(人気投票の結果出る!)
(博麗の巫女!魔理沙の連覇止める!)
(射命丸文、健闘の3位!)
人気投票の結果が出たことにより、幻想郷中が浮き足立っていた
紅魔館では主と従事者が高ランクを維持して、紅い悪魔健在を示したり
白黒の魔法使いが巫女を称えた後、人形遣いの家で泣き出し魔女三人で残念会をしたり
永遠亭では、人気を取り戻すための作戦会議が行なわれたり
マヨヒガと白玉楼はその主達が飲み会をしていた
そして、お疲れ様の意味を込めて、博麗神社で飲み会が
あるという手紙が様々な所に届けられた
最近妖怪の山に引っ越してきた守谷神社にもその手紙は届いた
「…神奈子様…」
守谷神社の巫女こと東風谷早苗は、守谷神社の二人の神の一人である
八坂神奈子の部屋の前に立っていた
「……なんだい?早苗…」
部屋の扉は空かなかったが、部屋の中から声だけは聞こえてきた
「あの…博麗神社から飲み会があるからって手紙が来てますけど」
早苗が遠慮がちにそう伝えると、しばらくしてから声が帰ってきた
「……ああ、早苗…行って来な…諏訪子もつれて行ってあげるといい」
「…か、神奈子様は…神奈子様は行かないんですか?」
少し声を大きくして伝える、それに対して神奈子は小さい声で呟いた
「……私は留守番してるよ…」
「でしたら私も!」
怒鳴るようにして早苗が叫ぶが、部屋の中から聞こえてきたのは
「……ごめんね早苗…」
そう呟く、か細い声だけだった
人気投票によって傷を受けた者がいた
「……はあ…」
新たに幻想郷の住人になった、守谷神社の神
八坂神奈子は自分の部屋に篭り、ため息をついて酒を飲んでいた
「……なんだか…疲れたよ…」
何時ものような豪快な姿は微塵も見えなかった
そこにいるのは、今にも泣きそうな表情の女性一人
なぜ、彼女がそこまで凹んでいるのかというと
「…私には信仰が無いみたいだね……」
そう呟いて、ちびりちびりと器に注いであるお酒を飲む
何時もなら豪快に一気に飲む干すのだが
「……人気投票…」
そう呟くと、神奈子がちゃぶ台に突っ伏す
「……6ボスなんだよ?私は…」
6ボス…すなわちラスボス…神(神主)が作りし物語において
一番のカリスマを誇ると言う、その場に立つ事は
その物語の一番最後を飾るとても目立つ位置である
「……なんで30位以下…」
今までラスボスの中で一番人気が無かった…
それも、新作として出されてすぐなのに……
人気投票の結果が出た次の日から、守谷神社に天狗が殺到した
曰く ラスボスの中のワーストランキング登録
曰く ガンキャノン
曰く 最低記録更新
……天狗達にとっては話題性がある話であるため
何か話を聞きたいために守谷神社に殺到したのだ
三日間ほどそれが続くと、神奈子は表に出なくなった
性質が悪い事に、その事すらも天狗は新聞に書きたてた
曰く 山の神も引きこもりか?
曰く 八坂の神失踪…
曰く これが本当の神隠し…マヨヒガは全面否定
連日の新聞報道によって、豪快に笑う山の神の姿はすでに見えなくなっていた
ついには、お酒も絶つようになり、大好きだった宴会にも出なくなってしまった
事を大きく見た、大天狗の頭領の天魔は、余計な報道をした天狗達を呼びつけると
一人一人に
「この…(タメ)…戯けが!」
の掛け声とともに、覇王至高拳をカチ食らわせて守谷神社に
謝罪させに来させて、何とか新聞報道合戦は終わりを迎えた
だが、それが終わっても神奈子は表に出れなくなっていた
出ようとしても、怖くて表に出れないのだ
その事を、自らの友でありライバルである洩矢諏訪子に話しかけると
笑われ、手をつながれて表に連れ出されようとしたが
身体が動かなかった……
冗談だと思っていた諏訪子は、事の重大さを知り
それ以降、神奈子の代理として山の神の仕事を引き受けるようになった
神社に篭っているだけでは、流石に神奈子も心苦しいので
家事などをこなしているが長らく早苗にまかせっきりにしてきたので
そんなにうまく出来なかった
そのうち、部屋に篭りボーっとする事が多くなった
食事も食べず、酒も完全に絶ちひたすら部屋に篭り考える
そしてある日、神奈子は遂に何かに気がついた
(……そうだ…もう消えよう…)
それはフッとした考えだった、このまま生きていても
愛する二人に迷惑が掛かる、それならばいっそ消えてしまった方が
皆の役に立つではないか…
いい考えを思いついたと思った神奈子は気が楽になった
「…早苗…神奈子の様子は?」
居間の中で座っていた諏訪子は、目の前にいる早苗に問いかけた
「……駄目です…部屋から一切出てきません」
二人とも心底、神奈子の事を心配していた
この前の宴会の際に、空気を読めない魔理沙が
神奈子の現状について
「お~引きこもりだぜ!」
と軽い感じで答えたとき、頭にきた早苗は思わず魔理沙を掴むと
「……諏訪子様、私ごと刈ってください!」
の掛け声とともに、諏訪子が水面蹴り
そして早苗は大外刈りを決めて、完全に地面にめり込ませた
なお、閻魔様の裁きは
「…無罪……むしろ魔理沙の方を裁く必要があります」
といって、気絶している魔理沙に3時間ほど説教を食らわせた
「……もうこれで1週間になるよ…」
諏訪子が言ったのは神奈子の禁酒の日数
神奈子が酒を断ってから一週間
エンゲル係数は今までの30%から15%まで減っていた
「「はあ…」」
二人がため息をついた時
(がらっ…)
ドアが開く音がして…
「…二人とも…ごめんね」
二人の後ろに神奈子が立ち尽くしていた
「神奈子!」
「神奈子様!」
部屋から出てきた神奈子に対して、早苗と諏訪子が抱きつく
「心配したんですよ!…ひっく…」
「神奈子の馬鹿!……私も心配してたんだから!」
自分の事を心配してくれる二人に対して神奈子は
その頭に手を乗せる
「…ごめんごめん……もう…大丈夫だから」
その言葉を聞いて、二人は喜ぶ
そしてその夜、神奈子が二人に一緒に寝ようかと声をかけた
「…どうしたんですか?」
早苗の言葉に神奈子は
「いや…長らく一人でいたもんだから人恋しくてね」
冗談のように呟くと、早苗も諏訪子も笑いながら首を縦に振った
「あ~う~神奈子…もう少しそっち寄って」
「ああ、でしたら私がもう少しあっちに…」
「もう一つ布団足そうか?」
久しぶりに三人そろって寝る事になって…
「ケロちゃん主催!枕投げ大会開始!」
「す、諏訪子様!?おやめください!」
「よ~し、久しぶりに神の力を見せてやるとするかね」
いつの間にやら、枕投げ大会になっていた
そして、しばらくすると……
「むにゃむにゃ……神奈子…よかった…無事で…」
「すう……すう……」
早苗と諏訪子の二人はすっかり眠っていた
「……やれやれ…結構遅くまで楽しんでしまったね…」
その二人を見て、神奈子はこっそりと部屋に戻り
紙と硯を持ち出して、なにやら書き始めた
そして、全てを書き終えると
「……私も寝ようとするかね…」
再び眠っている早苗と諏訪子の傍に行き
その二人を抱き寄せると眠りについた
(……二人とも…ごめんね…)
意識が夢へと向かう寸前に思ってしまった
次の日の朝、神奈子は二人よりも先に起きると
「さて…久しぶりに朝ご飯でも作ろうか…」
慣れない料理であったが、これも最後かもしれないと思うと
最後ぐらいは、早苗にきちんとした料理を作ってやりたかった
「おはようございます、神奈子様…今朝餉を…」
「うん、おはよう早苗…ご飯できているから、諏訪子を起こしてきてくれないかい?」
エプロンつけて、料理を盛り付けしている神奈子を見て驚くが
急いで諏訪子を起こしにいく早苗の姿を見て
神奈子は微笑む
(ああ、早苗に…もっと親のような事をしてやればよかったねぇ…)
神奈子がそう思っていると、諏訪子が起きてきて驚く
「あ、あ~う~!?」
「ですから本当だって言ったんです…後で賭けた分回収しますからね?」
「さ、早苗…無効試合にして!」
「二人とも、早くしないとご飯冷めちまうよ?」
神奈子が少し呆れ顔で言うと、二人は言い争うのを止めて席についた
「「「頂きます」」」
そして、久しぶりに三人そろっての朝ご飯となった
「諏訪子、今日はどこかにいくのかい?」
「う~ん…まあ、どこか歩き回ってくると思うけど」
食事の途中で神奈子が諏訪湖に質問すると諏訪子はそう答えた
その言葉を聞いて神奈子が頷くと
「…早苗は?」
次に早苗に質問した
「あ、私は今日は里の方に……」
そこまで早苗が伝えると、少しだけ口ごもってから呟いた
「……あの、神奈子様は?」
早苗が心配そうに神奈子を見ると
神奈子は、優しく笑って
「ああ、久しぶりに表を歩こうと思うよ」
その言葉に、早苗と諏訪子が喜ぶ
「外に出るなら、神奈子も一緒にくる?」
「ああ、悪くないけどちょっとやりたい事があるからね」
「あ~う…なら仕方ないね」
諏訪子の提案を、申し訳なさそうに返す
そして、朝ご飯が終わると神奈子が食器を片付け始める
「あ、食器は私が洗いますから…」
「まあまあ、たまには早苗もゆっくりしてな」
「…分かりました」
神奈子の言葉に、一旦引いたと思っていたら
「では、私がやりたいので手伝いますね」
「…仕方ないね…」
口ではそう言っていたが、神奈子は嬉しかった
「早苗、これはここでいいかい?」
「あ、はい」
早苗が洗った皿を神奈子が片付けるその途中
「あの…神奈子様」
「なんだい?早苗?」
早苗が皿を洗うのを止めると
「今日作ったお味噌汁の作り方、教えてくれませんか?」
早苗にそういわれて、神奈子が少しだけ言葉に詰まる
……教えるための時間が足りないからだ
「…ああ、いずれ教えてあげるよ」
とりあえず、その場を収めるために神奈子がそう告げた
「はい!約束ですよ?」
それを聞いた早苗は喜ぶと、再び皿を洗うのを開始した
(…ごめんよ早苗…)
神奈子は心の中でそう呟いた
「じゃあ、少し行ってくるよ」
「あれ?神奈子様…注連縄は?」
早苗がそういうと、神奈子は
「ああ、長らく歩いてなかったから少し重くてね…ちょっと外しておいたよ」
「…そうですか…」
少し違和感があったが、納得してくれたようだった
その後、早苗に見送られて、神奈子は表に歩いていった
神奈子が向かっている先は、幻想郷に古くからある神社
博麗神社、本来なら分社から一気に行く事も出来たが
不思議とゆっくりと歩こうと言う気持ち出ていた
(…まあ、最後になるかもしれないからね……)
そんな事考えながら、山を下ると
博麗神社に向かう道をゆっくりと歩き出した
「……やれやれ…思っている以上に…体力がなくなってるみたいだね…」
しばらく歩いていると、少し疲れてきた
「…しばらく休むとするかね…」
丁度その辺にあった神社を見つけたのでそこで少し座り込む
そして、十分ほどして歩き出そうとしたら
その神社に子供がやってきた
(…ちょっと隠れた方がいいね)
邪魔にならないように、神奈子がそっと隠れると
その子供がお願いをし始めた
「…神様お願いします……里の畑が全滅しなうちに、井戸が掘れますように…」
その言葉を聞いた神奈子は、しばらく考えると
「……ちょっといいかい?」
お願いに来た子供に話しかけた
いきなり話しかけられた子供は驚いたが
人のよさそうな女の人だったので、警戒はしなかった
「うんうん……ちょっとさっきの話、詳しく聞かせてくれないかい?」
神奈子の言葉を聞いて、その子供は少しだけ黙り込むが
しばらくして、神奈子に話し始めた
子供から聞いた話をまとめると
この辺に小さな里があるのだが
その里の畑に必要な水を運ぶ川が
つい最近、近くの山に謎の崖崩れが起きて
完全にせき止められてしまい
里の皆で井戸を掘っているのだが、ほとんど水がでず
このままでは畑の作物が枯れてしまうので
神様にお願いにきたらしい
(なるほど……)
神奈子の頭に崖崩れの原因に思い浮かぶ人物が
数名浮かんだが、今はそれを排除する
そして、その子供の頭をポンと叩くと
「……大丈夫…山の神様はきっと助けてくれるよ…」
そう告げてから、神奈子はその子供に
崖崩れが起きた場所に案内させた
たどり着いた先は、元々川だったはずの所が
固い岩盤によって完全に埋まっていた
普通の人間ならば、どうあがいてもこれを壊す事は無理であるだろう
(…ふむ…まあ、これぐらいなら…)
だが、山ノ神である神奈子ならばこのぐらいの岩盤ぐらい
「ちょっと下がってな?」
後ろに居た子供を、下がらせるとスペルカードを取り出す
神祭『エクスパンデッド・オンバシラ』
壊れるはずが無いと思われていた岩盤を
オンバシラが粉砕する
ひびが入った岩盤から少しづつ水が漏れ始める
「あ~…ちょっとやりすぎたか?」
神奈子はそう思うと、離れていた子供を掴んで
「ちょっと飛ぶよ?」
そのまま、その場所から離れる
そしてその次の瞬間に、岩盤が水の圧力に耐え切れずに
(ざっぱ~ん!!!)
破壊されて元々川だった所を一気に流れていった
(……これでいいね…)
それを見届けてから、神奈子は
驚いている子供を降ろして
「……山の神様は信仰してくれる者に奇跡を起こすんだよ…」
そう伝えてると、博麗神社に向かって歩き始めた
……その時に、昨日の夜に書いた手紙を落としてしまった事に気がつかずに
そして、その子供がそれを拾った事も
それからほんの少しして
神奈子が落とした手紙を
川の流れが急に戻った事を聞いてやってきた
射命丸文によって、守谷神社に届けられた
「こんにちは~」
「…あれ?文さん?」
「はい、新聞です…あ、それとこれ落し物みたいですよ?」
「あ、どうも…」
「では私はこれで!」
射命丸から手渡された手紙には
「早苗と諏訪子へ」
と書いてあった
「……これ…?神奈子様の文字?」
不思議に思った早苗がその手紙を読み始める
『早苗と諏訪子へ
博麗神社でこの手紙を読んでいる頃には
私は消えているだろうと思う
申し訳ない、私はもう疲れてしまった
もう山の神としての自信もなくしてしまった
これ以上私が居ても、二人に迷惑が掛かるだけだから
ちょっと先に神として消えようと思う…
山の神には諏訪子に任せる、この手紙に委任状があるから
大天狗の天魔に見せてやってくれればいい
……早苗…お前はもう大丈夫、私が居なくても
十分やっていける……
諏訪子…勝ち逃げしてごめん…
八坂神奈子』
手紙を確認すると、大急ぎで早苗は諏訪子を呼び出した
「諏訪子様!大変です!」
「なに?早苗…」
「大急ぎで神奈子様を探します!」
完全にパニックになっている早苗の手をつかむ諏訪子
「ま、まってよ?何があったのさ?」
「これ見てください!」
早苗は先ほどの手紙を、諏訪子に手渡す
「なになに?……」
それに目を通していくうちに、諏訪子の目の色が変わる
「……由々しき事態だよ!」
「そうなんですよ!い、急いで神奈子様を探さないと!」
再び神社から飛び出そうとする早苗
「少し待った!」
「だから!早くしないと神奈子様が!」
涙目になりながら、諏訪子に振り返る早苗
「早苗、もう少し落ち着いて」
慌てる早苗を落ち着けさせる諏訪子
「早苗、今神奈子が何処にいるか分かるの?」
「あっ…」
気持ちばかり急いで、何処に神奈子がいるのか
分からないまま飛び出そうとしていた
「…よし、それじゃあ急いで博麗神社に向かうよ?」
「な、なんで?」
「手紙もう一度よく読んで、神奈子は
『博麗神社で』って書いてるじゃない」
「あっ!?」
もう一度手紙をよく読む早苗、気が動転してて
小さなことも見逃していた
「それじゃあ行くよ!早苗」
「は、はい!」
二人はそのま博麗神社に飛ぼうとして
「あの、諏訪子様…」
「なに?早苗」
「……分社から飛んだほうが早いのでは?」
「…急ぐよ!」
諏訪子も気が動転していたのだ
二人に手紙が渡る本の少し前
「……お~い…伊吹萃香はいるかい?」
博麗神社についた神奈子が
酒を取り出して、そう告げると
「呼んだ?」
目の前に小さな女の子が現れた
「ああ、一つお願いしたい事があるんだよ」
その言葉に萃香がめんどくさそうにする
「ええ~…面倒だな…」
神奈子が、面倒そうな萃香に酒を渡すと
「ああ、そうそうこれ報酬ね」
「OK分かった!」
交渉は成立した
「……この辺でいいかね…」
神奈子は萃香を連れて博麗神社の裏手に回る
「で?私は何をすればいいの?」
貰ったお酒を飲みながら、萃香がそう告げると
「ああ……私の身体から出る神気を全て集めて
それを諏訪子に渡してやってほしいんだ」
その言葉を聞いた萃香の動きが止まる
「……待った…神気を?」
「ああ、そうだが?」
「断る!神気って言うのは神の力そのもの、それを集めるって事は」
萃香が神奈子を睨む
「…消えるんだよ?八坂神奈子と言う神の存在が」
神気とは神の力そのもの、それが無くなるという事は
神を構成しているものが全て消えるという事だ
つまり、神奈子がしようとしているのは
「自殺するつもり!?」
神の自殺だ
「……ああ」
神奈子が首を縦に振る
「ばかばかしい!酔いが覚めた…帰る!」
萃香が後ろを振り返る、だが神奈子はその背中に向かって呟く
「鬼は嘘をつかない」
「!?」
その言葉を聞いて、萃香がしまったという顔になる
「……さっきOKという言葉を聞いている上に、
お前さんは酒を飲み干してしまった」
「ぐっ…」
鬼は嘘をつかない、約束した事は守らなければならない
「……では頼むよ」
「…畜生…」
神奈子は己の身体から神気を放出する
そして、それを萃香が仕方なく集める
(……諏訪子…昔の分の借り…今返すよ)
神奈子の意識が少しずつ薄れていく
そして、真っ白になる
「……ここは?」
気がつけば、そこは何も無い空間だった
「…はは、意識だけはあるみたいだね…」
神奈子がそう思うと目の前から誰かが現れた
(おや?誰だい?こんな所に…)
目の前に現れたのは、緑の髪で杖を持つ魔法使いのような女性だった
「…あんたは?」
神奈子が問いかけると、目の前の女性が頷く
(ああ、私は魅魔って言うものだよ)
「魅魔?…誰かから聞いた事あるような」
神奈子が頭を悩ませていると
(まあ、たいした事無いさ、昔幻想郷で祟り神をしていただけの者さ)
その言葉を聞いて、神奈子の頭に白黒の魔法使いの姿が思い出される
「そうか、あんたがあの白黒の師匠か」
白黒と聞いて、魅魔が眉をひそめる
それを見た神奈子が笑いながら魅魔に告げる
「魔理沙の事だよ」
その名前を聞いた魅魔が驚く
(魔理沙の事を知っているのかい!?)
「ああ、私の神社に喧嘩売って来た人間の一人だからね…」
その後、しばらくの間お互いの事を話あった
魅魔は、魔理沙の昔の事や可愛かった話を(いわば惚気)
一方神奈子の方は、宴会があった時の話と自分と互角に渡り合った話を
「……ところで、ここは何処なんだい?」
神奈子が魅魔にそう話すと
(ここかい?ここは忘れさられたものが消える前の場所ってところかな)
神奈子がその言葉を聞いて、黙っていると
(ところで、お前さんの名前まだ聞いていなかったね…)
魅魔にそう問いかけられて、神奈子は自分の名前を名乗った
「ああ…つい最近幻想郷にやってきた、守谷神社の神…八坂神奈子さ」
その名前を聞いた魅魔が驚く
(驚いた、私と同じ神かい)
その問いかけに頷く神奈子、それを見た魅魔が
(…ここに来た経緯を教えてくれないかい?)
そう告げてきた
「…まあ、同じ神同士なら何かいい話聞かせてくれるかも知れないね…」
そして、神奈子は自らの事を魅魔に話した
自分には大切な家族がいたこと
人気投票で思っている以上に人気がなかったこと
そのせいで天狗に話の種にされて引きこもった事
そして、これ以上居ても、自分の大切な家族に迷惑がかかる事
その全てを目の前の魅魔に話した
「…で、ここにやってきたわけだ」
神奈子がそこまで話すと、魅魔が腕を組んで呟いた
(あのねぇ…一言良いかい?)
「どうぞ?」
(この大馬鹿!)
「なっ!?」
馬鹿と言われた事はあったが、初めて会った神に
大馬鹿!と言われるのは初めてだった
(人気投票ぐらいでなんだい!私や魔界神のように出番がほしいのに
もらえないものだっているんだよ!?
それが人気が無いからとか、信仰が無いからだとか
話のネタにされたからって、そんなものでこんな所に来るんじゃないよ!)
「えっ、あっ…すみません…」
魅魔にそう畳み掛けられて、たじたじになる神奈子
(…それに、大切な家族がいるから消えるだって?
それでその家族が泣いているのなら、本末転倒じゃないか!)
魅魔が隣を指差すと、そこに映像が浮かんでいた
「神奈子様!…何処にいるのですか!?神奈子様!」
「早苗!?」
目の前に移った映像には、泣きながら自分の名前を呼ぶ早苗の姿が
「神奈子の馬鹿~!早く出て来い~!」
「諏訪子まで…」
二人が博麗神社の裏手で声を上げて自分を探していた
(これ見ても、まだ消えようとするかい!?お前さんは!?)
魅魔の言葉を聞いてはっきりした
「…まだやり残した事を思い出したよ」
神奈子は立ち上がる
「まだ私の娘(さなえ)に味噌汁の作り方教えてなかった」
その言葉を聞いた魅魔が微笑を浮かべる
(それは大変だ、私もまだ弟子に教えてなかった…)
そう告げてから、魅魔がある一点を指差す
(この方角を真っ直ぐ進みな、お前さんならまだ何とか戻れるはずだ)
その方行に向かって、神奈子が走り出す
「感謝するよ、今度守谷神社に遊びに来るといい、取っておきのお酒を用意しておくよ」
(ああ、是非のみに行く事にしよう)
魅魔と神奈子はお互いに笑い会うとそのまま別れた
博麗神社の裏手を探し回った
もうすでにあたりは暗くなっていた
「神奈子様~!…何処に行ったんですか~…」
「…早苗……」
「諏訪子様…どうですか?」
早苗の方を向いて、首を横に振る諏訪子
「鬼も手伝ってくれたけど…」
「そんな…」
絶望的だった、萃香の能力で探したけど見つからないのなら
「まだ探してない所があるはずです!」
「早苗……」
二人とも身体はボロボロだった
それでも、早苗は諦めなかった
「だって…神奈子様…私に料理を教えてくれるって…」
目に涙を溜めながら、早苗は再び辺りを探そうとした時だった
二人の近くの場所が光を放っていた
「「!?」」
そこは、奇しくも萃香が神奈子から神気を集めるように頼まれた場所だった
あまりの眩しさに目を閉じる二人、そしてその光が止むと
「……いけないいけない…早苗にお味噌汁の作り方教えないといけなかった」
目の前から、探している人の声が聞こえてきた
「か、神奈子様…」
「神奈子!」
「あっちに行こうとしたら、幻想郷の先代に怒られちまったよ」
神奈子がそう呟くと
「「うわ~~~ん!!!」」
早苗と諏訪子の二人が神奈子に抱きついた
その二人の頭を撫でる神奈子
(幸せだよ…私には…まだ帰るべき場所がある)
こうして、守谷神社の八坂神奈子失踪事件は幕を閉じた
それからしばらく経って…
神奈子はすっかり元に戻っていた
妖怪の山の者達の目の前に姿を現すと
その中で、酒を一升飲み干して、拍手を浴びて
山の神健在をその場に現した
「…早苗、ちょっと行ってくるよ?」
「あ、何処に行くんですか?」
夜も更けてかなり遅い時間に、神奈子は酒を片手に
どこかに行こうとして、早苗に呼び止められた
「ああ、命の恩人と酒を飲もうかとね…」
「命の?」
早苗が首をかしげている間に、神奈子は外に向かった
守谷神社の屋根の上で、神奈子は座って待っていた
「……もうそろそろかね…」
神奈子が御酒を二つの杯に入れると
そのうちの一つが、宙に浮く
そして、そのお酒がある高さで止まると
「乾杯といこうか…」
その杯を手に持った、人物の姿が現れた
「ああ、で?なんに乾杯にするんだい?」
神奈子も、もう一つの杯を構える
「ああ、そうだね……娘…でいいかな?」
「なるほど、それはいい」
その言葉とともに、魅魔と神奈子が杯を持ち上げる
「わが馬鹿弟子(まりさ)に」
「私の可愛い娘(さなえ)に」
「「乾杯!」」
お終い
油断した、としか言いようがありませんね。
吹いたけど
と思うけど、早苗と諏訪子なに賭けしとんねんw
うん。ちょっぴりじーんときましたわ。