夕暮れどき、小脇に何かを抱えた魔理沙が香霖堂へとやってきた。
大事そうに抱えたものは鍋。その鍋からは美味しそうな匂いが漂う。
鍋の中身をこぼさないようにするため、いつものように勢いよく入ることはしない。
鍋を見てわずかに頬を赤くする姿はまるで恋する乙女。その赤みを消すため深呼吸して扉を押す。
玄関から静かに入ってきた魔理沙を霖之助は珍しそうに見た。
「魔理沙、何かあったのかい?
何度言っても窓を壊して入っていた君が玄関から入ってくるなんて」
「たまには私だって静かに入ってこれるさ。
それにせっかくもってきたこれがこぼれるのは嫌だからな」
「鍋? いい匂いがするけど」
「ご飯作りすぎてな、おすそ分けだ」
カウンターに鍋を置き、ふたを開けて中身を見せる。
中には美味しそうなシチューが入っている。
「珍しいな、何かを持っていってばかりの魔理沙が持ってくるなんて」
「もともと今日はここに来る用事があったからな、そのついでだ」
「ん? なんでこの時間帯なんだ?」
来る用事があるのなら昼に来ればいいじゃないかと問う。
ちょっとだけ焦った様子を見せる魔理沙。
「ひ、昼はちょっと立て込んでいたんだ」
手作りのものを持ってきて一緒に食べたいと思ったことは魔理沙だけの秘密だ。用事はここにくるために無理矢理作り出したもの。
気合入れて料理をしていたらこの時間になったのだ。
「そうなのか。
すぐに済む用事なら先に済ませようと思うが、どうなんだ?」
「拾った物の鑑定だからすぐに済むと思う。ただのお面じゃないみたいで、どんなものなのか知りたい」
「それじゃそれを見せてくれ」
霖之助は手を差し出す。
魔理沙は帽子の中に入れていたそれを渡す。
渡された木のお面をさっそく鑑定する霖之助。
「名前はマスクでいいみたいだな。
使用者に超人的な力を与えるらしい。
使い方はお面なんだがら顔につけるんじゃないか?」
いつもならばどうやれば使えるのかわからないが、今回は簡単だった。
お面の使い方などそう多くはない。身につけるか、奉納くらいだろう。
「超人的な力ね~」
それを聞いて魔理沙に少し悪戯心が湧く。
「こうりん」
「ん?」
霖之助が視線を魔理沙に向けた瞬間、魔理沙はマスクに手を当てそのまま押し上げる。
マスクは霖之助が持ったまま。押し上げられたマスクは関節の動きにそって軌道を描き、霖之助の顔にあてられた。
「うあうぅああああああ!」
顔に吸い付いたお面を掻き毟りうめき声を上げる霖之助。
お面をつけるとなんの問題もなく力がつくと思っていた魔理沙はその様子に焦る。
「大丈夫かこうりん! 今はがすからな!」
そう言って魔理沙は近づこうとするが、霖之助がすごい勢いで回転を始め近寄ることができない。
回転はおさまることがなく、そのまま店中を縦横無尽に暴れ回る。小さな竜巻のようだ。
商品や家具を滅茶苦茶にしてようやく回転がおさまったときそこにいたのは、緑顔の半裸褌男だった。
「っ絶好っ調ぅ!」
「こ、こうりん?」
変化に戸惑い、霖之助の半裸を見て顔を赤らめる魔理沙に男はついっと近づく。
ぐっと近づいた顔に魔理沙は後ろに引くが、男はその分近づいてくる。
「ノンノン、ボクはマスク・ザ・褌!」
「いやこうりんだろ」
「それは前世の名前だ」
魔理沙の言葉に一応肯定はした。まあ、正しくはこうりんじゃなくて森近霖之助なのだが。
それを正すことなど些細なことと取り合わず、話を続ける。
「ときにボクの可愛い子猫ちゃーん?」
「こ、子猫ちゃん?」
普段霖之助が絶対使わない呼び方をされ、警戒度を上げる魔理沙。
そんな魔理沙を気にすることなくさらに続ける。
「子猫ちゃんはツケが溜まっているね? それをそろそろ払ってもらいたいんだ」
「き、今日は持ち合わせがないんだ。また今度な」
ここで払わないとか言うと何が起こるか予測できないので問題を先延ばしにする。
「それは残念~。ならば今日は利子だけもらうよ。
あっついベーゼでかまわなーい」
「ベーゼってなんだ?」
「その可愛い唇をいただくことさあ!」
「なっ!?」
キスするつもりだとわかった魔理沙は、少しずつ近づいてくるマスク・ザ・褌に向かってマジックミサイルを打ち出す。
それを笑いつつ跳ねて全部回避していく。人がジャンプするようにではなく、ボールが跳ねるようにして人外の動きを見せた。もともと人間で
はない霖之助だが、かといってハーフである彼にこんな動きができるかといえば答えはNO。妖怪ですらこんな動きはしない。
飛んでくるマジックミサイルを掴んで食べてしまうくらいに、マスク・ザ・褌には余裕があった。味は「デリシャース」ということらしい。
いくら撃っても店内に被害を出すだけだと気づいた魔理沙。肩を揺らし息をきらせて、マスク・ザ・褌を睨む。
「絶っ対キスなんかしないからな! 今のこうりんには特にだ!」
「んふぅ困った。ボクとしてもそこまで嫌がられると…………そうだね、一曲踊りの相手をしてもらおうか。
ミューズィック!」
マスク・ザ・褌がパチンと指をならすとどこからか音楽が聞こえてくる。それはプリズムリバーのものだ。いつのまに依頼していたのだろうか。
今の彼ならばのりだけで全てを行ってしまいそうではある。
Chick-chicky-boom Chick-chicky-boomとのりのいい音楽が店内に響く。これはマスクの前持ち主が警官を巻き込んで踊った曲だった。
魔理沙も思わず体でリズムを取り出す。
「踊りくらいならいいか?」
「レディ? お手を」
真面目な声で誘い手を出してくるマスク・ザ・褌に、魔理沙も手を出して受けてしまう。今の霖之助を信用してはならないとわかっていたのにだ。
マスク・ザ・褌は魔理沙の手を引っ張り、登場したときのような回転をさせる。ぐるぐると勢いよく回る魔理沙。その回転から服と帽子が飛び
出してきた。
やがて回転が止まりマスク・ザ・褌が感想を述べる。
「うーん、我ながらいいセンスだ」
「?」
目を回しながらそれを聞いた魔理沙はやけにすーすーとする自分の体を見る。
さらしに褌というマスク・ザ・褌に近い姿だ。
それを自覚し魔理沙の酔いが即座に醒める。かわりに瞬時に顔どころか体中が恥じらいと怒りで赤く染まる。
「レッツダンシング!」
笑顔で誘うマスク・ザ・褌を無視して落ちている服からミニ八卦炉を取り出す。
それをマスク・ザ・褌に向けて、
「んー何するつもりかな~?」
「……こうりんのっこうりんのっ…………馬っ鹿あぁぁっ!」
涙目でマスタースパークをぶっ放した。
乙女の怒りが込められたマスタースパークは、いかに理不尽の化身とはいえ受けきれるものではなく、マスタースパークがおさまった跡には
真っ黒こげなマスク・ザ・褌が。
その様相すらもふざけているように見えるのはマスクのせいだろうか?
魔理沙は体中赤くしたまま、ぶつぶつと何かを言いながら急いで服を着る。
「こうりんに見られた、触られた、お嫁にいけないぃ」
なんて呟く姿は立派に乙女をしている証拠だ。
服を着た魔理沙は目に入ったぶ厚い本を手に取る。マスクをはいだあと、本を振りかぶり霖之助の頭に振り下ろす、何度も何度も。
「忘れろっ忘れろっ」
十回以上殴って納得できたのか殴ることを止める。
この場面だけ見れば魔理沙の霖之助殺害シーン。
目覚めた霖之助が「ボク三しゃい」とか言うことになるのだが、きっと殴りすぎたのだろう。
本を投げ捨て、お面を持って出て行こうとする魔理沙が無事だった鍋を発見した。
「こうりんのばか!」と書いた紙と一緒に鍋を霖之助のそばに置いて香霖堂を出て行った。
家に帰った魔理沙はスコップを持って再び出かけ、森の中で穴を掘りマスクを埋める。
忌々しいマスクを持ち続ける気はまったくなかった。
深い穴を掘ってマスクを叩きつけるように投げ入れ埋めなおす。そのおかげですでに真夜中だ。
香霖堂のことや穴掘りで疲れ果てた魔理沙はさっさとその場を去る。
だから興味しんしんに、魔理沙を見ている人物がいることに気づかなかった。
マスク・ド・そーなのかが誕生する日も近い?
まあ、毎回ガラスを割って入ってくる時点でどうしようもないダメ人間だけども。マスクどそーなのかは見てみたい。
きっとこのあと、パチェあたりがマスク・ド・むきゅーとかっていって魔理沙にまた・・・っていう続きだよなwwwww
あれでジムキャリーが好きになったんだよなー