ちくちくと針を刺す音が聞こえてきそうな部屋の中、椅子に座るアリスが新たな人形を作っている。
家の外はしとしとと小雨が降り、止む気配をみせない。この小雨は3日前から続いていた。
洗濯物を外に干すことができないが、その前に一ヶ月ほど雨が降らないという状況が続いたので、うっとうしいと思うものは少ない。
いつでも外出できるようにと、友の魔女に雨を止めてもらっていた吸血鬼が巫女に懲らしめられたが、今回は関係のない話だ。
集中して人形作りに精を出していたアリスに耳に微かに音が届く。一度気づくと無視することはできず、気になって作業が止まってしまう。
人形をテーブルにそっと置いて、音の聞こえてきた玄関に向かう。
開けるとそこにいたのは魔理沙だった。
「おぉー、いつもより出てくるのが遅かったからいないのかと思った」
「人形を作っていたのよ」
「そりゃ運がよかった」
人形を作っているときのアリスは集中してて、来ても気づかれないときがある。そのことに対して運がよかったと言っているのだろう。
その場で服についた水滴を払い、箒は玄関に置いて、家に入る。
「おっサンキュー上海」
上海人形が持ってきたタオルを礼を言って受け取る。
雨避けに来ていた外套と帽子を椅子に置いて、濡れた顔や髪を拭いていく。
「うっとうしい雨だなぁ。いつから降ってるんだ?」
「いつからって3日くらい前からだけど、知らないの?」
「5日前から魔法の研究で篭りっきりだったからな、知らなかったぜ」
一通り拭いてから魔理沙は椅子に座る。
コトリと紅茶で満たされたティーカップが置かれる。ふわりと湯気が漂い、いい匂いが鼻をくすぐる。
魔理沙が拭いている間に入れたものだ。
小さな鼻歌が聞こえていたので上機嫌なんだろうなと魔理沙は思う。
「ありがと。少し体が冷えてたんだ」
包み込むように両手で持つ。ティーカップからジーンと暖かさが伝わってきた。
そんな魔理沙を笑顔で見ながらアリスは聞く。
「研究って何してたの?」
「おいおい。魔法使いが研究内容を聞かれて、答えると思っているのか?
まっいいけど」
簡単に言葉を撤回し、ティーカップを傾ける。
ずずっと紅茶をすすり、その音にアリスは少し顔をしかめた。
「美味しいぜ」
「ありがと」
「それで研究内容だったな。
マスタースパークの威力をもっと上げようとしてたんだ」
それを聞いてアリスは呆れた表情になる。
今でも十分な火力を誇っているのだから当然だろう。
「……呆れたわ。今の威力で満足してないの?」
「満足したら、そこで止まる。だから私はまだまだ追及していく。
それに弾幕はパワーが信条だからな」
アリスにはいまいち納得できないような答えだが、魔理沙自身はそれで納得している。
「それで上手くいったの?」
「威力自体は少し上がったんだがなぁ……持続性がなくなったから成功とは言いがたいかな」
「一撃に全てをかけるって感じなのかしらね?」
「それであってると思うぜ」
蓬莱人形の持ってきたクッキーを食べながら頷く。
利点と欠点を考えてみて、思いついたことをアリスは口に出す。
「威力の代わりに命中精度が下がったのね。たしかに成功とは言いがたいかも」
「だろ?」
魔理沙に頷き返して紅茶を飲み、ふと気づいた。
「何か用事があってきたんでしょう?
なんの用なのかしら」
「今日は特に用事はないぜ。暇だったから来たんだ」
あっさりと答える。
それを聞いてアリスの表情が少し変わる。傷ついたような表情だ。
それはすぐに隠され硬い表情になる。
「……そう、私は忙しいの人形も作ってる途中だし、帰ってくれる?」
疑問系の形をとってはいるが命令に近い。
アリスの意を受け人形たちがティーカップやクッキーののった皿を下げていく。
「おいおい、お茶や菓子を出して歓迎したのにそれはないだろ。
それに人形作りっていったって急ぐようなものでもないだろう?」
「忙しいって言ったら忙しいの!
暇を潰したいなら霊夢やパチュリーのところへでも行けばいいじゃない」
「急にどうしたんだ?」
さっきまで上機嫌だったのに、急に不機嫌になる理由がさっぱりわからない。
「…………」
やや俯き気味でアリスは黙ったまま。
やがてぽつりぽつりと言葉がこぼれ出る。
「……来てくれて嬉しがった私が馬鹿みたいじゃない。
いつくるのかしらって楽しみにしてたのに……紅茶もクッキーも上手にできるように練習して……。
……暇なときくらいにしか私のところにこないなんて」
「暇なときにしかくる価値がないっていうんなら勘違いだぜ」
呟きを聞いて納得した魔理沙。
「……?」
「今日は休むって決めて、何しようか考えて一番始めに浮かんだのがアリスの顔だ。
霊夢やパチュリーやほかの誰でもなくな。
私はアリスに会いたくなったんだ」
「……それって」
「今日っていう一日を一緒に過ごしたくて来たんだぜ?
わかったんなら紅茶をもう一度いれてくれないか。まだ飲みたいんだ」
自分の言ったセリフが少し恥ずかしかったのか、赤く染めた顔をアリスから背けて催促する。
アリスも早とちりしたことが恥ずかしく顔を赤く染めて、台所へと小走りで向かう。
お茶を入れる間に、互いになんとか落ち着いて平静を装う。
「そ、それでこれから何をしようかしら」
「ゆっくりと考えればいいさ。時間はたくさんある。慌てずにゆったりと二人の時間を過ごそうじゃないか」
「……私はあなたがいるだけで満足よ」
聞こえないように呟いたつもりだろうが、しっかりと魔理沙の耳に届いていた。
「……まいったな」
「何が?」
「借りた物全部持ってくるのは大変そうだ」
なぜそんなことを言い出したのかアリスにはわからない。
「死んだら返すって言ってたじゃない。
そりゃ返ってくるのは嬉しいけど、どうして急にそんなことを?」
「さっきの殺し文句が効いたからだ。
私がいれば満足っていうな。一回死ぬくらいには強力なセリフだったぜ?」
聞こえたのかと再びアリスは顔を赤くした。さっきよりも赤い。頭から湯気が出そうな勢いだ。
そんな主人の様子を自意識のないはずの上海人形たちが、物陰から微笑ましそうに見ていた。
そんなある雨の日のなんでもない話。
十分甘くて良いと思います。
アリス可愛いよアリス
殺す気かw
口から甘いもの垂れ流しよって・・・
魔理沙、このタラシめが!