あらすじ
メイドのお仕事開始。
現在の場所は紅魔館の台所、朝食を準備するためにレミリアはジャガイモと格闘中。
生まれてから五百年間、料理など皆無に等しい。たかが皮を剥くというなかれ、これがなかなか難しい作業だ。
初心者のレミリアには難しすぎた。何せゴツゴツしていて皮が切りにくい、オマケに吸血鬼は人よりも力が強い。少し強く握るとジャガイモは木っ端微塵に。
「うー・・・」
すでにレミリアの隣には二の桁を超えるジャガイモ達が哀れな姿となっている。
「脆いわ・・。やりずら過ぎる・・・」
少々泣きっ面になり始めるレミリア。何故彼女が料理をしているかと言えば、少し前に自分の従者と立場を交換するといった場面に戻る。
「お嬢様!そんなことはとても!」
「あら咲夜、ここの主人は私よ?私が言い出したことに変更は無いわ」
「しかし・・・・」
自分の主にメイドの仕事をさせる、咲夜にとってはとても考えられないことである。
幸い姿がまんまなので、ばれることは無いと思うが万が一ばれたとしたら・・。
間違いなくカリスマブレイク!である。ただでさえ最近れみりゃとか、へたれみりゃとかで降下中のカリスマ。自分で止めを刺すことになりかねない。
そんなことを考えていると、レミリアは咲夜に近づき袖をつかむ。
「ねえ・・だめ?」
さらに上目つかいで、目に涙を貯めながらオネダリをしてきた。
普段の咲夜になら、間違いなく一発KO+再起不能になるであろう技。しかし、まことに残念ながら現在は咲夜の体。効果は無し。
「う・・・」
だが、咲夜はそれをみて一歩下がる。これを見てレミリアは効果ありと踏んだのか、さらに拍車をかける。
「ねえ・・お願い・・・さくやぁ・・」
かなりの猫なで声でのお願い、これをみた咲夜はさらに三歩ほど下がる。レミリアは逃がさんとばかりに、壁際まで追い込む。
「ねえ・・・」
「は・・はい?」
「おねがい、咲夜・・。やってみたいのよ・・」
「し、しかし・・・」
「お願い・・」
「うぅぅ・・・」
顔と顔が引っ付くほどの距離にまで近づく、さらに顔を近くに寄せた所で咲夜が悲鳴をあげる。
「わ、わかりました!わかりましたから一端はなれてください~~!」
「ほんと?ありがとう、咲夜♪」
その言葉を聴いた途端にぱっと咲夜から離れて、くすくすと笑いながら離れるレミリア。咲夜は対照的に大分憔悴したみたいで、少しやつれていた。
「ただ、お嬢様が思っているよりもメイドの仕事は大変ですよ?」
「あら?私を誰だと思っているのかしら?咲夜。このレミリア・スカーレットがそれくらいこなせないとでも?」
「い、いえ、けしてそう言う訳では・・・」
「ふふ・・。冗談よ咲夜。心配してくれるのは嬉しいけど、私はそれくらい大丈夫よ」
「・・・そうですか、わかりました。では少々お待ちください、今すぐ今日やるはずの仕事を紙に書いておきますので」
「あら、ありがとう。さすが私の従者ね」
「ありがとうございます」
咲夜が机に向かいスラスラと紙に予定を書いていく。その紙を受け取り、一番上の項目を見る。
「一番最初は・・・朝食準備ね。あら、後十分後じゃない。じゃあ咲夜、私行ってくるからね」
「はい、いってらっしゃいませ」
「それと、咲夜。あなたも今日一日好きに過ごしなさい」
そう言うとレミリアは厨房に向かっていった。残された咲夜はよろよろとベットに近づき、ぼすっと座る。
「うう・・・キツかったわ・・」
先ほどレミリアに詰め寄られたとき、あれはお嬢様だが外見が咲夜だ。まるで自分に言い寄られているようで、その光景はあまり気分のいいものではない。
さらに、自分が普段するはずもない上目使い、涙目、猫なで声と三連発だ。思わず許可してしまった。
「・・とにかく、さっきのは忘れてっと。さて・・・私は今日なにしてすごそうかしら・・」
レミリアが出て行ったあとの扉を見つめながら、咲夜は呟いた。
こうして場面は最初の方にと戻る。
なんとか予定の量のジャガイモをむき終わり、一段落のレミリア。しかし払った代償はあまりに大きいものだと隣に積まれたジャガイモが物語っていた。
途中、いつもと違ってミスをするメイド長を心配してメイド達が話しかけてきて、焦ったレミリアが「ちょ、ちょっと今日は瀟洒が足りなくて!」と、訳の解らない言い訳をしてメイドが不審がっていたが、なんとかセーフだ。
後の作業はメイド達がやってくれるらしく、レミリアは次の予定をこなす為に予定表を見る。
「え~っと・・・。次は、紅魔館の廊下モップ拭き・・?」
料理は予想以上に難しく、初っ端から挫け掛けたレミリアだったがこれを見て一気に元気が出る。
「モップで拭くだけなら簡単ね。」
そのままウキウキと廊下に出るレミリア。
「モップで掃除・・・よね・・」
第一関門発生!掃除用具箱を探せ!
咲夜の力によって素晴らしく広い紅魔館の廊下。あまりに長く、掃除道具が普段どこに収納されているのか判らないレミリアにとって地獄だ。こんな広い場所で、それを探していると時間がいくらあっても足りない。
「う~ん・・。そうだ!私は今は咲夜なんだから時間を止めればいいのよ」
名案!とばかりに実行に移すレミリア。しかし五分位うんうんと唸って試したが、一向に使える気配が無い。
「使えない・・・?他人の能力は微妙な感覚の違いのせいで、そう簡単には出せない・・・のかなぁ」
思わず首を捻って考えるレミリア。ふと腰に掛けてある咲夜の銀時計を見ると、時計が八時の近くを指している。あれから大分時間が経ったらしい、一回戻らなければ。
結局廊下掃除は出来ずにレミリアはとぼとぼと食堂に戻った。
食堂に戻ったレミリアは、そこで既に待機していたメイドから二人分の食事が乗ったワゴンを渡された。
(そういえば咲夜は私のと、フランの食事を運んでいるのよね・・)
朝からの騒動のせいで、お腹がぺこぺこだったレミリア。ご飯を直に食べたかったが、思わぬ仕事にがっかりとする。
ちなみに咲夜に渡された予定表にもちゃんと書いてあった辺り、咲夜は食事を取るのはいつもこうなのだろう。仕方なくワゴンを廊下に運び出す。
しかし、食事をのせたワゴンは意外に操作が難しい。まっすぐ押しているつもりが、少しずつ左へ、右へとずれて行く。
「ぐぬぬ・・・。っあ、うわわわわ!」
ガシャーンと、廊下の壁に軽くワゴンを接触させてしまったレミリア。幸いにも料理はこぼれなかったし、ワゴンも無傷だったがプライドが傷ついた。
こんなものも満足に運べないのかと。
若干傷心になりつつも、フランドールが住む部屋の前に着く。霧の一件にによって紅魔館での悩みの種であった、フランドールの暴走。それが最近になって収まってきた事によって、フランドールの部屋は地下ではなくなっている。
扉を開ける前に、自分が今咲夜の姿であることを思い出す
(そうよ・・。咲夜みたいな感じでセリフを言わないといけないんだったわね・・)
二、三度練習してから、扉を開けて入るレミリア。しかし、そこにはまだベットの中で眠っているフランドールの姿があった。
(そういえば、フランは私みたいに昼夜逆転になれているわけではないものね・・)
フっと、軽い笑みを漏らしてレミリアは部屋を後にする。恐らくあの調子だと夕方まで起きないであろう。
可愛い妹の世話を焼くのはその時にしよう。
フランのご飯が要らないとなると、このご飯は咲夜と私のでよさそうだと判断し、自室へと向かう。途中、少しワゴンの押し方のコツを覚えたレミリアは接触事故だけは起こさなかった。
自室の前に戻り、部屋の扉をノックし部屋に入る。
「失礼しますお嬢様、朝食をお持ちいたしました」
レミリアがまるで咲夜のように朝食を運んで来た事に咲夜は、目を白黒させて驚いていた。自分の姿だが、咲夜がこんな表情をするのは珍しい。この顔を見れただけで、先ほどの失敗が気にならなくなってきた。
「お、お嬢様・・?」
「いかがなさいましたか?お嬢様」
フフっと笑みを浮かべながら聞き返すレミリア。咲夜は、まだ慣れないのか混乱中。
「・・お嬢様。せめてふたりの時はいつもどおりにして頂けませんか・・?」
困り顔で咲夜はレミリアに言う。
レミリアは、ワゴンにのっている料理をテーブルの上にゆっくり並べながら少し考える。
「そうね・・。それ位なら許可しましょう。あなたにはあまりに辛すぎるみたいだから」
その言葉を聴いて少し安心した表情になった咲夜。
「そういえば、お嬢様は配膳お上手ですね?」
「そうかしら?きっとパチュとのチェスのおかげね」
レミリアはさっきまで失敗をしてたので、かなり得意顔になる。私は配膳の才能があるのね、っとまで思うレミリア。
配膳の才能ってなんだよ。
二人分の料理を並べ終わり、一息つく二人。
「ふ~、おなかペコペコよ。いただきます」
「いただきます」
「咲夜は、いつもこんな時間に食事してるの?もう九時ちかいんだけど」
「そうですね、大体この時間ですね」
「ふ~ん。お腹空かない?」
「いえ、慣れちゃってますから」
こんな感じで、いつものような会話で食事をする。しかし、自分の従者が朝からこんなに大変だとは思っていなかった。自分は失敗したが、彼女ならすでに廊下掃除も終らしているのだろう。
朝食も終わり、食器をワゴンに載せて部屋を出る。咲夜から用具のある場所を聞いたから、掃除はもうバッチリだ。
食堂のほうに皿を届け、メイドに任して予定表を見る。
「洗濯か・・・」
洗濯場所なら知っている。霊夢の家に行くとき、庭の花畑の近くに水場で美鈴が自分の服を洗ってるのを見たことがある。
メイドに聞けば既に洗物はそっちに運んであるらしく、あとは洗って干すだけだ。レミリアは外に向かった。
吸血鬼は、相当な力を持った生き物である。しかし、逆に弱点も多い。そのうちの一つは太陽光だ。これに当たると体が気化して死んでしまう。だから外出時には、日傘を必ず持っていく。
今も外に向かう途中で、傘を取りに行こうとして気がつく。今は咲夜なのだから、必要ないと。
しかし、いざ大丈夫といえども五百年間日陰で過ごしてきたレミリア。やはり傘無しで出るのには抵抗がある。
「う~・・」
いつだったかレミリアはいつもお日様の光を一杯浴びて気持ちよく寝ている門番をみて、聞いてみたことがある。
「ねえ、美鈴?日の光ってそんなに気持ちがいいの?」
「そうですね・・。体の芯からポカポカしてきてとっても気持ちいですよ♪」
「・・ふ~ん」
その話を聞いてから、叶わぬ事と分りつつも日の光を浴びてみたいなと思っていた。
ちなみ、このあと昼寝を始めた美鈴に大量のナイフが刺さった事は言うまでも無い。
南無。
「よし!いくわよ・・・。せーの!」
紅魔館の入り口付近で、レミリアは掛け声をだして踏み出そうとする。ちなみにこの掛け声は、かれこれ七回目だ。
傍からみれば、芸人のバンジージャンプみたいでもどかしい。押してやりたい。
「ううぅ~~・・。えい!」
しかし、18回目でレミリアは外に出た。やったねレミリア。すごいぞレミリア。時間かかりすぎ。
「っん・・」
奉仕服が覆っていない、腕や足に日の光が当たる。そこから心地いい暖かさが広がる。聞いて想像してたよりも気持ちのいい感覚に、思わず空を見上げる。
顔に日の光が当たり、さらに暖かくなる。目を瞑ってしばらくの間日の光を堪能することにした。
(気持ちいい・・・)
美鈴が昼寝をしたくなるのも、今なら理解できるかもしれない。今度紅魔館で、日向ぼっこ制度でも作ろうかしら。っとまで考えてしまうほど穏やかな気持ちにもさせてしまう。
何分か、ぼうっとしててフット思い出す。洗濯するんだった。
咲夜の時計を見ると九時半を回っている。十分近くもそうしてたらしい。急いで洗濯しなければ。
レミリアは洗濯場へと駆けていった。
洗濯場についてレミリアは思わず呟く。
「っ多・・」
そこには、咲夜の体と同じくらいの高さに詰まれた洗濯物の山が聳え立っていた。とりあえず見てるだけでは、始まらないと判断したレミリアは早速洗濯を開始した。
咲夜の書いた予定表には洗濯物の洗い方なども書かれていたので、なんとかこなせそうだ。
「えっと・・。洗濯板に洗い物を擦って汚れを落とすのね・・・。」
洗濯ものを一枚掴み早速洗おうと、洗濯板に擦り付けるレミリア。ゴシゴシと擦っていくと確かに汚れが落ちていく。
「しかし、この服は・・美鈴のね・・・。汚れがいっぱいで落ちにくいわね・・・、えい」
ビリィ!
「っあ・・」
哀れ美鈴の服。もはやスリットが脇にまで到達する、超過激服に大変身。
レミリアは、美鈴のならば良いかなぁっとばかりに次に取り掛かる。
次のはパチュリーの服だ。パチュリーの服はネグリジェと大差の無いような、薄くて柔らかい素材で出来ているために美鈴の服より難しい。
レミリアも手にとって難しいと判断したのか、さっきよりも優しく洗う。
ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ。優しく洗う代わりに、結構沢山擦った。これで大丈夫と判断し次のにとりかかる。
しかしかなり擦ったのが不味かったのか、唯でさえ薄い服が更に薄くなった。どれくらいかと言うと、下着が透けて余裕で柄がわかるくらい。
パチュリー露出魔へと一歩近づく。
この調子で咲夜の服、小悪魔の服、妖精メイドの服、自分の服を洗う。残念な事に、服は少し変化してたり過激になったりしているが良しとする。
え?フランの服?それだけは何故かキレイに洗われていましたよ。何故でしょうね。
現時刻は一時過ぎ。およそ三時間程掛けて洗濯を終わらす。思った以上の労働に半日でお疲れ気味のレミリア。ちょびっとだけ後悔しはじめてきた。
しかし、自分が言い出したこと。途中で投げ出すなどプライドが許さない。
気合を入れなおしたと同時にレミリアのお腹から、く~っと可愛らしい音が鳴った。時間的にはお昼頃だ。とにかく食事にしようとレミリアは食堂に向かう。
予定表には午後のほうが圧倒的に仕事が多く書かれていることにも気づかずに。
メイドのお仕事開始。
現在の場所は紅魔館の台所、朝食を準備するためにレミリアはジャガイモと格闘中。
生まれてから五百年間、料理など皆無に等しい。たかが皮を剥くというなかれ、これがなかなか難しい作業だ。
初心者のレミリアには難しすぎた。何せゴツゴツしていて皮が切りにくい、オマケに吸血鬼は人よりも力が強い。少し強く握るとジャガイモは木っ端微塵に。
「うー・・・」
すでにレミリアの隣には二の桁を超えるジャガイモ達が哀れな姿となっている。
「脆いわ・・。やりずら過ぎる・・・」
少々泣きっ面になり始めるレミリア。何故彼女が料理をしているかと言えば、少し前に自分の従者と立場を交換するといった場面に戻る。
「お嬢様!そんなことはとても!」
「あら咲夜、ここの主人は私よ?私が言い出したことに変更は無いわ」
「しかし・・・・」
自分の主にメイドの仕事をさせる、咲夜にとってはとても考えられないことである。
幸い姿がまんまなので、ばれることは無いと思うが万が一ばれたとしたら・・。
間違いなくカリスマブレイク!である。ただでさえ最近れみりゃとか、へたれみりゃとかで降下中のカリスマ。自分で止めを刺すことになりかねない。
そんなことを考えていると、レミリアは咲夜に近づき袖をつかむ。
「ねえ・・だめ?」
さらに上目つかいで、目に涙を貯めながらオネダリをしてきた。
普段の咲夜になら、間違いなく一発KO+再起不能になるであろう技。しかし、まことに残念ながら現在は咲夜の体。効果は無し。
「う・・・」
だが、咲夜はそれをみて一歩下がる。これを見てレミリアは効果ありと踏んだのか、さらに拍車をかける。
「ねえ・・お願い・・・さくやぁ・・」
かなりの猫なで声でのお願い、これをみた咲夜はさらに三歩ほど下がる。レミリアは逃がさんとばかりに、壁際まで追い込む。
「ねえ・・・」
「は・・はい?」
「おねがい、咲夜・・。やってみたいのよ・・」
「し、しかし・・・」
「お願い・・」
「うぅぅ・・・」
顔と顔が引っ付くほどの距離にまで近づく、さらに顔を近くに寄せた所で咲夜が悲鳴をあげる。
「わ、わかりました!わかりましたから一端はなれてください~~!」
「ほんと?ありがとう、咲夜♪」
その言葉を聴いた途端にぱっと咲夜から離れて、くすくすと笑いながら離れるレミリア。咲夜は対照的に大分憔悴したみたいで、少しやつれていた。
「ただ、お嬢様が思っているよりもメイドの仕事は大変ですよ?」
「あら?私を誰だと思っているのかしら?咲夜。このレミリア・スカーレットがそれくらいこなせないとでも?」
「い、いえ、けしてそう言う訳では・・・」
「ふふ・・。冗談よ咲夜。心配してくれるのは嬉しいけど、私はそれくらい大丈夫よ」
「・・・そうですか、わかりました。では少々お待ちください、今すぐ今日やるはずの仕事を紙に書いておきますので」
「あら、ありがとう。さすが私の従者ね」
「ありがとうございます」
咲夜が机に向かいスラスラと紙に予定を書いていく。その紙を受け取り、一番上の項目を見る。
「一番最初は・・・朝食準備ね。あら、後十分後じゃない。じゃあ咲夜、私行ってくるからね」
「はい、いってらっしゃいませ」
「それと、咲夜。あなたも今日一日好きに過ごしなさい」
そう言うとレミリアは厨房に向かっていった。残された咲夜はよろよろとベットに近づき、ぼすっと座る。
「うう・・・キツかったわ・・」
先ほどレミリアに詰め寄られたとき、あれはお嬢様だが外見が咲夜だ。まるで自分に言い寄られているようで、その光景はあまり気分のいいものではない。
さらに、自分が普段するはずもない上目使い、涙目、猫なで声と三連発だ。思わず許可してしまった。
「・・とにかく、さっきのは忘れてっと。さて・・・私は今日なにしてすごそうかしら・・」
レミリアが出て行ったあとの扉を見つめながら、咲夜は呟いた。
こうして場面は最初の方にと戻る。
なんとか予定の量のジャガイモをむき終わり、一段落のレミリア。しかし払った代償はあまりに大きいものだと隣に積まれたジャガイモが物語っていた。
途中、いつもと違ってミスをするメイド長を心配してメイド達が話しかけてきて、焦ったレミリアが「ちょ、ちょっと今日は瀟洒が足りなくて!」と、訳の解らない言い訳をしてメイドが不審がっていたが、なんとかセーフだ。
後の作業はメイド達がやってくれるらしく、レミリアは次の予定をこなす為に予定表を見る。
「え~っと・・・。次は、紅魔館の廊下モップ拭き・・?」
料理は予想以上に難しく、初っ端から挫け掛けたレミリアだったがこれを見て一気に元気が出る。
「モップで拭くだけなら簡単ね。」
そのままウキウキと廊下に出るレミリア。
「モップで掃除・・・よね・・」
第一関門発生!掃除用具箱を探せ!
咲夜の力によって素晴らしく広い紅魔館の廊下。あまりに長く、掃除道具が普段どこに収納されているのか判らないレミリアにとって地獄だ。こんな広い場所で、それを探していると時間がいくらあっても足りない。
「う~ん・・。そうだ!私は今は咲夜なんだから時間を止めればいいのよ」
名案!とばかりに実行に移すレミリア。しかし五分位うんうんと唸って試したが、一向に使える気配が無い。
「使えない・・・?他人の能力は微妙な感覚の違いのせいで、そう簡単には出せない・・・のかなぁ」
思わず首を捻って考えるレミリア。ふと腰に掛けてある咲夜の銀時計を見ると、時計が八時の近くを指している。あれから大分時間が経ったらしい、一回戻らなければ。
結局廊下掃除は出来ずにレミリアはとぼとぼと食堂に戻った。
食堂に戻ったレミリアは、そこで既に待機していたメイドから二人分の食事が乗ったワゴンを渡された。
(そういえば咲夜は私のと、フランの食事を運んでいるのよね・・)
朝からの騒動のせいで、お腹がぺこぺこだったレミリア。ご飯を直に食べたかったが、思わぬ仕事にがっかりとする。
ちなみに咲夜に渡された予定表にもちゃんと書いてあった辺り、咲夜は食事を取るのはいつもこうなのだろう。仕方なくワゴンを廊下に運び出す。
しかし、食事をのせたワゴンは意外に操作が難しい。まっすぐ押しているつもりが、少しずつ左へ、右へとずれて行く。
「ぐぬぬ・・・。っあ、うわわわわ!」
ガシャーンと、廊下の壁に軽くワゴンを接触させてしまったレミリア。幸いにも料理はこぼれなかったし、ワゴンも無傷だったがプライドが傷ついた。
こんなものも満足に運べないのかと。
若干傷心になりつつも、フランドールが住む部屋の前に着く。霧の一件にによって紅魔館での悩みの種であった、フランドールの暴走。それが最近になって収まってきた事によって、フランドールの部屋は地下ではなくなっている。
扉を開ける前に、自分が今咲夜の姿であることを思い出す
(そうよ・・。咲夜みたいな感じでセリフを言わないといけないんだったわね・・)
二、三度練習してから、扉を開けて入るレミリア。しかし、そこにはまだベットの中で眠っているフランドールの姿があった。
(そういえば、フランは私みたいに昼夜逆転になれているわけではないものね・・)
フっと、軽い笑みを漏らしてレミリアは部屋を後にする。恐らくあの調子だと夕方まで起きないであろう。
可愛い妹の世話を焼くのはその時にしよう。
フランのご飯が要らないとなると、このご飯は咲夜と私のでよさそうだと判断し、自室へと向かう。途中、少しワゴンの押し方のコツを覚えたレミリアは接触事故だけは起こさなかった。
自室の前に戻り、部屋の扉をノックし部屋に入る。
「失礼しますお嬢様、朝食をお持ちいたしました」
レミリアがまるで咲夜のように朝食を運んで来た事に咲夜は、目を白黒させて驚いていた。自分の姿だが、咲夜がこんな表情をするのは珍しい。この顔を見れただけで、先ほどの失敗が気にならなくなってきた。
「お、お嬢様・・?」
「いかがなさいましたか?お嬢様」
フフっと笑みを浮かべながら聞き返すレミリア。咲夜は、まだ慣れないのか混乱中。
「・・お嬢様。せめてふたりの時はいつもどおりにして頂けませんか・・?」
困り顔で咲夜はレミリアに言う。
レミリアは、ワゴンにのっている料理をテーブルの上にゆっくり並べながら少し考える。
「そうね・・。それ位なら許可しましょう。あなたにはあまりに辛すぎるみたいだから」
その言葉を聴いて少し安心した表情になった咲夜。
「そういえば、お嬢様は配膳お上手ですね?」
「そうかしら?きっとパチュとのチェスのおかげね」
レミリアはさっきまで失敗をしてたので、かなり得意顔になる。私は配膳の才能があるのね、っとまで思うレミリア。
配膳の才能ってなんだよ。
二人分の料理を並べ終わり、一息つく二人。
「ふ~、おなかペコペコよ。いただきます」
「いただきます」
「咲夜は、いつもこんな時間に食事してるの?もう九時ちかいんだけど」
「そうですね、大体この時間ですね」
「ふ~ん。お腹空かない?」
「いえ、慣れちゃってますから」
こんな感じで、いつものような会話で食事をする。しかし、自分の従者が朝からこんなに大変だとは思っていなかった。自分は失敗したが、彼女ならすでに廊下掃除も終らしているのだろう。
朝食も終わり、食器をワゴンに載せて部屋を出る。咲夜から用具のある場所を聞いたから、掃除はもうバッチリだ。
食堂のほうに皿を届け、メイドに任して予定表を見る。
「洗濯か・・・」
洗濯場所なら知っている。霊夢の家に行くとき、庭の花畑の近くに水場で美鈴が自分の服を洗ってるのを見たことがある。
メイドに聞けば既に洗物はそっちに運んであるらしく、あとは洗って干すだけだ。レミリアは外に向かった。
吸血鬼は、相当な力を持った生き物である。しかし、逆に弱点も多い。そのうちの一つは太陽光だ。これに当たると体が気化して死んでしまう。だから外出時には、日傘を必ず持っていく。
今も外に向かう途中で、傘を取りに行こうとして気がつく。今は咲夜なのだから、必要ないと。
しかし、いざ大丈夫といえども五百年間日陰で過ごしてきたレミリア。やはり傘無しで出るのには抵抗がある。
「う~・・」
いつだったかレミリアはいつもお日様の光を一杯浴びて気持ちよく寝ている門番をみて、聞いてみたことがある。
「ねえ、美鈴?日の光ってそんなに気持ちがいいの?」
「そうですね・・。体の芯からポカポカしてきてとっても気持ちいですよ♪」
「・・ふ~ん」
その話を聞いてから、叶わぬ事と分りつつも日の光を浴びてみたいなと思っていた。
ちなみ、このあと昼寝を始めた美鈴に大量のナイフが刺さった事は言うまでも無い。
南無。
「よし!いくわよ・・・。せーの!」
紅魔館の入り口付近で、レミリアは掛け声をだして踏み出そうとする。ちなみにこの掛け声は、かれこれ七回目だ。
傍からみれば、芸人のバンジージャンプみたいでもどかしい。押してやりたい。
「ううぅ~~・・。えい!」
しかし、18回目でレミリアは外に出た。やったねレミリア。すごいぞレミリア。時間かかりすぎ。
「っん・・」
奉仕服が覆っていない、腕や足に日の光が当たる。そこから心地いい暖かさが広がる。聞いて想像してたよりも気持ちのいい感覚に、思わず空を見上げる。
顔に日の光が当たり、さらに暖かくなる。目を瞑ってしばらくの間日の光を堪能することにした。
(気持ちいい・・・)
美鈴が昼寝をしたくなるのも、今なら理解できるかもしれない。今度紅魔館で、日向ぼっこ制度でも作ろうかしら。っとまで考えてしまうほど穏やかな気持ちにもさせてしまう。
何分か、ぼうっとしててフット思い出す。洗濯するんだった。
咲夜の時計を見ると九時半を回っている。十分近くもそうしてたらしい。急いで洗濯しなければ。
レミリアは洗濯場へと駆けていった。
洗濯場についてレミリアは思わず呟く。
「っ多・・」
そこには、咲夜の体と同じくらいの高さに詰まれた洗濯物の山が聳え立っていた。とりあえず見てるだけでは、始まらないと判断したレミリアは早速洗濯を開始した。
咲夜の書いた予定表には洗濯物の洗い方なども書かれていたので、なんとかこなせそうだ。
「えっと・・。洗濯板に洗い物を擦って汚れを落とすのね・・・。」
洗濯ものを一枚掴み早速洗おうと、洗濯板に擦り付けるレミリア。ゴシゴシと擦っていくと確かに汚れが落ちていく。
「しかし、この服は・・美鈴のね・・・。汚れがいっぱいで落ちにくいわね・・・、えい」
ビリィ!
「っあ・・」
哀れ美鈴の服。もはやスリットが脇にまで到達する、超過激服に大変身。
レミリアは、美鈴のならば良いかなぁっとばかりに次に取り掛かる。
次のはパチュリーの服だ。パチュリーの服はネグリジェと大差の無いような、薄くて柔らかい素材で出来ているために美鈴の服より難しい。
レミリアも手にとって難しいと判断したのか、さっきよりも優しく洗う。
ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ。優しく洗う代わりに、結構沢山擦った。これで大丈夫と判断し次のにとりかかる。
しかしかなり擦ったのが不味かったのか、唯でさえ薄い服が更に薄くなった。どれくらいかと言うと、下着が透けて余裕で柄がわかるくらい。
パチュリー露出魔へと一歩近づく。
この調子で咲夜の服、小悪魔の服、妖精メイドの服、自分の服を洗う。残念な事に、服は少し変化してたり過激になったりしているが良しとする。
え?フランの服?それだけは何故かキレイに洗われていましたよ。何故でしょうね。
現時刻は一時過ぎ。およそ三時間程掛けて洗濯を終わらす。思った以上の労働に半日でお疲れ気味のレミリア。ちょびっとだけ後悔しはじめてきた。
しかし、自分が言い出したこと。途中で投げ出すなどプライドが許さない。
気合を入れなおしたと同時にレミリアのお腹から、く~っと可愛らしい音が鳴った。時間的にはお昼頃だ。とにかく食事にしようとレミリアは食堂に向かう。
予定表には午後のほうが圧倒的に仕事が多く書かれていることにも気づかずに。
こんぐらいだとまとめてしっかり読めるのでいいのではないでしょか?
(あまりぶつ切りにして投稿すると繋がりがおかしくなったりとかする可能性も生じてくるだろうし)
内容? 全然良いと思いますよ。 へたれみりゃかわいいよへたれみりゃ
(中点(・)ではなく三点リーダー(…)使うようにしたりとか細かいツッコミあるけど)
関係ないけどおぜうさまがパチュリー呼ぶときはパチェなんだぜ。
入れ替わった原因とかに期待です