作品集25の「ある夜の出来事」の設定をちょっとだけ引き継いでいます。
あと…… 少々、雛が壊れていますので、そこだけご注意を。
※ ※ ※
「ねぇ、チルノちゃん! やめようよ!!」
「大ちゃん! アタシがさいきょうって所を今みせてあげる!!」
「でも、いままで紅白や白黒に一回も勝ってないじゃない!!」
「だから、今日はあいつと戦って、そこからさいきょうへの道を突き進むのよ!!」
「だから、やめようよ~」
湖のほとりの草むらの影で、なにやらゴソゴソと話している妖精が2人。
その妖精が見ていたのは、湖の上でなにやらクルクル回っている赤い服を着た人影。
氷精ことチルノは、その赤い服の人影にスペルカードバトルを挑もうとしていた。
それを大ちゃんこと、大妖精が必死になって止めようとしていた。
その時、すでに大妖精は気がついていた。
チルノが戦いを挑もうとしていた相手が、いままでの紅白や白黒とは異なるという事を……
上手くは言えないけど、「絶対に危ない」という空気を大妖精は感じていた。
「さあ、勝負!!」
そんな事はお構いなしなチルノは、スペルカードを片手にその赤い服の人影に向かって勢い良く飛んで行った。
「ああ、もうっ……知らないからっ!!」
※ ※ ※
「フフッ、今日も厄がたくさん集まったわ」
湖の上でクルクル回りながら、集まった厄を体にまとわりつかせていた人影…… 厄神こと鍵山 雛。
「さて、そろそろ帰りましょうか」
そう思っていた時、湖のほとりから、「さあ、勝負!!」という声と共に、スペルカードを持った氷精が
こちらに向かって勢い良く飛んでくる姿が見えた。
「確か…… 誰かが言っていたわね、湖に⑨な氷精がいるって」
仕方ないなぁ……
そんな思いで、おバカな表情をしてコッチに向かって飛んでくるチルノを雛は見つめていた。
そして、その氷精が私の目の前で停止し、威勢よく勝負を挑んできたの。
「さあ、さいきょうのアタシと勝負よ!」
チルノは、腰に手を当てて、「エッヘン」と言う様な体勢になり、得意げに私に話しかける。
「え~っと…… なんで勝負しないといけないのかしら?」
右手の人差し指を頬にチョコンとあてて、首をちょっとかしげ、私は困惑の表情を浮かべた。
「アタシがさいきょうっていうのを、見せるためよ!!」
そう言い終わると、チルノは持っていたスペルカードを発動させた。
「くらえ! アイシクルフォール(Easy)!!」
チルノの周りに浮かび上がる氷の粒を見て、私は思ったの。
「手加減しますか…… はぁ……」
そう思い、アイシクルフォールの弾幕を避け……、いや、避けなくっても良いみたいね。
だって、氷精の真正面が……
「それ! 当たれ! 当たれ!!」
私の脇を通り過ぎていく氷精の弾幕……
「なんで当たらないのよ! もうっ!!」
そりゃ、当たらないでしょう……
チルノは顔を真っ赤にしながら、それでもそのスペルを連続で発動してくる。
「当たれ! 当たれ!!」
氷精の顔を見ると、もうなんかヤケみたいね……
『仕方ないなぁ…… じゃあ、ちょっとだけ相手して終わらせますか……』
そう思い、私は胸元から一番威力の弱いと思われるスペルカードを出す。
「じゃあ、こっちも行くわよ…… 『ミスフォーチューンズホイール』!!」
そう言い終わる寸前、私はそのスペルカードの異変に気がついた。
「え? 嘘ッ!!」
自分の体の周りに浮かび上がる弾幕。
確かに弾自体はミスフォーチューンズホイールである。
……が、密度と速度と威力は間違いなく『大鐘婆の火(luna)』である。
「そこの氷精!! 必死に避けてぇ~!!!」
こんなの、いくらスペルカードバトルとはいえ、この至近距離から喰らったらタダじゃ済まないわ……
私は顔を青くしながら、私の目の前でまだ必死にスペルを発動している氷精に向かって叫んだ。
やっと何か異変に気が付いたチルノは自分の目の前にある、今まで見たこともない数と密度の弾幕を見て、
顔色をみるみる内に変えて行った。
「なによ!! これ!!」
チルノのスペルカードを発動する手が止まる。
「っ! けどこんなのさいきょうのアタシにかかれば……」
しかし……チルノに容赦なく襲い掛かるluna級の弾幕。
「うわっ、やっぱり無理!」
無論、チルノには避けられるはずもなく、無数の弾がチルノに命中していく……
「フゲッ!!」、「ウギャ!」、「グフゥ!」
無数の弾の直撃によってボロボロになったチルノは湖に落ちて行く……
それを湖のほとりで見ていた大妖精はつぶやいた。
「大人げない…… あの人……」
……
………
…………
落ちていく氷精をみて、私は焦ったわ。
「いけないわ……、助けないと!」
そう言い、私は急いで氷精が落ちていった湖へ降りていったわ。
その後を、陰で見守っていた大妖精が付いていく……
※ ※ ※
「大丈夫かしら?」
私は、湖に墜落していった氷精を岸まで引き上げて介抱していたの。
氷精は……というと、いつも霊夢や魔理沙にやられて慣れているらしいけど、
少しはダメージがあるようで、顔をしかめたままグッタリとしているわ。
スペルカードの異変に気が付いて、すぐに発動をキャンセルしたけど、
間に合わなかった弾幕が氷精に当たったみたいね……
「本当にごめんなさいね…… スペルカードが暴走したみたいなの……」
氷精を膝枕しながら、先程の事を思い出し、自分でも驚いていた。
確かに出したカードはミスフォーチュンズホイールだった。
しかも、ちゃんと目視で確認して発動させていた。
けど、出てきた弾幕は弾の形こそミスフォーチューンズホイールであったが、
威力と数と速度は間違いなくLunatic級の物だった……
「なぜ……?」
私はもう一度胸元から、ミスフォーチューンズホイールのスペルカードを出して見る。
「間違いないのよ……、絶対に……、 けどなんで?」
カードを見ながら、困惑していた私に、さっきのスペルカードバトルが大人げないと思った大妖精が
私に文句の一つでも言おうと、近づいて来ていた。
……が、大妖精は雛のそばに近づくにつれ、とてもじゃないが文句が言えない雰囲気に圧倒されていた。
なんだろう? この圧倒的な威圧感と神々しさは?
一歩一歩近寄る度に、チルノを介抱している雛に言おうとしていた文句の言葉が頭の中から消えていく……
「あら、この氷精のお友達の方かしら?」
大妖精がそばに来たのに気が付いた私は、声を掛ける。
が、その言葉を掛けられた大妖精は「この人には何も言えない」という気持ちになっていた。
「いえ…… 悪いのはチルノちゃんの方ですから…… お気になさらないでください」
大妖精の口からは、思っても見なかった言葉が出てきた。
言った本人ですら、言った後で心の中で驚いていた。
『なんで? 私どうしたの??』
けど、何かに圧倒されて、指先一つ動かすのにも緊張を強いられる様な空間の中で、
大妖精は必死に自分を保っていた。
「そう…… でも、この子が起きたら謝っておいて欲しいの。 厄神が謝っていたって……」
大妖精は「厄神」という言葉を聞いた時に、納得した。
『聞いた事がある……、神様だったのか……道理で……』
大妖精を襲っているこの威圧感と圧迫感は、神様だからこそ……
大妖精は、「分かりました」と、私に頭を深くさげて返事をした。
「じゃあ、私は行くね。 この氷精に私が本当にごめんなさいって言っていたって伝えておいて」
そう言い、チルノの事は大妖精に任せて私は妖怪の樹海へと戻って行った。
戻りながらも、「なんでかしら……、おかしいわね?」と思いながら……
※ ※ ※
その日の夕方。
「コンコン」
私の家のドアをノックする音が聞こえる。
「はい、どちら様?」
「霧雨 魔理沙です。 厄神様…… お忙しい所申し訳ありません」
……はぁ?……
ドアを開けようとしていた私の思考回路が一瞬ストップした。
あの魔理沙が「厄神様」って!!
しかも、「お忙しい所申し訳ありません」ですって!!
なに? 何かヘンなものでも食べたの?
いつもなら「雛!」とか「えんがちょ!」とかいうクセに、「厄神様」??
どういう風の吹き回しよ!
思考回路にちょっとしたエラーが出たけど、とりあえず私の思考回路は動き出したの。
そして、魔理沙の発言に驚いた私はドアを開ける。
「きっと何かイタズラを仕込んでいるに違いない」と思いながら……
警戒しながらあけたドアの前に……
トレードマークともいえる帽子を取り、深々と私に向かって頭を下げている魔理沙の姿があった。
「これはこれは、厄神様…… ごきげん麗しゅう……」
……はぁ……
またも私の思考回路は一時停止。
「実は今宵、博麗神社に起きまして宴会が行われます。
厄神様には不釣合いとは思いますが、博麗の巫女よりのお誘いの連絡なので……
もしよろしかったら、夕方に博麗神社までお越しくださいますよう……」
……はぁ……
私の思考回路はショート寸前よ。
「では、私はこれにて失礼いたします」
……はぁ……
私の思考回路から「再起動が必要です」って……
まあ、冗談はともかく、いつもと違う魔理沙の言動と行動を見て、私は軽くパニックに陥った。
そして、再起動した思考回路が弾き出した答えがコレ。
「なに? 今の? まさかドッキリ? けど、エイプリルフールはかなり前に終わったわよ」
いつものガサツとも思える魔理沙とはまるで正反対な魔理沙の言動をみて、そうとしか思えない自分がいた。
そして、私はある事を思い出し、咄嗟に行動に出たの。
「どこよ! 赤いヘルメットを被って 『ドッキリ!!』って看板を持った人は!! でてらっしゃい!!」
私はそう叫ぶと、玄関から見える景色を凝視した。
……けど、そんな人もいない……
そして、次に思考回路が弾き出した答えがコレ。
分かったわ! きっと魔理沙は何かの罰ゲーム中なのよ!
「一日『だぜ』禁止」とかやっているのよ!!
そこを射命丸が証人みたいに、監視しているのよ!! きっとそうよ!!
またも、咄嗟に出た私の行動は……
「射命丸!! もういいわよ~!! でてらっしゃ~い!!」
私は、とびっきりの甘い声で暗い森の中に向かって叫んでみたの。
……けど、射命丸の気配はない……
……ううっ、恥ずかしいわ……
私は一体何をやっているのかしら??
これを射命丸に撮られたら、立ち直れないわ。
私は顔を真っ赤にしながら急いで家に入り、ちょっと考えてみたの。
そう、今日は一日何かがおかしいの。
昼の氷精といい、今の魔理沙といい……
あ、そうそう。
厄を集めている時も、おかしいって思う事があったわ!
あれば、里の畑を耕している大人達の厄をコッソリと取ろうとしていた時よ!
いつもなら、一人ずつコッソリと取るはずなのに、今日はいつもの様にやったら、
里の人間全員の厄……病厄とかも取れたのよ。
病厄は私の担当じゃないのよ。
あくまでも、私は厄災の担当なの!!
けど、病厄も取れて、しかもちゃんと私の体の周りに厄として漂っているのよ。
おかしいと思わない?
今日一日の自分の力の異変を思い返してみた私は、真面目な表情になり、
椅子に座り、机にひじを立てて、両手を顔に当てて目を瞑って考えてみたの。
「一体なにがあったのかしら? 昼間の事といい、今の魔理沙といい…… なにかおかしいわ」
けど、自分ではその異変がなぜ起きたのか分からないの。
だって、別にどこも体はおかしくないし、厄もちゃんと私の体の周りにある。
「誰かに聞くしかないのかな?」
そうだ! さっき魔理沙が「宴会がある」って言っていたわよね!
博麗神社の宴会にいけば、きっと何かが分かるかもしれないわ!
そう思った私は、博麗神社の宴会へと向かって行ったの。
色々と考えすぎていて、魔理沙に言われた時間をかなり過ぎていたけど……
※ ※ ※
【博麗神社】
私が神社へと続く階段を登っていると、すでに上の方からいつもの宴会特有の騒ぎの音が聞こえてくる。
……今日も楽しそうね……
そう思いながら、ゆっくりと階段を登って行く。
階段の終わりに鳥居があるの、階段を登りきり、鳥居をくぐると、その先に宴会場が見えるの。
いつも通り、人間、妖怪、神、妖精など、色々な種族がいるけど、誰もが楽しそうにお酒を酌み交わしているわ。
「今着いたわ! 遅れてゴメンね」
私は宴会場にいるみんなに聞こえる様に声を出して、ペコリと頭を下げた。
……宴会場に静寂が訪れた……
「え? なに? なにが起こったの??」
下げた頭を急いで上げて宴会場を見ると……
宴会場にいる全員が私を見ている。
そして、おもむろに手に持っていたお酒を置いてこちらに向かって
キチンと立ち上がって、深々と頭を下げているの。
今日一日の事や、さっきの魔理沙の事を思い出して、私は思ったの。
「え? 本当になに? 手の込んだドッキリでしょ!! やだなぁ~」
明らかに私の笑顔は引き攣っているわ。
一体いつまで、このドッキリは続くのかしら?
軽いパニックに陥って顔を引き攣らせている私に博麗 霊夢が近寄ってきた。
「これはこれは、厄神様…… ようこそおいでいただきました。
ささ、こちらへどうぞ……」
いや! 気持ち悪い!! 何この低姿勢は!! いつもの霊夢じゃないわ!!!
魔理沙と同じでいつもなら「雛!」とか「アンタ」とかいうクセに、今日に限って「厄神様」ですって!!
それに、こんなに遅れたら「何やってたのよ!」とかいって、私の前髪をつかんで引きずり回したりするのに!!
絶対になにか裏があるに違いないわ!!
やっぱり、ドッキリよ!
私は警戒しながらも、霊夢に着いていったの。
途中でキョロキョロしながら、いつ赤いヘルメットを被って「ドッキリ」と書かれた看板を持った人が出てくるのか?
と思いながら……
そんな不審な動きをしていた私が霊夢に案内された先は……
宴会場の上座とも言える、真正面の場所。
通称「お誕生日席」。
いつもだったら、「紫」、「神奈子」、「輝夜」、「レミリア」、「幽々子」が、自分のプライドを隠しながら、
こっそりとその場所を狙っている席……
……え? なんで私が上座に座らされるの?……
おかしいじゃないの!!
いつもだったらほとんどの人が「厄が移るんだよっ!」とか言って、
最終的に私が誰も居ない鳥居の方に追いやられるのが常なのに……
いつもと違う霊夢に勧められて、私は上座の席に座らされる。
まだ、ドッキリか何かと思っている私は、ちょうど横にいた人で、周りから「姫」と呼ばれていた人に聞いてみたの。
「ねぇ、今日は何かおかしくないですか?」
「これはこれは厄神様……御目に掛かれて光栄ですわ。 ねぇ、永琳もそう思うでしょ?」
「はい、姫様…… 厄神様、お会いできて光栄です」
……ダメだ、この人達もドッキリの要員に違いないわ……
え~っと、じゃあ冗談とかが好きじゃない人に聞いてみたらいいのよ!
あ、いい人がいたわ! フラワーマスターの風見 幽香さん!!
「あ、厄神様! 私の様な下衆な者に声を掛けてくださるなんて……」
……ダメだわ、この人も…… って、おかしくない?
じゃあ次よ!
あ、これならまともな答えが帰ってきそうね。
「ねぇ、神奈子~!!」
「おお、厄神様ではありませんか! いつもお仕事ご苦労様です」
その言葉を聞いた私は『うぉい! 神奈子が? おかしいだろ!』としか思えなかったわ。
一体、何人のドッキリの仕掛人がいるのよ!!
……霊夢と魔理沙と輝夜と永琳と幽香と神奈子……
まだよ、まだ終わらないわ!!
え~っと……、ああ、いい人が居たわ!
けど、胡散臭そうね……、けどいいわ聞いてみようっと!!
ねぇ、「八雲 紫さん」!!
「これはこれは厄神様ではありませんか!! 私の様な者に何か御用でしょうか?」
うわっ、気持ち悪ぅ~!!
仕方ないわ、横に居たまともそうな九尾の狐にも聞いてみるわ!!
「ねぇ、藍さん……」
「これはこれは、厄神様…… 何か私に御用でしょうか?」
さすがは紫さんの式ね…… 答え方もほぼ一緒だわ。
う~ん、ここもドッキリ要員なのかしら?
私は、上座に戻らされたの。
そして、その場所からまともそうな人を探して宴会場を見渡してみる。
見渡していると、何か違和感のある2人に目が留まったの。
その2人は明らかに暗い表情で、「だったら来なければいいのに」と言いたくなるような空気を発していたの。
その2人を見て、私は驚いたわ!
「ん? あ、あれ? なんで秋姉妹がここに居るのよ!! 今は春よ!! 秋じゃないわよ!!」
驚いた私は、秋姉妹の元へ駆け寄っていったわ。
「ちょっと、なんで貴女達がここにいるのよ!!」
秋姉妹は、暗い表情のままゆっくりと顔を上げて私を見ながらゆっくりとしゃべりだしたの。
「……え、だって……厄神様が来られるって聞いたから……これは行かないと……いけないと思って……」
ああ、もうしゃべらなくっていいわ!
聞いているコッチが暗くなりそうよ!
って、こんな秋姉妹までドッキリの要員にするなんて、このドッキリの首謀者恐るべし!!
まだよ、まだこのドッキリには引っかかる訳には行かないわ!
あ、いい人発見!
この人なら、間違いないわ!
だって、長い付き合いだしね。
「ねぇ、にとり!!」
「これはこれは厄神様……」
うぉい!! ブルータス! お前もか!!
……もういいわ……
こうなったら、最終手段よ。
白黒はっきりつけてやるわ。
「すいません……四季映姫様……」
「私に様などいりませんよ……厄神様……」
あんたもか! この山田!!
「厄神様が山田とおっしゃるのなら…… 私は明日から山田と名乗りましょう……」
いや、ダメ、絶対!
STOP ザ 山田。
※ ※ ※
また上座に戻らされた私は居心地の悪い空気の中で色々と考えていたの。
今見えている宴会場に来ている全員がドッキリ要員であるという事。
それに、幽香や紫、四季映姫といったプライドが高い人や立場的に絶対にそんな事を言わないであろう人まで、
ドッキリの要員にされて、しかも普通だったら絶対に言わない様な台詞までしゃべらせている。
さらに、季節的にいるはずがない秋姉妹まで引っ張り出している。
という事は、このドッキリの首謀者は、かなりの大物?
けど、2ボスの私に対して、ここまで手の込んだドッキリを仕掛けるなんて、意味があるのかしら?
考えると考えるだけ、そこまで手の込んだドッキリを私に仕掛ける意味も分からないし、
それに首謀者にメリットもあるとは思えないの。
「まさか……何かの異変?」
けど、そうなったら霊夢や魔理沙が動いているはずよね?
上座に座り、明後日の方向を見ながら考えていた私に一人の鬼が近寄ってきたの。
近寄ってくると酒臭さがドンドン強くなってくるわ。
「あ、そうよ! 鬼は嘘をつかないわ!!」
そして、その鬼は私のそばに寄ってきた。
「いい所に!! 伊吹 萃香さん!!」
「なんら~、お~!!」
いい具合に酔っ払っているわ!!
と思っていたら、私の顔を見た萃香の顔からドンドンお酒による赤らみが消えていったの。
いい具合に酔っ払っているにやけた顔も、みるみるうちにまともな顔に戻っていく……
「これはこれは、厄神様…… とんだ醜態を晒してしまい…… 申し訳ありません」
「のぉぉぉぉっっ!!!」
ちょっぴり私は壊れかけ。
なんて素敵に半狂乱。
一体何なのよ!
みんなおかしいわ!!
そうよ、これは夢よ夢!!
きっと、私は疲れているのよ!!
そうよ、そうに違いないわ!!
「お詫びと言ってはなんですが…… これを……」
と言い、萃香が自分の持っていた瓢箪から出てきたお酒が入った升を私に勧めてきたの。
『って、これって鬼専用のお酒じゃ……』
と思いながらも『けど、夢だしね~、いいや飲んでみよっと!』
と確実に現実逃避している私は、そのお酒の入った升を受け取り一気に飲み干す。
『うわっ、やっぱりキッツイわ……』
そこからの記憶がないの。
ええ、スッポリと抜け落ちているのよ。
朝、目が覚めたら、見たことがない天井が見えたの。
さらに、頭は動かすと激痛が走るの。
怪我でもしたのかな?と思ったけど、どうやら二日酔いね。
あ、そっか。 鬼のお酒を飲んだんだっけ……
そういえば、神奈子や射命丸でもあのお酒はキツイって言っていたわよね……
「あ、お目覚めですか? 厄神様」
聞いた事がない口調の霊夢の声を聞いて、昨日の記憶がなくなる前のことは夢ではなかったと実感。
っていうか、おかしくね?
「お、起きたけど…… 頭が……」
「じゃあ、今お水をお持ちいたします。 少々お待ちを……」
そういい、霊夢は水を取りに戻っていった。
「あっつつ……」
私は痛い頭を抑えながら、なんとか布団から這い出して違う空気を吸おうと障子を開けてみた。
なんとか開けた障子の先には……
……なに、この地獄絵図は?……
あの萃香や神奈子や射命丸でさえ酔いつぶれているし、昨日いたほとんどの参加者が
あられもない姿で境内に散乱しているわ。
あ、秋姉妹までも!! なんでまだ居るのよ!!
その地獄絵図を見ていた私の後ろにお水を持って来た霊夢が来たの。
「はい、厄神様…… お水でございます」
「ええ、ありがとう。 いただくわ」
昨日の事はやっぱり夢じゃない! しかも、今だにドッキリは継続中みたいね……
この霊夢の対応を見る限りは……
いいわ、じゃあトコトン付き合ってあげようじゃないの! そのドッキリにぃぃぃ!!
そう、水を飲みながら私は誓ったわ。
何に誓ったのかは分からないけど。
※ ※ ※
幾分、頭の痛みが引いてきた私は、地獄絵図がまだ良好な保存状態のままな境内へと降りたの。
珍しい3大大酒飲みの醜態などなどが……
うふふ、いつものお返しよ! と言い、射命丸の持っていたカメラで酔いつぶれてみだらな格好の射命丸を激写したわ。
マニアには高く売れるでしょうね。
っていうか、椛にはたまらん一品でしょうね。
……うふふ、現像した時の射命丸の顔を思い浮かべると楽しいわ……
他には……って、神奈子! 寝ぼけながらオンバシラ撃とうとしてんじゃないわよ! 危ないじゃないのよ!!
はい、とりあえず没収!
あぶないったらありゃしないわ!
……ン? 珍しい人も酔いつぶれているわね…… 確か「咲夜さん」とか言っていたっけ?
こんな所までメイド服姿なんて……
あ、いい事思い出したわ!
幻想郷の七不思議のひとつをここで解明してみようかしら?
そう思い、酔いつぶれている咲夜さんの胸元のボタンをゆっくりと外していくの。
「ちょっとごめんなさいね……、いや別にヘンな事はしないから……、ただの確認よ」
と、一人ブツブツいいながら、私は咲夜さんの胸を覗き込む。
……え~、謎は謎のままの方がミステリアスで面白いわよ……
うん、見なかった事にしましょう!!
そうしましょう!!
※ ※ ※
そうこうしているうちに、何人かが起き出して来たわ。
目が覚めた人は、昨日と同じく私を見て、「おはようございます。 厄神様」って……
すごいわ!
ここまで訓練されたドッキリ仕掛人達は初めてみたわ。
日を跨いでまで、このドッキリが継続されるなんて……
なんて壮大なドッキリなんでしょう!!
ある意味すばらしいわ!!
って、何かがおかしいんだけど、いいの! そんな事は気にしないわ!
このドッキリを心行くまで堪能してあげるわ。
そして、最後の最後に出てくるドッキリ仕掛人のボスに「いや~ん、私分からなかったわ~」とか
可愛らしく答えれば、数字もUPするわ!
……って、数字ってなによ?
さて、そろそろ日も高くなってきたわ。
そろそろ帰らないとね。
……あ、もしかすると、私の家にも何かドッキリの仕掛けが施されているかもしれないわ!!
そうよ! その為に私をここに足止めさせておいたって事も考えられるわ!
こうしちゃ居られないわ。
「じゃあ、私帰るね」
そう霊夢に言い、私は急いで家に戻っていったの。
射命丸もビックリな速度で……
※ ※ ※
「大丈夫よね? 誰かが入ってきた形跡はないわよね……」
家に着いた私は、まず異常がないかの確認をしたわ。
……とりあえず、誰かが入った様な形跡はないわ……
いや、けどあそこまで大規模なドッキリを仕掛けるのだから、家の周りとかに隠しカメラがあるかもしれない……
って、幻想郷にそんな高性能な物があるかどうか分からないけど、もしかしたらにとりが作ったのかもしれないし……
そう思い、家の半径100mの間を隈なく探してみる。
……ここも特に異常はないわね……
じゃあ、一体今度はどんなドッキリなのよ?
……あ、もしかして……
早朝に小声で「おはようございます」と言いながら寝込みを襲われるアレよ!
うん、そうよ!
きっと私の気が抜けた頃を狙って、ヘンなレポーターが合鍵を使って家に入り込んで
私のプリチーな寝顔を激写するんだわ。
あ、そうそう。
その前に、家の中とかを勝手に家捜ししたりするんだっけ?
タンスとかも勝手に開けられたりしたら……
いやん、恥ずかしいわ!
こうしちゃいられない。
掃除よ! 片付けよ! 見られちゃマズイ物は隠さないと!!
いつ、ヘンなレポーターが来てもいい様に、家の中を綺麗にしないとぉ!!!
あ、そうそう。
寝るときも、万が一に備えて可愛らしいパジャマを用意しておかないと。
うん、これで好感度もファンも増えるわ!!
……あ、あともうひとつ思い出したわ……
確か、寝起きの悪い人に大砲をぶっ放して起こすってドッキリもあったわね。
確か「早朝バズー○」って言っていたかしら?
もしかしてそっちの方かしら?
いや、勘弁してよ。
多分、そのドッキリのタイトルは間違いなく「早朝 マスタースパーク」とかになるんでしょうね……
って、私は一体何を考えているのよ!
というか、そんな事思ったら寝れないじゃない!!
その日の晩から、私の家の周りに凄まじい厄が漂うようにしたの。
もう、誰も近寄れないわ。
ええ、新聞とヤ○ルトを持ってくる射命丸でさえ……
※ ※ ※
おかげでここ数日誰とも会わなかったわ。
だから、未だに私の異変は治まっているのかどうかすら分からないの。
けどね……
この後で、今まで私がドッキリだと思っていた物の正体が判明するの。
それが分かった時の自分の落ち込み様は、なかったわ……
今なら分かるの。
氷精に放ったスペルカードがなぜluna級だったのか?
なぜ、魔理沙の口調がおかしかったのか?
なぜ、宴会場のみんなの私への態度がおかしかったのか?
すべて、自分が悪いのよ……
いつもは几帳面なのに、一つだけ抜けていたの……
その抜けていた一つがこんな事になるなんて……
※ ※ ※
そう、あれはあのおかしな宴会から数日後。
厄を集めに行こうと森の中を歩いていた時の事。
森の中にある小さな池になぜかたくさんの里の人がいたのよ。
「あら? 珍しいわね……」
そう思って、いつもの様に人間の厄をコッソリと取っていたの。
相変わらず、この前の様にその場にいた人間の厄が一気にゴッソリと取れるの。
う~ん、何か力加減がおかしいのかな?と思っていたのよ。
しばらくすると、池に来ていた人間達が帰っていったわ。
『そういえば、池のそばに最近行ってなかったわ』と思って、誰もいなくなった池に降りてみたの。
……何よ! コレ!!……
池の横には、神社においてあってもおかしくない祠が建てられ、さらにその前には賽銭箱が……
池の横にある岩という岩に注連縄が飾られており、神々しさをかもし出しているわ。
私の一番目に付いたのは賽銭箱。
だって、側面に大きく「厄」って書いてあるんだもん!!
しかも…… 中身はギッシリと……
「一体いつの間に……」
呆然と立ち尽くしている私は膝からガックリと崩れ落ちたわ。
里の人間達が作って行ってくれたのね……
ありがたいけど……エスカレートしすぎよ……
そう思いながらフッと池の中を覗き込む。
……へっ?……
……池の底には……
底の土の部分が見えない位に溜まりに溜まった賽銭の山が見えるわ。
それを見て私は悟ったわ。
「……信仰点……」
そう、信仰点よ。
間違いなくカンストしているわ。
って、軽く2~3回以上はカンストしていてもおかしくない賽銭の量よ!!
「これが原因ね……」
この異変の原因が分かったわ。
この賽銭が信仰点になって、私に還元されている。
つまり、神としての力がとんでもない事になっていた……
だから、ミスフォーチューンズホイールがあんな威力になり、魔理沙もみんなもこの威光であんなになっていたのね……
つまりは、ドッキリなんかじゃなくって、私自身が原因だったのよ!!
はぁ……昨日の家の掃除の時間と、せっかく買った可愛らしいパジャマはどうしたらいいのよ!
そうそう! あとオーダーメイドした「厄」の文字の可愛らしいプリントが入ったシーツや枕カバーとかもぉ!!
って、そっちじゃないわ。
このお賽銭をどうしたらいいのよ!
私は考えたわ。
けど、折角里の人間が作ってくれた物を壊したりするのは、礼儀に反するし……
問題は、中身よ中身!
こんなのが霊夢や守矢の面々にバレたらどうなる事か!!
え~い、こうなったら!!
※ ※ ※
その夜、季節外れのサンタが里に現れた。
背中には大きな袋を背負っていた。
ただ、ちょっとおかしいのは、ソリに乗っていない事と、背負っている袋がとても重たそうで、
サンタがフラフラしている事。
「いいのよ、季節が違くっても、サンタがくればうれしいでしょ?
それに、この前だって春なのに秋姉妹がいたのよ。
それに比べればサンタなんて可愛いものよ」
と、勝手な解釈をしながら、サンタ……こと私は里のある所へ向かっていたの。
一応、サンタという事で、前でまとめている髪の所に綿でひげの様な物を作ってみたんだけど、
たまに鼻に入ってしまい、ちょっと後悔しているわ。 くすぐったいのよ。
時刻は夜中。
里の明かりはほとんどが消えているわ。
「えいしょっと」
私は持って来た袋…… 中身は池から集めた賽銭だけど、その袋をある所に置いていったの。
……袋には大きく「寄贈」って書いておいたわ……
「これで当分は大丈夫よね? みんなの善意……届くといいわね」
そうつぶやいて私は森に帰っていったの。
……その大きな袋を孤児院の玄関に置いて……
※ ※ ※
翌日の夕方。
「お~い、雛~! いるかぁ!!」
私の家の玄関を叩くよりも先に魔理沙の声が響いてきた。
ああ、その声、その口調!!
待っていたわ! ああ、魔理沙!
「うわっ、なんだよ、寄るなよ!! 厄が感染るじゃないか!!」
いいのよ、遠慮しなくっても。
それよりも、今はもう少しこうさせて……
「気持ち悪いなぁ、もう!! そうそう、今日も宴会があるぜ、後で神社でな!」
魔理沙は、そういうと、まるで橙にすり寄っている藍の様な私を突き飛ばして、帰って行ったの。
「ああ、これよこれ。 決して私はMじゃないけど、この感覚を待っていたのよ!!」
と、両手でガッツポーズ。
よし、これで宴会でもみんなが元に戻っていれば……
そう思い、わざと少し遅れて神社へと向かっていったの。
ええ、予想通りに腋巫女に前髪を掴まれたまま引きずられたわ。
けど、なぜか笑顔の私をみて、他の人が気色悪がって見ていたけどいいの。
だって、うれしいんだもん。
(決して苛められている事が……じゃないわよ)
やっと落ち着いて宴会場を見ると、あのカリスマ5人組が上座の席を狙って工作している所が見れたの。
うん、やっぱりこうでないとね。
そして、宴会の時間が経つにつれて、私はドンドン会場から遠ざけられて、定位置ともいえる鳥居の階段の所へと。
「ああ、なんか落ち着くわ……」
あ、そうだわ! スペルカード!!
早速、夜空に向けて撃ってみたの「ミスフォーチューンズホイール」を。
うんうん、これよこれ。
この威力とスピードがこのスペルカードの味ってもんよね。
と、私の頭に針が数本刺さっているけど気にしないわ。
チクチクするけど。
後ろで「何ここでスペルカード撃ってんのよ!!」って怒号が聞こえたけど、それも気にしないわ。
だって、うれしいんだもん。
出血多量で気を失ったけど。
※ ※ ※
【妖怪の樹海の中の池の前】
「ありゃ、お賽銭が無くなっているぞ」
「本当だ…… きっと厄神様が持って行ってくれたに違いねぇ」
「われわれの信仰が届いたんだべ」
「そうだべ」
「じゃあ、また信仰しないといけないべさ」
「あ~、そうだべさ」
この一日で、博麗神社の一年分の賽銭が、あの池に設置された賽銭箱に溜まっていた。
また満杯になるのは時間の問題だった。
大元をなんとかしないと、またあの事態が引き起こる。
雛は、それをすっかりと忘れていた。
今はただ、以前の様なみんなに戻ってくれた事がうれしくって、それを堪能しているから……
また近いうちに、同じ事が起こるなんて考えもせずに……
紅魔館の図書館の価値よりは少ないのか?じゃなくて、博麗神社の賽銭はそんなに多いのか?
雛様、信仰点を下げようと思うなら霊撃を打ちまくろう!
あと、寝てる女性の服を緩めて胸元を確認するのは確実に「変な事」だよ?w
楽しく読ませて頂きました。
無限ループどころかさらに悪化しそうな気がw
○アイシクルフォール
全体的には面白かった
どっきりカメラや元気が出るテレビネタが懐かしくて笑ってしまいましたw
>博麗神社の一年分の賽銭
…いやぁ、零無(霊夢)んトコ1年分ったって、元から入ってこないから結局はゼロはゼロなワケd(夢想封印)
>2008-04-14 08:05:15様
>博麗神社の賽銭はそんなに多いのか?
う~ん、正月とかで、多少はあるのでは?と思っていたのですが……
>欠片の屑様
「早朝マスタースパーク」で、被害者を変えていくだけでSSがいくつか出来そうな気が…
>時空や空間を翔る程度の能力様
>名前が有ったらいいな様
間違いなく無限ループですねw。
>2008-04-14 13:23:11様
ご指摘ありがとうございます。
修正いたしました。
>思想の狼様
読み返して思ったのが、ドッキリの首謀者(司会者)は「チーフ」って呼ばれていたという記憶が……
それにしても雛にサンタはものすごく似合うなあ
おお、本当だ。
これは失礼しました。
以後気をつけます。
ご指摘ありがとうございます。