永琳の薬には少しだけ余分なものが入っている。人間用妖怪用薬の両方に。
傷を治したり、病気治療には入っていなくても問題ないものだ。
永遠亭が門戸を開き、薬を売り出したときにはすでに入っていた。
それは、永琳に次いで薬に詳しいウドンゲも気づけないほど微量にかつ巧妙に隠されていた。
気づくとしたら、始めから疑いを持ち精密な検査を行いはじめて気づけるというもの。
そのようなものだから薬を飲んだ者たちは、誰一人余分な成分に気づけない。
そして薬を飲んだ者は幻想郷全土にいる。
とうに日は地に落ちて永遠亭は暗闇に包まれている。
明かりもつけず暗い自室の中で立ち、永琳は笑みを浮かべていた。人を癒す笑みではなく、怖いと分類される笑みだ。
「十分広まったし、蓄積もされた。いよいよ明日決行する……楽しみね」
呟いた声には狂楽の想いが込められ、クスクスと笑う声は夜闇に消える。
今ここいるのは薬師でも姫の守護者でもなく、マッドサイエンティスト永琳。
明日、彼女が長年かけた野望が達成されようとしている。
この野望のために薬の料金は効果のわりに抑えられ、幻想郷中に広がりやすくされていた。
求聞史紀に「金銭目的ではないとしたら、なにか裏があるのでは?」と書かれていたがまさにそのとおり。
全ては野望のための布石だった。
永琳があまりにも怪しい雰囲気を醸し出していたため近づくことを永遠亭全員が嫌がった結果、永琳は夕食を食いっぱぐれた。
「時はきたれり! 長年の願いは今日達せられる!」
昨日と同じ自室で、永琳は湧き出でる想いを溢れさせて宣言した。
その手には何かのスイッチが握られている。
ここからだと見えないが、永遠亭の屋根にパラボラアンテナがいつのまにか設置されていた。それに関連したスイッチなのだろう。
「スイッチオン!」
ポチっといい音をさせてボタンが押される。すぐあとにパラボラアンテナが微かに鳴動し、音波を発しだした。
人に、妖怪にすら聞き取れない領域の音が幻想郷中に広がっていく。
音波は蓄積され眠っていた成分を起こしていく。
そして永琳が待ち望んだ瞬間がやってきた。
それは永遠亭内から、竹林から、里から、魔法の森から、博麗神社から、紅魔館から、妖怪の山から、白玉楼から、マヨヒガから、彼岸から、
幻想郷中から聞こえてくる!
同じ言葉を、同じ声で! 何度も何度も繰り返し!
聞こえてくるのだ! そうっ! 輝夜の声でたすけてえーりんっと!
永琳には見えていないが、皆同じタイミングで腕を上げ下げしてる。
「うふふふふふふふふふふふふふふふふふ」
あまりに幸せな状況にトリップしている永琳。
ここに「幻想郷全員でたすけてえーりん(輝夜声ver)計画」は達成された。
多くは語らなくともわかるだろう、永琳の考えが。
それでも多少は語ってみようか。
まずは発端。輝夜の「たすけてえーりん」というセリフが大好きな永琳が、もっとそれをたくさん聞きたいと思った。
それを達成するため、いつか永遠亭が開かれると予測していた永琳は、声を変え人を操り思い通りに動かす薬を百年越しで作製。
そして永遠亭が開かれたときに医者の真似事を始め、混ぜ物が入った薬をばらまいた。
結果はご覧のとおり大成功。
弾幕勝負中に、読書中に、シェスタ中に、審判中に、船を漕いでいる最中に、授業中に、剣の稽古中に、結界検査中に、お茶を飲んでいるときに、
ありとあらゆる作業中にその作業をとめさせて自意識に関係なく、えーりんえーりんと動作つきで叫ばせた。
こんなことできるならもっとマシなことに使えと意見がありそうだが、そこはそれ。天才と馬鹿は紙一重を地でいったのだ。欲望に素直すぎるほど
忠実になったのだ。
結果、賢者とも呼ばれる紫にすら気づかせないで目的達成。
無駄にすごいと言わざるを得ない。
すぐに誰が犯人かわかったのは当然のこと。
被害者全員からぼこられたが、蓬莱の薬使用者だけあって次の日にはケロリとしていた。
その日から毎年三回ほど、懲りない永琳が幻想郷中を混乱させた。
そして蓄積した薬が抜けきるまで数年の月日を必要としたそうな。
今日も幻想郷中でえーりんえーりん! たすけてえーりん!
おもっきりカオス計画wwwwwww
誤字らしきモノ
「言わざるおえない」→「言わざるを得ない」ではないかと。