Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

走れ咲夜

2008/05/03 04:43:51
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  咲夜は激怒した。必ず、邪知暴虐の博麗霊夢を除かなければならぬと決意した。
 咲夜にはレミリアがわからぬ。咲夜は、紅魔館のメイドである。主人の世話をし、美鈴で遊んで暮して来た。
 けれどもレミリアに対しては、人一倍に敏感であった。
 きょう未明咲夜は紅魔館を出発し、野を越え山越え、十里はなれたこの博麗神社にやって来た。


  咲夜には父も、母も無い。女房も無い。紅魔館で瀟洒な従者暮らしだ。
 咲夜は、紅魔館の或る律気な一主人を、近々、花嫁として迎える事に決めていた。
 咲夜の中では結婚式も間近なのである。咲夜は、それゆえ、博麗神社にお泊りした未来の花嫁の行動がわからず、
 それを確かめるために、はるばる博麗神社へとやって来たのだ。
 先ず、さりげなくレミリアのポジションを確かめ、それからさりげなく博麗霊夢とレミリアの間へ割り込んだ。
 ときに、咲夜には竹馬の友があった。紅美鈴である。
 今彼女は、紅魔館で、門番をしている。その友を、毎日いじるのが楽しみなのだ。
 この博麗神社での一件を無事に済ませ、訪ねに行くのが楽しみである。
 しかし、会話しているうちに咲夜は、レミリアの様子を怪しく思った。ほんのり頬を染めている。
 いつもはもっと傲慢な話し方をしていると思うが、けれどもなんだか、レミリアの話し方は、やけに女の子らしい。
 
  のんきな咲夜も、これにはだんだん不安になって来た。たまたまやってきた霧雨魔理沙をつかまえ神社裏に引きずりこみ、
 何かあったのか、このまえ博麗神社に来たときは、レミリアはこんなに親しげに霊夢と話していなかった
 お嬢様は私に夢中であったはずだが、と質問した。魔理沙は、首を振って答えなかった。
 しばらくナイフを突きつけ脅し、こんどはもっと、語勢を強くして質問した。魔理沙は答えなかった。
 咲夜は両手で魔理沙のからだをゆすぶって質問を重ねた。魔理沙は、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。


 
「霊夢は、女を騙すんだ」
「なぜ騙すのだ」 
「いつのまにか、霊夢は女の子を口説いているんだ・・・・・・。私もやられた」
「たくさんの女を泣かせたのか」
「・・・・・はじめはアリスを。それから、紫を。それから、萃香を。
それから、妖怪の山に越してきた早苗を。
それからついでに幽香を。それから、お前の主人レミリアを」
「おどろいた。霊夢は女垂らしか」
「いや、女垂らしではないんだ・・・・・・。霊夢は、いつのまにか女を惹きつけてる。
このごろは、萃香と紫で、霊夢の取り合いになり、少しく派手な格好をしている紫が
藍と橙を霊夢に差し出すことを喧嘩が収まった。
その命令を拒めば十字架にかけられて、引ん剥かれるんだ。昨日は、六人がやられた」

 聞いて、咲夜は激怒した。「呆れた霊夢だ。生かして置けぬ。」
 咲夜は、単純な女であった。ナイフをちらつかせたままで、のそのそ霊夢とレミリアの前に出て行った。
 たちまち咲夜は、レミリア直々に捕縛された。調べられて、咲夜の胸元からはパッドが出て来たので
 騒ぎが大きくなってしまった。咲夜は、霊夢の前に引き出された。

「咲夜・・・・・・あんた、パッド入れてたの?」霊夢は静かに、けれども威厳を以て問いつめた。
その霊夢の顔は蒼白で、どこか哀れむような表情をしていた。

「お嬢様をお前の手から救うのだ」と咲夜は悪びれずに答えた。

「咲夜・・・・・・?」霊夢は、咲夜が狂ったのかと驚いた。「どうしたの? 体調でも悪いの?」
「言うな!」と咲夜は、いきり立っては反駁した。「レミリアお嬢様を私から奪ってこれ以上何を求めるか!!」
「別にレミリアは私のものじゃないし、咲夜は何がしたくて私につっかかってるのよ。
 お茶を出すからそれでも飲んで落ち着きなさいよ、なんだか興奮しているみたいだし・・・・・・」

霊夢は落着いて呟き、ほっと溜息をついた。「私は、ただのんびりお茶が飲みたいだけなんだけど」

「なんのためのお茶だ! お嬢様を私から奪うためか!」こんどは咲夜が嘲笑した。「私の安らぎを奪って、何がのんびりだ」

「だまりなさい咲夜」レミリアがさっと顔を挙げて報いた。
「咲夜、ちょっとどうかしているんじゃないの? 顔色もそうだし、言っていることもどこかおかしいわ」

「ああ、霊夢は女垂らしだ! 自惚れているがよい。
 私は、ちゃんと死ぬる覚悟でお嬢様を愛して居るのに。
 命乞いなど決してしない。ただ、――」と言いかけて、咲夜は足もとに視線を落し瞬時ためらい
「ただ、私に情をかけたいつもりなら、処刑までに3時間の時限を与えて下さい。
 最後に、美鈴の乳を揉んできたいのです。3時間のうちに、私は紅魔館の門で美鈴の乳を揉み、必ず、ここへ帰って来ます」

「ばかね」とレミリアは、低く笑った。「咲夜、夏の陽気で頭がどうかしちゃったの?」
「そうです。私はどうかしているのです」咲夜は必死で言い張った。
「私は約束を守ります。私を、3時間だけ許して下さい。
 美鈴が、美鈴の乳が私の帰りを待っているのです。
 そんなに私を信じられないならば、よろしい、この神社の裏に魔理沙がいます。
 私の無二の友人だ。あれを、人質としてここに置いて行こう。私が逃げてしまって、
 3時間後の昼時にまで、ここに帰って来なかったら、あの友人を絞め殺して下さい。たのむ、そうして下さい」

 それを聞いて霊夢は、まったくわけがわからないと、そっとお茶を飲んだ。
 レミリアも同様に、咲夜はきっとどうかしてしまったのだと確信した。
 でも、3時間で帰って来れずに魔理沙を弄るのも面白い。
 ここは咲夜に乗っかってやるのも面白い。そうして身代りの魔理沙を、3時間後に弄るのも気味がいい。
 人は、これだから信じられぬと、私は悲しい顔して、その身代りの魔理沙をコチョコチョの刑に処してやるのだ。
「願いを、聞いた。魔理沙を呼びなさい。
 3時間後は昼時までに帰ってくるのよ。おくれたら、魔理沙は想像を絶する責め苦にあうわよ。
 ああでも、ちょっとおくれて来たらどう? 最高のショーが見れるわよ」
「なに、何をおっしゃる」
「はは。いのちが大事だったら、おくれて来い。咲夜、あなたの運命は決まっているのよ」

 咲夜は口惜しく、地団駄踏んだ。ものも言いたくなくなった。
 竹馬の友、魔理沙は、自分の手で、霊夢とレミリアへ差し出した。
 霊夢とレミリアの面前で、よきともは、5分ぶりで相逢うた。
 咲夜は、魔理沙に一切の事情を語った。魔理沙は全力で断ってきたのだが
 みぞおちに一撃入れると無言で頷き、そのまま崩れ落ちた。
 友と友の間は、それでよかった。魔理沙は、気絶している間に縄打たれた。
 咲夜は、すぐに出発した。初夏、上りきってはいない太陽である。
 咲夜はそのまま、休憩も入れず十里の路を急ぎに急いで
 紅魔館へ到着したのは、1時間後、陽は高く昇りはじめ、美鈴は既に昼寝をはじめていた。

「また寝てる」咲夜は無理に笑おうと努めた。「でも、寝てるほうが都合がいいのよね」
「えへへ、咲夜さんやめてくださいよぉ」
 美鈴は頬をあからめた。
「うれしいか美鈴、今からお前の乳を憎しみと慈しみに溢れながら揉んでやる」

 咲夜は、また、よろよろと歩き出し、プライベートスクウェアを発動しながら美鈴の胸を存分にまさぐった。
 気がついたら2時間経っていた、幸い時間は止めていたので期限は来ていない。
 咲夜はそれをいいことに、さらに数時間美鈴の胸を堪能した。 
 そうして、小腹が空いたので紅魔館で食事を摂り、また美鈴の胸をまさぐった。
 それはいけない、こちらには未だ何の仕度も出来ていないと驚く表情の美鈴は
 時間が止まっているのでそのままやられるがままだった。
 しかし咲夜に我慢は出来ぬ、どうか自分の胸もこれぐらい膨らみ給えと更に揉んだのだ。
 美鈴の胸は頑強であった。なかなかにその感触から離れることができない。結局、仮眠を取る必要がでるまで揉み続け
 やっと、どうにか美鈴の胸から離れ、自分の胸を見泣き、強く生きようと誓えた。
 時間を動かし始めると。黒雲が空を覆い、ぽつりぽつり雨が降り出し、やがて車軸を流すような大雨となった。
 「うひゃー! 雨だー!! 館内退避―!!」美鈴はそのまま館へ逃げていった。
 咲夜は、何か不吉なものを感じたが、それでも、逃げていく美鈴を見送り、陽気に歌をうたい、手を拍った。
 咲夜は、満面に喜色を湛え、しばらくは、霊夢とレミリアとのあの約束さえ忘れていた。
 手は美鈴の胸の感触に喜び動き、咲夜は、一生美鈴の胸を揉んでいたい、とも思った。
 あの、良い乳と生涯暮して行きたいと願ったが、いまは、自分のからだで、自分のものでは無い。
 ままならぬ事である。咲夜は、わが心に鞭打ち、ついに出発を決意した。昼時までには、まだ十分の時が在る。
 ちょっともう一眠りして、それからすぐに出発しよう、と考えた。
 その頃には、雨も小降りになっていよう。少しでも永くこの場に愚図愚図とどまっていたかった。
 咲夜ほどの女にも、やはり未練の情というものは在る。



  咲夜は空を揉み手して、一人照れた。咲夜はもう一度時間を止め死んだように深く眠った。
 眼が覚め、時間をまた動き出させる。まだまだ大丈夫、これからすぐに出発すれば、約束の刻限までには十分間に合う。
 きょうは是非とも、あの霊夢とレミリアに、人の信実の存するところを見せてやろう。
 そうして笑って磔の台に上ってやる。咲夜は、悠々と身仕度をはじめた。
 雨は通り雨だったのか、すぐに小降りになっていたで。身仕度は出来た。
 さて、咲夜は、ぶるんと両腕を大きく振って、雨中、矢の如く走り出た。



  私は、昼時、殺される。殺される為に走るのだ。身代りの魔理沙を救う為に走るのだ。
 霊夢の奸佞邪智を打ち破る為に走るのだ。走らなければならぬ。
 そうして、私は殺される。若い時から名誉を守れ。さらば、紅魔館。若い咲夜は、つらかった。幾度か、立ちどまりそうになった。
 えい、えいと大声挙げて自身を叱りながら走った。紅魔館を出て、野を横切り、森をくぐり抜け、人間の里に着いた頃には、雨も止み、
 日は高く昇って、そろそろ暑くなって来た。咲夜は額の汗をこぶしで払い、ここまで来れば大丈夫、もはや紅魔館への未練は無い。
 美鈴は、ずっと、良い乳であるだろう。私には、いま、なんの気がかりも無い筈だ。
 まっすぐに博麗神社へ行き着けば、それでよいのだ。そんなに急ぐ必要も無い。ゆっくり歩こう、と持ちまえの呑気さを取り返し
 好きな小歌をいい声で歌い出した。ぶらぶら歩いて二里行き三里行き、そろそろ全里程の半ばに到達した頃、降って湧いた災難
 咲夜の足は、はたと、とまった。見よ、前方の川を。きのうの豪雨で山の水源地は氾濫し、濁流滔々と下流に集り
 猛勢一挙に橋を破壊し、どうどうと響きをあげる激流が、木葉微塵に橋桁を跳ね飛ばしていた。 
 咲夜は茫然と、立ちすくんだ。あちこちと眺めまわし、また、声を限りに呼びたててみたが、
 繋舟は残らず浪に浚われて影なく、渡守りの姿も見えない。流れはいよいよ、ふくれ上り、海のようになっている。
 咲夜は川岸にうずくまり、男泣きに泣きながらお嬢様に手を挙げて哀願した。

「ああ、鎮めたまえ、荒れ狂う流れを! 時は刻々に過ぎて行きます。太陽も既に真昼時です。
 あれが昇りきらぬちに、博麗神社に行き着くことが出来なかったら、魔理沙が、私のために死ぬのです」

 濁流は、咲夜の叫びをせせら笑う如く、ますます激しく躍り狂う。浪は浪を呑み、捲き、煽り立て
 そうして時は、刻一刻と消えて行く。 今は咲夜も覚悟した。



「空、飛ぼう」



 すぐにまた先きを急いだ。一刻といえども、むだには出来ない、昼時まではあと数十分。
ぜいぜい荒い呼吸をしながら峠をのぼり、のぼり切って、ほっとした時、突然、目の前に1体の妖精、チルノが躍り出た。

「待て、最強のあたいを無視するなんて許さないよ!」
「何をするのだ。私は日の昇りきらぬ前に博麗神社へ行かなければならぬ。どけ」
「どっこい放さぬ! もちもの全部を置いていけ!」
「私にはいのちの他には何も無い。その、たった一つの命も、これから霊夢にくれてやるのだ」
「その、パッドがほしいのだ」
「さては、霊夢の命令で、ここで私を待ち伏せしていたのだな」

 チルノは、ものも言わず『アイシクルフォール-easy-』を発動させた 咲夜はひょいと、正面を取り、そのまましこたまナイフを打ち込んだ。
「気の毒だが正義のためだ!」と猛然一撃、たちまち、チルノを殴り倒し、さっさと走って峠を下った。
 一気に峠を駈け降りたが、流石に疲労し、折から空からの灼熱の太陽がまともに、かっと照って来て
 咲夜は幾度となく眩暈を感じ、これではならぬ、と気を取り直しては、よろよろ二、三歩あるいて、ついに、がくりと膝を折った。
 立ち上る事が出来ぬのだ。天を仰いで、くやし泣きに泣き出した。ああ、濁流を空を飛んで、チルノ撃ち倒し韋駄天、
 ここまで突破して来た咲夜よ。真の勇者、咲夜よ。今、ここで、疲れ切って動けなくなるとは情無い。
 愛するレミリアは、おまえを信じたばかりに、やがて霊夢の嫁にならなければならない。
 おまえは、稀代の不信の人間、まさしく霊夢の思う壺だぞ、と自分を叱ってみるのだが、全身萎えて、もはや芋虫ほどにも前進かなわぬ。
 路傍の草原にごろりと寝ころがった。身体疲労すれば、精神も共にやられる。
 もう、どうでもいいという、勇者に不似合いな不貞腐れた根性が、心の隅に巣喰った。
 私は、これほど努力したのだ。約束を破る心は、みじんも無かった。
 神も照覧、私は精一ぱいに努めて来たのだ。動けなくなるまで走って来たのだ。私は不信の徒では無い。
 ああ、できる事なら私の胸を截ち割って、真紅の心臓をお目に掛けたい。
 お嬢様への愛の血液だけで動いているこの心臓を見せてやりたい。けれども私は、この大事な時に、精も根も尽きたのだ。
 私は、よくよく不幸な女だ。私は、きっと笑われる。紅魔館も笑われる。私は魔理沙を欺いた。
 中途で倒れるのは、はじめから何もしないのと同じ事だ。ああ、もう、どうでもいい。
 これが、私の定った運命なのかも知れない。魔理沙よ、許してくれ、いつでも私を信じた。
 私も君を、欺かなかった。私たちは、本当に佳い友と友であったのだ。
 いちどだって、暗い疑惑の雲を、お互い胸に宿したことは無かった。
 いまだって、君は私を無心に待っているだろう。ああ、待っているだろう。ありがとう、魔理沙。よくも私を信じてくれた。
 それを思えば、たまらない。友と友の間の信実は、この世で一ばん誇るべき宝なのだからな。
 魔理沙、私は走ったのだ。君を欺くつもりは、みじんも無かった。信じてくれ! 私は急ぎに急いでここまで来たのだ。
 濁流を突破した。チルノも、するりと抜けて一気に峠を駈け降りて来たのだ。
 私だから、出来たのだよ。ああ、この上、私に望み給うな。放って置いてくれ。どうでも、いいのだ。私は負けたのだ。
 だらしが無い。笑ってくれ。レミリアお嬢様はなぜか、私に、ちょっとおくれて来い、と耳打ちした。
 おくれたら、魔理沙をコチョコチョの刑に処し、私を助けてくれると約束した。
 私はなぜか、霊夢の卑劣を憎んだ。けれども、今になってみると、私はお嬢様の言うままになっている。
 私は、おくれて行くだろう。霊夢とお嬢様は、ふたり合点して私を笑い、そうして事も無く私を放免するだろう。
 そうなったら、私は、死ぬよりつらい。私は、永遠に裏切者だ。地上で最も、不名誉の人種だ。
 魔理沙よ、私も死ぬぞ。君と一緒に死なせてくれ。君だけは私を信じてくれるにちがい無い。
 いや、それも私の、ひとりよがりか? ああ、もういっそ、悪徳者として生き伸びてやろうか。
 紅魔館には仕事が在る。美鈴も居る。レミリアお嬢様は、まさか私を紅魔館から追い出すような事はしないだろう。
 正義だの、信実だの、愛だの、考えてみれば、くだらない。人を殺して自分が生きる。
 それが人間世界の定法ではなかったか。ああ、何もかも、ばかばかしい。
 私は、醜い裏切り者だ。どうとも、勝手にするがよい。やんぬる哉。――四肢を投げ出して、うとうと、まどろんでしまった。





  ふと耳に、潺々、水の流れる音が聞えた。そっと頭をもたげ、息を呑んで耳をすました。すぐ足もとで、水が流れているらしい。
 よろよろ起き上って、見ると、岩の裂目から滾々と、何か小さく囁きながら清水が湧き出ているのである。
 その泉に吸い込まれるように咲夜は身をかがめた。水を両手で掬って、一くち飲んだ。ほうと長い溜息が出て、夢から覚めたような気がした。
 
  歩ける。行こう。肉体の疲労恢復と共に、わずかながら希望が生れた。義務遂行の希望である。わが身を殺して、名誉を守る希望である。
 時間を止めれば。昼時までには、間に合うだろう。私を、待っている人があるのだ。少しも疑わず、静かに期待してくれている人があるのだ。
 私は、信じられている。私の命なぞは、問題ではない。死んでお詫び、などと気のいい事は言って居られぬ。
 私は、信頼に報いなければならぬ。いまはただその一事だ。走れ! 咲夜!

  私は信頼されている。私は信頼されている。先刻の、あの悪魔の囁きは、あれは夢だ。悪い夢だ。忘れてしまえ。
 五臓が疲れているときは、ふいとあんな悪い夢を見るものだ。咲夜、おまえの恥ではない。
 やはり、おまえは真の勇者だ。再び立って走れるようになったではないか。ありがたい! 私は、正義の士として死ぬ事が出来るぞ。
 ああ、陽が昇る。ずんずん昇る。待ってください、お嬢様。咲夜は生れた時から正直な女です。正直な女のままにして死なせて下さい。



  路行く妖精を押しのけ、跳ねとばし、咲夜は黒い風のように走った。野原で萃香主催の酒宴の
 その宴席のまっただ中を駈け抜け、酒宴の人たちを仰天させ、犬を蹴とばし、小川を飛び越え、
 少しずつ昇っていく太陽の、十倍も早く走った。

  上白沢と蓬莱人と颯っとすれちがった瞬間、不吉な会話を小耳にはさんだ。

「いまごろは、博麗神社で、魔理沙がこちょこちょの刑にかかっているよ」

 ああ、魔理沙、魔理沙のために私は、いまこんなに走っているのだ。魔理沙を死なせてはならない。
 急げ、咲夜。おくれてはならぬ。愛と誠の力を、いまこそ知らせてやるがよい。風態なんかは、どうでもいい。
 咲夜は、いまは、ほとんど全裸体であった。呼吸も出来ず、二度、三度、口から血が噴き出た。見える。
 はるか向うに小さく、博麗神社の石段が見える。石段は、陽光を受けてきらきら光っている。



「ああ、咲夜。」うめくような声が、風と共に聞えた。
「誰だ。」咲夜は走りながら尋ねた。
「アリス・マーガトロイド!! 貴方のお友達魔理沙の妻!!」
その若い魔法使いも、咲夜の後について走りながら叫んだ。「魔理沙が、このまま、殺されたりなんかしたら、絶対許さない、んだから!!」
「いや、まだ陽はのぼりきってはおらぬ」
「ちょうど今、魔理沙が吊り上げられたとこなの!! 時間止めて急げバカ!!」
「いや、まだ陽はのぼりきっておらぬ」咲夜は胸のズレる思い(主にパッドが)で、赤く大きい鳥居ばかりを見つめていた。走るより他は無い。
「早く行きなさいよ、魔理沙すっごい動揺してたのよ!? 
 刑場に引き出されて、ホントもう涙を流しながら。
 レミリアが魔理沙をからかうたんびに、
 咲夜が悪い、咲夜が悪い、とだけ答えて、大泣きしてたのよ」
「それだから、走るのだ。信じられているから走るのだ。間に合う、間に合わぬは問題でないのだ。
 人の命も問題でないのだ。私は、なんだか、もっと恐ろしく大きいものの為に走っているのだ。ついて来い! アリス・マーガトロイド!!」
「ああ、あなたは気が狂ったか。私の話をちょっとでもいいから聞いて!!」

 言うにや及ぶ。まだ陽は昇りきってはおらぬ。最後の死力を尽して、咲夜は走った。咲夜の頭は、からっぽだ。何一つ考えていない。
ただ、わけのわからぬ大きな力にひきずられて走った。陽は、ゆらゆら天に達しようとし、まさに最後の角度も、消えようとしたとき

 咲夜は疾風の如く博麗神社に突入した。間に合った。

「待て。魔理沙を殺してはならぬ。咲夜が帰って来た。約束のとおり、いま、帰って来た」
 と大声で刑場の群衆にむかって叫んだつもりであったが、喉がつぶれてしわ嗄れた声が幽かに出たばかり
 群衆は、ひとりとして咲夜の到着に気がつかない。すでに磔の柱が高々と立てられ、縄を打たれた魔理沙は、徐々に釣り上げられてゆく。
 咲夜はそれを目撃して最後の勇、先刻、濁流を飛んで乗り越えたように群衆の上を飛翔し、
「私だ、霊夢! 殺されるのは、私だ。咲夜だ。魔理沙を人質にした私は、ここにいる!」と、かすれた声で精一ぱいに叫びながら
 ついに磔台に昇り、吊り上げられてゆく魔理沙の両足に、齧りついた。
 群衆は、どよめいた。あっぱれ。ゆるせ、と口々にわめいた。魔理沙の縄は、ほどかれたのである。

「魔理沙」咲夜は眼に涙を浮べて言った。
「私を殴れ。ちから一ぱいに頬を殴れ。私は、途中で一度、悪い夢を見た。
 君がもし私を殴ってくれなかったら、私は君と抱擁する資格さえ無いのだ。殴れ」

 魔理沙は、すべてを察した様子で首肯き、刑場一ぱいに鳴り響くほど音高く咲夜の右頬を殴った。殴ってから優しく微笑み、

「もう一回殴っていいか?」

 咲夜は腕に唸りをつけて魔理沙の頬を殴った。

「ちょ! 痛ぇ!! 何するんだよ咲夜!! どう考えても私がもう一回だろ!!」
「おお、魔理沙、私を信じてくれてありがとう」

 二人同時に言い、咲夜が強引に魔理沙を抱きしめ、それから咲夜だけが嬉し泣きにおいおい声を放って泣いた。
 群衆の中からも、歔欷の声が聞えた。博麗霊夢とレミリアは、
 群衆の背後から二人の様を、まじまじと見つめていたが、レミリアは、やがて静かに二人に近づき、顔をあからめて、こう言った。

「咲夜、あなたすっごい楽しそうね・・・・・・。
 よかったら、どうしたらそんなにおめでたい頭になれるのかを私に教えてくれない? 
 あなたみたいに過ごせれば毎日がきっと楽しいわ」

 どっと群衆の間に、歓声が起った。

「咲夜万歳! 咲夜万歳!」

 ひとりの少女、東風谷早苗が自らの豊乳ブラを咲夜に捧げた。咲夜は、まごついた。霊夢は、気をきかせて教えてやった。

「咲夜、君は、パッドじゃないか。早く豊乳ブラをつけるがいい。
 この可愛い巫女さんは、咲夜のパッドが、たまらなく哀れなのよ」




 咲夜は、ひどく赤面した。
太宰先生、すみませんでした。
名誉毀損にならないかが心配です。
咲夜さんに対して。

魔理沙可愛いよまーりさぁー

40コメント達成あざーす

※6月22日名前変更
電気羊
コメント



1.名無し妖怪削除
もう破天荒そのものですねwww
太宰治とベクトルが完全逆方向の名作がここにwwwww
2.名無し妖怪削除
ウアアアアア走れ神主ががが
3.名無し妖怪削除
よくここまで、忠実にアレンジしたwww
4.名無し妖怪削除
>主人の世話をし、美鈴で遊んで暮して来た。

いきなり吹いたw
5.名無し妖怪削除
一瞬、走れ神主を思い出したが、それ以上のカオスだったw
6.名無し妖怪削除
プロットの構成は忠実なのに
我田引水すぎるwwww
美鈴は咲夜の玩具なんですね><
分かりました.
7.削除
しまった、ふいたwwww
この発想はなかったw
8.名無し妖怪削除
気に入った、紅魔館に帰って時間止めずに美鈴の乳を揉みしだいていい!
9.名無し妖怪削除
あなたのその発想にはいつもいつも脱帽する。
10.名無し妖怪削除
いい話です。ナンセンスのキワミです。
11.名無し妖怪削除
どうやったらこんな発想が出来るんだ…
ちくしょう、二行目で我慢が出来ず吹いてしまった自分がニクイ!
12.名無し妖怪削除
謝れ、太宰治に額を地面に擦り付けて全力で謝れwwwww

魔理沙が哀れ過ぎww全然無関係なのになあ……
とりあえず咲夜が幻想郷ライフを全力で楽しんでるのはわかったwwwww
13.名無し妖怪削除
いい意味でひたすらひどい
14.名無し妖怪削除
どう頑張ってもこの流れで「咲夜万歳!」なんて言えねぇw
15.名無し妖怪削除
>女房も無い。
なんというかもうwww
16.PYTHON削除
吹きました。
これは教科書に載せられないですね。
17.名前が無い程度の能力削除
この作品の凄いところは

咲夜さんが走る必要性がいっさいないことだとおもう
18.名前が無い程度の能力削除
霊夢とレミリアがあきれてる描写がすごくいい
19.名前が無い程度の能力削除
これはwww走れ神主と同レベルの改変作品www

こういうネタは何度も見たけれど本当にここまでやるとは!最高だ!
20.ひぃや削除
すげぇ…クリックして吹くまで1秒もかからなかったwww
21.時空や空間を翔る程度の能力削除
魔理沙はとんでもない勘違いに巻き込まれましたwwwwww

22.蝦蟇口咬平削除
>女房も無い

当たり前、といーうかアリスの台詞といいスルーすべきか?
23.はむすた削除
飛ぼうwww
24.イセンケユジ削除
>「空、飛ぼう」



ですよねーw
25.いよかん削除
魔理沙が不憫すぎるwww
26.A削除
主人公二人がマジ不憫www
27.八重結界削除
何が凄いって、咲夜さんの頭が凄ぇwww
28.名前が無い程度の能力削除
魔理沙にみぞおち入れた部分で盛大にフイタwww

咲夜さんマジ自重www
29.じょにーず削除
なにもかんがえずにはしれサクヤさん……!
30.名前が無い程度の能力削除
これはいいwww
31.名前が無い程度の能力削除
いろいろひでえww

もう笑うしかねえww
32.名前が無い程度の能力削除
クリックした瞬間吹いたwww

もうねwwなんかww咲夜万歳wwww
33.名前が無い程度の能力削除
>東風谷早苗が自らの豊乳ブラを咲夜に捧げた。

>咲夜のパッドが、たまらなく哀れなのよ



武士の情けじゃ…
34.名前が無い程度の能力削除
これはひどいwww
35.名前が無い程度の能力削除
ずるい……! でも吹いてしまったので敗北感。

突然口調が元ネタ準拠になるところになぜか笑ってしまう。
36.名前が無い程度の能力削除
やべぇ、最高にサイテーだwwwwww

ところで俺にも揉まs(ピチューン
37.あまぎ削除
なんだこれ……

なんだこれwwww

男らしい咲夜さん格好良いわ、これは。
38.にらたまご削除
咲夜さん以外正常WWWWW腹筋返せWWWWW

一時間で40キロ走る咲夜さんを見て全俺が笑ったWWWWW感動をありがとう\(^〇^)/
39.名前が無い程度の能力削除
>友と友の間は、それでよかった。
よくねぇwwww
あと電気羊さんが魔理沙弄り好きなのがよくわかったw
40.朝夜削除
多すぎるので突っ込みは割愛します。

どこからこんな発想が湧いてきたのか不思議でなりません、笑いすぎて腹痛おこしました。
41.過酸化水素ストリキニーネ削除
むしろ咲夜さんよりアリスに笑った
42.STG好きなただの人削除
羊さんの発想と才能に感服。
もはや笑うしかないw
43.名前が無い程度の能力削除
よくぞ書ききった、と言いたい所だが、君には〇んでもらう
44.名前が無い程度の能力削除
これ、下手したら原作より面白いよw