その日、幻想郷では怠惰でカテキン依存症の巫女でも気づけないほど些細な、しかし重大な異変が起きていた。
その異変とは。
「諏訪子さま、神奈子さま。この東風谷早苗、一生のお願いがございます。どうかお二人のカリスマをお貸しください」
「カリスマって……ねえ、神奈子」
「そうだね。カリスマって具体的には何を貸してほしいのさ」
「御柱とケロ帽を」
早苗さんが本気で幻想郷に守矢信仰を広めるつもりのようです。
◆ 合体! ミラクル早苗!!
元気印の早苗さん、風にのってやってきたのは麓にあります博霊神社。
さあと境内に降り立ち、意気揚々と声をあげました。
「霊夢さん! 私は今、奇跡の伝道師として幻想郷の人々に深く信仰されるために再びやってまいりました!!」
「うっさいわボケ」
麓の巫女さん、霊夢。早苗の背後から箒の柄で後頭部を死なない程度に殴打した。
しかしここでめげないのが早苗さん。痛いと頭を抑えながらも笑顔を忘れない。
「何なのよ早苗、こんな朝っぱらから大声出して」
「もっと信仰を広めようと思いまして」
「威勢と信仰は比例しないわよ。そんなんだったら私だって声を張り上げれば賽銭箱にもっとお賽銭が入るはずじゃない」
こんこんと箒で賽銭箱を軽く叩く霊夢の言うことはもっとも。声を張り上げただけで信仰が広まるなら早苗はおろか、霊夢も苦労することはない。
霊夢が信仰を広めるだろうか、というのは本人にその気が無いので例として扱うには微妙なところだが。
「そうなんですけど、でもっ、今日の私は一味違うんです!」
「どれどれ? んっ……」
突然のことだった。
霊夢は早苗にすばやく近づくと彼女の背に腕をまわし、逃げられないようにしてから少し背伸びをして早苗の首をご賞味。
いきなり首をご賞味された早苗の顔は一気に赤くなった。
「ちょ、ちょっと霊夢さん!!? なんで私の首筋を舐めるんですかッッ!!?」
「味が違うんでしょ。特に汗の塩分が」
「食べられることが前提になってるッ!!? じゃなくてっ、そういうボケはいりません!!!」
「じゃあどんなボケを返せばいいのよ」
「そこで私に聞きますか!!! ていうか別に霊夢さんがボケる必要なんてどこにもありませんっ!!」
全力で霊夢を引き剥がす早苗。一方、離れた霊夢のほうはなにやら手を握ったり開いたりを繰り返している。
「と……とにかく、今日の私は神奈子さまと諏訪子さまより御力を借りてきたのです。これまでの私とは違うんです」
「最初からそういえばよかったのに。で、見たところ何にもいつものアンタと変わらないみたいだけど何が違うの?」
「うふ……うふふふふっ、甘い、角砂糖のように甘いですよ霊夢さん。今からあなたは奇跡の目撃者になるんです」
どこかで聞いたようなセリフのあと、早苗は大きく手を広げて空を仰いだ。
そのとき、霊夢は異様な雰囲気を感じた。
静謐なる神社の空気が一変し、まるで嵐の前触れのような重い風が辺りを走りはじめた。
それはやがてひとつの渦を作ると他の渦と合わさってさらに巨大なものへ、そう、竜巻へと変貌を遂げていく。
空が歪んだ。否、歪んだのは嵐のせい。突如境内に発生した竜巻が空へと昇り、周囲一体の雲を巻き込んで黒雲を生み、黒雲は雷を地へと吐き出した。
一体何が起きているのか、霊夢にはまったくわからなかった。
わかっているのは精霊たちが早苗がこれから行おうとしていることに怯え、集い、そして慄いているということだけだった。
なんというイレギュラー。
このままでは神社が、お賽銭が、お茶葉が空の藻屑へと消えてしまうかもしれない。そうなれば明日からどうやって生きていけばいいのだろうか。
……この異変、見逃すわけにはいかない。だが、今の私にこの早苗を倒すことができるだろうか――――――?
しかしやらねばならない。冷や汗が垂れるのにも気づかず、霊夢は静かに袖より針を取り出す。
最悪、相打ちも覚悟した、その瞬間。
一際巨大な雷が地を突いた。
雷は早苗のいた場所を直撃し、近くにいた霊夢もあまりの衝撃に目を腕で守り、吹きつける砂風に晒される。
……風が止んだ。
竜巻の渦巻く音も聞こえない。黒雲はもう雷を吐き出さない。
境内は平和になったように思えた。ところが、まだ一点のみ砂煙の晴れていない場所があった。さっきまで早苗のいた場所だ。
無理もない、あれほど強力な雷だ。まず普通の人間が受けて形を保てるはずもない。
霊夢は少しまえまでのやりとりで慌てたり、笑っていた早苗のことを思い出して、不覚にも視界が霞んでしまった。
もしあの破壊のなかで生きてたりするのであれば、それこそ『奇跡』。
そう、奇跡なのだ。
「………っ!? 早苗? 早苗ッ!?」
砂煙の向こう、立っている人影に気づいた霊夢が声をあげる。
すると霊夢が声をかけるのを待っていたかのように砂煙が左右へと分かれ、人影が姿を現す。
「みんなに奇跡を届けます! 奇跡少女、ミラクル早苗!! ただいま参上ですっ!!!」
それは見た者の時間を止めてしまうほどの圧倒的な光景だった。
胸の強調された大胆な白と青のフリル付きのドレス。足の付け根と膝の中間ほどの長さしかない際どすぎるスカート。
純白のイメージを与える真っ白な手袋には「信じる者は救われる」と刻まれた鉄の看板が掴まれており、「奇跡」と刻まれた御柱が二つ、左右の肩の後ろから伸びていた。
そして頭にはケロ帽。諏訪子バージョンのときとは異なり、心なしか目が諏訪子のくりくりした瞳に似ている。
底なしのテンションとはこういうことか。霊夢は驚きの中、呆然と考えた。
「今の私は奇跡を『起こす』なんて弱々しいことは言いませんっ! そう、ミラクル早苗は奇跡を『操り』ますッッ!!」
そう、これはきっと確率変動だ。早苗が雷に打たれて普通にパワーアップしたとかそういうことだ。
放っておけば勝手に終わる。けれどなぜだろう、この確率変動は終わる気がしない。
しかも堂々と能力改変宣言。運命とか死とか境界とか、そういった大妖怪たちの能力をたった一言で凌駕しそうな勢いである。
「これから守矢神社を信仰してくださる信者の方々にはもれなく奇跡のポイントカードを進呈します!! 一定ポイントが溜まった方には素敵な奇跡を起こしちゃいます!!!」
てやーっとか言いながらご機嫌に看板を振り回す奇跡少女。どうでもいいが、看板の風を斬る音がすさまじい。
どう考えても凶器にしか見えない『信じる者は救われる』看板は、きっと信者にならない人間を殴打するために使われるに違いない。
霊夢はかつてない衝撃に打ちひしがれ、そして驚愕した。まさか、そんなはずはないと何度も自分に言い聞かせた。
止まらない思いは喉を押し上げて言葉になった。
「幻想郷に 神は いた」
幻想郷の神は残酷だ。神を知りつつも神を崇めなかった自分の前に、最強の神を降臨させた。
なぜだ、なぜこうなったのだ?
これほどの神がいたと知っていたのならば、私はとうの昔に大いなる神々の前にひれ伏していたであろうに。
今からでも信仰は許されるだろうか。いや、許されないであろう。今までに足蹴にしてきた神々が、それを許さないだろう。
もしも、もしもの話だ。今までの私の過ちが許されるのであれば、私は彼女に触れてもいいのだろうか。信仰は、許されるであろうか。
霊夢はすがるように手を伸ばし、早苗の手を握った。
「霊夢さん?」
「早苗、私も(あなたの)信者になってもいいかしら」
「えッ!? 本当ですか!!」
「すばらしいわ(あなたの衣装が)。私、(萌えに)感動したの。よかったら私の神社、あなたの(萌え)信仰活動の足掛かりとして使ってもらえないかしら」
霊夢、暴走中。心の扉をオープンにした瞬間、世界は桃色に染まっていたとかそういう生易しいテンションではない。
早苗は喜びのあまりで気づいていないが霊夢はまるで物を愛でるように彼女の手を撫で回している。まるで痴漢である。
「い、いいんですか? その、なんだか申し訳ないような……」
「そんなの気にすることはないわ。あなたの幸せが私の(主に体の)幸せになるの。あ、でも入ってきたお賽銭の三割はもらうからね。茶の葉とか色々買いたいもの」
「あ、だったら三割なんて言わずに四割くらい持っていってください。霊夢さんもこれからは同じ神を信仰する仲間なんですから」
「早苗……」
なんて心の広い。天使のような微笑とはこのような人のことを言うのか。
霊夢は早苗の優しさに感動し、心打たれた。そして固く早苗の手を握ると彼女も霊夢の手を握り返した。
そして次の日には博霊神社が守矢神社に吸収されてしまったとさ、めでたしめでたし。
その異変とは。
「諏訪子さま、神奈子さま。この東風谷早苗、一生のお願いがございます。どうかお二人のカリスマをお貸しください」
「カリスマって……ねえ、神奈子」
「そうだね。カリスマって具体的には何を貸してほしいのさ」
「御柱とケロ帽を」
早苗さんが本気で幻想郷に守矢信仰を広めるつもりのようです。
◆ 合体! ミラクル早苗!!
元気印の早苗さん、風にのってやってきたのは麓にあります博霊神社。
さあと境内に降り立ち、意気揚々と声をあげました。
「霊夢さん! 私は今、奇跡の伝道師として幻想郷の人々に深く信仰されるために再びやってまいりました!!」
「うっさいわボケ」
麓の巫女さん、霊夢。早苗の背後から箒の柄で後頭部を死なない程度に殴打した。
しかしここでめげないのが早苗さん。痛いと頭を抑えながらも笑顔を忘れない。
「何なのよ早苗、こんな朝っぱらから大声出して」
「もっと信仰を広めようと思いまして」
「威勢と信仰は比例しないわよ。そんなんだったら私だって声を張り上げれば賽銭箱にもっとお賽銭が入るはずじゃない」
こんこんと箒で賽銭箱を軽く叩く霊夢の言うことはもっとも。声を張り上げただけで信仰が広まるなら早苗はおろか、霊夢も苦労することはない。
霊夢が信仰を広めるだろうか、というのは本人にその気が無いので例として扱うには微妙なところだが。
「そうなんですけど、でもっ、今日の私は一味違うんです!」
「どれどれ? んっ……」
突然のことだった。
霊夢は早苗にすばやく近づくと彼女の背に腕をまわし、逃げられないようにしてから少し背伸びをして早苗の首をご賞味。
いきなり首をご賞味された早苗の顔は一気に赤くなった。
「ちょ、ちょっと霊夢さん!!? なんで私の首筋を舐めるんですかッッ!!?」
「味が違うんでしょ。特に汗の塩分が」
「食べられることが前提になってるッ!!? じゃなくてっ、そういうボケはいりません!!!」
「じゃあどんなボケを返せばいいのよ」
「そこで私に聞きますか!!! ていうか別に霊夢さんがボケる必要なんてどこにもありませんっ!!」
全力で霊夢を引き剥がす早苗。一方、離れた霊夢のほうはなにやら手を握ったり開いたりを繰り返している。
「と……とにかく、今日の私は神奈子さまと諏訪子さまより御力を借りてきたのです。これまでの私とは違うんです」
「最初からそういえばよかったのに。で、見たところ何にもいつものアンタと変わらないみたいだけど何が違うの?」
「うふ……うふふふふっ、甘い、角砂糖のように甘いですよ霊夢さん。今からあなたは奇跡の目撃者になるんです」
どこかで聞いたようなセリフのあと、早苗は大きく手を広げて空を仰いだ。
そのとき、霊夢は異様な雰囲気を感じた。
静謐なる神社の空気が一変し、まるで嵐の前触れのような重い風が辺りを走りはじめた。
それはやがてひとつの渦を作ると他の渦と合わさってさらに巨大なものへ、そう、竜巻へと変貌を遂げていく。
空が歪んだ。否、歪んだのは嵐のせい。突如境内に発生した竜巻が空へと昇り、周囲一体の雲を巻き込んで黒雲を生み、黒雲は雷を地へと吐き出した。
一体何が起きているのか、霊夢にはまったくわからなかった。
わかっているのは精霊たちが早苗がこれから行おうとしていることに怯え、集い、そして慄いているということだけだった。
なんというイレギュラー。
このままでは神社が、お賽銭が、お茶葉が空の藻屑へと消えてしまうかもしれない。そうなれば明日からどうやって生きていけばいいのだろうか。
……この異変、見逃すわけにはいかない。だが、今の私にこの早苗を倒すことができるだろうか――――――?
しかしやらねばならない。冷や汗が垂れるのにも気づかず、霊夢は静かに袖より針を取り出す。
最悪、相打ちも覚悟した、その瞬間。
一際巨大な雷が地を突いた。
雷は早苗のいた場所を直撃し、近くにいた霊夢もあまりの衝撃に目を腕で守り、吹きつける砂風に晒される。
……風が止んだ。
竜巻の渦巻く音も聞こえない。黒雲はもう雷を吐き出さない。
境内は平和になったように思えた。ところが、まだ一点のみ砂煙の晴れていない場所があった。さっきまで早苗のいた場所だ。
無理もない、あれほど強力な雷だ。まず普通の人間が受けて形を保てるはずもない。
霊夢は少しまえまでのやりとりで慌てたり、笑っていた早苗のことを思い出して、不覚にも視界が霞んでしまった。
もしあの破壊のなかで生きてたりするのであれば、それこそ『奇跡』。
そう、奇跡なのだ。
「………っ!? 早苗? 早苗ッ!?」
砂煙の向こう、立っている人影に気づいた霊夢が声をあげる。
すると霊夢が声をかけるのを待っていたかのように砂煙が左右へと分かれ、人影が姿を現す。
「みんなに奇跡を届けます! 奇跡少女、ミラクル早苗!! ただいま参上ですっ!!!」
それは見た者の時間を止めてしまうほどの圧倒的な光景だった。
胸の強調された大胆な白と青のフリル付きのドレス。足の付け根と膝の中間ほどの長さしかない際どすぎるスカート。
純白のイメージを与える真っ白な手袋には「信じる者は救われる」と刻まれた鉄の看板が掴まれており、「奇跡」と刻まれた御柱が二つ、左右の肩の後ろから伸びていた。
そして頭にはケロ帽。諏訪子バージョンのときとは異なり、心なしか目が諏訪子のくりくりした瞳に似ている。
底なしのテンションとはこういうことか。霊夢は驚きの中、呆然と考えた。
「今の私は奇跡を『起こす』なんて弱々しいことは言いませんっ! そう、ミラクル早苗は奇跡を『操り』ますッッ!!」
そう、これはきっと確率変動だ。早苗が雷に打たれて普通にパワーアップしたとかそういうことだ。
放っておけば勝手に終わる。けれどなぜだろう、この確率変動は終わる気がしない。
しかも堂々と能力改変宣言。運命とか死とか境界とか、そういった大妖怪たちの能力をたった一言で凌駕しそうな勢いである。
「これから守矢神社を信仰してくださる信者の方々にはもれなく奇跡のポイントカードを進呈します!! 一定ポイントが溜まった方には素敵な奇跡を起こしちゃいます!!!」
てやーっとか言いながらご機嫌に看板を振り回す奇跡少女。どうでもいいが、看板の風を斬る音がすさまじい。
どう考えても凶器にしか見えない『信じる者は救われる』看板は、きっと信者にならない人間を殴打するために使われるに違いない。
霊夢はかつてない衝撃に打ちひしがれ、そして驚愕した。まさか、そんなはずはないと何度も自分に言い聞かせた。
止まらない思いは喉を押し上げて言葉になった。
「幻想郷に 神は いた」
幻想郷の神は残酷だ。神を知りつつも神を崇めなかった自分の前に、最強の神を降臨させた。
なぜだ、なぜこうなったのだ?
これほどの神がいたと知っていたのならば、私はとうの昔に大いなる神々の前にひれ伏していたであろうに。
今からでも信仰は許されるだろうか。いや、許されないであろう。今までに足蹴にしてきた神々が、それを許さないだろう。
もしも、もしもの話だ。今までの私の過ちが許されるのであれば、私は彼女に触れてもいいのだろうか。信仰は、許されるであろうか。
霊夢はすがるように手を伸ばし、早苗の手を握った。
「霊夢さん?」
「早苗、私も(あなたの)信者になってもいいかしら」
「えッ!? 本当ですか!!」
「すばらしいわ(あなたの衣装が)。私、(萌えに)感動したの。よかったら私の神社、あなたの(萌え)信仰活動の足掛かりとして使ってもらえないかしら」
霊夢、暴走中。心の扉をオープンにした瞬間、世界は桃色に染まっていたとかそういう生易しいテンションではない。
早苗は喜びのあまりで気づいていないが霊夢はまるで物を愛でるように彼女の手を撫で回している。まるで痴漢である。
「い、いいんですか? その、なんだか申し訳ないような……」
「そんなの気にすることはないわ。あなたの幸せが私の(主に体の)幸せになるの。あ、でも入ってきたお賽銭の三割はもらうからね。茶の葉とか色々買いたいもの」
「あ、だったら三割なんて言わずに四割くらい持っていってください。霊夢さんもこれからは同じ神を信仰する仲間なんですから」
「早苗……」
なんて心の広い。天使のような微笑とはこのような人のことを言うのか。
霊夢は早苗の優しさに感動し、心打たれた。そして固く早苗の手を握ると彼女も霊夢の手を握り返した。
そして次の日には博霊神社が守矢神社に吸収されてしまったとさ、めでたしめでたし。
人ごときの想像力では荷が勝ちすぎると言うことかw
とりあえず二人に幸あれだぜ。
……痛い系と見せかけて、普通にイケてね?
ここは是非、無重力少女グラビティフリー霊夢とのタッグを!
まだまだ幻想力が足りない!!