プチ作品集26の
「この名前をつけた理由 ~大鐘婆の火~」の後日談という位置付けのSSです。
マッタリとどうそ。
※ ※ ※
私は目覚める。
一番最初に見た物は、老齢なおじいさん。
とてもやさしい表情で、私を見ているわ。
「よし、これで…… 完成じゃな……」
そう言いながら、私の体の色々な所を触り、私の服なんかを直しているみたい。
私は、その部分を見たかったんだけど、首が動かないの。
ちょっと自分の体を動かしてみるわ。
えいしょ…… えいしょ……。
ダメだわ、どこも動かないわ。
と言う事は、私は今向いている方向のものしか見えないって事?
ああ、一体どうすればいいのよ。
今自分が見える所だけ見ると……、顔だけが並んでいる所や、腕だけがぶらさがっている所。
嫌ッ! 目玉だけたくさんある所もあるわ! 気持ち悪い!!
嫌悪感を感じながら、私はそのおじいさんの手によって、違う部屋に連れて行かれたわ。
そこで、透明な箱の中に入れられたの。
息苦しいったりゃありゃしないわ!
ねぇ、出してよ!
折角生まれたばっかりなのに、これってないじゃない?
周りには、同じ様に透明な箱に入れられた人がいるわ。
ねぇ、聞こえている?
聞こえていたら返事してよ!
…
……
………
ダメだわ、返事がないわ。
…って、死んでいるのかしら?
いずれ私もああなるの?
そんなの嫌よ!
その時、周りが一瞬で暗くなる。
今まで見えていた光景が黒に染まる。
もう、お迎え?
早すぎない?
私って一体なんなのよ?
私は絶望感を感じながら目を瞑る。
……もう、どうでもいいわ…… と思いながら。
※ ※ ※
翌日。
私は目を覚ます。
ゆっくりと目を開けて周囲の光に目がなじんできた時に見えてきた光景をみて、
昨日の悪夢は現実だったと実感した。
透明の箱に入ったモノが昨日は見えなかったもっと奥の所までたくさん……
それに横目でチラッを見ると、同じ様に私の横にも、たくさん……
私は悲鳴をあげたわ、ここは一体なんなのよ?
ねぇ、おじいさん! 助けてよ! 私をここから出してよ!!
箱を叩こうにも、手が動かない。
声を出そうにも、口も動かない。
……まるで生き地獄ね……
少しの間、頑張ってみたけど、ダメみたい。
諦めるしかないのかしら?
時折、私の前に現れるおじいさんを恨みの篭った目で見つめるしか出来ない……
なぜ、私を産んだの? ここにいる他の人は一体何?
疑問や愚痴を問いかけても、おじいさんは答えてくれない。
※ ※ ※
そのうち、私は深く考える事を辞めた。
もういいわ。
今居る場所で楽しいと思える事でも探しましょう。
退屈な日々だけど、少しでもそういった事がないと滅入るだけでしょ?
この変らない光景と、変らない面々。
ただ、その奥に見える光が差し込む部分だけが、毎日せわしく風景を変えているの。
私を作ったおじいさん位の人が余裕で出入り出来る位の大きさのその部分。
偶にその部分から、知らない人が私達のいる所へ入ってきては、私達を興味ある目でジロジロと覗いて行くの。
人によっては、そのまま帰っていく人もいるし、
それこそ滅多にないけど、おじいさんに何かを渡して、私の周りにいる透明な箱に入っている奴を持って行って
しまう人もいるの。
じゃあ、私もいつか見知らぬ誰かに持っていかれるのかしら?
それとも、朽ち果てるまで、ずっとここにいるのかしら?
どっちを考えても不安な事には変わりないわ。
そして、今日もこの不憫な境遇に置かれた自分を妄想で慰めるの。
『いつか誰か、私をここから連れ出してくれて、こんな箱から出してくれて、
そして、もっと明るい場所で大切にされながら楽しい日々を過ごすの……』
これが、今の私が考え付く、最高の状況。
けど、決して叶う事のない願望。
そして、今日ももうすぐ終わっていく……
※ ※ ※
なにかしら?
今日は何かあるのかしら?
私達がいる所にたくさんの人間がいるの。
いつもなら、一日に一人か二人位だけでも来ればいい様な場所に、
私が目を覚ました時には、数え切れない位の人間が目の前にいるの!
同じ場所にいる奴等も、心なしか居ない様なの……
あの場所に居たはずの赤い着物を着ていた奴の姿もないし、
私の隣にいた、杵をもった奴も居なかったわ。
じゃあ、私も、もしかしたら……
そんな事を願っていたわ。
けど、その願いは叶わなかったわ。
もうそろそろ一日が終わる。
たくさんいた人間達も、段々と少なくなっていき、とうとう最後の人が私の視界から消えていった。
私は、確認する様に周囲を見る。
……何?……
私の視界にいつもいた連中の姿がほとんどないの。
綺麗に着飾ってはいたけど、私の問いかけにまったく返事をくれなかった連中よ!
綺麗さっぱりその姿はなかったわ。
あと、私の真横にいた人も居なかったの。
なんで私は連れて行ってくれないのよ……
そう思っていた時だったわ。
あのおじいさんが、その連中が抜けた所に新しいモノを置きに来たの。
……居なくなった奴等とまったく同じ姿形をした奴等を……
私の横にも、同じ様にまったく同じ形のモノを置いていったわ。
その時、私の箱におじいさんの手が当たって、箱が揺れたの。
その振動で、私の足元にあった立て札が「カタン」と倒れたの。
『ん、なにかしら?』と思って、その立て札を見たの。
その札には、何か文字が書いてあったわ。
「流刑人形」ってね。
私は絶句したわ。
何?
こんなオドロオドロしい名前の私なんて、誰も持っていくはずないじゃない!
他の奴等みたいに、「金太郎」とか「桃太郎」とか、そんな名前じゃないの?
私の箱を開けて、その倒れた立て札を直していたおじいさんを、私は今までで一番憎しみを込めた目で
にらんでやったわ。
どうせ聞こえないと思って、酷い罵声も言ったわ。
もう、早く私の視界から消えて!
見たくないわ!
汚らわしい!!
もう、早く消えてよ!!
私の前にその顔を出さないでよ!!
なんで私を作ったのよ!!
※ ※ ※
翌日も、たくさんの人間が私達の周りにいたわ。
自分の名前を知ってしまったので、もう自分が持っていかれるというかすかな希望は打ち砕かれたわ。
あの名前じゃ、だれも持っていかないものね。
ほら見て御覧なさい。
ほとんどの人が私に一瞥くれると、そのまま素通りじゃないの!
どうせ、煌びやかで可愛らしいモノの方がいいに決まっているわ。
どうせ、私は引き立て役。
生まれた瞬間から、人に見下され他人をよく見せる為だけに作られたモノ。
そんなモノが、人に好かれて持っていかれるはずはないわ。
ああ、どうぞどうぞ。
私を見て笑いなさい!
私をみて、貶しなさいよ!
どうせ、それが私が生まれた本当の理由なんでしょ?
私の入った箱を覗き込んでいく人を、私は憎しみを込めてにらんだわ。
その興味本位な目。
明らかに見下している目。
ああ、虫唾が走るわ。
けどね。
たった一人だけ。
本当にたった一人だけなの。
私を見て、「これ欲しい」って言ってくれた人がいたの。
最初は、その姿が見えなかったわ。
けど、私の居る台の所から、小さい手が見えたの。
「うんしょ、うんしょ」っていう小さい声と共に、ゆっくりと私の前に
その人の頭が上がってきたの。
透明な箱があるから、直接は聞こえなかったけど、
私を指差して「おかあさん、僕これがいい!!」って言ってくれたの。
そう言って、私をずっと好意的な目で見つめてくれたの。
今までの人とは違うって、すぐに分かったわ。
『お願い、そこの貴方! 私をここから連れて行って!!』
私が力一杯叫んだわ。
どうせ聞こえないと分かっていたけど、叫びたいって衝動が私の体を襲っていたの。
「ねえ、おかあさん、僕これがいい」
そうよ! お願い! 私を!! 私を連れて行って!!
けど、その願いは崩れ去ったわ。
「え、そんなのがいいの? それよりコッチの方が綺麗で格好いいわよ」
その子供が「おかあさん」と呼んでいた人の一言によって、
私の願いは無残にも散っていったわ。
頑張ってよ! そこの貴方!! 私を連れて行って!
欲しいんでしょ? この私が!!
「でも、おかあさん。 僕はコレがいいなぁ」
指を咥えながら、その子供は私をチラッと横目で見つめている。
そうよ! ほら、この子が言っているんだから、私にしなさいよ!
「でも、それはなんか気持ち悪いわよ。 家には飾りたくはないわね」
何言ってんのよ! この子は欲しいって言っているのよ!
誰もアンタの意見なんて聞いてないわよ!
「でも……」
ああ、もう! もっと押し切りなさいよ!
泣いて駄々こねるとか色々と方法はあるでしょ?
それをやりなさいよ!
「あ~、もうそれ以外だった好きなのを買ってあげるわよ、だからそれは嫌よ」
この野郎! 本人目の前にしていう事かよ!
「……」
貴方!、頑張って! 頑張って私をここから連れ出して行ってよ!!
「……分かったよ……」
悲しそうな表情で、子供がポツリとつぶやいた……
ほんの少しの望みも打ち砕かれたわ。
もう、ダメね。
私はガックリと肩を落としたわ。
まあ、私を選ぶなんて、子供の一時的な気の迷いかもしれないわ。
そう思うようにしたわ。
だって、そうでも思わないと、この先どんどん自分が押しつぶされそうになるから。
「絶望」という未来に……
※ ※ ※
とある日を境に、私の前に人がパッタリと来なくなったわ。
というか、ここにいる全員の前に誰もこなくなったの。
見る人といえば、あのおじいさんだけ。
もう、見飽きたわよ。
私を作り、こんな仕打ちをし続けている人間なんて……
ほら、見て御覧なさい。
他のモノも、ホコリが溜まってきているわよ。
掃除くらいしたら?
これじゃ、いくら綺麗な着物とか着ていても、誰も持って行ってくれないわよ?
やる気はあるの?
けど、そのおじいさんも日を追うごとに姿を見なくなってきたの。
最初は、2日置きに姿を見たけど、それが3日置き……4日置き……
そういえば、私がいる所の奥に見えた光が差し込んでいた所も、この所ずっと光が見えてないわ。
ただ、まっくらな部分が見えるだけ。
何かものすごい不安に駆られたわ。
あの光が差し込んでいる所が暗いと、誰も私達がいる所に入って来れないじゃない!
という事は、誰も私達を持って行ってくれないんじゃないの?
じゃあ、なによ? 私達このままこの暗い場所で朽ちるのを待つだけなの?
ねぇ、おじいさんは一体私をどういうつもりで産んだのよ?
※ ※ ※
久しぶりに、奥の所から光が差し込んできたわ。
それに、人も大勢見えるの。
よかったわ。
これで、また誰かが持っていってくれるかもしれないわ。
でもおかしいわ?
入ってくる人間が全員黒い服を着ているの。
それに、他のモノには目もくれずに、奥の部屋へ入っていくの。
何か異質な感じが漂っていたわ。
しばらく見ていたら、大きな木の箱を大勢の人が持ち出していったの。
よく分からないけど、もしかしたら私達の様なモノかしら?
それにしても大きいわね。
あんなに大勢の人で持ち上げているって事は、よほど重たく大きいんでしょうね。
あのおじいさん、そんなモノを作っていたのかしら?
その木の箱と一緒に大勢いた人もついていったわ。
きっと、あの大きなモノを持っていく為に集まったんでしょうね。
その日を境に、人間の姿も奥から差し込む光もまったく見えなくなったわ。
ホコリも溜まり放題。
私にかぶさっている透明な箱も、くすんで景色がよくみえなくなっているわ。
まったくおじいさんは、何をやっているのよ!
※ ※ ※
どれくらい経ったかしら?
もうそれすら覚えていないわ。
周りのモノも、朽ちて倒れているモノもいるし、原型を留めない位にボロボロになっているモノもいるわ。
モノだけじゃないわ。
私達がいる場所も、くもの巣が貼り巡っているし、細かい塵がいつも飛び交っている。
まったくおじいさんは何をやっているのかしら?
私は、すでに雲ってよく見えない景色を見るしかやることがない。
薄暗い空間の中では、朝か夜かも分からない。
ただ、目覚めて景色を見て、疲れたら寝るの繰り返し。
もう、人間の姿を見なくなってどれくらいかしら?
おじいさんの顔も、段々と忘れてきているわ。
私は一体いつ朽ち果てて、この地獄から抜け出せるのかしら?
私が毎日思うのは、その事だけ。
「ドンドン!」
何か大きな音がしたわ。
その音と共に、以前光が差し込んできていた場所から数名の人間が入ってきたの。
私はちょっとだけ喜んだわ。
けど、これもまたおかしいのよ。
入ってきた人間達から、なにか殺気が漂っているの。
こんな風に入ってきた人間は初めてよ。
それに、多分今は夜だと思うんだけど、明かりもつけずにゆっくりとこちらに向かって慎重に音を立てずに歩いてくるの。
その人間達はおじいさんがいるはずの奥の部屋へ入って行ったわ。
「逃げて! おじいさん!!」
なぜか私はそう叫んだわ。
無意識で口から出たのが、その言葉だったのよ。
けど、聞こえるはずもないのは、分かっているの……
しばらくすると、その人間達は私達がいる所に戻ってきたわ。
手には何か持っていたけど、暗くってよく分からないわ。
すると、いきなり私達をなぎ倒していったのよ!
この人間達は何かを探しているのかしら?
けど、それにしても乱暴よ!
その人間の手がドンドン私に近づいてきたわ。
やめてやめて!
お願いだからやめて!
私を倒さないで!
私を傷つけないで!
けど、その思いも虚しく、私は地面に落とされたの。
落とした人間は、私をまるで汚いモノを見た様な目で見下していたわ。
周りを見ると、同じように落とされたモノが散乱していたわ。
私の心の中には、今までにない位に人間に対しての憎悪が溢れていたわ。
「……許さない……」
でも、私には何も出来ないの。
地面に転がったまま、私は自分の身がどれほど不幸なのかを呪ったわ。
……ん? なにこの匂い?……
それと、何か音がしているわ。
「パチパチ」って音が……
それに、何か奥の部屋が明るいわ。
そう、あの人間達が火を放ったの。
奥の部屋から、メラメラと火の手が上がっているの。
火の粉が、ドンドン私達がいる部屋の方にも、降りかかってくるわ。
「誰か、助けて!!」
私は叫んだわ、無駄な足掻きと分かっていても。
火の勢いは早く、ホコリまみれだった部屋は一瞬にして火に包まれたわ。
地面にいる私は、まだ火に襲われてはいないけど、視界に見える天井を蹂躙する火を見て恐怖に慄いていていたわ。
火に近い、棚の上にいた他のモノ達は、その火の熱で入っていた透明な箱が音を立てて割れて、
しばらくすると、火に包まれていったわ。
どんな綺麗な着物を着ていても、ボロボロに朽ちていても、原型を留めていなくっても、
火は差別する事無く、すべてを飲み込んでいったわ。
火の勢いは強まり、地面にいる私にもその熱気がハッキリと分かるほどになっていたわ。
その時、私は恨んていたわ。
私を作ったおじいさん。
私を欲しいと言った子供を制したお母さんと呼ばれた人。
私を連れて行ってくれなかった人間達。
そして…… 火を放っていった人間達。
そして、迫りくる火をにらむ。
うねる様な火の模様は、まるでその私の恨みをあらわしたかの様なこの世の物とは思えない模様が
うごめいていたわ。
さあ、私を燃やしなさい!
さあ、私を消し去りなさい!
そして、私を苦痛のない世界へ連れて行って頂戴!
天井から広がってきた火が、まるで生きているかの様に私の体を手で撫でるように包み込む。
苦痛は一瞬だった。
「熱い!」
ただ、それだけ。
もう、それ以上のことは覚えていないの……
※ ※ ※
「あら、こんな時期に……、 珍しいわね」
そう言いながら私は川を流れてきた人形に手を伸ばす。
所々こげていた人形は、まだ少しだけ原型を留めてはいたが、痛みは激しかった。
「よいしょっと」
伸ばした手に、その人形が触れる。
そして、その人形を川から引き上げて、胸元へ寄せる。
「さてと、どんな厄がたまっているのかしら?」
そうつぶやきながら、その人形に手をかざす。
……あらあら? これはこれは……
※ ※ ※
私は気がついたら、どこかに流されていた。
さっきまでいた部屋ではなく、視界には広い空が見えている。
もう、火の姿はどこにも見えない。
ただ、背中の所が濡れて冷たいだけ。
そして、その水の流れにただ身を任せて、どこかに流されているみたい。
『もう、疲れたわ』
そう思い、目を瞑りただその流れに身を任せる。
「あら、こんな時期に……、 珍しいわね」
誰かの声が聞こえた。
女性の声?
目を開けて見るが、私の視界にはその姿は見えない。
「よいしょっと」
その声と共に、私の体は誰かに捕まれる。
一瞬で、その川の流れから引き上げられた。
そして、まるで赤ん坊を抱くかの様に、私を胸元へ抱き寄せる。
初めて、その人の顔をみたわ。
緑色の見たことがない髪形。
澄んだ同じ緑色の目。
そして、とてもにこやかな笑顔。
一体誰かしら?
「さてと、どんな厄がたまっているのかしら?」
厄? なにそれ?
溜まっている? 私に?
そんな疑問が頭の中を駆け巡る。
そして、その人の手が私にかざされる。
「……あらあら? これはこれは……」
私の体から、何か黒い物が抜けて行っている。
そして、その黒い物は、私を抱いている人がかざしている手に吸い込まれて行っている。
「あなたの厄災、私がすべて受け取りましょう」
その女性が、やさしく私にささやいた。
私の体から、さらに黒い塊が浮かんで行っては、その女性の手に吸い込まれて行っている。
「よほど辛い思いをしてきたのね」
分かってくれるの? そうよ、生まれてこの方、辛い事しかなかったわ!
「でも、それも今日でおしまいよ」
本当に? 信じていいの?
「ええ、信じていいわ。 だって私は神様だもの、嘘はつかないわ」
神様でもなんでもいいわ、とにかく、もうこんな辛い思いはしたくないわ!
「ええ、だから私がそれを請け負うわ。 後は安心しておやすみなさい」
私の体から出ていた黒い塊が途切れた。
神様と言っていた女性の手も、それに合わせて私にかざすのをやめて下におろした。
「さあ、後はゆっくり休みなさい」
私の体が今までの歴史に耐えかねたのか? それとも寿命を迎えたのか?
端の方から、細かい塵になり砂の様に崩れ落ちてきていた。
ああ、本当に辛い思いから解放されるのね。
私は目を瞑る。
さっきまで心の中にあった、人間への憎悪がまったく思い出せない。
多分、その憎悪をこの神様が全部吸い取ってくれたんだろう。
けど、ただひとつ思い出せる物がある。
それは、私を「欲しい!」と言ってくれた子供の事だけ。
あの時はうれしかったな。
あ、あれ?
その子供に、なんで私は連れて行ってもらえなかったんだろう?
思い出せないわ。
……フフッ、まあいいわ……
多分、嫌な思い出があったんでしょうね。
だからこの神様が吸い取って行ったのかもね?
最後にいい夢をありがとうね、神様。
※ ※ ※
その人形から出てきた厄を見て、厄神の鍵山 雛は、少し驚いていた。
人形にしては多い厄。
けど、よく見るとそれは厄ではなく、憎悪。
似ているけど、ちょっとだけ異なる物。
人形にかざした手に受けるその人形の持っていた人間への憎悪。
そのすべてを私は感じ、すべてを受け止めていった。
けど、その思いの中に唯一憎悪を感じられない思いがあったの。
それは、一人の子供への思い。
「これだけは吸い取れないわ……、貴女の思い出として持っていきなさい」
そう思い、その思いだけは人形の中に残したの。
そして、すべての厄と憎悪を受け取る。
人形からは、さっきまであった憎悪の気は消えていたわ。
あったのは、安らかな気だけ。
何か安心したのかしらね? とてもいい表情をしている様に見えるわ。
しばらくすると、その人形は砂の様に崩れて行ったわ。
もう、体が限界だったみたいね。
「永い間、お疲れ様でした」
最後に崩れて行ったその人形の顔を見ながら、私はそうささやいたの。
※ ※ ※
私の体の周りにある厄の塊。
いつもドス黒く渦を巻いている厄の塊の中に、一ヶ所だけ異質な空間があるの。
それは、あの人形が持っていた人間への憎悪の気。
本来厄ではないので、私の体の周りにある厄の中には混ざらないの。
それに、何か反発しているみたいで、その憎悪の気と厄が拒否反応を起こしている見たいなの。
「う~ん、困ったなぁ……」
私はちょっと考えたの。
「そうだわ」
私は胸元から、一枚のカードを取り出す。
そして、そのカードをその憎悪の気にかざして、その気をカードに吸い取る。
「これでよしっと」
出来上がったカードは、その憎悪にピッタリな真っ黒いカード。
そして出来上がったカードに私は名前をつける。
思いついたのは、その憎悪の気を持っていた人形の名前。
「名前、借りるわね……
このスペルカードは、今日から『流刑人形』という名前よ」
出来上がったカードを見つめ、私はあの人形を思い出していたの。
「貴女の思い、すべてをこの中に」
そうつぶやき、流刑人形のスペルカードを胸元へ入れたの。
※ ※ ※
「それが、このスペルカードに『流刑人形』と名づけた理由よ」
また、上白沢 慧音さんに代理教師を頼まれた私は、生徒達に自分が持っているスペルカードの
「流刑人形」のお話を話していたの。
そして、胸元から真っ黒いそのカードを出して、生徒達に向ける。
「これがそのカードよ」
その真っ黒いカードをみた生徒達は、あまりのおどろおどろしい姿に息を呑む。
「このカードの中にはね、あの人形さんの人間に対する恨みがすべて詰まっているの。
だからみんなも、モノを大事にしないと、このお人形さんみたいに恨みが篭っちゃうかもしれないわよ」
と、ちょっとだけ生徒達を驚かせてみる。
まあ、道徳の時間だからいいかしらね?
モノを大切にってね。
そして、終業の鐘が鳴り響き、私の授業は終わったの。
私の場合「もったいない病」につき
ガラクタばかり部屋に充満してる
今日頃ごろですwww
そして燃やされるシーンでは同じく犬神の『サーカスの人魚』が…
(空気読まなくてごめんなさい)
まるで舞台を見るかの様なストーリーの展開で、彼女が出す『憎悪』『苦痛』『悲愴』『怨恨』『嫌悪』等といった『負』の感情が流れてきて、心の中が痛くなって泣きそうでした…
特に「なんで私を作ったのよ!!」という台詞は耳から離れません…
しかし、いくら彼女がそう叫んでも皆には届かないし、聞こえない…
だから何も知らない人達は『流刑人形』という彼女を気味悪がって買おうとは思わない…
おそらく自分でも興味が湧かない限り買わないと思います…
そんな彼女を雛は救ってあげた…
哀しくて素晴らしい東方作品を有難う御座いました。
心から哀悼の意を表します…
>時空や空間を翔る程度の能力様
いつもありがとうございます。
私の部屋も、姪が来なければガラクタやゴミに埋もれていますw。
獣道とまで言わしめたくらいですw。
>思想の狼様
ちょっと「犬神サーカス団」借りて聞いてみます!!
最後に救われて、厄神様に出会えて本当に良かった。