「無神論者は、腹を切って死ぬべきだ。のみならず、現人神東風谷早苗は、彼らを地獄の火の中に投げ込むものである」
これで人気者かな、と思い教室を見渡せば皆ローテンション。
入学後すぐに仲良くなった伊藤さんまで他人のふり、嘘でもいいから笑って欲しかった。
何だろねこの空気。吐きそう。
え……? 東風谷って宗教とか信じてるヤツなの?
とか呟いてドン引きしてる男子、お前は死んでいい。
先生もだ。咳払いしてごまかすな。担任だろ。フォローしろ。泣くぞ。
こちとら家業継ぐから進学しねーんだ内申書なんざ怖くねーぞヴォケがいくらでもつっかかるぞクソ担任!
とノートの端っこに書いて気晴らししてから、寝たふりに励んだ。
何故だろうあの自己紹介以来、誰も話しかけてくれない。伊藤さんさえも。
暇なので休み時間は眠って過ごす。
「……東風谷さんっていつも寝てるよね」
「……話し相手いないからじゃない」
背後からひそひそと暴言が聞こえたけど黙殺。
現人神はこの程度の危機であわててはいけないのだ。
というかどう対処すればいいのか分からないので寝たふりなのだ。
沈黙は金なり。昔の人は良い事を言う。
「……伊藤さんってさあ、入学したばっかの時、東風谷さんと仲よさそうだったよね」
「……え!? ち、違う。違うし。軽い挨拶程度だよ。ホント何でもないから」
あれ? 伊藤さんが私との友情を否定してるよ?
この日から耳打ちしてる人を見かけると、もしかして私の噂してるのか……?
と疑心暗鬼に陥るようになってしまった。
――気まぐれにPCを起動、ぼーっとネットサーフィンしていたら自称神が話題になっていたのだ。
最近はこういうのが人気なのか。
腹を切って死ぬべきだなんて、どうやればこんなギャクが思いつくのだろう。
この天才的な一発ギャクをパロって自己紹介すれば、人気者になって信仰も獲得できるに違いない、と思い立ち実行すればクラス内で浮きまくり。
どこをどう間違えたのだろうか。教えて八坂様!
「はい、二人組み作ってー」
体育の授業は二人組みになって準備体操する決まりなので死ねる。
女子は皆、気味悪がって組んでくれない。
男子は何故、遠巻きになって胸元凝視してくるんですか。そんなに体育着になった私が面白いですか。
「……東風谷さんって、言動おかしいのに男子から人気あるよね」
「……胸あるもんね。マジ男子に注目されててムカつくし」
「……つーかあの自己紹介も狙ってたんじゃない? 天然キャラ作ってんだよきっと。死ねばいいのに」
本人に聞こえる大きさの声で陰口叩く人って何なの。心臓止める気なの?
「あれ。東風谷、あまっちゃったのか?」
「…………」
「じゃ、先生と組んで準備体操しよっか。な」
この体育教師、優しいな……。
我が神社が日本統一した暁には、特権階級にしてやろう。
そんなことを妄想しながら、授業をこなした。
さて放課後になったというのに、あの体育教師の笑顔が脳裏に焼きついて離れやしない。
どうしよう。
あの先生、女なのに。
禁断の恋かしら、などと思春期全開な苦悩で脳がはちきれそう。
今にして思えば、あれは恋に恋していたというか。
憧れ以上恋愛感情未満、同性に対して抱くこそばゆい感情だったのだ。
主に太古の女学校で盛んだった現象らしいが、大概の人は一時的なものとして割り切って成長する、通過儀礼なんだと聞いたけどそんな事どうでもよく思えてきて、あの体育教師に告白してしまった。
ちょっと百合入ったワタシ個性的でカッコイイとか勘違いしてたのかもしれない、だってテレビつければ個性を大事にとかやってるじゃん私は悪くないでも告白してからあの体育教師も私を気味悪がるようになって体育の授業は大変な事にああああああああ
―――――――
……ふう。
就寝前になると痛い思い出ばかり沸いてくるメカニズムを、誰か解き明かしてください。
できれば解決してください。この願い、叶えてくれるなら嫁いでもいい。
ああ忘れたい忘れたい忘れたい昔の自分をなかった事にして埋めてしまいたい。
くっそう何でまだトラウマ再生するんだマイ脳細胞、クラスメイトの笑い声がリフレインしてるよう。
恥ずかしすぎて本能的に暴れた。
枕は叩いても顔うずめても抱きしめても文句言わないので、恋人以上の存在だと思います。
一通り手足をバタつかせ終えた頃、物音を聞きつけた洩矢様出現。
汗びっしょり、肩で息をする私。おまけにいつの間にやら枕を股で挟む体勢になってるとかもうね。
「……早苗も年頃だしね」
洩矢様ったらいけない解釈した模様。
顔に軽蔑の色浮かべるのやめてくれませんか。これが原因で胃に穴開いたら責任とって友達になってください。
友達いたら十年は戦えるのに。
何で私と接する人は、皆して微妙に距離置くの?
何か変なこと言ったっけ?
幻想郷統一とか、そんなにマズイ話題ですか?
……どうも、今夜の私は変だ。
洩矢様に言わせれば常に変らしいが、とにかく変だ。
ネガティブが止まらない。
こんなにも弱気になる理由は何だろう携帯ですねそうですね。
こういう外の世界にいた頃を思い出させる、文明の利器が枕元に転がってるのが悪い。全部悪い。
おまけにお母さんのメアドしか登録してないじゃないか、こんなものはカスだ。
襖を開けてオーバスローのフォーム、全力で携帯を放り投げた。川に。
いらね。その綺麗なアンテナを河童さんにでもへし折って貰えばいいよ。
ようし何だか無性にスッキリした。これで安眠できる。
そうだ明日、早起きして洩矢様に誤解を解きに行こう。
枕とは健全な関係です、と。
『河城にとり氏、川でオーバーテクノロジーの塊を発見』
朝、目が覚めれば悪夢の続き。何ですかこの号外記事は。
文々。新聞はキワドイ写真ばかり掲載するから困る。
いや文さん自体は私にも話しかけてくれるから好きなのだが、どんな風に接していいのか分からなくてつい信仰しろとか強圧的に言っちゃって以来疎遠、おっとこんな事はどうでもいい。
どう見てもこの記事で取り扱っているオーバーテクノロジーの塊とやら、私が捨てた携帯電話だ。
(どうしようどうしようお母さんのメアドしか登録してないのバレたら友達いないキャラ定着)
まて焦るな落ち着け、あわてたら負けだ早苗。こんな時は祈り念じて神にすがろう。
一日中祈ってるうちに日が暮れた。
うとうとしてきて気がつけば朝、えへへ何にも対策できてないや。
晴れやかな朝日、今日も爽やかに新聞配る文さん。
もう二十四時間立ったのか。死ねよ太陽。すぐ沈んですぐ昇るのは反則でしょう。
何で今日が来ちゃったんだろう。また嫌な記事のってんだろうな文々。新聞。
『にとり氏、通信機器の全機能解析、及び機能増大に成功。
光学迷彩機能追加、付属のタッチペンで画面をこするとヘブン状態に移行可能、核融合炉搭載』
これはもう携帯電話ではない。機動兵器だ。
河童の技術力スゲェ。
何かもうメアドとかどうでもよくなった。にとりさんも、忘れてるのかもしれない。
と思いきや、記事のすみっこに『早苗さんを励ます会。皆で友達になろう!』と書いてある。
死にたい。
翌日、にとりさんが訪ねて来た。
何だろう。メアドの件を笑いにきたの?
っていうか人のもの拾ったなら、もっと早く届けに来るのがスジじゃないの?
色々なじりたかったけど、友達になりましょうね、とにっこり微笑んできたので許した。
友達って単語に弱いんです。その上にとりさん、ちょっと伊藤さんと似てるし。
さて友達の頼みとあらば断る訳にもいかず、携帯電話の詳しい使い方を説明したり、外の世界の最先端技術を語ってしまった。
「――早苗さんって、機械に詳しいんだね」
現代っ子として標準的な知識だと思うが、幻想郷基準だと専門家レベルなのかもしれない。
とにかく賞賛されて悪い気はしないので、その後もペラペラ機械トークしてたら、パイロットに指名されました。
携帯電話の。
何だよ携帯電話のパイロットって。
はめられた。初めからこのつもりだったんだ。
携帯の扱いに慣れた人材を探して、有視界戦闘で優位に立つのが狙いだったんだ。
にとりさんの手によって限界まで性能を強化された私の携帯は、二足歩行化に成功したらしい。
それはいい。いやだいぶおかしいか。
飛躍し過ぎな話について行けなくて、脳が休みたがってるのかもしれない。
小休止を終えた後、本題に入った。
月の頭脳さんが『おもしろそう』という、それだけの理由で携帯電話の模倣品を製作したらしい。
月で生まれた金属を装甲に用いた上、特殊な粒子でレーダーを無効化、オールレンジ攻撃も可能……。
模倣品のくせして本家より高性能とか。某ユーラシア大陸の面白国家を見習え、あそこの模倣品は身の程をわきまえてるから、本家と比べるとゴミ性能なんだぞ。
「携帯電話の量産化に成功した永遠亭が、幻想郷の軍事支配を狙ってる。暇だったから、だって」
幻想郷における携帯電話は、戦闘機と同意義。物騒だ。そしてえっちだ。
一部のパイロットが高い適正を示してるそうです。理由はおっぱい。
そもそも携帯電話を戦闘用に調整して、人が乗り込めるようにした時点で無謀。物理法則どこいった。
色々、ひずみが出てきてるようだ。
モニターと計器の間に、致命的な隙間が出来て不安定らしい。
そうです。その隙間に大きめのおっぱいを入れると、衝撃吸収材の役目を果たし、120%の性能が引き出されるらしいのです戦闘用携帯電話は。
にとりさんは、このようにパイロット向きな体型の持ち主を、乳タイプ(にゅうたいぷ)と呼んでいる。
「早苗さんは優れた乳タイプだと思う」
永遠亭の真の目的は軍事支配にあらず。暇つぶしでもない。
選民思想をベースにした、特定人種の淘汰こそが悲願だとか。
――貧乳はクソ、巨乳を見れば大きい胸って垂れるんですよねーと嫌味吐く悪魔。そして巨乳は最も進化した人種。
危険極まりない思想だ。
しかし、八意永琳さんが傾倒したのは頷ける。彼女は極端な乳タイプだ。
貧乳の罪に絶望し、貧乳は地球に謝罪すべきだと戦線布告。
さて。乳タイプでありながら、貧乳側で戦っている私は何なのだろう。
自分が捨てた携帯が、兵器に発展した事の罪滅ぼし?
にとりさんに頼まれたから?
……どれも違う。
永琳さんの主張に、頷けないからだと思う。
彼女は、貧乳と巨乳は分かり合えないと語る。
貧乳は巨乳に永遠に適わず、また進化する事もないという。
それは違う。人は進歩する。私だって、辛い努力を積んでグラマーさんになったのだ。
自分でおっぱい揉んで、おっきくしたのだ。……ん? よく考えてみたらこの努力、辛くなかった気がする。
むしろ気持ちよかったような。まぁいいや。
とにかく、人は革新できるんだ。
自分でも気持ちが整理できないけど、永遠亭の方針には反対なのです。
その後。
貧乳を滅ぼそうと、小惑星落としを試みた永琳さんを撃破。
大気圏で奇跡起こして人の可能性見せたりで大活躍だ。
おかげで友達一杯できたよ。最高です。
――あれから、全ての携帯電話は封印された。
理由は、地球を滅ぼしかねないから。軍事目的に用いなければ、とんでもない便利グッズなのに。
今になると、何故永琳さんに賛同しかねたのか分かる。
彼女は、全ての責任を胸囲の差に転嫁していたのだ。
貧乳と巨乳が分かり合えないのは、そんなものが理由ではない。
心だ。
自分と比べてみて恵まれていたり、異質だったり、そういう相手を認めたくない、という感情が原因だ。
そして、それは今までの私そのものであった。
自分のコミュニケーション力不足から来る奇怪な言動こそが、対人関係に軋轢を生んでいたのだ。
私はその全ての原因を、枕元に転がっていた携帯に押し付けポイした。
その携帯が兵器となって蘇り、私をも巻き込んだ騒乱の火種になった。これは私の罪、因果応報。
――自分自身の嫌な点と重なっていたから、無意識のうちに否定したんですね永琳さんを。
今では似たもの同士と分かって仲良しですが。
仲良すぎてくっつきぱなしですが。
しかし良い匂いするな永琳さん。ヘンな気分になってくる。あの体育教師と少し似てるし。
私はどうにか物のせいにする病を克服できたけど。
世の中にはこれが出来ない人が、まだ沢山いるようだ。
先の携帯電話戦争の原因は、携帯にこそある、として禁止されたし。
たまたま使われた武器が、携帯だったという話。
もし石ころやおたまが武器に選ばれていたなら、それらも規制していたのだろうか。
その気になれば殆どの物質で、人に危害を加えられるというのに。
人を傷つけるのは、人の意思。
あらゆるトラブルの原因は人間自身の頭にあると、どうしても認めたくないのだろうか。
どこかにある悪い何かを規制すれば問題解決、だって僕らは善い生き物な筈だもん。何かのせいで悪い事するハメになるんだもん。こんな次元ではしゃいでいては、無限に争いが起きる予感。
まあそんな事より、永琳さんは良い匂いしますね。
>できれば解決してください。この願い、叶えてくれるなら嫁いでもいい。
夢が……出来ました……。
というかなんで戦闘用なんかにw
青春が暗くても大丈夫さだってそんな人ごまんといるものその人達みんな生き残ってるもの
それに永琳は性別気にしないよきっと!たぶん紅白や白黒とも仲良くなれるはずさ!
モビルスーツならぬモバイルスーツwww
氏の書く早苗さんは遠くからニヤニヤして見ていたいw
「早苗どんよりSSだと思って見ていたら、いつのまにか『エロだよそれは!』叫んでいた」
Gパロとか又吉とかそんなちゃちなもんじゃね(ry
いいえ、ネガティブフェイスでした
その願い、叶えてやるから嫁いでこい。
とか思っていたら、彼女は女同士が良いのとか言って断ってきました。
ヤンデレに天然、あわや友達いないキャラになりかけ何とか回避するも変態に。
もうこの一家、ダメかも知れない……。
しかし早苗さんもいい匂いがするし、お互いの良い匂いが高まりあって生まれる愛は魔法じゃなくて化学反応なんだって偉い人が言ってた。