外の世界で幻想入りした多くは、こちら幻想郷にやってくる。
つまらない映画の数々もまた、いつのまにか幻想郷のものとなっていた。
深夜。煎餅をお茶請けに、いわゆるB級映画を鑑賞する霊夢。
ブラウン管の中では、やたらと化粧の濃い女優が粘液まみれのエイリアンに襲われていた。
「これだ!」
力をこめた手のひらは、見事に煎餅を割ったという。
翌日のこと。魔理沙は博麗神社に呼び出された。
「映画を撮るわよ」
「なんだ、藪から棒に。どういう風の吹き回しだ?」
霊夢の考えはこうだった。
映画をクランクアップ→大ヒット→参拝客フィーバー→賽銭アップ→お茶いっぱい。
その風が吹いても桶屋は儲からないぞ、と言いたくなるような思考連鎖だが当の霊夢は至って真剣だ。
そもそも、昨日の映画を見てどこにヒットする要素を見出したのかが分からない。
魔理沙はまだ何か言いたげだったが、面白そうなので付き合うことにした。
適当に人を集め、映画の情報も集め、監督としてメガホンを振るうことになった霊夢。
ちなみに主役は一般公募という名の神隠しによって、割と格好良い男子を浚わせてきた。脇役は手頃な人間がいなかったので、そこらの妖精や妖怪を捕まえてきたとか。
「はい、それじゃあいきなり本番!」
呼びつけられておいて雑用係を命じられた魔理沙も、これにはビックリ。無論、主役他脇役達も、唖然とした顔で監督を凝視している。
「監督、台本は?」
それが無くては始まらない。
「外の世界じゃ、盗作されないように全部監督の頭の中に入っているのよ」
「でも、せめてどんなストーリーか分からないと演技できません」
「格好いい主人公が、悪い奴からヒロインを救い出すお話。以上!」
脇役のチルノやルーミアが、あいつ馬鹿だろとばかりに頭を振る。微妙にアメリカンテイストなのが腹立つ。
その後も、霊夢の暴君が如き撮影は続いたが、意外にも妖精や妖怪達のおかげで何とかなった。元より、連中には台本など無くても関係ない。むしろ、ない方が良いくらいだ。
このまま順調にクランクアップかと思ったが、どうにも主役の動きや演技が悪い。
終始監督の方を見たりして、気もそぞろだ。
それでも、霊夢は強行に撮影を続けた。そして、無事かどうかは知らないが映画は完成したのだった。
試写会前日。霊夢は主役に尋ねた。
どうして、あんなに集中していなかったのか。
主役は答えた。
「監督の腋が気になって……」