一日の仕事を終えた映姫が自宅でくつろいでいる。
珍しく仕事が早く終わり、のんびりとできる時間がいつもよりある。
とりあえずは空腹を満たすことにして夕飯を終え、これから何をしようかと考える映姫は小町から借りたDVDのことを思い出した。
「コメディも少し含まれたヒーローアクションものです。
けっこう面白かったですよ。それに四季様に少し似てる主人公が出てきます」
とは小町の言葉。表紙に描かれた男が主人公なのだろう。
この男が私に似ているのかと考えつつ、ディスクをケースから取り出しDVDに入れた。
一時間ほど経つと映姫はテレビ前ではなく、ベッドの中にいた。
沈んだ様子で小町はなにを以ってあれが私に似ているといったのかなどと悩んでいた。そしてそのまま寝入った。
テーブルに放置されたケースに書かれたタイトルは「ゼブラーマン」と書かれていた。
朝起きて、映姫のテンションはものすごく低かった。
ゼブラーマンの服を着た自分を夢で見たからだ。
好感など持っていなかったのにそういった夢を見るとは、実は気に入っていたのかと落ち込んだ。
夢の中の自分は「ゼブラウーマン」と名乗り、悪党とのりのりで戦っていたからなおさらだ。
テンションの上がらぬまま、のそのそと準備を済ませ家を出る。
「あっ四季様おはようございます」
空を飛んで三途の川を渡り終えたとき、これから船を出そうとしていた元気いっぱいの小町に出会う。
映姫にはその元気さが少しだけ憎らしく思えた。
「小町……おはよう」
「元気ないですね?」
どうかしたのかと小町は首をかしげている。よもや自分が原因とは考えてないようだ。
「あなたの勧めたDVDのせいよ。
あれのどこか私に似ているの? ただの気弱なコスプレ男の話じゃないの」
「気弱なコスプレ男ってたしかにそうですけど、最後まで見ました? 結構かっこよくなりますよ。
ん? ……ん~……今? 四季様コスプレって仰いました?」
小町は酷く驚いた様子を見せ、わずかに震える声で映姫に聞く。
「言ったけど?」
素直にこくんと肯定する。
「たっ……」
「た?」
映姫が首を傾げた。
「たたた大変だああああっ!
四季様が娯楽用語を覚えなさった!
コスプレを覚えなさったああああああっ!」
映姫が肯定したことで、聞き間違いではなく事実だと理解した小町は大声で叫ぶ。。
それを聞いた周囲の者たちも驚いた声をだし、さらに驚きは広がっていき、ついには閻魔たちにまで届いた。
「なんなのよ」
それを映姫だけがわけがわからないといった表情で見ていた。
驚く小町をほおって映姫は職場にやってきた。そのまま小町の相手をすると遅刻しそうだったからだ。
部下にきちんと働くように言っているてまえ、さぼるようなことはできない。
賑やかな職場の中を歩き仕事場に行こうとすると、どこからか大きな話し声が聞こえてきた。
映姫にはこの声に聞き覚えがある。同僚や上司たちの声だ。
しかしいつも聞いている厳粛な声とは違い、どこか浮ついた雰囲気を感じる。
「我らがアイドルが一歩成長したとは本当なのか!?」
「ああ、本当のようだ」
「姫の部下の証言があるから決まりだろう」
「あの堅物でちんまくめんこい子がなぁ」
「よもやコスプレなどという言葉を覚えようとは」
ここで映姫の足が止まる。
彼らの話は続く。
「これは祝うべきことなのではなかろうか?」
「うむ。祝うべきだ!」
「そうさな祭だ」
「宴じゃ!」
「宴会だ!」
「我らの姫、四季映姫の成長を祝って祭を開くのじゃ!」
閻魔たちは仕事を放り出し、部下に騒ぐ準備を命じる。命じられた側も嬉々として応じ、慌てて準備へと散らばっていく。
その間、映姫は唖然としていてその騒ぎを止めることができなかった。
はっと我に返った映姫が上司たちのところへ駆け込んでいった。
「十王様!」
「四季映姫ヤマザナドゥか、どうしたそんなに慌てて」
聞いていたときとは違いどっしりと落ち着いた声で十王たちは映姫を出迎える。
しかし口調は落ち着いていても、表情はわずかに緩み普段のしっかりとした雰囲気が感じられない。
「先ほど聞いていたのですが、私がコスプレを知っていただけで祭を開くとは本気ですか!?」
映姫の口からコスプレという言葉がでると十王たちは皆感動の声を上げる。
「聞いていたのか。
我らは皆本気だ」
十王の一人が自信を持って答える。顔も真面目で嘘は言っていないように見える。
しかし映姫にとっては嘘のほうがよかったのだろう。
もちろんほかの者たちも同じ表情だった。
「審判はどうするのですか!? 私たちの裁きを待つ幽霊はたくさんいるのですよ!
その幽霊たちをほおって宴会など非常識にもほどがありますっ」
部下が上司を怒るという珍しい光景となっているが、起こられている側は目じりを下げて愛らしい子を見るような状態になっている。
ちょうど老人が小さい子供を相手しているような感じだ。怒っていてもその様が可愛いのだろう。
「こんなめでたい日に仕事などやってはいられぬよ。
後日の業務に差し支えるというのなら、今日彼岸に来た幽霊は皆天界行きじゃ。恩赦じゃ」
皆うんうんと頷いて、グッドアイディアと言い合っている。
映姫にとっては納得のいく答えではなかったが。
「そんないい加減な……。
いったいどうしたというのですか? いつもの尊敬できる十王様たちに戻ってください」
「尊敬できるとは嬉しいことを言ってくれるのう」
「ああ、我らその言葉を聞けただけで、この先百年は休みなしで働けるっ」
「姫に好かれるため真面目に働いていてよかったよかった」
「そのとおり!」
それらを聞いて映姫は愕然としその場に座り込んでしまった。
そのときちょうど宴会がそろそろ始まると知らせに小町がやってくる。
十王たちは楽しそうな顔で宴会の会場へと向かっていった。
残った小町は落ち込んでいる映姫に近寄り話しかける。
「どうしたんです四季様?」
「十王様たちが壊れた」
「あの方たちは昔からあんなですよ」
小町がさらりと映姫にとどめをさすようなことを言う。
それになんとか耐え映姫は反論する。
「でも私の知る十王様たちは、厳しく真面目でけれど慈悲も忘れない立派な方たちです。
あのような雰囲気は一度も見たことが」
「そこはほら四季様真面目な人が好きでしょう?
だからあの人たち四季様に好かれるため真面目を装っていたんですよ。祖父母が孫に好かれようとするみたいに。
いよっ四季様の人気者!」
元気付けようとはやしたててみるが、映姫には効果がなかった。
そんな映姫を見て、小町は少しだけ真面目になる。
「実際のところ今回の宴は、仕事のストレス解消も兼ねてると思いますよ?
休みはあるといっても毎日忙しい仕事ですからね。息抜きも必要です。
ちょうどいいと思って騒ぐことにしたのでしょう」
「そ、そうですね。息抜きが目的で私のことなどただの冗談ですよね」
「いえその部分は本気ですよきっと」
立ち直りかけた映姫に小町は追い討ちをかけた。
実際、祝いが七割、息抜きが三割といったところだったりする。
「私に毎日の四季様の様子を報告させるくらい四季様が好きですからねぇ」
その報告の報酬が小町の主な収入源だ。天狗に頼んで写真をとってもらったときは、二ヶ月ほど働かなくても暮らせるだけの報酬をもらえた。
小町がさぼっても暮らしていけるのはそういうわけがあった。
「四季様も今日は臨時の休みがもらえたと思って息抜きするといいですよ。
四季様が主役なようなものですし」
「それがなければ楽しめたかもしれないわね」
まあまあと宥めつつ小町は映姫の背を押して会場へとむかった。
会場ではすでに十王や閻魔、死神、鬼神長、鬼がおもいおもいに騒いで賑やかな様相を見せていた。
会場には大きな垂れ幕があって、四季映姫ヤマザナドゥおめでとうと書かれていた。
映姫が会場入りすると会場が沸いたのはいうまでもない。
宴は一日で終った。本当ならば三日くらい続けたいというのが皆の意見だったが、仕事が詰まっているので一日だけで終えたのだ。
「おはようございます四季様。昨日は楽しかったですね」
上機嫌な小町が映姫に話しかける。
「私は疲れただけよ」
げんなりとした表情で映姫は答える。
「コスプレって言っただけなのに、あんなに騒ぐことないじゃない。
そもそもの原因は小町あなたじゃないの」
「私ですか?」
「DVDを借りなければコスプレとか言わなかったわよ。
それに似てるってどこが似てるの?」
「ほら主人公が白黒つけるぜって言ってるでしょう?
四季様も白黒はっきりつける程度の能力ですから、そこだけ似てますよ」
「それは似てるとは言わないでしょうに」
「そですか?
四季様、あのDVD好きじゃないみたいですね? 最後まで見ました? たぶん見てないでしょう?」
「たしかに途中で止まっていますが」
「最後まで見れば嫌がるようなことないと思いますよ。たしかに私もいろものヒーローだと思って買いましたが。
努力でピンチを乗り越えようとして、諦めずに前に進み、奇跡を起こす。
王道ですが、かっこいい主人公の話で面白かったです。
見た目だけ、表面的なもので決め付けてはだめです」
「はあ」
「四季様の仕事だって表面だけでは決め付けはしないでしょう?」
「たしかにそうですが」
「だから私が仕事をサボっているように見えても、見た目に騙されず叱らないでください」
「それはまったく無関係な話でしょ!」
手に持っていた悔悟の棒を小町の頭に振り下ろす。いつのまにか「さぼり禁止」と書き込まれていた。
叩かれていつもならばきゃんっと悲鳴を上げる小町がうずくまって頭を抑えている。
「……た、縦は痛いです」
どうやら悔悟の棒が縦にジャストミートしたらしい。
「あ、ごめんなさい! 怪我してない?
つい、うっかり」
「うっかり?」
映姫は盛大に嫌な予感がしたという。
「ま、待ちなっ……さい」
小町をとめようと声をかけるが、言い終わる前に小町はその場から消えていた。
能力を使って十王の元へと走ったのだ。しかも映姫がうっかりしたと言いふらしながら。
それは小町が高速で移動したがゆえに、正確に聞き取ることはできない。だが小町の慌てようからまた何かあったと察することはできた。
そして皆で聞き取れた部分を言い合って、正確な情報を得た。
四季映姫ヤマザナドゥうっかり祭の開催が確定した瞬間だった。
祭は盛大に行われた。一日では燃やし尽くせなかったお祭魂、表しきれなかった映姫への愛を炸裂させて。
騒ぎは彼岸だけではなく、天界、冥界、地獄をも巻き込んだ過去最大の騒ぎになったらしい。
幻想郷の住人が参加していないのは会場が三途の川を渡った彼岸にあったからだ。
騒ぎの中、やけになった映姫が楽しんでいる姿を見ることができたとかできなかったとか。映姫の産まれた頃からの写真つき成長記録が出回って、映姫ファンを歓喜させたとか。ただひたすらに映姫のことについて語り合ったとか。
それはもう多くのものが満喫した楽しい騒ぎになったらしい。
こんな彼岸に一度はどうですか?
珍しく仕事が早く終わり、のんびりとできる時間がいつもよりある。
とりあえずは空腹を満たすことにして夕飯を終え、これから何をしようかと考える映姫は小町から借りたDVDのことを思い出した。
「コメディも少し含まれたヒーローアクションものです。
けっこう面白かったですよ。それに四季様に少し似てる主人公が出てきます」
とは小町の言葉。表紙に描かれた男が主人公なのだろう。
この男が私に似ているのかと考えつつ、ディスクをケースから取り出しDVDに入れた。
一時間ほど経つと映姫はテレビ前ではなく、ベッドの中にいた。
沈んだ様子で小町はなにを以ってあれが私に似ているといったのかなどと悩んでいた。そしてそのまま寝入った。
テーブルに放置されたケースに書かれたタイトルは「ゼブラーマン」と書かれていた。
朝起きて、映姫のテンションはものすごく低かった。
ゼブラーマンの服を着た自分を夢で見たからだ。
好感など持っていなかったのにそういった夢を見るとは、実は気に入っていたのかと落ち込んだ。
夢の中の自分は「ゼブラウーマン」と名乗り、悪党とのりのりで戦っていたからなおさらだ。
テンションの上がらぬまま、のそのそと準備を済ませ家を出る。
「あっ四季様おはようございます」
空を飛んで三途の川を渡り終えたとき、これから船を出そうとしていた元気いっぱいの小町に出会う。
映姫にはその元気さが少しだけ憎らしく思えた。
「小町……おはよう」
「元気ないですね?」
どうかしたのかと小町は首をかしげている。よもや自分が原因とは考えてないようだ。
「あなたの勧めたDVDのせいよ。
あれのどこか私に似ているの? ただの気弱なコスプレ男の話じゃないの」
「気弱なコスプレ男ってたしかにそうですけど、最後まで見ました? 結構かっこよくなりますよ。
ん? ……ん~……今? 四季様コスプレって仰いました?」
小町は酷く驚いた様子を見せ、わずかに震える声で映姫に聞く。
「言ったけど?」
素直にこくんと肯定する。
「たっ……」
「た?」
映姫が首を傾げた。
「たたた大変だああああっ!
四季様が娯楽用語を覚えなさった!
コスプレを覚えなさったああああああっ!」
映姫が肯定したことで、聞き間違いではなく事実だと理解した小町は大声で叫ぶ。。
それを聞いた周囲の者たちも驚いた声をだし、さらに驚きは広がっていき、ついには閻魔たちにまで届いた。
「なんなのよ」
それを映姫だけがわけがわからないといった表情で見ていた。
驚く小町をほおって映姫は職場にやってきた。そのまま小町の相手をすると遅刻しそうだったからだ。
部下にきちんと働くように言っているてまえ、さぼるようなことはできない。
賑やかな職場の中を歩き仕事場に行こうとすると、どこからか大きな話し声が聞こえてきた。
映姫にはこの声に聞き覚えがある。同僚や上司たちの声だ。
しかしいつも聞いている厳粛な声とは違い、どこか浮ついた雰囲気を感じる。
「我らがアイドルが一歩成長したとは本当なのか!?」
「ああ、本当のようだ」
「姫の部下の証言があるから決まりだろう」
「あの堅物でちんまくめんこい子がなぁ」
「よもやコスプレなどという言葉を覚えようとは」
ここで映姫の足が止まる。
彼らの話は続く。
「これは祝うべきことなのではなかろうか?」
「うむ。祝うべきだ!」
「そうさな祭だ」
「宴じゃ!」
「宴会だ!」
「我らの姫、四季映姫の成長を祝って祭を開くのじゃ!」
閻魔たちは仕事を放り出し、部下に騒ぐ準備を命じる。命じられた側も嬉々として応じ、慌てて準備へと散らばっていく。
その間、映姫は唖然としていてその騒ぎを止めることができなかった。
はっと我に返った映姫が上司たちのところへ駆け込んでいった。
「十王様!」
「四季映姫ヤマザナドゥか、どうしたそんなに慌てて」
聞いていたときとは違いどっしりと落ち着いた声で十王たちは映姫を出迎える。
しかし口調は落ち着いていても、表情はわずかに緩み普段のしっかりとした雰囲気が感じられない。
「先ほど聞いていたのですが、私がコスプレを知っていただけで祭を開くとは本気ですか!?」
映姫の口からコスプレという言葉がでると十王たちは皆感動の声を上げる。
「聞いていたのか。
我らは皆本気だ」
十王の一人が自信を持って答える。顔も真面目で嘘は言っていないように見える。
しかし映姫にとっては嘘のほうがよかったのだろう。
もちろんほかの者たちも同じ表情だった。
「審判はどうするのですか!? 私たちの裁きを待つ幽霊はたくさんいるのですよ!
その幽霊たちをほおって宴会など非常識にもほどがありますっ」
部下が上司を怒るという珍しい光景となっているが、起こられている側は目じりを下げて愛らしい子を見るような状態になっている。
ちょうど老人が小さい子供を相手しているような感じだ。怒っていてもその様が可愛いのだろう。
「こんなめでたい日に仕事などやってはいられぬよ。
後日の業務に差し支えるというのなら、今日彼岸に来た幽霊は皆天界行きじゃ。恩赦じゃ」
皆うんうんと頷いて、グッドアイディアと言い合っている。
映姫にとっては納得のいく答えではなかったが。
「そんないい加減な……。
いったいどうしたというのですか? いつもの尊敬できる十王様たちに戻ってください」
「尊敬できるとは嬉しいことを言ってくれるのう」
「ああ、我らその言葉を聞けただけで、この先百年は休みなしで働けるっ」
「姫に好かれるため真面目に働いていてよかったよかった」
「そのとおり!」
それらを聞いて映姫は愕然としその場に座り込んでしまった。
そのときちょうど宴会がそろそろ始まると知らせに小町がやってくる。
十王たちは楽しそうな顔で宴会の会場へと向かっていった。
残った小町は落ち込んでいる映姫に近寄り話しかける。
「どうしたんです四季様?」
「十王様たちが壊れた」
「あの方たちは昔からあんなですよ」
小町がさらりと映姫にとどめをさすようなことを言う。
それになんとか耐え映姫は反論する。
「でも私の知る十王様たちは、厳しく真面目でけれど慈悲も忘れない立派な方たちです。
あのような雰囲気は一度も見たことが」
「そこはほら四季様真面目な人が好きでしょう?
だからあの人たち四季様に好かれるため真面目を装っていたんですよ。祖父母が孫に好かれようとするみたいに。
いよっ四季様の人気者!」
元気付けようとはやしたててみるが、映姫には効果がなかった。
そんな映姫を見て、小町は少しだけ真面目になる。
「実際のところ今回の宴は、仕事のストレス解消も兼ねてると思いますよ?
休みはあるといっても毎日忙しい仕事ですからね。息抜きも必要です。
ちょうどいいと思って騒ぐことにしたのでしょう」
「そ、そうですね。息抜きが目的で私のことなどただの冗談ですよね」
「いえその部分は本気ですよきっと」
立ち直りかけた映姫に小町は追い討ちをかけた。
実際、祝いが七割、息抜きが三割といったところだったりする。
「私に毎日の四季様の様子を報告させるくらい四季様が好きですからねぇ」
その報告の報酬が小町の主な収入源だ。天狗に頼んで写真をとってもらったときは、二ヶ月ほど働かなくても暮らせるだけの報酬をもらえた。
小町がさぼっても暮らしていけるのはそういうわけがあった。
「四季様も今日は臨時の休みがもらえたと思って息抜きするといいですよ。
四季様が主役なようなものですし」
「それがなければ楽しめたかもしれないわね」
まあまあと宥めつつ小町は映姫の背を押して会場へとむかった。
会場ではすでに十王や閻魔、死神、鬼神長、鬼がおもいおもいに騒いで賑やかな様相を見せていた。
会場には大きな垂れ幕があって、四季映姫ヤマザナドゥおめでとうと書かれていた。
映姫が会場入りすると会場が沸いたのはいうまでもない。
宴は一日で終った。本当ならば三日くらい続けたいというのが皆の意見だったが、仕事が詰まっているので一日だけで終えたのだ。
「おはようございます四季様。昨日は楽しかったですね」
上機嫌な小町が映姫に話しかける。
「私は疲れただけよ」
げんなりとした表情で映姫は答える。
「コスプレって言っただけなのに、あんなに騒ぐことないじゃない。
そもそもの原因は小町あなたじゃないの」
「私ですか?」
「DVDを借りなければコスプレとか言わなかったわよ。
それに似てるってどこが似てるの?」
「ほら主人公が白黒つけるぜって言ってるでしょう?
四季様も白黒はっきりつける程度の能力ですから、そこだけ似てますよ」
「それは似てるとは言わないでしょうに」
「そですか?
四季様、あのDVD好きじゃないみたいですね? 最後まで見ました? たぶん見てないでしょう?」
「たしかに途中で止まっていますが」
「最後まで見れば嫌がるようなことないと思いますよ。たしかに私もいろものヒーローだと思って買いましたが。
努力でピンチを乗り越えようとして、諦めずに前に進み、奇跡を起こす。
王道ですが、かっこいい主人公の話で面白かったです。
見た目だけ、表面的なもので決め付けてはだめです」
「はあ」
「四季様の仕事だって表面だけでは決め付けはしないでしょう?」
「たしかにそうですが」
「だから私が仕事をサボっているように見えても、見た目に騙されず叱らないでください」
「それはまったく無関係な話でしょ!」
手に持っていた悔悟の棒を小町の頭に振り下ろす。いつのまにか「さぼり禁止」と書き込まれていた。
叩かれていつもならばきゃんっと悲鳴を上げる小町がうずくまって頭を抑えている。
「……た、縦は痛いです」
どうやら悔悟の棒が縦にジャストミートしたらしい。
「あ、ごめんなさい! 怪我してない?
つい、うっかり」
「うっかり?」
映姫は盛大に嫌な予感がしたという。
「ま、待ちなっ……さい」
小町をとめようと声をかけるが、言い終わる前に小町はその場から消えていた。
能力を使って十王の元へと走ったのだ。しかも映姫がうっかりしたと言いふらしながら。
それは小町が高速で移動したがゆえに、正確に聞き取ることはできない。だが小町の慌てようからまた何かあったと察することはできた。
そして皆で聞き取れた部分を言い合って、正確な情報を得た。
四季映姫ヤマザナドゥうっかり祭の開催が確定した瞬間だった。
祭は盛大に行われた。一日では燃やし尽くせなかったお祭魂、表しきれなかった映姫への愛を炸裂させて。
騒ぎは彼岸だけではなく、天界、冥界、地獄をも巻き込んだ過去最大の騒ぎになったらしい。
幻想郷の住人が参加していないのは会場が三途の川を渡った彼岸にあったからだ。
騒ぎの中、やけになった映姫が楽しんでいる姿を見ることができたとかできなかったとか。映姫の産まれた頃からの写真つき成長記録が出回って、映姫ファンを歓喜させたとか。ただひたすらに映姫のことについて語り合ったとか。
それはもう多くのものが満喫した楽しい騒ぎになったらしい。
こんな彼岸に一度はどうですか?
誤字?ただひたすら?
とりあえず彼岸の住人自重汁!
じゃあ、仕方ないなwww
>小町はなにを持ってあれが
「なにを以て」では?
道理で普段サボってても大丈夫なわけだww
おじいちゃんったら、凄すぎるんだぜ。
素敵でした。