Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

きのこ

2008/04/02 04:50:40
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茸(きのこ)
子嚢菌の一部及び担子菌類の子実体の俗称。
山野の樹陰・朽木等に生じ、多くは傘状を為し、裏に多数の胞子が着生。
松茸・初茸・椎茸の様に食用となるもの、テングダケ・ワライダケなど有毒のものがあり、また薬用となる物など用途も広い。
勿論魔法薬の錬薬にも使え、魔法使いにとって尤も通俗的で稀有な材料の一つでもある。(ヴワル魔法図書館刊行『Majic Dictionary』より引用)



魔理沙は人間の身にして魔法使いである。
とは言っても、普段時間を費やす際には生粋の魔法使いのそれと同じ訳で。
小さな文字で事事物物を小難しい表現で書かれている魔導書を読み耽っていたり、薬としての薬品は勿論のこと、魔力増強剤としても用いられる魔法薬生成の為の素材の蒐集と錬成などなど割と忙しい生活を送っていたりする。
茸と言っても、発火性の高いものならば緊急用の火種となり、普通に食せば毒となる茸も正しい分量で他の素材と調合すれば良薬になる場合もある。
たかが茸と言ってもなめちゃいけない。
当然魔理沙も魔法薬の研究の為に茸を蒐集する事もあり、家に茸の栽培所がある位だ。
血筋が魔法使いではない魔理沙は長寿ではない。
それ故、本来ならば長年掛けて書物を読み重ね知識を蓄えていく作業を削り、書物で目に入った事柄を実際に確かめる為に外へ出て自らの目で効能を確認する事の積み重ねこそが十代半ばにして自分の齢よりも数十倍もある幻想郷の曲者達とも対等に渡り合える事が出来る理由なのかもしれない。
なので、多少の無茶は若気の至りだという事で。

「で、何で私の家に来てるのよ」
「いや~…たまたま食べた茸が中っちまったみたいでな。気が付いたらこの有様だ」
「いや、自分の家で休みなさいよ。どうせ魔法の森で食べたんでしょ」
「一人は寂しいぜ」

話が噛み合わない。
魔理沙は魔理沙で呵呵大笑といった様にからからと笑っている。
原因が原因なだけに霊夢は呆れたが、魔理沙らしいと言えば魔理沙らしいのかも知れない。
多分魔理沙の死因は孤独死で、私は…魔理沙の相手に因る過労死だろうか。
そんな事を思いながら博麗神社の巫女、博麗霊夢は溜息を吐きながらもお茶を啜った。…うん、美味しい。
ふぅ、とお茶で暑くなった吐息を一息ついて霊夢は話を続ける。

「アリスに看てもらったら?あの子だったら嫌々ながらも飛んで来るわよ」
「そんなに私に来られるのが迷惑か?」
「別にそうは言ってないでしょ」
「ならいいだろ」

魔理沙は霊夢が用意した布団に横たわっているものの、先程から一向に眠る気配は無い。
こんな日に限って空が青かったのが何故か凄く憎たらしく感じた。
お昼寝でもしたら凄く気持ちよさそうだなと思うも、魔理沙がそうさせてくれないのは分かりきっている。
寒かった冬は去り、ぽかぽかとした春の陽気を感じる今日この頃。
この絶好のお昼寝日和に合わない、というか季節感すら感じられない魔理沙が来てしまったのが運の尽きだったのかもしれない。
魔理沙の思い描く魔法使い像は夏でも冬でもエプロンドレスを身に纏っているのだろうか。自分も一年中同じ服だから何とも言えないけれど。
霊夢は欠伸を噛み殺す。

「…あんた、病人でしょ?せっかく布団に横になってるんだから休んだら?」

今の魔理沙の状態は軽口を叩けるほど具合は芳しくない筈なのだが、脂汗を浮かべながら笑う魔理沙を見て霊夢なりに気を遣いながらそう告げる。
というか、ここで症状が悪化しても私が面倒みなきゃいけないし。そうしたら本当に面倒な事になるわね。
と、これが今の霊夢の本当の心情である。

「私は今、誰かと喋らないと死んでしまう病に…」
「あっそ。勝手に死ねばいいじゃない」
「冷たいぜ」

そんな霊夢の心情を知ってか知らずか魔理沙はいつもの調子を崩さずに話す。
脂汗を掻いて顔を真っ青にして言う台詞ではない。
今度は苦しそうに咳を扱いている。
霊夢はもう見ていられないといった表情でふっと立ち上がった。

「はぁ…あんた着替えは持って来てるの?」
「…?」
「そんな汗でぐしょぐしょな服着てても治る風邪も治らないじゃない。で、あるの?無いの?」
「持ってると思うか?」
「じゃあ、私の服を貸すからそれ着なさい。後、卵粥も作ってあげるからそれ食べたらちゃんと寝なさい。分かったわね」
「お、おう…」

大声且つ早口で捲し立てる霊夢に四の五の言えないまま魔理沙は承諾する。
それを聞くと霊夢はいそいそとその部屋を飛び出して、暫らくしてから部屋着を持って来て再び急ぎ足で台所へと向かって行った。
部屋着に包めて肌着を隠している辺り、女の子らしい恥ずかしさを醸し出しているが魔理沙にはそれが少し欠けているようですぐさま来ていた衣服を脱ぎ去りご丁寧に置いてあったタオルで体を拭いてから肌着を自分の体に通した。腋が寒かった。
本当は霊夢に着替えさせてくれと言いたかったが、そんな事を言えば霊夢が怒るのが目に見える。折角のお粥が食べられないかもしれない。
結局のところたかりに来ているのと何ら変わりはないが魔理沙はそれだけお粥が食べたかった。衰弱しているのは事実だし、何か腹に入れておきたかった。
暫らくすると、いい匂いと共に霊夢が開け放っていた障子から卵粥をお盆に乗せて帰ってきた。

「待ってたぜ」
「そう。で、何か言う事は?」
「いただきます」
「ちょい待ち」
「冗談。ありがとな」

魔理沙のその言葉を聞くと霊夢はよろしい、と告げ土鍋の蓋を開けた。
途端、魔理沙が急に一歩後退りする。

「うげ」
「どうしたのよ」
「いや、霊夢…これは私に対する悪戯か何かか?」

土鍋の中身は卵粥の筈だぞ。と魔理沙は続ける。
霊夢は自分の作った土鍋の中身を覗いてみる。卵粥がそれ以外に変わるわけもなく土鍋の中は卵粥だった。
しかし、魔理沙の顔色は優れない。

「卵粥でしょ」
「いや、まぁ…そうなんだが、なぁ」

確かに霊夢の言った通り土鍋の中には鮮やかな黄色で埋め尽くされた卵が目に入ってくる。
中央に鎮座されている葱も風邪にはよく効くと言われている薬味だ。
一見何の問題もない卵粥の筈なのだが、魔理沙が文句を言う理由が見受けられないので霊夢は思わず首を傾げる。

「いや、だってなぁ…風邪の原因を目の前に出されて食えって…結構酷だぜ」
「…ああ」

此処で漸く霊夢は何に関しても割かし貪欲な魔理沙が何故食べることに躊躇ったのか気付いた。
アクセントとして入れた椎茸と舞茸の筈だったが今の魔理沙には逆効果のようだった。
でもまぁ、入れてしまったものは仕方ないという事で。

「だって、魔理沙って茸大好きじゃない。三度の飯より茸が大好きな魔理沙を想って作ってあげたのよ」

今思いついた嘘八百を述べることにした。

「ああ、確かに私は茸が大好きだ。目の前にアリスと茸を出されたらまず茸を取るな」

魔理沙は無い胸を張って言う。

「でしょ。だからそんな茸が好き過ぎて好き過ぎて堪らない魔理沙の為に作ってあげた素敵な卵粥なのよ」
「素敵な卵粥だな」
「あら、ありがとう。ついでに言えば、素敵な賽銭箱はここにもあるわ」

そう言って霊夢はどこから取り出したのか、携帯用の小さな賽銭箱を取り出す。

「…有料なのか?」
「有料よ」
「………」
「冗談よ。私が言いたかった事はこれを食べて茸に復讐しなさいって事よ」
「好きな相手に復讐っていうのも可笑しな話だな」

魔理沙はそう言って笑う。
置いてあった蓮華を手に取り、お粥と一緒に乗せていた舞茸を頬張った。
その熱さに四苦八苦しつつも何とか咀嚼しきって飲み込む。
食欲はあるようなのか、茸に復讐心を滾らせているのかどうかは分からないが病人とは思えないようなスピードで魔理沙はあっという間にお粥は減っていった。



やがて、ごちそうさまとお粥を食べ終えた魔理沙はふと呟く。

「なぁ、霊夢。お前ももっと茸を食べたほうがいいんじゃないか?」

唐突な話の振りに霊夢は首を傾げる他なかった。

「何でよ?」
「茸を食べると胸が大きくなるんだ」
「はぁ?」

とうとう魔理沙が熱の所為でおかしくなってしまったのか、霊夢は魔理沙を訝しげに睨む。
一方魔理沙は何やら余裕を持った表情で意味ありげにニヤニヤと笑っている。何が面白いのだろうか霊夢には到底見当がつかない。

「そんなこと、あるわけないじゃない」
「ほぅ…現に私が今着ている霊夢の服がきついというのにか?」
「なっ…!」

今度こそ霊夢は何も言えなかった。そんな、確かに自分は胸が小さかったがまさか魔理沙にすら劣っていただなんて認めたくなかったからだ。
そう言われると胸の辺りが張っている様にも見えなくはない。
霊夢は何故だか目の前で優位に立っている魔理沙が羨ましくも裏切られたような気がしたのも些か気のせいではないのだろう。
自分と同じ、或いは自分よりも小さいと思っていた魔理沙に負けたということが信じられなかったから。
でなければ風邪を拗らせている筈の魔理沙をここまで妬ましいなんて思わないはず。
霊夢は思わず唇を噛んだ。

「まぁ、大丈夫だろ。霊夢も毎日茸を食べてればいつか大きくなるもんだ……たぶん」
「う、うるさぁい!」

最後の確証の無さが霊夢の心をさらに抉った。
突然風邪を拗らせてお世話になったというのにこの物言いは無いのではないだろうか。
とは思ったものの、魔理沙をこのままで帰すわけにもいかず魔理沙のからかいを直に受けながらも何とか耐えたのであった。

翌日、卵粥のお陰かすっかり風邪が治った魔理沙は博麗神社を後にした。
蛇足だが、あれからずっと自分の胸についてからかわれた霊夢は、魔理沙が帰った日の夜に茸を黙々と食していたところを噂を耳にした文に写真を取られ、翌日の文々。新聞の一面に大きく載せられてしまうことになる。
これがまた魔理沙の笑いのツボに入り、霊夢はしばらくの間魔理沙に笑われ続けられることとなった。


※この作品における書籍、茸に因る効能はフィクションです。
ギャグに走りきれません。
というかこれはギャグなのか?
コメント



1.名無し妖怪削除
ギャグ風味ほのぼの話じゃないかなと思う
卵粥の材料がよくあったななんて思ってしまった
2.名無し妖怪削除
ほのぼのとしてていい感じです
ところでテングダケは食用じゃなかったっけ?