むかーしむかし、メイド長の咲夜と門番の美鈴がいました。
咲夜は右の胸が大きく、美鈴は左の胸が大きいというアンバランスな体でした。
ある日、咲夜が主に用事をいいつかって屋敷の外へと出かけた帰り道、雨が降ってきました。
「困ったわね。木の下で雨宿りしていきましょう」
時間をとめれば濡れずに帰ることができますが、そうすると話がだいなしになるという空気を呼んだ咲夜は雨宿りのために木の下で雨が止むのを待ちます。
雨宿りを続ける咲夜と同じ木に妖怪がやってきて困った困ったと呟いて咲夜をちらちらと見ています。
うっとうしく思った咲夜は溜息一つ吐いて聞きます。
「何が困ったの」
「よくぞ聞いてくれました。
今日宴会があるのですが、芸のために着る服が破けてしまったのです。
私は裁縫ができないのでどうしようかと思っています」
「縫ってあげるからそれを貸しなさい」
これを聞いた妖怪は喜び服を差し出します。
完璧で瀟洒なメイドの名は伊達ではなく、あっというまに服を修復することができました。
「ありがとうございます。これで宴会を楽しむことができます。
なにかお礼をしたいのですが」
「そんなものはいいから、さっさとどこかへ消えなさい」
「そうはいきません。受けた恩を返さないのは、私だけではなく一族の恥となります。
そうだ! そのアンバランスな体をどうにかして差し上げましょう」
妖怪はそう言うと咲夜の胸に手を伸ばし、大きな胸を取ってしまいました。
「これでバランスがよくな゛っ!?」
妖怪はセリフの途中で止められてしまいます。
セクハラを受けたと判断した咲夜がナイフを投げたからです。当然の判断でしょう。
「何するんですか!?」
「それはこっちのセリフよ。
どうせなら小さいほうの胸を大きくしなさい」
「増やすよりは減らすほうが簡単なのです。
それに私は貧乳萌え!」
「あんたの趣向で決めるな!」
怒った咲夜はたくさんのナイフを投げて妖怪を追い払ってしまいました。
次の日、今度は美鈴が用事をいいつかり屋敷の外へと出かけました。
そして帰り道、咲夜と同じように雨に降られて木の下で雨宿りをしています。
そんな美鈴のいる木の下に妖怪がやってきます。
美鈴は知りませんが咲夜が出会った妖怪と同じ人物です。
昨日と同じように困った困ったと呟いています。
お人好しな美鈴は妖怪に聞きます。
「どうしたんですか?」
「はい、実は昨日宴会があったのですが、そこでハッスルしすぎて服を破いてしまったのです。
今日も宴会があるのですが、その服を着て芸をしたいのです。でも私は裁縫ができません」
「それなら私が縫ってあげますよ。貸してください」
それを聞いて妖怪は喜び服を差し出します。
美鈴は門番ですが、裁縫も料理も掃除もできる汎用性のある門番です。
破れた服をあっというまに修復してしまいました。
「はい、できましたよ」
「おおっありがとうございます……ってなんじゃこりゃー!?」
服を広げ修復箇所を見た妖怪は驚きました。
破れた場所には「紅美鈴参上」という見事な刺繍がされていたからです。
「なんてことしてくれたんだ!?」
当たり前ですが妖怪は怒ります。
「そんなお礼なんていいですよ~」
何を勘違いしたのか美鈴は照れています。
「誰がお礼なんぞするものか!
お前なんかこうしてやる!」
妖怪は昨日咲夜からとった胸を懐から取り出し、美鈴の小さいほうの胸におしつけてしまいました。
「一生そのぶかっこうな大きな胸で、肩こりに苦しむんだな!」
そう言って妖怪は立ち去ってしまいました。
こうして美鈴は大きな胸を手に入れ、咲夜から恨みを買ってしまいましたとさ。
めでたしめでたし。
「どうでしたかフランドール様?」
「面白かったよ~」
図書館でフランドールと小悪魔が椅子に座っている。
暇をもてましたフランドールが、同じく暇そうに見えた小悪魔に相手してもらっているのだ。
小悪魔は仕事があって暇ではないのだが、相手しないと暇すぎて暴れ出すかもと判断し話し相手となっていた。
「でも胸が取れるってことは、めーりんの胸ってパッド?」
「……そうかもしれませんねぇ」
作り話を信じ込んだフランドールに小悪魔は訂正せずに曖昧に肯定する。
訂正しないのは、そのほうが面白そうだからという理由だ。
美鈴パッド説を刷り込まれたフランドールは次の話をねだる。
「ねえほかにもお話して?」
「いいですよ。
次はおおかみチルノです」
小悪魔はねだられるまま長靴をはいた橙、てゐと豆の木、霊夢と魔法のランプ、一寸萃香、マッチ売りの魔理沙、泣いた赤れみりゃ、裸の藍様といった作り話を話していき、間違った知識をフランドールに与えていった。
あえて訂正しないのはやはり面白そうだからという理由だった。