「あれ、妹様じゃないですか」
「うん、妹様だよ」
「お出かけ……ではありませんよね」
「空」
「はい?」
「空、見に来た」
「そうですか。今日は満月ですよ。おひとりで大丈夫ですか?」
「その大丈夫、はわたしへの言葉じゃないね」
「はぁ。満月を直視するとえらいことになるような気がしまして」
「首、見て」
「なんですかこれ。何かの呪印ですね」
「うん。お姉様が、これなら今晩だけなら大丈夫って」
「なるほど。ご一緒してもよろしいですか?」
「好きにしたら」
「ねぇ、門番」
「美鈴です」
「門番でしょ?」
「そうですけどーですけどー」
「むぅ。美鈴」
「はい、なんでしょう」
「空、真っ黒だよね」
「夜ですからねぇ」
「空は黒じゃないの?」
「お昼は青色ですよ。夕方になれば紫になって、それから紅くなります」
「青」
「咲夜さんの眼の色です」
「あぁそっか。紫は?」
「パチュリー様の髪の色です」
「で、紅は美鈴の髪の色」
「お嬢様と妹様の眼の色でもあります」
「じゃあ黒は小悪魔かぁ」
「どうしてです?」
「紅魔館は、空の色。空の色」
「きれいね、月」
「綺麗ですね」
「月は、お姉様」
「永遠に幼き紅い月、ですか」
「だから好き」
「妹様はお嬢様が大好きですからね」
「そうだよ?」
「できれば、ちょっとくらい私のことも好いてあげてください」
「好きだよ?」
「え、あ、そうなんですか。ありがとうございます」
「みんな好きだよ。紅魔館は、みんな好き」
「ちょっと驚きです」
「だってみんなわたしのことを知っているもの」
「はい?」
「わたしの存在を知っている。わたしの名前を呼んでくれる。わたしに触れてくれる」
「普通ですよ」
「わたしには普通じゃなかっただけの話」
「あぁ……すみません、失言でした」
「いいよ。わたしがイレギュラーなだけ」
「寒いね。もっと寒い日だっていっぱいあるでしょうに、門番は大変ね」
「まぁ、肉体労働ではあります」
「どうしてここで働いているの?」
「そりゃまぁ、紅魔館が好きで、お嬢様が好きですから」
「そっか。たはは」
「紅魔館は私の家です。紅魔館に住んでいる人妖、みんな家族です。種族も年齢も考え方も生い立ちもばらばらですけど……でもみんな、紅魔館を愛している。大切な家族ですから、それらを守れるならこれほど嬉しいことはないです」
「家族、家族ねぇ。楽しいね」
「はい。素敵な家族です」
「じゃあ美鈴はお姉さんね」
「そうなりますかね」
「美鈴お姉さん」
「お姉様、とは呼んでくださらないんですね」
「お姉様はこの世にただひとりだもの」
「えぇ、確かに」
「あ、光った」
「流れ星です」
「へぇ、あれが。うわぁ」
「門番になって空を見上げることが多くなりました。空はいつだって綺麗です。昼も、とても綺麗ですよ」
「きれい、きれい、きれいだなぁ。世界って、きれいだなぁ」
「もっともっと綺麗なものを見れますよ。いつか、見せてさしあげます」
「たはは、楽しみにしちゃうよ?」
「えぇ、えぇ。ですが隣は私でよろしいので?」
「うん? どういう意味?」
「お嬢様がすねてしまいます」
「すねさせておけばいいよ。おいてけぼりの気分をちょっとくらい知ったほうがいい」
「では、秘密にしてくださいね」
「うん。すごく楽しみにしておく」
「妹様、夜も更けてまいりました。どうぞ屋内へ、お体が冷えます」
「うん、そうする。じゃあね、美鈴」
そう言って手を振る妹様の背を見送ったのは何年前の話か。
私はまだ、あの約束を果たせずにいる。
あぁ、でも、妹様。世界は今日も、綺麗です。
最後がとても切ないです。
りっぱにオチがあるじゃないですか
うわー。これはまた背景しってると一段深くなる良い話。
フランちゃんかわいいよ
彼女たちの「いつか」が、きっとかないますように。