「「今日はあたし(あたい)の日!」」
時は四月一日。エイプリルフール。
それぞれの住処で同じセリフを吐いた長生き兎と氷の妖精。
この日のことを知っていて自覚もある兎とこの日のことを知らず騙されて喜んでいる妖精。
どう過ごそうかと考えながら住処を出てばったりと出会った。
「今日はあたいの日なんだぞー。すごいだろ!」
今日という日をよくわかっていないけれど、とりあえず会った人に自慢してきたチルノ。
出会ったてゐにも同じように自慢する。
これまで会った人は「そうなんだ」とスルーしたが、てゐだけはスルーできない。
だって今日は自分の日だと自覚しているから。
「なに言ってるんだ。今日はあたしの日だ」
「あたいの日! だって魔理沙があたいの日だって言ってたもん」
「魔理沙が?」
魔理沙の考えはこうだ。
四月一日=エイプリルフール=四月馬鹿 → 馬鹿=⑨ → ⑨=チルノ
ということで四月⑨=エイプリルフール。すなわちチルノの日。
からかい混じりで教えたことだが、チルノはからかわれていると気づかず、すごいすごいと喜んだ。
そのとき一緒にいた大妖精が教えようとしたが、あまりの喜びように本当のことを言うことに気がひけた。
勘違いしたままのチルノは自慢するため飛び立ち、本当のことを知ることはなかった。
魔理沙の考えが予想ついたてゐは、なるほどと納得しかけるが思いとどまる。
ここで納得すると己のアイデンティティがなくなりそうだから。
うそつき悪戯は自分の信条と気合をいれて、チルノに立ち向かう。
今日は自分の日だと認めさせるのだ。
浮かれたチルノを論破するためてゐは今日という日を説明していく。
これが難航した。
頭の切れるてゐとおつむの弱いチルノ。一方的に言いくるめられると思われる組み合わせだがそうはいかなかった。
説明の途中で理解が追いつかなくなったチルノが話をそらすのだ。そして説明は始めからになる。
これが何度も繰り返される。
巷で噂の「無限ループって怖くね?」という状態だった。
今日はあたいの日と思い込んていることもループの原因の一つだろう。
いつまでも続くと思われたループだが、一人の乱入者によって終わりを告げる。
夜になって散歩に出てきたレミリアが二人に気づいて話しかけたのだ。
「こんな時間に何してるのよ?」
普段は夜に見かけない二人が珍しく、何をしているのかと声をかけたのだ。
それによっててゐの説明は止まる。
てゐは周囲をキョロキョロと見渡し驚いている。
「なんでこんな暗いのよ!? ルーミアが近くにいるの?」
「夜だからに決まっている」
「夜?」
説明に集中しすぎて時間の経過に気づかなかったのだろう。
それほどに真剣だったのか?
「そうだ! あたしたちじゃまた同じこと繰り返しそうだから、こいつに決めてもらうってのはどう?」
「よくわからないけど、帰れるならそれでいい」
説明に飽きたチルノ。さっさと帰って寝たかった。
レミリアはこいつ呼ばわれりされて、少しむかついている様子。
「何を決めてほしいの? くだらないことだったらグングニルよ」
言いながら手にグングニルが現れる。
凄まじい威圧感がレミリアから発せられる。
てゐはそれに耐えた。
「今日はあたしとチルノのどちらが主役かってことよ!」
「主役? いまいちわからないから説明してちょうだい」
かくかくしかじかとてゐは説明していく。
「なるほどねエイプリルフールか。だからフランあんなことを……」
「あんたの妹はどうでもいいから! こっちの判定を!」
「どうでもいいって……まあいいわ私も早く帰る必要ができたし答えてあげる。
あなたたちが望む答えではないだろうけど。
その答えは…………意味がないわ」
「どういうことよ?」
「すでに0時を過ぎているからよ。
それじゃね、私はもう帰るわ」
言うことは言ったのでレミリアは全速力で飛び去る。フランドールに謝らなければならないからだ。
エイプリルフールだと気づかずに真に受けてしまったとわかった今、非は自分にある。
己が悪いときは謝る。それが誇りある貴族というもの。
飛び去るレミリアを見送ることもせずてゐは呆然と立ち尽くす。
一日を無駄な説明で終えてしまったとわかったから。
「せっかくのエイプリルフールが……あたしのパラダイスが……」
などと聞こえてくるが、聞いてるのは草木虫くらいだろう。
チルノもいつの間にかいなくなっている。
永遠亭に帰っても、遅くなるなら遅くなると事前に言っておくようにとウドンゲからの説教が待っている。
パラダイスどころか、疲れるだけでなんの実りもない一日だった。
「ということにならないかと思って昨日チルノに、明日はお前の日だって言っておいた」
「なるわけないでしょ」
博麗神社の縁側で魔理沙と霊夢がお茶を飲んでいる。
楽しそうな魔理沙とあきれた霊夢。
「そもそも二人が出会う確率事態低いわよ。
チルノは空を飛んでて、悪戯兎はほとんど歩きでしょ。
近くを通っても気づきそうにないじゃない」
「あ」
そっかそっかと言いながら頬をかく。
「レミリアだってエイプリルフールくらい気づくんじゃない?
そこまで間は抜けてないだろうし、回りの誰かが教える」
言いかけて紅魔館方面から爆音と煙が立ち上る。
二人の視線は煙に向けられて止まる。
「と思うんだけど……」
「まあ姉妹喧嘩なだけかもしれないじゃないか」
「その姉妹喧嘩の原因はなんでしょうね?」
面倒事は起こるなと思いつつ、霊夢は嫌な予感をお茶とともに飲み下した。
魔理沙からお前の日だと教えられたチルノはやっぱり意味がわからなかった。そしてそのまま喜ぶことはしないで大妖精に聞いた。
大妖精は魔理沙の考えを推測して、全部は語らず「からかわれたんだよ」とだけ答えた。
チルノは浮かれることなく怒って、少し経つとエイプリルフールのことなど忘れて大妖精と遊ぶ様子が見られた。
一方てゐはというと、毎日がエイプリルフールだから四月一日を特別な日だとは思わず浮かれることもなかった。
てゐスゲェ