Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

偽りの器、人の心

2008/04/21 21:25:10
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幻想郷にある人里は今日も平和です。
雲ひとつない空、燦々と照りつける太陽、満開の桜の中、外では子どもたちが元気に遊んでいます。
それを見守る慧音は幸せそうな顔、それを見つめる妹紅も笑顔です。

「よーし、そろそろお昼にしようか! みんな手を洗っておいで」
「「はーい!けーねせんせー」」

慧音の声で子どもたちは一斉に水場に駆け寄ります。
我先にと寺子屋へ駆け込む男の子、泥だらけの顔を慧音に拭いてもらっている女の子、そのどれもが幸せいっぱいといった顔です。

「いつの時代も変わらないのね、私の知っている子どもたちも皆、こうして遊んでいた」
「子どもは遊ぶのが仕事だからな、それよりすまないな妹紅、ここ最近毎日手伝ってもらってばかりで、お前にはいつかお礼をしないといけないな」
「構わないよ、どうせ暇を持て余している身だしね。それに他でもない慧音の頼みとあっては断るわけにもいかないでしょう?」

妹紅は慧音を見てふっと笑いました。
慧音もそれに応えて優しく笑い返します。

「それじゃぁ行こうか、子どもたちが待っている」
「そうね――」

二人は揃って歩き出しました。
視線の先ではしびれを切らした子どもが入り口で二人を急かしています。



「みんな揃ってるかー?」
「「「はーい!!」」」

子どもたちの元気な声が教室一杯に響き渡ります。

「それでは、いつものように感謝の言葉を言ってからいただきましょう」

慧音がそう言うと、一人の子どもが、せぇ~のと掛け声をかけます。
それに合わせて一斉に

「「「豊穣の神様、お百姓さん、お父さん、お母さんいつもありがとう」」」

そう言うと、子どもたちは持ってきたお弁当を口に運びます。
女の子たちの間ではお弁当作りの手伝いをすることが流行のようで、自分たちの力作を見せ合いっこするのが最近の日課になっているようです。
今日は慧音と妹紅も的に選ばれたらしく、女の子たちが二人のお弁当を覗き込みます。

「わっ、けーねせんせー、すごーい!」

一人の女の子が声をあげると、何々?と慧音の周りはあっという間に人の輪が、中身を見た子どもたちは口々に驚きの声をあげます。

「ほんとだ~、どうやって作ったの?」
「私にも作れるかなぁ、せんせー教えて~」

慧音の今日のお弁当は慧音自身、もとい、お米と色とりどりの食材で描かれた慧音の顔でした。
ちょっと得意気なけーねせんせい、それを見た妹紅といえば

「なにをやっているのよ慧音…、それにそんな腕があるなら私にも作ってくれたっていいじゃないブツブツ――」

少しいじけています。
慧音の横で一人黙々と箸を進める妹紅自作のお弁当は、赤色のアクセントが効いた、俗に言う日の丸弁当でした。



「けーねせんせー、午後はなにするのー?」

お昼の時間も終わりに近づいた頃、男の子が慧音に午後の予定を尋ねました。
慧音は少し考えた様子で黙っていましたが、

「そうだな、今日はこんなにも天気がいいし、午後もみんなで外に出て遊ぼうか」

教室中が歓声に包まれます。
そこはやっぱりお年頃、教室でお勉強よりも外で遊ぶ方が楽しいらしく、仲の良い同士集まって何して遊ぶの大騒ぎ。

「やれやれ、あの小さい体のどこにあれだけの元気があるんだか」

妹紅は、ごろんと横になって外の景色を眺めながら想いました。
自分もこうして遊んだであろう、遥か昔の幼き日を―。

「もこおねーちゃん、一緒に遊ぼう?」
「ん?」

いきなり声をかけられた妹紅はちょっとびっくりしましたが、いつものように“けーねせんせいと遊んでおいで”と追い払おうとして止めました。

「いいよ、何して遊ぼうか?」
「鬼ごっこ!」

女の子はそう言うやいなや妹紅の手を引っ張って、早く早くと急かします。
外では慧音が鬼役、指で角を作って子どもたちを追いかけていました。
妹紅は少し重そうに体を起こすと、女の子に言いました。

「私はもこじゃない。も こ う 。人の名前を間違えるっていうのは、その人に対してとっても失礼なことなのよ。だから呼ぶときはちゃんと、心をこめて、丁寧に呼ぶの」

女の子は最初キョトンとしていましたが、言葉の意味を理解したのか大きく頷きました。

「ごめんね, もこうおねーちゃん」

妹紅はポンポン、と女の子の頭を軽く叩いてやると、手を繋いで一緒に外へ出て行きました。



その日の晩。
日もすっかり沈み、闇が深くなってきた頃、妹紅は慧音の家にいました。

「今日は助かったよ、それにしても子どもたちの元気さというか…、 あれにはいつも驚かされる。実際今日はもうクタクタだよ」
「そうね、私も昼間から動いたせいかクタクタよ。」

あの後、子どもたちは日が暮れるまで走り回り、それに付き合った二人も疲労困憊といった様子です。

「そうだろうと思ってこれを用意しておいたよ。お礼というわけでもないが、良いお酒が手に入ったんだ。今夜は満月、二人で月見酒も悪くないだろう?」

そう言って慧音は妹紅の正面に座って杯を差し出します。
妹紅はそれを受け取ると

「相変わらず用意がいいわね。夜桜に月見酒なんて随分贅沢――」

どれくらいの時間が経ったのか、二人はいつの間にか、並んで座っていました。
言葉を交わすこともなく、ただ流れる時間を贅沢に使って…。

「それにしても、珍しいこともあるもんだな」

不意に慧音が口を開きました。

「今日は珍しく子どもたちと遊んでたじゃないか、いつもは何かと逃げているのに」

冗談っぽく子どものように笑う慧音、酔っているのでしょう。
妹紅は少しだけ間を置いて

「別に大したことじゃないわよ、ただ・・・ちょっと懐かしくなっただけ」

こちらもお酒が回っているのか、少し頬を朱に染めた妹紅が話を続けます。

「私にも、あの子たちと同じような時期があったわ、友達と遊んで、くだらない話に一日中夢中になって、笑っていた時期が――」
「お前だって人の子だ、そのくらいあっても不思議じゃないさ」

慧音はすっかりお酒が回ったのか、大の字になって寝転がっています。
妹紅はふぅと、大きなため息を一つ。

「正確には、だった。ね。人の子ではあったけど・・・今はもう違うわ。人でも妖怪でも亡霊でもない。生ける屍、それが私」
「妹紅?」

違和感を覚えた慧音が起き上がって、妹紅を真剣な眼差しで見つめています。

「私も酔いが回ったみたい、ここから先は酔っ払いの、ただの独り言――」
「いや、しかし・・・」

慧音は困惑していました。
それもそのはず、これまでどんなに酔っていようとも、妹紅が自らの話をしたことなど一度たりともなかったのですから。

「私はあの薬を飲んでから人の輪の中から外れた。輪廻という輪から。ただそうだと気づくまでは随分かかったけどね。それでも最初は普通に暮らしてたわ、やってやれないことはなかったし、私自身それ以外の生き方を知らなかったから。」
「妹紅・・・」

妹紅は呟き続けます。お酒と、それ以外のもう一つの力を借りて。

「でも、自分が不老不死だと気づいてから、それはまるっきり変わってしまった。はじめは歓喜したわ、心の底から。これで憎いあいつを殺すまで、私は死ぬことはないってね。でも、私は気づいてしまった。考えてしまった。じゃぁ、あいつを殺したら? その後私は? それを考えてしまったとき絶望したわ。自分という存在の可能性に」

慧音は何も言うことができませんでした。
かける言葉が見つからないのです。
知識と歴史の半獣とさえ言われる彼女は、今自分の中にその答えがないことを知っていました。

「何を言ってるんだと思うでしょうね、無限の命がありながらその可能性に絶望するなんて、何でも出来るのに――と」

慧音はハッとしました。
気づいたのです。
『何でも出来る』その意味に。

「そう、何でも出来るってことは何もすることがないのよ。私は時間さえあれば、死を除いたこの世にある、ありとあらゆるものを手にすることができるわ。それが例え一万年、一億年かかるものだとしても。そしてそのために必要な力を持ってしまっている。私の可能性は100であると同時に0。その二つだけ。手に入れて当たり前のものを手に入れて、喜ぶ馬鹿はいないわ・・・」
「―――。やめるんだ」

慧音が小さく呟きました。
妹紅には届きませんでしたが、その肩は小さく震え、両の手は自らの爪で血が滲んでいました。

「これが・・・これが絶望せずにいられる!? 気づいたが最後、馬鹿馬鹿しくて生きる気力もなくしたわ!」
「もういい! やめろ妹紅!!」

慧音は立ち上がって妹紅を怒鳴りつけました。
その弾みで二つの杯はひっくり返り、片方は少し欠けてしまいました。
一方の妹紅は、もはや独り言が独り言ではなくなっていました。
感情の波をただただ言葉にしてぶつけるだけ、慧音の知っている妹紅はここにはいませんでした。

「だから・・・あいつを、輝夜を見つけたとき、あいつも不老不死になってたって知ったときは嬉しくて涙がでたわ。私にもう一度希望をくれたんだもの。仲間がいたとかそういう気休めじゃないわ。あいつを、あいつさえ殺すことができれば私は人に戻れる。一度外れてしまった輪の中に!!」

一瞬の静寂。
感情のせいなのか、まだお酒の酔いが残っているのか、妹紅はいまだ喋るのを止めようとはしません。

「分かりたくもないけど、輝夜だってきっと同じ気持ちよ。私さえ殺せれば――ってね」

慧音はもはや何も言いませんでした。
涙をいっぱいに浮かべて半ベソの妹紅を優しく抱きしめると、そのまま黙って、妹紅が独り言を言い終えるのを待っていました。
妹紅は慧音にされるがまま、その腕の中にいました。

「私・・・私は・・・ただ人として生きたかった。死にたかった。永遠なんていらない。ただの・・・有限の生に怯えて、ありもしない無限の生に憧れる、浅はかなただの人間でよかった! 家族や友達と、人としての私を知っている人達と、一緒に生きていたかった!」

ついに妹紅は、声をあげて泣き出してしまいました。
泣きじゃくる妹紅に慧音は優しく、それでいて強い口調で

「大丈夫。私が、知っている――」
「え?」
「私が知っている。人としてのお前を、藤原 妹紅を」

そう言うと、慧音はもう一度、強く抱きしめました。
目の前にいる、目を真っ赤に腫らした、一人の女の子を。

「人は心をなくした時に、人ではなくなるという。だがお前はどうだ? 永遠という永い間、一度でもその願いを、当たり前の幸せを、忘れたことがあるのか? 私は、お前より人間らしい人間を見たことがない。」


「私が、にん・・・げん?」

妹紅は目を開いて、瞬きもせずに聞き返します。
余りの驚きに、涙も止まってしまいました。

「あぁ、私が保障しよう。藤原 妹紅は間違いなく人間だと」


「だから――」


「もう、そんな泣きそうな顔をするな」


そう優しく微笑む慧音。
そんな彼女の顔を見て、泣き顔だったはずの妹紅は、いつのまにか無邪気に笑っていました。

「なっ!? なぜ笑う? そ、そんなに変なこと言ったか?」
「だって・・・ 泣いてるのはあなたじゃない。ふふっ」

慧音の目には大粒の涙。
耳まで真っ赤の慧音は、大慌て。

「こっ、これはお前があんまり泣くからついつられて・・・」
「あらあら、けーねせんせいは泣き虫ね。明日子どもたちにばらしちゃおうかしら」

慧音の涙を見たのは、妹紅も今日が初めてでした。

「馬鹿な真似はよせ妹紅! そんな歴史、私は認めないぞ!」
「私を捕まえられたら、考えてあげてもいいわね。」



おにさんこちらてのなるほうへ――

妹紅は一目散、空へと逃げていきます。

(今日は何かがおかしかった。)
(きっと満月のせいだろう、私のおかしな行動も、慧音の涙も。)
(古来より、満月には人をおかしくさせる力があるという。)
(満月で狂うのは人間だけらしい、確か慧音がそんなことを言ってた。)

「今日の鬼ごっこの続きか、 妹紅のやつ・・・ だが今夜は満月、月が沈むまでは付き合ってもらうぞ!」



幻想郷のおそらにはまーるい月と影ふたつ。

初投稿です、最初はほのぼの系書こうとしてたら、どこでこうなったのかシリアスな展開へ…orz



妹紅の口調が安定しない…
色々見てもイメージが掴めない自分はヘタレかもしれません。
もこたん愛が足りないのかも。
自分のスタイルで書くと男口調になる不思議\(^o^)/
赤土
コメント



1.名無し妖怪削除
いいお話でした。ラストの満月をバックに翔ける二人も幻想的で。
ただ、満月の夜に、けーねと、鬼ごっこするのは、色々とまずいと思うんだ。
2.名無し妖怪削除
妹紅は人間の時はおおっぴらに他の子供と遊ぶ(おおっぴらに外に出る)ことはできなかったはずですが・・・
まあ、
>最初は普通に暮らしてたわ
の頃だったら遊べそうですが
3.赤土削除
2008-04-21 14:29:41の名無し様
コメありがとうございます。
確かにまずいですよねぇ、色んな意味で…
ラストはちょっとありきたりかな、とも思ったのですが、そう感じていただけて嬉しい限りです。

2008-04-21 22:28:43
コメ+ご指摘ありがとうございます。
作者の理解不足です。申し訳ない…
よい代わりの文が浮かんだら、加筆、修正させていただきます。