あらすじ
紅魔館の住民は以下略
今度はメイドに聞いて見た
―メイド長の場合―
私と美鈴の関係ですって?
夫婦よ。婚姻届はまだ出してないけど
でもいつか必ずその日が来るわ。そういつか
夕日をバックに砂浜で告白して丘の上にたつ
白い小さな教会で式を挙げてハネムーンは海が
見えるペンションでね夫婦としての初夜は彼女が誘い受けで
そうね子供は……
んっ? そうじゃない? それに幻想郷に海は無いって?
そんな夢の無いこと言わないで頂戴
それに無いなら作るだけよ
女同士じゃ子供も作れないって?
そんなのどこぞの薬師かパチュリー様に頼めば
できないものでもできるわよ
で、あなたの求めるその関係ってゆうのは何?
……あぁ、そういうこと
そうね確かに他から見れば私達の関係は『上司と部下』ね
いや立場上は本来変わらないわ
紅魔館は三つの部隊があって私が率いる館内の掃除や
炊飯等の雑用をする内勤メイド部隊
小悪魔が率いる図書館の運営、管理をする
図書館メイド部隊。通称、司書隊
そして彼女が指揮する館の警護や修復及び庭の管理
や食料調達をする外勤メイド部隊。通称門番隊
とこの三つよ。でも図書館部隊はパチュリー様直属で
実質、お嬢様に仕えてる部隊は内勤と門番隊の
二つのみ。その二つの長だから……
彼女と私の地位は同じはずよね?
でも彼女が自分から私の部下だと言い始めたのよ
いや、でも門番隊の子達は私の部下じゃないの
そう、彼女のみが、門番隊隊長の美鈴だけが
私の部下よ。何かおかしいでしょ?
何故彼女はそうしたか解るかしら?
……解らないわよねぇ?つまり
私達はそうゆう関係
『誰にも理解できない』関係ってことよ
解ったかしら?
……何よ、その不満そうな顔は
……………解ったわ、ちゃんと話してあげるわよ
でも対価はしっかり払ってくれるんでしょうね?
……美鈴の笑顔の写真?そんなの
この館で持っていない子なんていないわよ?
美鈴の笑顔写真は支給品で美鈴以外の館の全員が持ち歩く
ように決まってるのよ。もちろん持ってなかったら
お仕置きとして妹様と一日遊んで貰うことになってるわ
でも美鈴のシフトが休みで妹様と遊ぶ日を狙って忘れる子が
いるのよね。まぁその日は私のナイフなんだけれどもね
他のメイドに美鈴を触れさせたくないもの当然のことよ
で? 他には……寝顔写真? それも私は持ってるわよ
後、お嬢様と妹様、パチュリー様も持ってるわ
そういや小悪魔が欲しがっていたわねぇ
……あなた忘れてるみたいだけど
私は時を止められるのよ? 時を止めている間は
いくら美鈴でも私の気配に気付けない
だから私は美鈴のあんな写真やこんな写真も持ってるわ
解ったかしら?……あなたなに鼻血出してんのよ
何を想像したのか物によってはナイフよ?
……まったく仕方がないわね。今回は特別に
話してあげるわ。
私と彼女が出会ったのはね、まだ
私がこっちに来て少し経った頃だった
能力のせいで外の世界で化け物と
恐れられ、なりたくもないのに
吸血鬼ハンターになって
でも人殺しがほとんどだった
それに嫌気がさして逃げていたら
気が付いたら幻想郷にいたの
そこで私は誰かに殺されるために
あちこち歩き回ったわ
自殺なんて出来なかった
そんな勇気私には無かったから
でも誰も私を殺せなかった
私が強すぎてね
でもある日私は紅魔館に辿り着いた
そこで初めて彼女、紅美鈴に会ったわ
彼女は門の前に立っていた
そして彼女が私に気が付いたとき
悲しそうな顔したわ
それが気に入らなくて
私は彼女にナイフを投げたわ
それを彼女はいとも簡単に
はじいてみせた
そしたら彼女は言ったわ
『寂しい目をしないで、悲しい顔をしないで』
って。そのとき私は腹が立った
そんな顔をしてないと、するわけないと
でもそんな顔をしていたのでしょうね
だから私は時を止めてナイフを
四本投げてやったの
時が動き出したときの彼女の
驚きようはおもしろかったわ
何が起きたのか解らないって顔だった
でも難無く全てをはじいてみせた
でまた言ったのよ
『怖がらないで、ここは必ずあなたを受け入れる』
って。訳がわからなかった
そのとき私に攻撃をしかけようとした
部下を『大丈夫だから、手を出さないで』
と言って彼女は制したわ
時を止めることが出来る私に
一人で勝とうと?
私を舐めてるのかしら?
なら殺してしまおう
そう考えたわ
当初の殺してもらうって
目的を忘れてね
私がそう考えてるのに
彼女は決意を秘めた瞳で
私を見つめてそして歩き出した
私に向かって
正面から敵に、しかも歩いて
近づくなんて
こいつは馬鹿だ、気が狂ってる
それが正直な感想だったわ
だから私はまた時を止めてナイフを
投げてやった。今度は十本
彼女ははじいてみせた
でも足に二本、肩に一本刺さってたわ
恐らく急所に当たるやつだけを
はじいたのでしょう
でも彼女は歩くのをやめなかった
だから私は数を増やしてまた投げた
今度は十五本、しかも横からも
彼女はまた急所に当たるものだけを
はじいたわ
彼女の体に刺さってるナイフの数が増えた
でも歩くことはやめなかった
なら二十本、今度は後ろからも
また急所のやつだけをはじく
でも後ろからのものはすべて当たっていた
それでも彼女は表情一つ変えず
私に向かって歩いてくる
痛かったでしょうに
足にも何本も刺さって
歩き辛かったでしょうに
でも歩くのをやめなかった
そのときの私は驚いたわ
何本もナイフが刺さっても表情を変えず
私に向かって歩いてくる
こいつは化け物かと
正直、焦ってた
いや、混乱して我を失っていた
それは恐怖からくるものだったわ
それも彼女は殺気を放ってなかったから
それが逆に恐くて、気が付いたら
大声を上げて、時を止めて持っているナイフ全てを
彼女に投げていた。四方八方から
時が動き出したらナイフだらけで
地面に倒れてゆく彼女を
想像しながら
でも時が動き出したとき
彼女は立っていた
さすがに無事っていえるほど
じゃなかったけど
また急所……と言うより
体前方のナイフだけははじいてね
今回は頭にも一本刺さってた
背中なんてまるでハリネズミ
足なんて歩けるわけない
と思うほど
でも彼女は歩いてみせた
さすがによろよろだったけど
私は更に恐怖した
こんな化け物見たことがないと
それにナイフをすべて投げてしまって
いたし。別に時を止めてはじかれた
ものだけでも拾いにいけばよかったと思うけど
考えられなかった。それほど怖かったのよ
私は恐怖の余りに動けなかった
逃げたくとも逃げられない
抵抗しようとも抵抗出来ない
私は殺されるって思ったわ
殺気を出さない彼女に
でも彼女はやっと私の前に来ると
こう言ったの
『大丈夫、怖がらないで落ち着いて』
出来るわけがなかった
敵がすぐ目の前にいてその敵に
落ち着けるわけがないでしょ?
私は震えていた。これから自分がこいつに
どんな殺され方をするのか
そんなことを考えてたら
彼女どうしたと思う?
私を抱きしめたのよ。そしてこう言ったの
『あなたが今まで何を見てきたか、何をしてきたか
私には解らない。けど私はあなたを助けることが
出来るし味方にもなれるわ。ここはあなたを必ず受け入れる
私だけじゃない、私の部下も、メイドも、図書館に
住む魔女も、この館の主もきっとあなたを笑顔で受け入れるわ
だから怖がらないで、悲しい顔をしないで
あなたはもう独りじゃない、これからは私達がいるわ
私達はあなたを絶対に裏切らない、捨てたりしない
だからもう……我慢せずに泣いていいのよ?』
って。優しく、母親のようにね
そのとき私から恐怖は消えていたわ
変わりによく解らない感情が込み上げてきた
でも今なら解る。あれが
人の温かさに触れた、優しさを感じた人の
気持ちだって、それが『嬉しい』ってことだって
そして私が遠い昔に置いてきた感情だった
そのとき私は泣いていたわ彼女の胸の中で
その間彼女はずっと私の頭を撫でてくれた
まるで昔の母親みたいに
私がとうの昔に置いてきてしまった
感情を彼女はまた私に与えてくれた
そして私を受け入れてくれた
泣き止んだ後、私はお嬢様に謁見して
戦ったわ。もちろん惨敗。でも
それまでの私を叩きのめして頂いて
十六夜咲夜というお名前もくださった。
そして笑顔で受け入れて貰った
私は嬉しかったわ。彼女の言うとおりだったから
その後、お嬢様の命で私はメイドになった。
本当は戦闘能力とかもあって門番隊になるのが
妥当だったみたいだっただけど……美鈴が私はメイドの
方がいいと押したのよ
それをお嬢様は了承して私はメイドになったの
それから私はメイド長……今の副メイド長に
館での暮らし方、メイドとしての仕事
瀟洒なメイドとしてのあり方を教わった
でも私の世話係は美鈴だったわ
正直、嬉しかった。ここで
最初に私を受け入れてくれた人なのだから
私はそれからしばらくは彼女の部屋で一緒に暮らした
起きる時間も一緒、食事も一緒、お風呂も一緒
寝るのも一緒。でも違ったのは
彼女がまるで私を娘のように優しく接してくれたこと
でも一つ疑問に思ったことがあったの
本来メイドは食堂で食事をしなければならないのに
彼女が自分で料理を作ってくれて部屋で一緒に食べていたの
でも彼女の料理が美味しくてそんなこと気にしなくなったわ
ついでに彼女は中華だけじゃなく洋食も作れるのよ
まぁ洋風な紅魔館に住んでいるからでしょうけど
でも副メイド長にも負けないくらいおいしいって
他のメイドも言っていたわ。それと私に料理を
教えてくれたのも彼女よ。今でも彼女の腕には敵わないわ
悔しいけど副メイド長にもね
でも彼女との生活は長くは続かなかったわ
僅か数ヶ月で私は他のメイドと同じように
暮らすことになった。そして食堂で
食事するようになったわ
最初は怖かったわ。人間は私だけで
周りは妖精と妖怪で、特に妖怪メイドの中には
人肉を好む子もいたからね
でも私が襲われることは無かった
しかも私と普通に接してくれたわ
彼女達も私を受け入れてくれたの
とても嬉しかったわ。でもこのとき
気付いたの。何故、美鈴が私と一緒に
それも彼女の手料理を食べていたか
私が来たときはまだ人肉を使った料理が
あったのよ。でも私が来てさすがに
食べさせる訳にはいかないからって
だから私のために美鈴が人肉を使ってない
料理を作ってくれていたの
食堂の料理に関しては皆がすぐに了承してくれて
人肉料理は無くなったらしいわ
でも、人肉が好きなのは変わらないはず
それで人肉を食べたくなった子はどうしたと
思う?……解らないわよね?
私も聞いたときは驚いたわ
美鈴の能力で『人肉を食べたい』って欲望、
そう『食い気』を消していたそうよ
『気を使う程度の能力』……汎用性なら
あの隙間妖怪にも劣らないでしょ?
話がずれたわ
それから数年間、私は紅魔館でひたすら働いわ
私を受け入れてくれた皆への恩返しとして
その間美鈴はね仕事が終わったら会いに来てくれた
そして『今日も一日お疲れ様、明日も頑張ろうね』
って言ってくれたわ。それだけじゃない
私が仕事を頑張って活躍したら褒めてくれた
私が仕事を失敗したときは慰めてくれた
私が悩んでいたら相談に乗ってくれた
本当に彼女は私に優しくしてくれた
だから私は彼女のことを慕ったていた。でも
それは気が付いたら変わっていたわ
『恋』というものにね。最初は
なんだか解らなかったけど、今の副メイド長に相談したら
それが恋心だと教えられたわ。でも最初は戸惑ったわ
だって女同士ですもの。外では異性同士が普通だったから
でも副メイド長は言ってくれたわ
『恋する相手の性別は関係ない。幻想郷ならなおさらよ』と
それからそれなりにアピールしてるんだけど
まったく彼女は気付いてくれないの
ついでにそのことについては副メイド長に相談してるわ
副メイド長は昔から美鈴を知っている数少ない人だし
経験も豊富だからね
話がまたずれたわ。でも彼女は会いに来てくれない
日があった。それは短くて三日長くて三週間程だった
私はそれが気になったわ。彼女が私に数日間会えない理由が
でもしばらくしたら解消した。同僚が教えてくれたの
美鈴が妹様の遊び相手を勤めていてその怪我のせいだと
妹様の話は知っていた。もう400年以上も地下に監禁
されていてその理由が妹様の能力
『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』にあることも
そして気が触れていることも
恐らく遊んでいるときに妹様が狂気に魅入られてそのまま
……そこからは考えたくなかった。今はまだ生きているけど
いつか彼女を完全に『破壊』してしまうのではないかと
心配になった。そして怖くなった。今まで私に優しく接して
くれた人が心の支えになってくれている人がいなくなって
しまうことが。正直彼女を止めたかったわ。でも同僚が言った
彼女の意思は変えられないと、お嬢様でも彼女を止められないと
それほど彼女は妹様のことを、いつか必ず能力を制御出来るように
なると、狂気も消えると信じているのだから
だから、今あなたに出来るのは只見守るだけだと
悲しかった。私には何も出来ないことが。彼女の役に立てないことが
そのとき泣いたわ。自分の無力さを知って
そのことを副メイド長に言っても同じ答えが返ってきた
『知ってしまったのね。でもあなたに出来ることは本当に見守ることだけ、
彼女は自分があなたの知らない所で傷つくことを知って欲しくなかった
のよ。だから今あなたが出来ることは今まで通り接することだけ』
と。正直辛かったけど今までのように接することに努めたわ
それが瀟洒だって。そう副メイド長に言われて
それから数ヶ月後、私の環境は大きく変わったわ
そうメイド長に選ばれたの。今までの私の働きが良かったと
副メイド長と美鈴が推薦してくれたの。嬉しかった
あの二人に認められたって思えて
その日、私はお嬢様に呼ばれメイド長になるよう命じられた
皆、祝福してくれてとても嬉しかったわ。でもその場に彼女は
美鈴は居なかったの。副メイド長に聞いたら門にいる
っていうからもちろん会いに行ったわ。副メイド長も
せっかくなのだから会って礼を言ってきなさいって
言ってくれた
私が門に着いたとき彼女は座って門柱に
寄り掛かって眠っていた。疲れてるのだろうと
そっとしておこうかと思ったけど嬉しい気持ちを
すぐにでも伝えたくて彼女のことを起こしたわ
今思えばあの時起こさなければ今の私は
なかった……いや、先に延びる程度だったでしょうね
それほどの出来事が私に待っていたわ
起こされた彼女は私にこう言った
『あっ、おはようございますメイド長』
って。最初は驚いた。彼女が私のことをメイド長って
呼んだこと。それも事務的に、丁寧に
今は仕事中なのだから私をメイド長と呼ぶこと
は正しいと思ったわ。でも敬語。そのとき
恥ずかしかったと同時に疑問が浮かんだ
彼女は先代メイド長……副メイド長と話すときは
普通に話していた。まるで親しい友人のように
なのに私には敬語。おかしかった
門番隊隊長の彼女と内勤部隊隊長の私
地位的に同じ場所にいるはずなのに
でも何か事情があるのだろうと流すことにして
私は彼女への感謝を言葉にして話した
彼女は優しく聞いていてくれた。それこそ
昔から見ていた母親のような彼女だった
でも話を終えると同時にさっきのような
事務的な話し方でこう言った
『良かったですね、メイド長になれて。ところで
メイド長、私はメイド長が来るまで居眠りを
してしまいました。職務中に居眠りしてしまうなんて
体罰ものですよね?』
一瞬耳を疑ったわ。自分は今まで居眠りしていたから
罰を与えて欲しい。そう自分で言ったのよ
それも体罰。彼女を傷つけるということだった
私はとりあえず説教だけで終わろうとしたけど
彼女は私のナイフを取り出して私の手に握らしたの
そして……どうしたと思う?
………解らないわよね。そして一生理解出来ないでしょう
彼女は私の右手にナイフを握らせると
自分の胸に刺させたのよ
驚くでしょ?私も驚いて最初は何が起きたか解らなかった
それで我を取り戻したときその手を引こうとした
でも彼女は私の手を強く握ってそれを許さなかった
ナイフを放そうとしても同じことだった
そのとき私はいくら彼女の願いでも、命令でも
行動でも、私が私の手で彼女を傷つけたことが
辛かった、痛かった、怖かった
恩人を、母親と慕っていた人を、片思いの相手を
傷つけることがとても辛かった
独りで生きているあなたには解らないものでしょうね
しばらくして彼女は私の手を離してくれた
一分も経って無かったと思うけど
体感時間は数時間だった
それほどのショックだったわ
私は彼女の胸に刺さる自分のナイフから手を放す
いや力が抜けて放さざるを得なかった
そしてその場にへたり込んだ
気持ち悪かった、痛かった、泣きたかった
私は大切な人を自分の意思ではないけど
傷つけてしまったことが本当にショックだった
そんな私をみて彼女はこう言った
『咲夜、これから話すことは門番隊隊長の紅美鈴として
ではなくあなたの世話係としての紅美鈴が話すこと
だからよく聞きなさい。あなたがメイド長になったことは
私も正直嬉しいわ。でもあなたは紅魔館で初めての
人間のメイド長。正直まだ未熟だと私は思ってる
だからもしかしたら他のメイド達は
あなたを信用してないかもしれない
人の信用を得ることは大変なことよ
実際前メイド長も最初は大変だったわ
でもそれは長年の経験でカバーしていた
それは彼女が妖怪だったから
でもあなたは人間、私達より遥かに短命だから
さすがに力で無理矢理従わせる方法しかないと
私は思う。でもそれは彼女達メイドの
反感を買うだけ。ならばどうしたらいいか?
簡単よ。あなたと同じほぼ同じ地位にいる人を
従わせればあなたに力があると思って
皆必ず付いていくわ。そして従わせる
あなたと同じ地位に立つもの、それは
私よ。だからこれから私はあなたの部下よ
私はあなたの命令なら何でも聞くし従う
仕事を失敗したりおろそかにしたら
罰を受けるわ。話し方もあなたには敬語で
いるつもりよ
いい咲夜?これはあなたのためよ。あなた
がこれからメイド長として、完全で瀟洒なメイド
としてお嬢様に従い部下に命令を与える
立場になる。そのために私を部下として
従わせるの、いや従わせなさい。
そうすれば必ず皆があなたの力を信用し
付いていくわ』
そう彼女は私のためを思って自分に罰を与えることを強要した
そしてこれから自分は私の部下だと言った
そのとき私は嬉しかった。私のために、彼女は自分の地位を
落とすことになってでも私に従うことを決めたのだから
そして最後にこう言ってくれた
『大丈夫よ。あなたなら出来るわ。そして上司と部下といっても
仕事の中だけ。プライベートではいつも通り接してあげるから安心して
どんなにあなたが私に命令しても罰を与えても私はあなたを嫌いにならない
私はあなたを信じているから。だからあなたも私を信じて
それともう顔を上げなさい。それじゃあ完全で瀟洒なメイドの肩書きが
台無しよ?』
そう言って彼女は私を抱きしめてくれた
昔、門の前で初めて抱きしめてくれたときのように
優しく、ただ優しく
そして私は決意した。彼女の言うとおり『完全で瀟洒なメイド』
でいようと、紅魔館に恥じないメイド長になろうと
それから私は彼女を部下として扱うようになった
彼女にしか出来ないようなことは直接命令したし
居眠りをしているようならナイフを刺して罰を与えた
もちろん門を突破されても。まぁ異変の日と
魔理沙が今のように大人しく来る前までのことだったけど
ついでに言うけど彼女が私を『咲夜さん』って呼んでいるのは
私の命令よ。やっぱり彼女にメイド長と呼ばれるのは
まだ先だと思ったから
美鈴が私に従っている、部下のように扱われてる
そのことを聞いたのでしょう。内勤のメイド達はしっかり
私の言うことを聞いてくれていたわ
最初はさすがに恐怖の目だったけど
気が付いたら尊敬の目になっていたわ
このとき私は感謝した、彼女のあのときの行動に
そうしなければ今の私は無かったと
もちろんお嬢様も私を信用してくださった。いや、
すべて解っていたことかもしれないけど
そうして私はあの時から今まで『完全で瀟洒なメイド』
でいることを誓ったわ。
そして今もこうして紅魔館で働いている
お嬢様のために、あの日から私を
受け入れてくれた皆への恩返しのために
そして彼女と、美鈴と共に生きるために
そしてこれからもそれは変わらないわ
私が死ぬまでね
まったく結構話しちゃったわねぇ
んっ?まだ何か?
……私にとっての美鈴ねぇ。そうね
『人としての私を受け入れて育ててくれた母親』と
『完全で瀟洒なメイドとしての私を作ってくれた母親』と
『想いが届かない初恋の相手』
ってとこかしら
でもやっぱり『誰にも理解出来ない関係』って言った方が
いいかしらね
それじゃあ取材をさせてあげた対価なんだけども
妹様と遊んで貰えないかしら?
……何でいつのまに手足と翼を縛られてるかって?
それは逃げようとしたあなたを時を止めて
捕まえて逃げられないようにしたからよ
それにどうせ聞きに行くんでしょ?
ならちょうどいいじゃない
たまには変わった人と弾幕ごっこするのも
妹様にはいい刺激だよ
それではご案内しますわね
―おまけ―
副メイド長(先代メイド長)の話
咲夜さんと美鈴さんに関してですか?
そうですねぇ、お似合いだと思いますわ
咲夜さんを月とするならば
美鈴さんは太陽だと思います
本来、一緒に見ることが出来ない
二つのものが並ぶと神秘的な美しさを
感じませんか?
……そうですか、風流が無いですね
そんなんだと恋もおろそかになりますわよ
あらあら顔を真っ赤にして可愛い子ですね
それなら大丈夫でしょうね
いつかいい恋が出来ますわ
私ですか?私は今は出番を待つ身であり
恋のキューピットですかね
正直言いますと私も美鈴さんに
好意を寄せているのですよ
それはもう長い間。それこそ私と彼女は
同期ですからね。もう千年は経ってますよ
でもまったく気付いてくれなくて、そのときに
ここに来たのが彼女、咲夜さんですわ
あの子が彼女に好意を抱いてるってことを
知った時は驚きましたよ。それこそ
ライバルかと思ったのですが
彼女は人間ですから百年も生きれません
だから私はあえて手を退いて
彼女を応援することに決めたのです
命短し恋せよ乙女とはよく言ったもの
ですわ。だから私は咲夜さんが美鈴さんとの
恋を諦めるまでは舞台を降りることに
しましたの。でも彼女と美鈴さんが
くっついたとしてもそれはそれで嬉しいことですわ
好きな人の幸せを見守る……それもまた一興ですから
それでは妹様の部屋にご案内しますから
覚悟してくださいね?
<終わり>
紅魔館の住民は以下略
今度はメイドに聞いて見た
―メイド長の場合―
私と美鈴の関係ですって?
夫婦よ。婚姻届はまだ出してないけど
でもいつか必ずその日が来るわ。そういつか
夕日をバックに砂浜で告白して丘の上にたつ
白い小さな教会で式を挙げてハネムーンは海が
見えるペンションでね夫婦としての初夜は彼女が誘い受けで
そうね子供は……
んっ? そうじゃない? それに幻想郷に海は無いって?
そんな夢の無いこと言わないで頂戴
それに無いなら作るだけよ
女同士じゃ子供も作れないって?
そんなのどこぞの薬師かパチュリー様に頼めば
できないものでもできるわよ
で、あなたの求めるその関係ってゆうのは何?
……あぁ、そういうこと
そうね確かに他から見れば私達の関係は『上司と部下』ね
いや立場上は本来変わらないわ
紅魔館は三つの部隊があって私が率いる館内の掃除や
炊飯等の雑用をする内勤メイド部隊
小悪魔が率いる図書館の運営、管理をする
図書館メイド部隊。通称、司書隊
そして彼女が指揮する館の警護や修復及び庭の管理
や食料調達をする外勤メイド部隊。通称門番隊
とこの三つよ。でも図書館部隊はパチュリー様直属で
実質、お嬢様に仕えてる部隊は内勤と門番隊の
二つのみ。その二つの長だから……
彼女と私の地位は同じはずよね?
でも彼女が自分から私の部下だと言い始めたのよ
いや、でも門番隊の子達は私の部下じゃないの
そう、彼女のみが、門番隊隊長の美鈴だけが
私の部下よ。何かおかしいでしょ?
何故彼女はそうしたか解るかしら?
……解らないわよねぇ?つまり
私達はそうゆう関係
『誰にも理解できない』関係ってことよ
解ったかしら?
……何よ、その不満そうな顔は
……………解ったわ、ちゃんと話してあげるわよ
でも対価はしっかり払ってくれるんでしょうね?
……美鈴の笑顔の写真?そんなの
この館で持っていない子なんていないわよ?
美鈴の笑顔写真は支給品で美鈴以外の館の全員が持ち歩く
ように決まってるのよ。もちろん持ってなかったら
お仕置きとして妹様と一日遊んで貰うことになってるわ
でも美鈴のシフトが休みで妹様と遊ぶ日を狙って忘れる子が
いるのよね。まぁその日は私のナイフなんだけれどもね
他のメイドに美鈴を触れさせたくないもの当然のことよ
で? 他には……寝顔写真? それも私は持ってるわよ
後、お嬢様と妹様、パチュリー様も持ってるわ
そういや小悪魔が欲しがっていたわねぇ
……あなた忘れてるみたいだけど
私は時を止められるのよ? 時を止めている間は
いくら美鈴でも私の気配に気付けない
だから私は美鈴のあんな写真やこんな写真も持ってるわ
解ったかしら?……あなたなに鼻血出してんのよ
何を想像したのか物によってはナイフよ?
……まったく仕方がないわね。今回は特別に
話してあげるわ。
私と彼女が出会ったのはね、まだ
私がこっちに来て少し経った頃だった
能力のせいで外の世界で化け物と
恐れられ、なりたくもないのに
吸血鬼ハンターになって
でも人殺しがほとんどだった
それに嫌気がさして逃げていたら
気が付いたら幻想郷にいたの
そこで私は誰かに殺されるために
あちこち歩き回ったわ
自殺なんて出来なかった
そんな勇気私には無かったから
でも誰も私を殺せなかった
私が強すぎてね
でもある日私は紅魔館に辿り着いた
そこで初めて彼女、紅美鈴に会ったわ
彼女は門の前に立っていた
そして彼女が私に気が付いたとき
悲しそうな顔したわ
それが気に入らなくて
私は彼女にナイフを投げたわ
それを彼女はいとも簡単に
はじいてみせた
そしたら彼女は言ったわ
『寂しい目をしないで、悲しい顔をしないで』
って。そのとき私は腹が立った
そんな顔をしてないと、するわけないと
でもそんな顔をしていたのでしょうね
だから私は時を止めてナイフを
四本投げてやったの
時が動き出したときの彼女の
驚きようはおもしろかったわ
何が起きたのか解らないって顔だった
でも難無く全てをはじいてみせた
でまた言ったのよ
『怖がらないで、ここは必ずあなたを受け入れる』
って。訳がわからなかった
そのとき私に攻撃をしかけようとした
部下を『大丈夫だから、手を出さないで』
と言って彼女は制したわ
時を止めることが出来る私に
一人で勝とうと?
私を舐めてるのかしら?
なら殺してしまおう
そう考えたわ
当初の殺してもらうって
目的を忘れてね
私がそう考えてるのに
彼女は決意を秘めた瞳で
私を見つめてそして歩き出した
私に向かって
正面から敵に、しかも歩いて
近づくなんて
こいつは馬鹿だ、気が狂ってる
それが正直な感想だったわ
だから私はまた時を止めてナイフを
投げてやった。今度は十本
彼女ははじいてみせた
でも足に二本、肩に一本刺さってたわ
恐らく急所に当たるやつだけを
はじいたのでしょう
でも彼女は歩くのをやめなかった
だから私は数を増やしてまた投げた
今度は十五本、しかも横からも
彼女はまた急所に当たるものだけを
はじいたわ
彼女の体に刺さってるナイフの数が増えた
でも歩くことはやめなかった
なら二十本、今度は後ろからも
また急所のやつだけをはじく
でも後ろからのものはすべて当たっていた
それでも彼女は表情一つ変えず
私に向かって歩いてくる
痛かったでしょうに
足にも何本も刺さって
歩き辛かったでしょうに
でも歩くのをやめなかった
そのときの私は驚いたわ
何本もナイフが刺さっても表情を変えず
私に向かって歩いてくる
こいつは化け物かと
正直、焦ってた
いや、混乱して我を失っていた
それは恐怖からくるものだったわ
それも彼女は殺気を放ってなかったから
それが逆に恐くて、気が付いたら
大声を上げて、時を止めて持っているナイフ全てを
彼女に投げていた。四方八方から
時が動き出したらナイフだらけで
地面に倒れてゆく彼女を
想像しながら
でも時が動き出したとき
彼女は立っていた
さすがに無事っていえるほど
じゃなかったけど
また急所……と言うより
体前方のナイフだけははじいてね
今回は頭にも一本刺さってた
背中なんてまるでハリネズミ
足なんて歩けるわけない
と思うほど
でも彼女は歩いてみせた
さすがによろよろだったけど
私は更に恐怖した
こんな化け物見たことがないと
それにナイフをすべて投げてしまって
いたし。別に時を止めてはじかれた
ものだけでも拾いにいけばよかったと思うけど
考えられなかった。それほど怖かったのよ
私は恐怖の余りに動けなかった
逃げたくとも逃げられない
抵抗しようとも抵抗出来ない
私は殺されるって思ったわ
殺気を出さない彼女に
でも彼女はやっと私の前に来ると
こう言ったの
『大丈夫、怖がらないで落ち着いて』
出来るわけがなかった
敵がすぐ目の前にいてその敵に
落ち着けるわけがないでしょ?
私は震えていた。これから自分がこいつに
どんな殺され方をするのか
そんなことを考えてたら
彼女どうしたと思う?
私を抱きしめたのよ。そしてこう言ったの
『あなたが今まで何を見てきたか、何をしてきたか
私には解らない。けど私はあなたを助けることが
出来るし味方にもなれるわ。ここはあなたを必ず受け入れる
私だけじゃない、私の部下も、メイドも、図書館に
住む魔女も、この館の主もきっとあなたを笑顔で受け入れるわ
だから怖がらないで、悲しい顔をしないで
あなたはもう独りじゃない、これからは私達がいるわ
私達はあなたを絶対に裏切らない、捨てたりしない
だからもう……我慢せずに泣いていいのよ?』
って。優しく、母親のようにね
そのとき私から恐怖は消えていたわ
変わりによく解らない感情が込み上げてきた
でも今なら解る。あれが
人の温かさに触れた、優しさを感じた人の
気持ちだって、それが『嬉しい』ってことだって
そして私が遠い昔に置いてきた感情だった
そのとき私は泣いていたわ彼女の胸の中で
その間彼女はずっと私の頭を撫でてくれた
まるで昔の母親みたいに
私がとうの昔に置いてきてしまった
感情を彼女はまた私に与えてくれた
そして私を受け入れてくれた
泣き止んだ後、私はお嬢様に謁見して
戦ったわ。もちろん惨敗。でも
それまでの私を叩きのめして頂いて
十六夜咲夜というお名前もくださった。
そして笑顔で受け入れて貰った
私は嬉しかったわ。彼女の言うとおりだったから
その後、お嬢様の命で私はメイドになった。
本当は戦闘能力とかもあって門番隊になるのが
妥当だったみたいだっただけど……美鈴が私はメイドの
方がいいと押したのよ
それをお嬢様は了承して私はメイドになったの
それから私はメイド長……今の副メイド長に
館での暮らし方、メイドとしての仕事
瀟洒なメイドとしてのあり方を教わった
でも私の世話係は美鈴だったわ
正直、嬉しかった。ここで
最初に私を受け入れてくれた人なのだから
私はそれからしばらくは彼女の部屋で一緒に暮らした
起きる時間も一緒、食事も一緒、お風呂も一緒
寝るのも一緒。でも違ったのは
彼女がまるで私を娘のように優しく接してくれたこと
でも一つ疑問に思ったことがあったの
本来メイドは食堂で食事をしなければならないのに
彼女が自分で料理を作ってくれて部屋で一緒に食べていたの
でも彼女の料理が美味しくてそんなこと気にしなくなったわ
ついでに彼女は中華だけじゃなく洋食も作れるのよ
まぁ洋風な紅魔館に住んでいるからでしょうけど
でも副メイド長にも負けないくらいおいしいって
他のメイドも言っていたわ。それと私に料理を
教えてくれたのも彼女よ。今でも彼女の腕には敵わないわ
悔しいけど副メイド長にもね
でも彼女との生活は長くは続かなかったわ
僅か数ヶ月で私は他のメイドと同じように
暮らすことになった。そして食堂で
食事するようになったわ
最初は怖かったわ。人間は私だけで
周りは妖精と妖怪で、特に妖怪メイドの中には
人肉を好む子もいたからね
でも私が襲われることは無かった
しかも私と普通に接してくれたわ
彼女達も私を受け入れてくれたの
とても嬉しかったわ。でもこのとき
気付いたの。何故、美鈴が私と一緒に
それも彼女の手料理を食べていたか
私が来たときはまだ人肉を使った料理が
あったのよ。でも私が来てさすがに
食べさせる訳にはいかないからって
だから私のために美鈴が人肉を使ってない
料理を作ってくれていたの
食堂の料理に関しては皆がすぐに了承してくれて
人肉料理は無くなったらしいわ
でも、人肉が好きなのは変わらないはず
それで人肉を食べたくなった子はどうしたと
思う?……解らないわよね?
私も聞いたときは驚いたわ
美鈴の能力で『人肉を食べたい』って欲望、
そう『食い気』を消していたそうよ
『気を使う程度の能力』……汎用性なら
あの隙間妖怪にも劣らないでしょ?
話がずれたわ
それから数年間、私は紅魔館でひたすら働いわ
私を受け入れてくれた皆への恩返しとして
その間美鈴はね仕事が終わったら会いに来てくれた
そして『今日も一日お疲れ様、明日も頑張ろうね』
って言ってくれたわ。それだけじゃない
私が仕事を頑張って活躍したら褒めてくれた
私が仕事を失敗したときは慰めてくれた
私が悩んでいたら相談に乗ってくれた
本当に彼女は私に優しくしてくれた
だから私は彼女のことを慕ったていた。でも
それは気が付いたら変わっていたわ
『恋』というものにね。最初は
なんだか解らなかったけど、今の副メイド長に相談したら
それが恋心だと教えられたわ。でも最初は戸惑ったわ
だって女同士ですもの。外では異性同士が普通だったから
でも副メイド長は言ってくれたわ
『恋する相手の性別は関係ない。幻想郷ならなおさらよ』と
それからそれなりにアピールしてるんだけど
まったく彼女は気付いてくれないの
ついでにそのことについては副メイド長に相談してるわ
副メイド長は昔から美鈴を知っている数少ない人だし
経験も豊富だからね
話がまたずれたわ。でも彼女は会いに来てくれない
日があった。それは短くて三日長くて三週間程だった
私はそれが気になったわ。彼女が私に数日間会えない理由が
でもしばらくしたら解消した。同僚が教えてくれたの
美鈴が妹様の遊び相手を勤めていてその怪我のせいだと
妹様の話は知っていた。もう400年以上も地下に監禁
されていてその理由が妹様の能力
『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』にあることも
そして気が触れていることも
恐らく遊んでいるときに妹様が狂気に魅入られてそのまま
……そこからは考えたくなかった。今はまだ生きているけど
いつか彼女を完全に『破壊』してしまうのではないかと
心配になった。そして怖くなった。今まで私に優しく接して
くれた人が心の支えになってくれている人がいなくなって
しまうことが。正直彼女を止めたかったわ。でも同僚が言った
彼女の意思は変えられないと、お嬢様でも彼女を止められないと
それほど彼女は妹様のことを、いつか必ず能力を制御出来るように
なると、狂気も消えると信じているのだから
だから、今あなたに出来るのは只見守るだけだと
悲しかった。私には何も出来ないことが。彼女の役に立てないことが
そのとき泣いたわ。自分の無力さを知って
そのことを副メイド長に言っても同じ答えが返ってきた
『知ってしまったのね。でもあなたに出来ることは本当に見守ることだけ、
彼女は自分があなたの知らない所で傷つくことを知って欲しくなかった
のよ。だから今あなたが出来ることは今まで通り接することだけ』
と。正直辛かったけど今までのように接することに努めたわ
それが瀟洒だって。そう副メイド長に言われて
それから数ヶ月後、私の環境は大きく変わったわ
そうメイド長に選ばれたの。今までの私の働きが良かったと
副メイド長と美鈴が推薦してくれたの。嬉しかった
あの二人に認められたって思えて
その日、私はお嬢様に呼ばれメイド長になるよう命じられた
皆、祝福してくれてとても嬉しかったわ。でもその場に彼女は
美鈴は居なかったの。副メイド長に聞いたら門にいる
っていうからもちろん会いに行ったわ。副メイド長も
せっかくなのだから会って礼を言ってきなさいって
言ってくれた
私が門に着いたとき彼女は座って門柱に
寄り掛かって眠っていた。疲れてるのだろうと
そっとしておこうかと思ったけど嬉しい気持ちを
すぐにでも伝えたくて彼女のことを起こしたわ
今思えばあの時起こさなければ今の私は
なかった……いや、先に延びる程度だったでしょうね
それほどの出来事が私に待っていたわ
起こされた彼女は私にこう言った
『あっ、おはようございますメイド長』
って。最初は驚いた。彼女が私のことをメイド長って
呼んだこと。それも事務的に、丁寧に
今は仕事中なのだから私をメイド長と呼ぶこと
は正しいと思ったわ。でも敬語。そのとき
恥ずかしかったと同時に疑問が浮かんだ
彼女は先代メイド長……副メイド長と話すときは
普通に話していた。まるで親しい友人のように
なのに私には敬語。おかしかった
門番隊隊長の彼女と内勤部隊隊長の私
地位的に同じ場所にいるはずなのに
でも何か事情があるのだろうと流すことにして
私は彼女への感謝を言葉にして話した
彼女は優しく聞いていてくれた。それこそ
昔から見ていた母親のような彼女だった
でも話を終えると同時にさっきのような
事務的な話し方でこう言った
『良かったですね、メイド長になれて。ところで
メイド長、私はメイド長が来るまで居眠りを
してしまいました。職務中に居眠りしてしまうなんて
体罰ものですよね?』
一瞬耳を疑ったわ。自分は今まで居眠りしていたから
罰を与えて欲しい。そう自分で言ったのよ
それも体罰。彼女を傷つけるということだった
私はとりあえず説教だけで終わろうとしたけど
彼女は私のナイフを取り出して私の手に握らしたの
そして……どうしたと思う?
………解らないわよね。そして一生理解出来ないでしょう
彼女は私の右手にナイフを握らせると
自分の胸に刺させたのよ
驚くでしょ?私も驚いて最初は何が起きたか解らなかった
それで我を取り戻したときその手を引こうとした
でも彼女は私の手を強く握ってそれを許さなかった
ナイフを放そうとしても同じことだった
そのとき私はいくら彼女の願いでも、命令でも
行動でも、私が私の手で彼女を傷つけたことが
辛かった、痛かった、怖かった
恩人を、母親と慕っていた人を、片思いの相手を
傷つけることがとても辛かった
独りで生きているあなたには解らないものでしょうね
しばらくして彼女は私の手を離してくれた
一分も経って無かったと思うけど
体感時間は数時間だった
それほどのショックだったわ
私は彼女の胸に刺さる自分のナイフから手を放す
いや力が抜けて放さざるを得なかった
そしてその場にへたり込んだ
気持ち悪かった、痛かった、泣きたかった
私は大切な人を自分の意思ではないけど
傷つけてしまったことが本当にショックだった
そんな私をみて彼女はこう言った
『咲夜、これから話すことは門番隊隊長の紅美鈴として
ではなくあなたの世話係としての紅美鈴が話すこと
だからよく聞きなさい。あなたがメイド長になったことは
私も正直嬉しいわ。でもあなたは紅魔館で初めての
人間のメイド長。正直まだ未熟だと私は思ってる
だからもしかしたら他のメイド達は
あなたを信用してないかもしれない
人の信用を得ることは大変なことよ
実際前メイド長も最初は大変だったわ
でもそれは長年の経験でカバーしていた
それは彼女が妖怪だったから
でもあなたは人間、私達より遥かに短命だから
さすがに力で無理矢理従わせる方法しかないと
私は思う。でもそれは彼女達メイドの
反感を買うだけ。ならばどうしたらいいか?
簡単よ。あなたと同じほぼ同じ地位にいる人を
従わせればあなたに力があると思って
皆必ず付いていくわ。そして従わせる
あなたと同じ地位に立つもの、それは
私よ。だからこれから私はあなたの部下よ
私はあなたの命令なら何でも聞くし従う
仕事を失敗したりおろそかにしたら
罰を受けるわ。話し方もあなたには敬語で
いるつもりよ
いい咲夜?これはあなたのためよ。あなた
がこれからメイド長として、完全で瀟洒なメイド
としてお嬢様に従い部下に命令を与える
立場になる。そのために私を部下として
従わせるの、いや従わせなさい。
そうすれば必ず皆があなたの力を信用し
付いていくわ』
そう彼女は私のためを思って自分に罰を与えることを強要した
そしてこれから自分は私の部下だと言った
そのとき私は嬉しかった。私のために、彼女は自分の地位を
落とすことになってでも私に従うことを決めたのだから
そして最後にこう言ってくれた
『大丈夫よ。あなたなら出来るわ。そして上司と部下といっても
仕事の中だけ。プライベートではいつも通り接してあげるから安心して
どんなにあなたが私に命令しても罰を与えても私はあなたを嫌いにならない
私はあなたを信じているから。だからあなたも私を信じて
それともう顔を上げなさい。それじゃあ完全で瀟洒なメイドの肩書きが
台無しよ?』
そう言って彼女は私を抱きしめてくれた
昔、門の前で初めて抱きしめてくれたときのように
優しく、ただ優しく
そして私は決意した。彼女の言うとおり『完全で瀟洒なメイド』
でいようと、紅魔館に恥じないメイド長になろうと
それから私は彼女を部下として扱うようになった
彼女にしか出来ないようなことは直接命令したし
居眠りをしているようならナイフを刺して罰を与えた
もちろん門を突破されても。まぁ異変の日と
魔理沙が今のように大人しく来る前までのことだったけど
ついでに言うけど彼女が私を『咲夜さん』って呼んでいるのは
私の命令よ。やっぱり彼女にメイド長と呼ばれるのは
まだ先だと思ったから
美鈴が私に従っている、部下のように扱われてる
そのことを聞いたのでしょう。内勤のメイド達はしっかり
私の言うことを聞いてくれていたわ
最初はさすがに恐怖の目だったけど
気が付いたら尊敬の目になっていたわ
このとき私は感謝した、彼女のあのときの行動に
そうしなければ今の私は無かったと
もちろんお嬢様も私を信用してくださった。いや、
すべて解っていたことかもしれないけど
そうして私はあの時から今まで『完全で瀟洒なメイド』
でいることを誓ったわ。
そして今もこうして紅魔館で働いている
お嬢様のために、あの日から私を
受け入れてくれた皆への恩返しのために
そして彼女と、美鈴と共に生きるために
そしてこれからもそれは変わらないわ
私が死ぬまでね
まったく結構話しちゃったわねぇ
んっ?まだ何か?
……私にとっての美鈴ねぇ。そうね
『人としての私を受け入れて育ててくれた母親』と
『完全で瀟洒なメイドとしての私を作ってくれた母親』と
『想いが届かない初恋の相手』
ってとこかしら
でもやっぱり『誰にも理解出来ない関係』って言った方が
いいかしらね
それじゃあ取材をさせてあげた対価なんだけども
妹様と遊んで貰えないかしら?
……何でいつのまに手足と翼を縛られてるかって?
それは逃げようとしたあなたを時を止めて
捕まえて逃げられないようにしたからよ
それにどうせ聞きに行くんでしょ?
ならちょうどいいじゃない
たまには変わった人と弾幕ごっこするのも
妹様にはいい刺激だよ
それではご案内しますわね
―おまけ―
副メイド長(先代メイド長)の話
咲夜さんと美鈴さんに関してですか?
そうですねぇ、お似合いだと思いますわ
咲夜さんを月とするならば
美鈴さんは太陽だと思います
本来、一緒に見ることが出来ない
二つのものが並ぶと神秘的な美しさを
感じませんか?
……そうですか、風流が無いですね
そんなんだと恋もおろそかになりますわよ
あらあら顔を真っ赤にして可愛い子ですね
それなら大丈夫でしょうね
いつかいい恋が出来ますわ
私ですか?私は今は出番を待つ身であり
恋のキューピットですかね
正直言いますと私も美鈴さんに
好意を寄せているのですよ
それはもう長い間。それこそ私と彼女は
同期ですからね。もう千年は経ってますよ
でもまったく気付いてくれなくて、そのときに
ここに来たのが彼女、咲夜さんですわ
あの子が彼女に好意を抱いてるってことを
知った時は驚きましたよ。それこそ
ライバルかと思ったのですが
彼女は人間ですから百年も生きれません
だから私はあえて手を退いて
彼女を応援することに決めたのです
命短し恋せよ乙女とはよく言ったもの
ですわ。だから私は咲夜さんが美鈴さんとの
恋を諦めるまでは舞台を降りることに
しましたの。でも彼女と美鈴さんが
くっついたとしてもそれはそれで嬉しいことですわ
好きな人の幸せを見守る……それもまた一興ですから
それでは妹様の部屋にご案内しますから
覚悟してくださいね?
<終わり>
美鈴×紅魔館メンバー(+α)その上美鈴は気付いていない、という
とても自分の大好きなパターンです。続きが楽しみです。
文章の形式上(咲夜が文に聞かせる)仕方ないのかもしれませんが
どうしても説明くさいと感じ少し読みにくいと感じました。
キャラクターたちの性格的にも(パチュリーにしろ咲夜にしろ)ここまで長時間話さないだろうと。
文が咲夜の話を聞き、過去の回想話を混ぜるという形式のほうが読みやすいのでは?と思います。
作品を書いたこともない人間が自分の主観とキャラクター像による批判的な感想を書いてしまいましたが
9948様の他の2作品とも楽しませていただきましたし次回作も楽しみにしています。
ものかと思っていましたが,これはいい意味で予想を裏切られました.
次は妹様ですね,待っています.
文は強いけど縛られた状態で生き延びることができるのだろうか?w
>功 様
批判的な感想だなんてとんでもない!ありがたいアドバイスですよ。
確かに言われて見ますとそうですね。書いた本人は思いませんでしたが……。
自分で言うのもなんですがパチュリー様の方は違和感を感じなかったのですが
咲夜さんの方はやはり長いせいかそう感じますね。精進します。
今回のアドバイスを活かしこれからも書いていくので楽しみに待っていてくださいね。
>名前が無い程度の能力 ■2008/05/06 19:19:12 様
そう言って貰えるととても嬉しいです。
妹様は今少し難航中ですが皆様に早く読んで貰おうと気張って書いております。
楽しみに待っていてください。
>名前が無い程度の能力 ■2008/05/07 20:24:03 様
今回の夫婦宣言から咲夜さんが変態になってしまわないか書いた自分が不安です。
文は多分生き延びられると思います。不屈の記者根性で何度だって蘇るさ。
最後に、この文章を読んで頂きありがとうございました。
しかし、此処まで母性溢れる状態の美鈴が紅魔館内部だけの影響でとどまっている気がしないのは私だけだろうか?
仕事の休みとかの日に屋台で慧音さんと飲み交わしてたり酒好きの鬼が遊びに来てても違和感なさそうですなぁ