あらすじ
紅魔館の以下略
妹様とやらにと一方的に遊ばれた後
聞いて見ようとしたけど寝てしまった
そのために代わりに副メイド長が語って
くれた。当初と目的ずれたけど気にしない
ついでに今妹様はベッドの上で
副メイド長に膝枕をされて寝ている
もちろん寝顔は写真に撮っておいた
一枚500円で売るつもり
―吸血鬼の妹の場合―
ふふふ、やはり寝ている間は
破壊と狂気の申し子と恐れられた
妹様といえど可愛らしいですわ
生まれた頃もとても可愛らしかったですけど
それこそ吸血鬼なのにまるで天使のようで
昔も生まれて数年間は私もこうして膝枕を
してあげてたりしたのですが……
ですが美鈴さんの方がお気に召されていまして
やはりよく遊んであげていたからでしょうね
まるで親子のように……
そうですね、本題に入りましょうか
自分に苦しむ吸血鬼の子供と母親のような優しさを持つ妖怪の昔話を……
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
彼女、フランドール・スカーレットは
レミリアの妹としてレミリアの五年後に生まれた。
彼女達の父親は跡取りとして男が生まれてこないことに
嘆いていたがそれでも幸せだったという。
それこそ幼い頃は二人とも吸血鬼なのに
まるで天使のように可愛らしかった。
フランドールが普通に歩けるようになると
彼女の世話はそのときのメイド長、現在の
副メイド長がレミリアも共に担当した。
姉妹の母親は病弱であったからだ。だが母親は毎日の
ように彼女達の元に会いに行き話をしていたという。
だがメイド長はメイド達の長であったために
仕事に追われることもあった。
そのときに世話をしていたのが門番隊の隊長、
紅美鈴だった。
それこそ主と長い付き合いをしていたため
信頼を得ていたからであった。
それだけでない、長い間生きてきた経験と
その知識が彼女達姉妹のためになると思ったからだ。
そのときの美鈴自身も満更では無かった。
未来の主となろう姉妹の世話を出来る事が
嬉しかった。
最初、姉妹はメイド長、美鈴共に慕っていたが
やはり、メイド長は仕事が多く特に主とその妻の世話
をしなければならなかった。そのせいか美鈴を慕って
付いて回ることが多くなった。暇があれば日傘を持って
門前へ美鈴に会いにくこともあった。
恐らく彼女の母親みたいな優しさと包容力も
あったからだろう。そして教育をメインとしていた
メイド長よりも遊びをメインとしていた美鈴の
方が親しみやすかったのであろう。吸血鬼といえどやはり
子供である。
だが美鈴もただ遊んでいただけでない、彼女の場合は
よく遊び、そこからよく学べと言ったところだろう。
それも母親みたいな優しさから来たものだった。
気が付けば姉妹の様子を見ていた主がメイド長を教育係、
美鈴を普段の世話係に命じた。
さすがに門番長が門前を離れることはどうかと思ったが
そのころの人間や妖怪は吸血鬼を恐れ昼間であっても
襲撃することがまったくなかった。
来るのは命知らずの小物か武術の達人である美鈴と手合わせを
しにくるものだけだったので了承した。
それからしばらくの間
美鈴は姉妹の普段の世話係として務めた。
食事は彼女が料理したものをマナーを少しずつ教えながら
時にはメイド長も入れて一緒に食べた。
お茶の時間はメイド長と共に絵本にはなっていない為になる話を
おもしろおかしく聞かせた。
遊ぶときは三人で仲良く、子供らしい遊びをした。
お風呂は嫌がる姉妹をやんわりと説得し三人で入った。
寝るときは姉妹に腕枕をして寝ていた。
メイド長は二人が美しいレディに、夜の王になるように
精一杯教育した。マナーしかり、言葉遣いしかり、
戦闘しかり、吸血鬼としての誇りしかり……
時には門番も入れて遊びながら
そんなことが続くと思っていたが時は無常にも進む。
やがてレミリアの能力が発現した。
レミリアの能力は『運命を操る程度の能力』だった。
絶対的な吸血鬼の王として似合う能力だと
主は喜んだ。
だが今のレミリアからは想像がつかないほど
能力には振り回されていた。
見たくも無いのに見えてしまう運命。
自分が殺される運命、主である父親が死ぬ運命、
メイド長を殺す運命、門番が消える運命。
その中にはフランが実の母を殺してしまう運命も
あった。
それは経験豊富な美鈴とメイド長が彼女をサポートし、
そしてレミリア自身も能力を自在に扱えるように努力
した結果思い通りに使えるようになり
そんな嫌な運命は消してしまった。
だがただ一つを除いては。それは消したはずだった。
そして消したために、安心しきっていたために起きた
不幸な運命だった。
やがてそれは現実になってしまう。
ある紅い満月の日、フランドールは昼寝(我々から見たら
普通の睡眠時間であるが)から目覚めた。
美鈴と姉であるレミリアが寝息をたてているなか
一人で。そして何を思ったのだろう、彼女は
部屋を出てある部屋へと向かった。
母親の部屋だった。
そうフランドールは突然母親に会いたくなったのだ。
それが不幸への道しるべと知らずに
部屋に入ると母親は椅子に座り本を読んでいた。
フランドールは母親へと歩み寄る。
母親はフランドールに気付くと本に栞を挟み机の上に置き
フランに『どうしたの?』と聞き、頭を撫でようとかがみ手を伸ばす。
そのとき母親の手が消えた、いや一瞬で吹き飛び灰になったのだ。
この瞬間二人には何が起きたのか解らなかった。
だから怖くてフランドールは母親に手を伸ばす。
右膝に。右足が吹き飛び灰になる。
胸に。胸に穴が空き血が湧き出る。
顔に。顔が吹き飛び血が吹き出る。
そして、母親だったものは椅子から転がり落ちる。
彼女の母親は彼女によって『壊された』のだ。
この日、フランドールの能力が発現した。
『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』
その第一の被害者は悲しくも彼女の母親だった。
だがフランドールは気付いていない。
自分が無意識の内に能力を発動させていて
そのせいで母親が『壊れて』しまったことに。
母親の血で真っ赤になったフランドールは何が起きたか理解できずにただ母親だったものを見る。
幼い彼女にはこの状況は辛すぎた。
母親は自分を撫でようとした、そしたら手が消えて、私が膝に触れたら脚が消えて……
頭の中で今までのことが何度も繰り返される。
「フラン…………?」
そのとき、自分のよく知る声が聞こえた。その声の主は部屋の入り口から
フランドールと母親だったもの、そして床に広がる鮮やかな紅い血を見ていた。
フランドールの大好きな姉、レミリアだった。
レミリアの顔は驚きと怯えを持っていた。その惨劇を見てしまったのだ。
レミリアは嫌な夢を見て飛び起きた。それはフランが母親に触れて殺してしまう夢。
予知夢だったのだ。そのとき、彼女は美鈴を起こさずに母親の部屋へと走った。
そんな筈は無いと、そんな運命は消してしまったと。だがすでに遅かった。
もしもっと早くその夢を見ていれば、運命を見ていればこんなことにはならなかった。
運が悪かったのだ。それだけ、ただそれだけ。
まだ精神が幼いフランドールは何が起きたか解らないといったただ呆けた表情でレミリアを見ていた。
だが目の焦点は合っていない。ただ目の前の状況を理解できず虚ろにしていた。
レミリアは目の前の現実に恐怖し、
「いやぁああああああああああああああぁ!!」
叫んだ。そしてフランは意識を暗闇へと手放し、鮮血の海に体を沈めた。
フランが起きた場所はベッドの上だった。だがどこの部屋かは解らなかった。
周りには誰もいない。父親もメイド長も美鈴もレミリアも。
その部屋にあるのは衣装ダンスとベッドとテーブルと椅子が二組だけ。
明かりは小さなランプが数個。窓は無く、まるで密室。
今まで姉のレミリアと共にいた部屋とは大違いだった。
やがてフランドールは自分がここで起きる前の、あの惨状を思い出す。
自分が何をしたのか?まだ理解出来なかった。だが一つだけ解ったのは
母親が死んだということだった。だが自分が原因だとは思わなかった気付けなかった。
母親が死んでしまった。突然、自分の目の前で、自分が手を伸ばしたら。
やがて部屋の扉が開かれた。その扉は重圧な退魔の術が施された銀の扉。この部屋と外を唯一繋ぐ出入り口。
部屋に現れたのは父親とメイド長、そして美鈴。もちろんレミリアと壊された母親はいない。
フランドールはその三人が来てくれたことに喜んだ。そしてあの紅い満月の夜に母親にしたように
歩み寄る。
「お待ちください妹様」
だがそれは許されなかった。美鈴が右腕を前に出しいつもと違う険しい表情でフランドールを止める。
それに気圧されフランドールは止まる。何故?いつも自分に優しい美鈴がどうしてそんな顔して私を止めるの?
幼い彼女はただ腕を突き出したままメイド長へと目配せする美鈴を怯えた顔で見ていた。
「……今は発動していないようです」
「そう」
「でもいつ発動してしまうか……そこまでは解りません」
「それでいいわ」
メイド長の言葉にホッと胸を撫で下ろし美鈴は突き出していた腕を下げる。
そして両腕を広げて怯えているフランにいつもの笑顔を見せた。もう来ていいという意思表示だった。
それを理解したフランドールは明るい笑顔になり美鈴に歩み寄る。メイド長も柔らかい表情で見ていた。
だが一人は今だ険しい表情だった。
「待て、まだ話は終わっていない」
「っ、ですが親方様」
「待てと言っている。それに話し終えてからでもよかろう」
「……解りました」
親方様と呼ばれた吸血鬼。フランの父親だった。フランの父親は美鈴を止め
フランに鋭い眼で睨みつける。美鈴に近付こうとしたフランは足を止め父親を見る。
いつになく険しい顔。そして絶対的な何かを持つ瞳。フランはそれに恐怖して足を止めたのだ。
気が付けばメイド長もさっきまで笑顔だった美鈴も険しい顔になる。フランは更に不安になる。
そして父親は口を開いた。
「フラン……お前には辛いが話さなければならないことがある」
それは決意の籠った声だった。これから幼いフランに伝えなければならないこと。それは重すぎた。
「フラン、お前の能力についてだ。お前の能力は『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』と
いうものだ。名の通り様々な物を破壊する。
それはとても危険なものだがお前はそれをまだ扱えない。時折無意識に発動して
触れるものを壊してしまうのだ。壊してしまう。言葉で言えばあっさりしているがとても深刻な
ことなのだ。ここでお前には辛いことだが事実を話さなければならない。
お前の母親はフラン、お前が『壊してしまった』のだ。そう『無意識に殺してしまった』のだ。
すまないがこれは隠さずに伝えなければならない。」
その言葉に従者二人の顔は暗くなる。辛いことだった。フランも驚きを隠せない。
だがそれは能力のことより自分が母親を殺したという事実の方が強かった。
フランドールにとって殺すとは地面を歩くアリを踏み潰すというただ簡単なことだった。
それは幼い彼女にとっては遊びみたいなものだが小さくとも生きている。
むやみやたらに殺してはいけないとメイド長と美鈴に教わった。
その小さな命のようにフランは母親を殺してしまった。
それを幼い心で理解したのだろう彼女の体は寒くも無いのに震え始める。
「そしてこれからが本題だ。お前はその能力を無意識に発動させて触れるものを壊してしまう。
物でも人でも何でもだ。今まで使っていた玩具や食器、世話をするルキューレや
美鈴その他のメイド達も壊してしまうかもしれない。それらに被害を出さないためにも
お前が能力を自分の意思で扱えるようになるまではここで生活して貰う。もちろん食事などは
しっかりと与えてやる。心配するなお前の事を誰も責めたり捨てたりしない私達は家族なのだからな」
淡々と語る父親。それをフランは震える体で聞くしかなかった。これからの今までと違う環境に不安だった。
そして先ほどの母親について自分を責めていた。いや、自分の能力を責めていた。何故こんな
能力なのかと。憎かった。ただ憎かった。自分の能力を話を聞きながらも憎んでいた。
そしてこのときもう一つ憎んでいたことがあった。姉のレミリアだ。レミリアの能力は『運命を操る程度の能力』。
その能力でこの運命を消してしまわなかったのか?どうしてその運命を見ることが無かったのか?
尊敬し、愛する姉なら……そう思った。もちろん消せなかった理由は先ほど書いた通り消したはずだったのだが
何故かそれは現実になった。運命とは無限の選択肢、レミリアはその『フランの能力によって母親が死ぬ』という
一つの運命の『一つ』を消したに過ぎなかった。それは小さな油断だった。
だが今更それを責めても意味は無い。過去を変えることは出来ないのだ。
だから憎むことしか出来なかった。自分を、そして姉を。
他人から見たらこれはただの八つ当たりかもしれない。だが姉のレミリアも自分がしっかりしていればと
自分を責めていた。そしてそれで妹に憎まれても恨まれてもそれは本望だと後に語る。
「大丈夫だ。お前なら姉のレミリアのようにすぐに能力を扱えるようになるさ。ルキューレと美鈴も
お前をサポートする。それにここにいるからって遊べないわけではない。館の皆がお前を愛しているのだ。
すぐに寂しくなってここに遊びにくるさ。ただ生活する場所が変わっただけ、ただそれだけだ」
「安心してください妹様。私達が精一杯妹様を支え、世話をしますから」
「そうです。頑張って能力を自分の意のままに扱えるように頑張りましょう。扱えるようになれば
すぐにお嬢様と遊べるようになりますよ。必ず」
そういい三人はフランに微笑む。それにフランの顔は僅かに緩む。その言葉が本当のことだと思って。
「それでは妹様、あのことでまだ疲れているでしょうから寝ましょう」
「明日の朝、私とルキューレでお食事をお持ちします。そのときにこれからのことを話しましょう」
「おやすみなさい。フラン」
あのこととはフランが母親を殺したことである。それが伝わったのか解らないがフランは頷く。
そして三人は主を先頭に部屋を出て行く。最後に美鈴が『おやすみなさいませ』と言い扉を閉められた。
その扉の向こうから聞こえるのは鍵の音。フランは完全に閉じ込められた。
だが今は不安だとは思わなかった。また明日会いに来てくれると、そう信じて。
心の奥では自分の能力を憎み続けながら。
翌日の朝、美鈴とメイド長が自分達の食事と共にフランの部屋に訪れた。このときフランは自分の能力
が発動しないことを願った。発動して二人を壊したくないから。
そのことを話すと美鈴は笑顔で頭を撫でながらこう言った。
「そう思うことが大事なんです。今は願うだけしかできないでしょうがそのうち『発動しない』と
強く思うようにすれば無意識に発動しないようになりますよ。お嬢様みたいに」
「努力することが大事なのです。お嬢様もそうして扱えるようになったのです。だから頑張りましょう」
メイド長も口をそろえる。そして三人で少し遅い朝食をとりこれからのことについてフランドールは
二人から話を聞いた。食事について、遊びについて、能力の制御について……。
食事は決まった時間にメイド長が運びに来る。遊びは後で使っていた積み木や人形をメイドが持ってくるという。
他にも歌やおとぎ話などを聞かせてくれるらしい。能力については一日に一回メイド長と美鈴の二人で指導するという
ものだった。そして今日からそれが始まる。フランは早く扱えるようになろうと、すぐに元の生活に戻れるようにと
これから頑張ろうとそう思った。
だが現実は残酷だった。それから毎日のように、それこそ長い間能力を自分の意のままに使えるようになろうと
フランドールは努力した。そして美鈴とメイド長も支えた。だが一向に使えるようにならない。
気が付けば何かを壊していた。食器を積み木を人形を遊びに来たメイドを。
メイド達は父親の言うとおりに遊びに来てくれた。話を聞かせてくれたり歌を歌ったり能力が発現する以前と
同様に接してくれた。だからフランドールは壊さないようにと能力が発動しないようにと強く思った。だが
発動してしまいメイドが壊れてしまう。どんなに壊したくなくても触れれば壊れてしまう。
ついでに現在の紅魔館で先代の主の頃から、千年以上仕える従者が美鈴とルキューレと後片手で数える程度しか
いないのだがその理由の一つがフランドールの能力だった。ある者は壊され、ある者は能力に恐怖し逃げ出したのだ。
フランドールはメイドを壊すたび自分の能力を憎んだ。能力に振り回される力の無い自分を憎んだ。
だがそんなことをしても何も解決はしなかった。逆に底なしの沼へと沈んでいく。
彼女の中に行き場の無い憎悪が徐々にもう一つの彼女を作っていた。『狂気』という名の彼女を。
そしてそれは大きくなる。
やがて彼女の元へ来るメイドはいなくなった。来るのはメイド長と美鈴と食事を嫌々運ぶメイドだけ。
彼女は自分の能力に恐怖して自分を嫌い離れていったメイドを憎んだ。
彼女はメイド長から外の出来事を話してもらった。内容でよく耳にしたのは愛した姉であるレミリアのこと。
レミリアが何をして怒られたとか褒められたとかそんなことだった。だがフランドールはそれを嫌な気分で聞いていた。
何故自分がこんな扱いを受けているのに姉は幸せそうにぬくぬくと生活しているのが気に入らなかった。
彼女は自分と違ってぬくぬくと生活しているレミリアを憎んだ。
彼女は憎み、憎んで、憎み続けて。それは『狂気』というもう一つの彼女を作っていった。
だが誰もそれには気付けない。誰にも止められなかった。
やがてそれはコップに入り切らなくなった水のように溢れ出した。
その引き金はメイド長だった。フランドールは自分に優しく支えてくれるメイド長を壊したくなかった。
だからメイド長を拒むようになっていた。だが能力の制御のためにはメイド長はフランドールと一緒に
いなければならなかった。そして上達したようなら褒め、何か悪い点があったら指導しなければ
ならなかった。だがある日の褒めるのに使った言葉が悪かった。
「とても上手になりましたね。これならレミリア様とまた一緒に生活出来る日もそう遠くは無いでしょう」
実は何度も聞いたことがある言葉だった。
またその言葉?もう聞き飽きた。お姉さまと一緒に暮らす?私と違ってぬくぬくと生きている奴となんて嫌だ。
負の感情のスパイラル。やがてそれは憎しみとなりもう一つの彼女を呼び覚ます。
瞬間、メイド長の右腕が吹っ飛ばされた。フランドールの放った弾によって。メイド長の顔が痛みと驚きで
歪む。それを見てフランドールは笑っていた。ただ狂ったように。メイド長はその顔に恐怖した、そして心を
見て愕然とした。純粋過ぎる狂気に支配されていたのだ。メイド長はまずいと思って銀のナイフを数本取り出し
フランドールに向かって投げ出口へと走る。テレパシーで主なり美鈴なりに伝えてからでは遅い。
早く外に出て扉を閉めなければ被害が大きくなってしまう。そう考えた。だがそれは許されなかった。
フランドールに向けて投げたナイフはその目の前で粉々になった。そしてフランドールは逃げられないように
メイド長の右足を放った弾で吹っ飛ばした。メイド長は出口の手前で倒れる。ただもがくメイド長。
それにフランドールは壊れた笑顔で近付く。このときメイド長は死を悟った。だがそれは意外な救世主に
よって防がれる。出口から高速で何かが突っ込んできてフランドールを吹っ飛ばした。その物体には
蝙蝠の羽と水色の髪。レミリアだった。その後ろから美鈴もやってきた。
レミリアが昼寝をしていたときまた予知夢を見たのだった。今度は美鈴を起こしてすぐに
フランドールの部屋へとやってきたのだ。今回は早く見ることが出来て大事には至らなかったのは幸いだった。
レミリアは小さい体でメイド長を抱き上げるとすぐに飛んでいってしまった。美鈴は部屋の重圧な扉をすばやく閉める。
そしてフランドールはまた部屋に閉じ込められた。彼女はレミリアに吹っ飛ばされ壁に叩きつけられていた。
そのショックだろうか正気を取り戻したが、先ほどまで自分が何をしていたのかをはっきりと覚えていた。
自分の意思で好きだったメイド長を壊そうとした。それが事実。彼女はその事実に失望した。自分には力が無いと。
そして彼女は大声で泣き始めた。
メイド長はすぐに回復した。一応彼女も長く生きている妖怪である。腕や足をを吹っ飛ばされたくらいでは死なない。
二週間で仕事に戻ったのだがフランはその二週間で大きな変化を見せていた。
能力を自分の意思で扱えるようになったのだ。だがそれは悪い方向で力が発揮される。
いらないおもちゃは壊した。食事を運びに来たメイドをなんとなく壊した。ひたすら自分の思いのままに
壊した。それだけでない、狂気に魅入られるようになった。気が付けば狂気というもう一人の自分に支配され
部屋の中で暴れた。弾を撒き散らし、飛び回り、ただ狂気に従うまま暴れた。
だがこれらで彼女の心がすっきりする訳が無く、後には酷い後悔が残った。それは狂気というもう一人の
彼女を成長させるだけに過ぎなかった。
このときフランの父親である館の主はフランドールを安楽死させることも考えた。打つ手が無いと、このままでは
彼女は完全に狂気に囚われて大変な事になると。そうなる前に可哀想でも彼女を死なせることが一番の幸せだと
そう思った。だが一人は諦めていなかった。ずっと世話をしてフランを見てきた美鈴だった。
必ずフランドールは能力が発現する前の優しいフランドールに戻ると、だから待ってくれと説得した。
主はその思いに折れた。その代わりに美鈴がフランドールの世話をすることになった。
美鈴はフランドールの心のケアをしながら世話をし続けた。必ず優しい彼女に戻ると信じて。
様々なお話をした、食事も一緒にした。昔の心優しい彼女と同様に接し続けた。
フランドールもそれを解っていた。美鈴は自分を大事にしてくれる、優しくしてくれる。母親以上に。
だから狂気に囚われないようにと、能力を無闇に使わないようにと、彼女も必死だった。大好きな人を
壊したくないその思いだけだった。だが簡単にはいかなかった。もしフランの『狂気』が意思を持っていたとしたら
こう考えていただろう。『美鈴はフラン本体から狂気という自分を消してしまう』と。それはつまり美鈴が
狂気にとって邪魔者であること。そしてフランは長い幽閉生活で心が弱かった。(ついでに現在の彼女がレミリアと違い精神的に、
性格的に幼い原因がこれである)そのため小さな心の油断でフランは狂気に自我を乗っ取られてしまうのだ。
やがて『狂気』という名の沼にはまったフランドールを助けようとする美鈴に『狂気』の沼が牙を向く。
それはフランドールが母親を殺した日のように紅い満月の日にそれは起きた。
美鈴はフランと遊んだ後もうそろそろ寝る時間だとフランドールを寝かし付けるために子守唄を歌っていた。
だがフランドールは遊び足りないのと興奮で寝ることが出来なかった。まだ美鈴と遊びたい。
もうちょっと起きていたい。そんな子供の小さな欲望。だが彼女の心には大きな隙だった。その隙を突き
『狂気』という猛獣はフランドールの自我という脆い檻を壊し美鈴へと襲いかかる。
フランの狂気は容赦無く美鈴を傷つける。その間美鈴はフランドールがすぐに自我を取り戻すと信じて攻撃を
避けていた。だが美鈴は長く生きている妖怪なのだが強くは無かった。満月により絶好調で妖怪でも屈指の実力
を持つ吸血鬼相手に何分も持つわけなくすぐに終わった。
フランドールは自我を取り戻すと自分の左手に壁ごと腹を貫かれた美鈴がいた。右腕と右脚は欠け、肌は切り傷や火傷があり
血に染まっていた。服はあちこち破れそこから除く肌も傷ついていた。フランが左手を抜くと美鈴はそのまま地面へと
倒れ込む。その様子をフランはただ呆然と見ているしかなかった。そして思い出される狂気に囚われていた間の自分の所業。
フランドールは美鈴の血に染まる自分の両手を見る。自分はまた狂気に負け愛する人をまた『壊して』しまったのだと。
そして部屋にフランドールの叫び声が響く。そのとき部屋の扉が開かれた。そこにいたのはレミリアだった。
だがフランドールは気付いていない。自分がしてしまったことの後悔。それしか出来なかった。
レミリアは美鈴を見た瞬間顔が青ざめた。それは自分の見た運命の結果と同じものだったのだから。だがレミリアは
決意の眼差しですぐに美鈴の傍へ寄る。このときフランドールを突き飛ばしたのだが地に倒れ伏したフランドールは
ただ震えていた。そしてただ声を上げて泣いていた。レミリアはそんなこと眼中に無いといった感じで美鈴を抱き上げる。
このときメイド長が遅れてその場に到着、美鈴の姿を見て手で口を覆い隠していた。そのメイド長にレミリアは何か
指示を出していたがフランドールには聞こえなかった。やがて二人は美鈴と共に部屋を出て行った。
扉が閉められ部屋の中には失意の念に沈みただ泣き続けるフランドールが一人。自分は大切なものを失ってしまったと、
また大事な人を壊してしまったと、ただそのことで泣くことしか出来なかった。
泣き疲れ、暗闇へと意識を落とすまで。
彼女は先ほどまで自分が寝ていた硬い床の上に違和感と誰かに触れられる感覚で意識が覚醒する。
後頭部には柔らかい感触、そして額に触れる優しく暖かい感触。それは昔から自分がよくして貰ったことだった。
だがその人は壊してしまったはず。これは夢だと目を開くとそこには
「あっ起こしてしまいましたか」
紅い髪と優しい笑顔を持つあの優しい母親みたいな彼女、紅美鈴がいた。このとき彼女は右腕と右脚は無く包帯が
捲かれ、腹も同じようにしていた。その包帯には血が滲んで痛々しかった。服は無くほぼ下着だけのような状態で
フランに左足だけで膝枕をし、左手で頭を撫でていた。
「すいませんね、出来れば昔のように正座で膝枕をして差し上げたかったのですが正座が出来ないのでこれで我慢してください」
フランはただ目を丸くしていた。自分が殺してしまったと思った人が自分に片足だけの膝枕をしているのだ。
夢ではなく本物の温もりと感触。その相手はただ優しくフランドールを撫で続ける。
「もうちょっと早く来たかったのですが監視がきつくて中々医務室から出れなかったんですよ。だから
遅くなってしまったのは許してください」
彼女はあれから僅か二時間で目を覚ました。生死の境界をさまよったのに恐ろしい生命力だと医務担当のメイドは驚いていた。
彼女は起きるとすぐにフランドールの事を気にかけた。自分が死んだと思って泣いているのではないか、フランが自分を
殺してしまったとをひどく悲しんでいるのではないか。だから自分が無事であると伝えたくて、悲しんでいる彼女を
慰めたくってすぐに部屋に行こうとしたが止められてしまった。傷が酷すぎるのだと。そんなことなら自分が代わりに
伝えようとメイド長が言ったが自分で行かないと気がすまないと言うのだ。美鈴は変なところで頑固だった。
一日待てと主にも言われたが空返事で返して怒られもした。レミリアは目を真っ赤に腫らしてして傷が治るまで動くなと
これは主命令だと言ったがこれも空返事で返した。それほどフランドールの事を思っていたのだ。
早く伝えないと彼女はいつまでも悲しむことになる。そんなことになっては世話係失格だとそう思った。
やがて三人はそれぞれの居るべき場所に戻ったのだが監視役のメイドが置いていかれた。それを美鈴は
うまくだまし気絶させフランの部屋まで誰にもばれることなく飛んできたのだ。
「私なら大丈夫ですよ。この通り生きていますから。だから妹様が悲しむ必要なんてありませんよ。ですから安心して下さい」
フランドールは美鈴が生きていたことがとても嬉しかった。だが生きていたことの驚きでただ呆然と見ていた。
「そんなお化けを見るような顔でみないで下さいよ。私はこの通り生きていますから。妹様は私が死んでしまったと
悲しんでいたのでしょう?ならば今度は喜んで下さい。フランドール様」
そういって彼女は痛む体で明るい笑顔を作る。フランドールは自分の名がその口から出たところで美鈴に抱きつき
泣き出した。嬉しかった。ただ嬉しかったから泣いた。
そして謝った、狂気に負けた自分を許して欲しいと。美鈴は泣いているフランドールをただただ撫で続けた。
「謝らないで下さい。妹様が狂気に囚われてしまったのは従者の私にも非があります。それに今回負けたのなら
次勝てばいいんです。そして狂気が消えるまで私はあなたを支え、勝てるようにと応援し続けます。
だから泣かないで下さい。泣いたら可愛い顔が台無しですから昔のように笑って下さい」
その言葉にフランドールは頷く、やがて美鈴の胸にうずめていた顔を上げ美鈴に負けないような笑顔を作る。
その笑顔に美鈴は『それでいいのです』と言い、またフランドールの頭を撫でる。
フランドールは美鈴に感謝し、そしてその温もりを確かめるようにまた抱きつく。やがてその暖かい感触の中で
彼女はゆっくりと寝息をたてはじめた。美鈴はフランドールが完全に寝入るまで頭を撫で続けた。
寝入ったのを確認すると片手でフランドールを抱き上げ、ベッドへと運んだ。
その後、美鈴はフランの部屋から出て来たのをメイド長に発見され即効で医務室送りとなった。
そこで主とレミリアに大目玉を喰らい傷が治るまで医務室から出るのを禁じられてしまった。
だが彼女はフランドールに自分の無事を知らせられたのに満足したのか大人しく従っていた。
それから怪我が治るまでフランドールの世話はメイド長が担当したのだが前よりも心は穏やかだったという。
だが狂気が消えた訳ではなく、暴れることもあったが手当たりしだいに物を壊すことは無くなった。
そして美鈴は傷が治るとまたフランの世話をするようになった。いつかフランドールから狂気が消える
ことを信じて。フランドールはまた美鈴と生活出来ることを喜んだ。そして狂気に勝とうと彼女に
支えられながら努力した。たまに狂気に魅入られてまた彼女を壊しかけたこともあったが
それでも美鈴は傷が治るとまたフランの元へと訪れた。それは幻想郷に入った後も続けられた。
そして黒白の魔女と紅白の巫女が紅魔館に訪れてフランドールが敗北した日、フランが狂気から開放されるまで。
だが関係が終わった訳ではない。今でも美鈴はフランの遊び相手をしたり添い寝をしたり実の母親みたいに世話を
している。フランも自分を救ってくれた魔理沙や姉のレミリア以上に美鈴を母親のように慕っている。
それはこれからも続く、二人の関係はいつまでも。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
とまぁこんな感じです
妹様は今でも美鈴さんの事を母親のように慕っています。彼女がもっとも心を許した相手ですからね
でも妹様の狂気が『人間という下等種に負けたことによる敗北感』でほとんど消えてしまったのは
美鈴さんが一番驚いていましたわ。そして今でも訪れる魔理沙さんに美鈴さんはとても感謝しています
妹様を救ってくれた恩人ですからね
……妹様にとっての美鈴さんですか?そうですねぇ。妹様風に言うと
『お母さん』
でしょうね。でも私の言葉で表すと
『母親以上の愛情と優しさを持つ美しい人』と『誰よりも人を思うお人好し妖怪』
とでも言っときましょう。
それではお話は終わりです。お嬢様の部屋への案内は部屋の外にいるメイドに頼んであります
後、お嬢様にはくれぐれも失礼の無いようにお願いします
私ですか?私はもう少しこのままでいますよ。妹様に膝枕をして差し上げるのは久しぶりですから
それではご機嫌よう、射命丸さん
―副門番長の話―
紅魔館で美鈴隊長に合う人物ですか?
そうですね、昔から見てましたけど……
あっそうそう私実は美鈴隊長と同期なんですよ
それこそ美鈴隊長の色んなことを知っていますよえっへん
そんなこと聞いていない? それは残念
そうですね昔から見てましたけど、副メイド長が隊長の
ことが好きだと知ったときはお似合いなんじゃないかなぁと
思ったんですが今では妹様が似合うんじゃないでしょうかね?
昔の隊長の妹様への世話の焼き方といったらすごいですよ
今もそんなに変わってないですが
それに妹様も今は気付いて無いでしょうが美鈴隊長に惚の字
ですからね。気付いたときのアプローチはやっぱすさまじいもの
でしょうね。恐らくヤンデレって奴みたいにでしょうね
まぁ美鈴隊長の妹様への愛情は結構なものですから
くっついてもお似合いだとは思いますよ?
でも紅魔館で隊長に惚の字の人と言ったら結構な人数ですからね
お嬢様にメイド長にパチュリー様に小悪魔に数人の一般メイドに
それに最近黒白もそうらしいですからね。激戦区ですね
私ですか? 私は違いますよ。命がいくつあっても足りませんでしょうからね
それに私は可愛い女性なら誰でもいいんですよ
例えば……あなたみたいな。うふふふふ……。
冗談ですよ。
<終わり>
ただただ愛し続ける美鈴の大きな愛に脱帽です
一歩下がったところから書いてますが,むしろそれが心地よかったです