Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

賽銭と紅白と黒白

2008/04/30 21:54:55
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 ――――


 ここは博麗神社、外の世界と幻想郷の境にある。
 今日は天気も晴れていて、絶好の昼寝日和である。
 楽園の巫女こと博麗霊夢は掃除の振りを終え、縁側で緑茶を飲んでいた。


 霊夢 「掃除の後のお茶は格別よね」
 魔理沙「まったくだな。私は今は紅茶が飲みたい気分なんだがな」

 霊夢 「文句を言うなら飲まなければいいじゃない」
 魔理沙「文句じゃなくて、希望だぜ」


 普通の魔法使いこと霧雨魔理沙は箒に乗ったまま茶を啜っている。
 ここ最近は魔法の研究に余念がなかったため、暫く乗ってなかったらしい。
 朝の来訪から、昼の現在に至るまで、ずっとフワフワフワフワしているので、
 霊夢は見ていて気分が悪くなってきていた。


 霊夢 「魔理沙、お茶を飲む時くらいは箒から降りなさい」
 魔理沙「こいつと私は一心同体だぜ」

 霊夢 「ふわふわ揺れてるのを見てると気持ち悪いのよ」
 魔理沙「何気にひどいことを言うな、嫉妬は醜いぜ?」

 霊夢 「何で私が箒風情に嫉妬しなきゃなんないのよ」
 魔理沙「私とこいつは一心同体だからな」

 霊夢 「・・・どうでもいいけどね」
 魔理沙「どうでもいいぜ」

 霊夢 「どうでもいいけど、賽銭入れてかない?負けとくわよ」
 魔理沙「賽銭は頼まれて入れるものじゃないぜ。頼むために入れるものだ」

 霊夢 「私が“賽銭を入れて”と頼んで賽銭を入れたら、
     魔理沙は賽銭を入れてくれるようになるのかしら?」

 魔理沙「入れるとしてもコインいっこだな」
 霊夢 「コインの単位は枚よ」


陽の光は等しく二人を照らす。
 勿論二人だけ照らしている訳ではなく、鳥居にも境内にも賽銭箱にも、
 太陽は平等に光を射していた。 
 日向にいると暖かい、日陰にいると涼しい。そんな具合だ。

 二人は暫く黙ってこの閑散とした神社でぼんやりしていたが、
 やがて片方が何気なく口を開いた。


 魔理沙「ところで、こいつは実に清らかな賽銭箱だな。
     粗悪な金属や古紙の匂いがしない所為か、古木と埃の匂いが純粋に楽しめるぜ」
 霊夢 「私はそろそろ、金銭の匂いが恋しいわ」


 二人とも大儀そうに賽銭箱を見やった。
 賽銭箱の中身は空っぽで、外見はかなり草臥れていて長い年月を感じさせる。
 お世辞にも綺麗とは言い難い。


 霊夢 「どうして、お賽銭が集まらないのかしら」
 魔理沙「そうだな、賽銭箱に魅力が無いからだろうな」
 霊夢 「魅力が無くて悪かったわね」

 魔理沙「誰も霊夢のことって言ってないぜ」
 霊夢 「誰も私のことって言ってないわ」

 魔理沙「…兎に角だ、“賽銭欲しけりゃ魅力を上げろ”ってやつだな」


 霊夢は怪訝そうに魔理沙を見るが、魔理沙は気にせず楽しげに語る。


 魔理沙「魅力を上げるには、まず弾幕が必要だ。これは周知の事実だぜ」
 霊夢 「まず、前提条件から間違っていると思うのは気のせいかしら」

 魔理沙「キラキラしてて、人の目を眩ますばかりの装飾も必要だな」
 霊夢 「そういうことは紅魔館の門番にしてあげなさいよ」

 魔理沙「門番は十分キラキラしてるぜ。地味だけど」
 霊夢 「地味だけどキラキラしてたわね」


 美鈴 「っっクシュン!!!」


 魔理沙「客寄せの為に、何よりも派手にして目立たせないとな!
     冥界の花見を彷彿とさせるようなものじゃなきゃ賽銭は来ないぜ」
 霊夢 「死人に口なし。賽銭も無いわ。というか魔理沙、人の話聞いてる?」

 魔理沙「聞いてないぜ」
 霊夢 「聞いてるじゃない」 

 魔理沙「キラリ煌めく星屑でー、湿気た箱に華を咲かせましょー」
 霊夢 「湿気たってなによ!」   

 魔理沙「いっそのこと、ここで騒霊ライヴでも開いてもらって逆転ホムーランを狙うか?」
 霊夢 「あら、それはいい案かもしれないわね」

 魔理沙「やっぱり却下だ」
 霊夢 「なんでよ」

 魔理沙「私は騒がしいのは嫌いだぜ。好きな場所は弾幕飛び交う大図書館」
 霊夢 「あら魔理沙、それは笑えない冗談ね。もしかして喧嘩を売ってるの?」

 魔理沙「私は魔法の何でも屋だが、流石に喧嘩は売ってないぜ」
 霊夢 「あー、何だか腹が立ってきたから妖怪退治に行きたくなってきたわ」 

 魔理沙「腹が立つのは、きっとカフェインが足りない所為だな」
 霊夢 「賽銭が足りない所為よ」

 魔理沙「まぁ、賽銭箱の改善は私に任せておけ。
     それとも、装飾家としての私の手腕を疑うというのか?」
 霊夢 「疑ってないわ。というか賽銭箱を改造するな」

 魔理沙「まぁ細かいことは気にするな」
 霊夢 「細かくない」

 魔理沙「必ず成功させるからさ」
 霊夢 「人の話を聞きなさい。勝手に荷造りを始めるな」

 魔理沙「ちゃんと聞いてるぜ。“勝手口にお稲荷さんがあるから食べて”だろ?」
 霊夢 「聞いてない!」 


 魔理沙は人差し指を左右にチッチッチと振って、得意顔である。
 霊夢は緑茶を啜りながら、今夜の妖怪退治の決行時刻について考えていた。
 賽銭箱は箒に無理矢理括り付けられているため、今にも落ちそうだ。


 魔理沙「賽銭が無いのと無いのではどっちが良い?」
 霊夢 「どっちも良くない」

 魔理沙「だろ?賽銭箱を改良したら、きっと参拝客が大勢来て
     賽銭がガッポガッポと入ってくるぜきっと」
 霊夢 「“きっと”じゃ困るから“絶対”に言い直しなさい」

 魔理沙「私を信じろ。信じる者は救われるぜ」
 霊夢 「主に足元をね」

 魔理沙「私は箒に乗ってるから掬われる心配は無いな」
 霊夢 「良かったわね」

 魔理沙「じゃあ、賽銭箱は有難く頂いてくぜ」
 霊夢 「・・・途中で落とさないでね」


 ――――


 今日も天気は晴れていて、新緑と陽の光が眼に眩しい。
 霊夢は境内の掃除を終え、お茶の時間を楽しんでいる。

 ふと、霊夢は自分の背後に視線を向けた。
 視線の先には、いつも通りの賽銭箱があった。
 いつも通りの賽銭箱だから、いつも通りに参拝客は来ないし賽銭もない。


 魔理沙「賽銭箱は賽銭箱らしく、地味な方が落ち着くな」
 霊夢 「門番みたいに?」
 魔理沙「門番みたいに」


 美鈴 「っクシュン・・・・・・風邪かな?」


 霊夢 「ところで、賽銭箱の改良はどうなったの?」
 魔理沙「賽銭箱なんて改良しても、参拝客も賽銭も絶対に入ってこないぜ」

 霊夢 「変なところに自信があるのね」
 魔理沙「至って普通の考え方だと思うが・・・(^^; 」

 霊夢 「この前はあんなに“私は天才だ!”って言ってたのにねぇ」
 魔理沙「私は普通だぜモグモグ」

 霊夢 「ドサクサに紛れて私の饅頭を食べるな」
 魔理沙「良いじゃないか。減るもんじゃないし」

 霊夢 「まったく、賽銭箱をあのまま放って置いたらどうなっていた事か」
 魔理沙「香霖に二束三文で売りつけただろうな」

 霊夢 「減るわよ!」
 魔理沙「反応が遅いな」



 結局、魔理沙は賽銭箱改善による賽銭蒐集作戦を放棄した。
 だが霊夢には、魔理沙が賽銭箱を改善しないだろうことは予想がついていた。

 魔理沙は物を家に持って帰っても、放ったらかしにする場合が多々ある。
 現に、彼女の家は多くの魔導書や魔法道具、おまけに良く分からない物が
 ほとんど整理整頓されずに散在している。

 賽銭箱も部屋の隅に放ったらかしになっていたので、
 霊夢が見つけて無断で持って帰ってきたのだ。

 賽銭箱を持って帰る霊夢を見て、
 魔理沙は少しも悪びれる様子も無く、むしろ
 「おっ?持って帰ってくれるのか。面倒だったから助かるぜ」
 と言う有り様だった。



 霊夢 「やれやれ、じゃあ今夜は宴会ね」
 魔理沙「その“じゃあ”は一体どこにつながっているんだ?」

 霊夢 「今夜は宴会ね」
 魔理沙「じゃあ、私は酒を持ってくるぜ」

 霊夢 「面子は?」
 魔理沙「あー?呼ばなくても来るだろ」


 魔理沙がロケット花火の様に飛んでいった後、霊夢は賽銭箱を眺めた。
 賽銭箱は良くも悪くもそのままで、草臥れた雰囲気が長い年月を感じさせる。

 霊夢は賽銭箱を軽く撫で、そして思った。
 賽銭箱は在りのままで在るのが一番良い、と。

 賽銭はあるに越したことはないが、無理に集めなければならないことはない。
 そもそも賽銭は人の願いを象徴化したものであり、
 その願いを受ける箱は在るがままでなければならない。
 在るがままの箱でなければ、願いは変質して全く別のものになってしまうからだ。

 また、願いを叶えるのは他人でも神様でもない。
 願いを叶えるのは、常に自分の努力と実力。そして少しの運である。
 賽銭はその願いを忘れないようにするための確認でもあるのだろう。

 賽銭箱の中身は今日も空っぽだが、それはそれで良いと霊夢は思った。


 ――End
初めての投稿です。
ここまで読んで下すって多謝多謝。
作者からのコメントって何を書けばいいか分からんですね。

作品についてちょいと補足。
賽銭が無いなら賽銭を入れてくれるような工夫を凝らせばいいじゃないってことで。
工夫しても人が来なければ意味が無いってことで。
人集めはめんどくさいのでパスってことで。
つっこみどころが多いのは仕様じゃないです。
突っ走る程度の能力
コメント



1.名無し妖怪削除
(^^; はちょっと……。日本語は感情表現に優れているんですからきちんと文字で表しましょうよ。