「ウドンゲっ新しい耳よ!」
「はい! ってなんでですか!?」
どこぞの菓子パンヒーローの如く投げて渡されたうさ耳カチューシャをウドンゲは床に叩きつけた。
それを永琳は拾い上げ、ついてもいないほこりをぽんぽんっと払う。
「せっかく作ったのに壊れたらどうするの」
「換えの耳なんて必要ありませんし、換えることもできません」
自分の耳を持ってピンっとひっぱり外せないことをアピール。
「でも多機能な耳よ? 便利そうだと思わない?」
「便利だとしても、それをつけると耳が四つですよ? 見た目からしておかしいです」
「……時代の先取りって感じでおしゃれじゃないかしら」
目を閉じしっかりと想像してみての感想だった。
「師匠のセンスはおかしいと思います」
「そう?」
きっぱりと弟子におかしいと言われて微笑んでいられる永琳は心が広いのか、鈍いのか。
「ちなみにね? 五種類の機能がついているのよ、どんな機能なのか聞きたいでしょう?」
「聞きたくありません」
「まあ、そう言わずに聞きなさい。師匠命令です」
ウドンゲの拒否を師匠権限でねじ伏せ話し始める。
「一つ目は、ダウジング。水を探すのに便利ね。場合によっては埋蔵金なんかもみつかるかもしれないわ」
初っ端から駄目な気がしてきたウドンゲ。
「二つ目は天気予報。龍神の石像を真似てみたの。天候によって毛色がかわるのよ。晴れだったら白、雨だったら黄色といったふうにね。
でも欠点があってそのときの天候に左右されるのよ」
「それは現時点での天候を示すだけで、予報でもなんでもないですよね?」
「そうなのよ」
あっさりと認めた。
なんだかなぁとウドンゲは肩をこかす。
「三つ目はてゐの感情メーター。てゐの機嫌によって毛の感触が変わってくるの。
これよっててゐが不機嫌なときに話しかけないということができるわ」
「てゐの機嫌なんて喜怒哀楽のうち、喜楽しかないと思いますけど」
喜びと楽しさしかないっていうのは言いすぎだが、ウドンゲの記憶にはその二つの感情を多く見せるてゐがいる。
それゆえその機能も役に立たないのではと思う。
「私を見ると嫌なもの見たって顔するわよあの子?」
「……嫌われてるんですか?」
何かしたのかと聞かれ永琳は今までのことを思い出す。
「緊急時のために尻尾をドリル状に変化できるようにしたり、お気に入りのピンクの服をメタリックレインボー色に変えた程度よ?」
そう言う永琳には悪びれた様子はなく、むしろいいことしたと思っているように感じられる。
「き、緊急時ってどんなときですか?」
「それは…………背後から襲われたときとか、地面に潜りたいときとか。
ウドンゲもドリル欲しい?」
「結構です」
当然の如く即答。
服を派手にしたのは永琳独自のセンスだ。喜んでもらえると思ってしたのだから恐ろしい。
「残念だわ。
四つ目はどんな相手でも殺せる殺人光線」
「いきなりぶっそうに」
「でもこれも欠点があってね。光線は耳の先からでるのだけど、折れた耳をぴったりくっつけて初めて発射できるの」
その様子を想像してみてウドンゲも欠点に気付く。
光線はどう頑張っても装着者にしか当たらない。つまり自爆装置みたいなもの。
「なにを考えてそんな機能つけたんですか」
呆れた声で問うのも当然だろう。
「自爆装置やドリルは科学者兼発明家のロマンよ」
「師匠は薬師で医者です。科学者でも発明家でもありませんよ」
「ちなみに巨大ロボもロマンよ」
永琳があまりにいい笑顔で言うものだから、ウドンゲは簡単に予想できた、できてしまった。
「造ってるんですか?」
「永遠亭地下倉庫で巨大姫ロボ、ホウライビッグを建造中。
必殺技も使えるの。ホウライザンバーソードでの一刀両断でね、使うときには背景に雷が走るっていう見た目も考慮された優れもの」
「そんな予算どこにもないはず」
「そこはウドンゲのファンが頑張ってくれたわ」
「私のファン?」
そんなものいたのかと不思議そうに首を傾げる。
ファンが頑張ってくれたとはどういうことなんだろう? 私物でも報酬にしてバイトでもしてもらったのだろうか。
ウドンゲの想像ではこれくらいか限界だったが、永琳のやったことはウドンゲの想像を超えた。
「そうあなたのファンを集めて、あなたのちょっと恥ずかしい写真をオークションにかけたら、たくさんのお金が集まってね」
「ちょっ!? 恥ずかしい写真って!?」
「着替えを隠し撮りした程度よ」
「きゃーーーーっ!?」
「そんなに恥ずかしがらなくても大丈夫よ。世間に流れたのは下着姿程度で、素っ裸なのは私の宝物にしたから。
額縁に入れて壁にかけてあるわ」
一日一回拍手打って見てるわよと楽しそうに言う。
「全っ然っ大丈夫じゃないですっ。あとで回収に行きますからね!」
「それは大変、隠しておかないと。
それで五つ目はね」
会話の流れを完全に無視して話しを元に戻す。
ウドンゲは今の会話を心に刻み、絶対忘れないようにした。
「姫の声が大きく聞こえるのよ。あの愛らしく耳心地のいい声が十倍の音量で聞こえるの。
これで姫の声を聞き漏らすことなんてないわ」
「十倍ってやりすぎじゃ?」
「姫の声が聞けるのだからこれくらいはしないと。
ともあれ、以上の素晴らしい機能がついているのよ。
どう、つけたくなったでしょう?」
まだつけさせる気だったらしい。
ウドンゲはこれまでの話しを聞いて、つける気は少しも湧かなかった。当然だろう。
「そんなに勧めるなら師匠がつければいいじゃないですか」
「私? 私はつけてるわよ」
そう言って永琳に耳に手を当て、耳を取る。
手の中にはもげた耳が。
驚き戸惑うウドンゲは怪我の具合をみようと永琳の耳を見る。
そこには耳があった。
「あれ? 耳とれてるのに無事だ」
「私が不死身でも耳をとるのは痛くていやよ。
これは耳にぴったりフィットする付け耳」
色といい質感といいあまりに精巧なのでウドンゲは見間違えのだ。
とそこでウドンゲはあることを思い出す。
「もしかしてこの間、姫に大きな声で驚かされて耳から血を流してたときもつけてたんですか?」
なかば確信を持って聞く。
「ええ。あのときは気絶するかと思ったわ。なんとか耐えたけど」
「そんな危険なものを弟子に勧めないでください!」
ウドンゲは裏手で永琳を軽く叩いた。
「こんなものでどうでしょう?」
「十分で考えたにしてはなかなかだけど、これじゃ宴会では受けないわ。作り直しよ」
自信ありげにきいてくるウドンゲに対して、輝夜が駄目だしをしている。
これまでの会話は宴会でやる漫才の練習だった。
「そう言われましても、前回の姫のアドバイスを受け入れて本当のことも織り交ぜて、嘘と本当のギャップも狙ってみたのですが」
前回というのは三十分ほど前のこと。そのときに受けたアドバイスを参考にしつつ、永琳の頭脳をフル活用し作り上げたのがさっきの会話。
才能の無駄遣いにもほどがある。というか本当のこととはどれなのか気になる。
「私のアドバイスを受け入れるだけでは駄目よ。そこから発展させないと。
さあもう一度考えるのよ」
師弟は溜息一つはいて漫才のネタだしに戻っていった。