蓬莱山輝夜の一日の多くは、自室や縁側でぼうっとして終る。
たまに妹紅と殺し合い、永琳たちが忙しいときに家事を担当し、イナバたちの相手をする。
輝夜を訪ねてきた客の相手もするが、これはそう多くはない。
何か用事がなければ、満足気な笑みを浮かべ永琳とイナバたちを見ながら、前述のようにぼうっとしている。
ただしこれは回りから見た輝夜の様子だ。
ウドンゲが永遠亭に来て少しばかり経った頃。永琳に弟子入りしたばかりの頃のこと。
ウドンゲは永琳に聞いたことがある。
姫様は何かしないのか、と。
日がな一日何もしないでいて暇ではないのかと思い聞いた。死がなく永遠を生きるのだから退屈は敵なのではと思ったのだ。
永琳はこう答えた。
何もしてないように見えて、姫にだけできることをしているのよ、と。
ウドンゲの目には何もしていないように見えた。だが永琳がそう言うのならそうなのだろうと納得し、以後聞くことはなかった。
これはてゐやイナバたちも同じで、永琳が納得しているのなら自分たちが気にすることもないかと考えていた。
永遠亭の主は輝夜だが、永遠亭を支えているのは永琳だから、その永琳が言うのならば間違ってはいないのだろうと考えていた。
永琳は輝夜が何をしているのか知っている。
以前、輝夜から聞いたことがあるから。
永遠亭ができたばかりの頃、まだ輝夜と永琳の二人だけだった頃は輝夜はもう少し活動的だった。
風景を見て詩を詠み、草花を育て、永琳の研究を手伝ったたり、家事に励んだり。そんなことをしていた。
それが永遠亭の住人が増えた頃から、輝夜はぼうっとすることが多くなった。それでいて楽しそうなのだ。
そのことが不思議になり永琳は輝夜に尋ね、何をしているのか知った。
ただし知っただけで、完全な理解はしていない。あることに納得はできたが。
永遠亭は長く平和な時を過ごしてきた。
過去にあった大きな出来事が、てゐとイナバの入居とウドンゲの来訪だ。
霊夢たちがやってくるまで、この二つ以外には大きな事件は起きていない。
永遠亭に住むものたちは平穏無事な時を過ごしてきた。
このことに永琳は疑問を覚えたのだが、輝夜に問うたときにそれは解消されている。
永琳の疑問とは、患者の少なさ、患者の怪我病気の内容だ。
どれも軽い。たいていは永琳が手を出すまでもない。
これまでに永琳が治療した怪我で一番大きなものはウドンゲの怪我を除けば骨折なのだ。
病気のほうも似たようなもので、イナバたちが風邪になるくらい。
百年を越す時間の中で、怪我病気がそれだけというのは異常だ。
生きている者が住んでいるのだから、もっと大きな病気や怪我をしてもおかしくはない。
しかし現実にはイナバたちは大きな怪我病気をせずに、皆満足気な笑みを浮かべて天寿をまっとうしていった。
その別れに輝夜たちは涙し、新たな出会いに喜ぶ。
このことに疑問を覚えたのは永琳だけで、イナバたちは特に疑問を抱くことなく過ごしている。
永遠亭を支えるものは永琳だ。
しかし永遠亭を守るものといえば輝夜なのだ。
永琳とイナバたちとの生活に喜びを見出し、大切にしたいと考え実行している。
日がな一日ぼうっと過ごしているように見えるのは、輝夜が何をしているのか理解できないから。
永琳でさえも知っているだけで理解できていない。
理解できるものがいるとしたら慧音かもしれない。
似た力を持つものならば感じ取れるかもしれない。
輝夜が歴史を選り分けていることに。
永遠亭に降りかかる無用な厄介ごと、イナバたちに起きる無用な出来事を振り払い、平穏に過ごせるように動いていることを。
須臾を操ることで複数の歴史の中からもっとも平穏な歴史を選び取っていることを。
輝夜は永遠から見た大切な一瞬を、能力を使うことで守っている。
自室で縁側で、能力を使いながら永琳とイナバたちの日々の生活を見て楽しげに笑っている。
行動の結果に満足しながら輝夜は、今日も笑みを浮かべている。
考えると面白いですね。
個人的にはこの発想を元にした物語を読んでみたいと思いました。
優しい姫様にほっこりしました。
強大な隠れカリスマ(?)を感じましたよ。