長く続いた戦争、それは私たち、日本国民の敗北という形で終わりを告げた。
仲の良かった友人たちも、戦場へ出向き、行方知れずになったものが多数。
体が弱かった私は、今日1日をどうにか生きる。
それ以外にはすることもないという悲惨な生活をしていた。
もちろん、私だけが苦労しているわけではない。
国全体が、飢えていた。
戦時中。
芸術や娯楽が規制され、私の趣味であり、仕事である絵を描くことも規制された。
それは戦争が終わってからも同じ、人々が絵を楽しむような余裕。
私自身にも、絵の具を買う余裕などは一切存在しなかった。
それでも私は絵が好きで、絵で飯が食える日が来るのを夢見ていた。
私が絵を描くようになった理由。
それは酷く単純なことだった。
祖父の影響である。
私の祖父は、界隈では割と名の知られた絵描きだった。
彼は好んで、鳳凰や朱雀を描いた。
その題材を何故描くのか。
祖父は、私以外には漏らしたことがなかったという。
妻である、私の祖母にも。
祖父の娘である、私の母にも。
ある夜、私が絵描きを志し、祖父へと教えを請いにいった日。
今から15年前ほど前のことだ。
その頃の祖父というのは、長年連れ添った祖母も既に亡く
家の離れで、一人ぼうっとしていることが多かった。
その日の祖父も、これ以上なく美味そうに、ぷかぷかタバコをくゆらせていた。
「じいさん、なんでじいさんはヒノトリを描くんだ?」
常々疑問に思っていたことである。
祖父は、燃え盛る鳥と少女という題材を非常に好んだ。
というよりも、これ以外の題材で描いた作品を、私の知る限りは一つもなかった。
「俺はなぁ、魂を喰われちまったのよ」
くくく、と心底可笑しそうに笑う祖父。
「俺が、お前よりもまだ小さかった頃、冒険と称して山に登ったんだ。
運悪く、俺は妖怪に襲われた。妖怪なんてのはよぉ、その頃にはトンと見なくなっててな、もしかすると俺は相当運が良かったのかもしんねぇな」
いまどき妖怪なんてものを信じているなんて口に出せば
それこそ頭がどこかおかしいと揶揄されるだろう。
祖父も、あるいはどうかしていたのかもしれない。
「綺麗、だったなぁ。もんぺ姿の女が、背に鳳凰を従えて空を飛んでたんだぁ。
それで、あっという間に、俺を食おうとしていた妖怪は焼き尽くされてな。
腰を抜かしてた俺に、男だろう、シャキっとしろ!! って叱咤したんだ」
それでも、私は、祖父のことが大好きだった。
絵を描くきっかけも祖父に憧れてのことだったし
このような、まるっきり真実味のないことでも信じるに価した。
祖父の言葉は現実のことだと今でも思うし、嘘をついているようには見えなかった。
「誰にも言うなよ、俺は約束したんだ。あのもんぺの女と。
そのとき起こった出来事は、一切口外しないって、墓の中まで、持って行くってな」
そういうと、祖父は静かに目を閉じた。
話疲れたのだろうと、私はさほど気にも留めなかった。
それが昭和8年、1933年のことである。
あれから数年して、祖父は旅立った。
一度話してくれた日以来、祖父はヒノトリの女の話はしてくれなかった。
そんな折に、戦争である。
私の筆は折れた。
いつかまた、絵を書ける日が来るだろうか?
絵描きとして習熟することができたならば、私はヒノトリの少女を描きたいと思う。
さて、今日もどうにか飯の当てを探さなければ。
仲の良かった友人たちも、戦場へ出向き、行方知れずになったものが多数。
体が弱かった私は、今日1日をどうにか生きる。
それ以外にはすることもないという悲惨な生活をしていた。
もちろん、私だけが苦労しているわけではない。
国全体が、飢えていた。
戦時中。
芸術や娯楽が規制され、私の趣味であり、仕事である絵を描くことも規制された。
それは戦争が終わってからも同じ、人々が絵を楽しむような余裕。
私自身にも、絵の具を買う余裕などは一切存在しなかった。
それでも私は絵が好きで、絵で飯が食える日が来るのを夢見ていた。
私が絵を描くようになった理由。
それは酷く単純なことだった。
祖父の影響である。
私の祖父は、界隈では割と名の知られた絵描きだった。
彼は好んで、鳳凰や朱雀を描いた。
その題材を何故描くのか。
祖父は、私以外には漏らしたことがなかったという。
妻である、私の祖母にも。
祖父の娘である、私の母にも。
ある夜、私が絵描きを志し、祖父へと教えを請いにいった日。
今から15年前ほど前のことだ。
その頃の祖父というのは、長年連れ添った祖母も既に亡く
家の離れで、一人ぼうっとしていることが多かった。
その日の祖父も、これ以上なく美味そうに、ぷかぷかタバコをくゆらせていた。
「じいさん、なんでじいさんはヒノトリを描くんだ?」
常々疑問に思っていたことである。
祖父は、燃え盛る鳥と少女という題材を非常に好んだ。
というよりも、これ以外の題材で描いた作品を、私の知る限りは一つもなかった。
「俺はなぁ、魂を喰われちまったのよ」
くくく、と心底可笑しそうに笑う祖父。
「俺が、お前よりもまだ小さかった頃、冒険と称して山に登ったんだ。
運悪く、俺は妖怪に襲われた。妖怪なんてのはよぉ、その頃にはトンと見なくなっててな、もしかすると俺は相当運が良かったのかもしんねぇな」
いまどき妖怪なんてものを信じているなんて口に出せば
それこそ頭がどこかおかしいと揶揄されるだろう。
祖父も、あるいはどうかしていたのかもしれない。
「綺麗、だったなぁ。もんぺ姿の女が、背に鳳凰を従えて空を飛んでたんだぁ。
それで、あっという間に、俺を食おうとしていた妖怪は焼き尽くされてな。
腰を抜かしてた俺に、男だろう、シャキっとしろ!! って叱咤したんだ」
それでも、私は、祖父のことが大好きだった。
絵を描くきっかけも祖父に憧れてのことだったし
このような、まるっきり真実味のないことでも信じるに価した。
祖父の言葉は現実のことだと今でも思うし、嘘をついているようには見えなかった。
「誰にも言うなよ、俺は約束したんだ。あのもんぺの女と。
そのとき起こった出来事は、一切口外しないって、墓の中まで、持って行くってな」
そういうと、祖父は静かに目を閉じた。
話疲れたのだろうと、私はさほど気にも留めなかった。
それが昭和8年、1933年のことである。
あれから数年して、祖父は旅立った。
一度話してくれた日以来、祖父はヒノトリの女の話はしてくれなかった。
そんな折に、戦争である。
私の筆は折れた。
いつかまた、絵を書ける日が来るだろうか?
絵描きとして習熟することができたならば、私はヒノトリの少女を描きたいと思う。
さて、今日もどうにか飯の当てを探さなければ。
短さの中に過不足無く内容が詰められていると感じました。
ただ、シリアスな題材でこのタイトルはちょっと……(苦笑)。
なのにタイトルwww
タイトルWW
約束したにも関わらず話したのは、信じるはずがないと思ってのことなのか。
一度、戯言と流されかけた言葉がそれでも僅かに残り、孫のヒノトリの絵になる(未定)という、
こういう細々とした今にも切れそうな因果関係はちょっと好きです
これはこれでありかな
もう少し風景描写がうまくなると絶対にポイント付きでも成功すると思う。
人物の心情を仕草等で表現できるようになればもっと深い作品になる。
期待してます。
がんばってください。