいえ。
どれも似つかわしくない。
桜が貴方で……いや、貴方でさえ桜に宿る無限の意思の一つならば……。
「初めまして……『私の一部になる者』」
抱擁、接吻して再び骸を土に帰す。
さようなら、横たわる……『私の一部になる者』
私は亡骸を埋めた隣に穴を掘る。
先程の亡骸が居た位置よりも、ずっとずっと深く深く。
やがて私は、穴を掘り終えた。
人一人入れるくらいの大きな穴。
私は空を飛んでその穴を俯瞰する。
まるで地獄が大口を開けているよう……しかし、私は、天よりも更に祝福に満ちた世界への穴を開けたのだ。
私は自分が掘った穴に入り、土をかぶせて地中に埋まった{どうやって埋まったかはな・い・しょ!(はぁと)}
そして私はその中から、大地を震わす裂帛の気合で叫んだ{どうやって叫んだかはな・い・しょ!(はぁと!)}
「名も知らぬ麗しの桜よッ!!」
穴の中で、桜の木を支えるような体勢で踏ん張る。
自己主張の乏しい胸から今にも飛び出さんとする心臓(いけにえのいちぶ)を必死で抑えて、私は続ける。
「私は貴方に魅せられた! もし望んで叶うことならば、どうか私の献身を受け止めていただきたい! 我が望みは唯一つ! 『貴方を支える骸になることッ!』」
途端。
私の足に、腹に、薄い胸に、首に木の根が絡みつく。
「っあ……」
木の根元が脈打つ。
それと同時に私の体が音速の如くやつれていった。
肉は腐り、脳がトロけて流れ出す――
――独白(らすとわーど☆)――
こうして私の一生は終わりを告げたわけでございます。
母体の中で安堵のみを貪み人間という社会の奴隷となる前に死んだ赤子と、奴隷に成り下がることを条件に生きながらえた私とどちらが幸福なのでしょうか? 聞くまでもありませんね。
故に私は母なる大地に還るのです。
本当は母の体に還りたかったのですがそれは叶いそうになかったので、銀河一素晴らしい桜の下で、銀河一素晴らしい桜を支える誇りに酔いしれながら、永眠(ねむ)るのです。
ああ、おかあさんおかあさん。
母体回帰。母体回帰。
この桜はまるでお母さんのようです。
このさくらのきにねむるいしきのひとつになるのは、たいそうあんどできるのでしょうね――
――遺言(おーわり☆)――
そして私は、この桜――西行妖と言うらしい――の一つとなった。
無限の意識の一つとなった。
争いも諍いも無い、死しても死せぬ精神世界。
私は桜、桜は私。
孤独も恐怖もありゃしない。
ああ、何て素晴らしいんだろう!
この素晴らしさを、目の前でシャベルを持って惚けている男にも伝えてやりたいっ!
どうやって伝えてやろうかと悩んでいると、男が口を開いた。
「何て綺麗で……大きな桜なんだろう……」
――嗚呼。
そうだ、忘れていた。
たったついさっきのことなのに。
そして、恍惚とした表情を浮かべる男を見て思い出した。
桜(わたし)は、人を狂わせすぎる――
――ボーダーオブライフ(人はどこからどこまで生きていて、どこからどこまでが死んでいると言えるのでしょーか?)――
……霊夢の2Pカラーでな
落ち着け
でもまぁ少し落ち着いた方がいいんじゃないっすか
桜を地中から支える人間がタイトルなのでしょうか!
イセンケユジさん、タイトルとSSの関係について説明お願いします!
山ほど乗せてくれたような作品だと言わざるを得ない。
さn(ry