Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

香霖堂の夜

2008/03/26 07:56:04
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「笑う門には福来たる、だって」
「いきなりどうしたんだい、ルーミア」

 辺りは漆黒に塗りつぶされた暗闇、時刻は日の出の間近。微かに見える建物の輪郭が香霖堂だと示しているのは、店内のランプの灯火と店外の牛乳まみれの野良犬臭だけだ。ランプが照らす人物は霖之助と、その膝の上にいるルーミアだけだった。

「えーりん? に聞いたの。はた迷惑な芸術家の人の決め台詞だって」
「そうか」

 うなずいた後、ため息を吐いた。できるなら、この子には余計な事を教えこんで欲しくないというのが霖之助の意思だ。今回は特に悪いことでもなかったが、これが紫やてゐだったら、何を教えるか分かったものではない。もう一度、今度はこっそりため息を吐く。

「霖之助、笑わないね。幸せがにげちゃうよ?」
「僕は大分笑っていると思うんだけどね」
「うそついちゃ、だめ」
「…嘘じゃないよ」
「うそだよ」
「まぁ、嘘だけど」

 ルーミアに言い負かされる霖之助。中々にシュールな光景だった。一瞬満足そうにしたルーミアだが、すぐに唇を尖らせる。

「ちゃんと笑わないとだめ」
「…今日だって笑ってたじゃないか。君も見たろう?」

 なんとなく、少し子供じみた反撃をしてみた。悔しかったのだろうか、霖之助の眉間には皺が寄っている。しかし、ルーミアは得意げに鼻を鳴らし、ついでに胸をはった。

「知ってるよ、ああいうのを『営業スマイル』って言うんだよね」

 今日の霖之助は、悉く旗色が悪い。不意打ちを食らい、一瞬だけ思考を停止してしまった。そしてまた余計な事を吹き込んだ誰かに対して、霖之助自身も良く分かっていない感情が動いた。父性本能とか、その辺りだと思うが。

「またそんな言葉、どこから…」
「咲夜から」
「…」

 思わず黙り込む霖之助。敵は常連で友好的な客ばかりだ。どう注意しようか真剣に悩んでいると、ルーミアがさらに続ける。

「なんかね、「最近、『営業スマイル』が上手くなった」って」

 商人として喜ぶべきなのだろうか。それとも、接客業を始めてもう結構な時が経ったのに、今更目に見えて上手くなったと言われたことに落ち込めばいいのか微妙なところだ。そして、今日何度目かのため息を吐く。ここ最近の癖になっているようだった。

「彼女はいったい…、なにをしに来ているんだろうね」
「霖之助かんさつじゃない?」

 ぞっとしない話だった。それこそ、彼女が監視しようと思えば、完遂なぞ容易いだろう。しかし、冗談と分かっている。だから、

「それは末恐ろしい」
「こわいね」
「ああ、恐い」

 冗談で返した。半ば本音もこめて。こういうやり取りも悪くない、とほんの少しだけ顔を緩める霖之助。それにしても、幻想郷は敵対したくない存在だらけだ。烏天狗とか、スキマ妖怪とか。霖之助の脳内に上がる名前はどれも、誰もが弱みを握らせたくない相手だった。

 その後、暫く無言が続いた。居辛いわけではないが、なにかが不協しているような気がした。

「咲夜にはあげないからね」
「…いきなりどうしたんだい?」

 不意に、ポツリとルーミアが呟いた。冗談には、半分も聞こえなかった。それでも多少は混ざっている。しかし、その真意を測ることをできない。なにせ冗談交じりなのだから。

「霖之助は私のなんだから」

 その一言で、少なくとも霖之助は理解したと思った。そして、またため息。彼が幸せに触れるのは、また先延ばしになった。

「…前に再三言った覚えがあるんだけどな。僕は不味いよ」

 ルーミアの捕食から逃げるための方便なのだが。今ならきっと、本当の事を言っても食われない気がした。それでも、なんとなく嘘を突き通す。

「だいじょうぶ」
「何が」

 しかし回答は霖之助の思わぬところにあった。思わず反射で聞き返してしまうほどに、その答えは霖之助にとって予想外だった。

「味は関係ないから」
「君は、不味いからと言って食べるのを止めたはずなんだけどね」
「だいじょうぶ」
「…はぁ」

 気の抜けた返事しかできなかった。言っている意味が、霖之助にはこの上なく難解だった。

「霖之助は私のなんだから」
「二度言わなくても、もう分かっているよ」

 しかし悪い気はしない。ふと微笑み、唇を尖らせていたルーミアの頭を撫でてやる。ルーミアもご満悦のようだ。

 先延ばしになったはずの幸福は、しかし存外近くにあり続けている。もちろん、霖之助は気付いていないが。



萃(折角酒飲みに起きたのに、出にくい…)


 もはや何が書きたかったか分からない生臭い人です。あ、そうだ。甘いのが書きたかったんだ。
 しかし、これは甘いでしょうか。甘くてもなんかこう、変じゃないでしょうか。オチも弱い気がします。しかし書き直せば書き直すほど泥沼にはまっていきます。どうしようもありません。助けてえーりん、というフレーズはこんな時にこそ使うべきでしょうか? やはり会話を先に書いてから文を付けて行く、というのは無理があったかもしれません。 
 今回は香霖堂:夜の部です。メインは宣言どおりルーミアです。サブは霖之助の父性本能かもしれません。わりとそういう想像がつきやすい気もします。。前回のような物はありませんが、勘弁してください。
 黄昏の部なんかも書いたりしています。構想は概ね終わっているのに、どうも書き出しが上手く行きません…。もどかしい気持ちで一杯です。

 では、ここまで読んでくださり、ありがとうございました。御容赦を。


3/29 ちょっと手直し


 以下はコメント返しです。


・つくし様
 空気を大事にしているので、その御言葉は大変励みになります。本当はもう少しお花畑なことを書きたいのですが…。
 そして、調べてみたら同じ事を考えてる人を見つけました。妙な気分です。

・小一時間の御方
 なんだか、こう根とかがはみ出て腐った盆栽のようなイメージが付きまとうのです。
 …と、いうわけで、甘いのにしてみました。ご期待に添えたか、微妙なところですが…。

・霖之助は萃香の嫁の御方
 萃「お前、私の女房か」 霖「…似たようなものだよ」
 やはり、あのような話だと元ネタが分からないとどうにもなりませんねぇ…。

・洒落の御方
 逸作とは、また大げさな。でも、ありがとう御座います。
 ああいったことを、臨機応変に言える様になりたいです。

・欠片の屑様
 理想は、一枚絵のようなお話なんです。一歩近づけた気がしました。
 そして、『マケイン』の処理に困っています。どうしよう…。

・夜の部wktkの御方
 というわけで、夜の部です。
 今回は雰囲気が変わって、なんか残念な感じです。すいません。

・ニヤリな御方
 終始ニヤニヤさせたいのですが、難しいです…。
 雰囲気を、出そうとすると空ぶってしまいます。精進しなくては…。

・テンポとキレの御方
 テンポを大事に、大事にと思えば思うほど、なんだかちょっとずつずれていってしまいます。
 ああ、もっとお花畑なこと書きたいなぁ…。

 それでは、コメントありがとうございました。
生植木
http://firstchamber.blog82.fc2.com/
コメント



1.名無し妖怪削除
ルーミア超可愛いよ
霖之助が考えてる守るとルーミアが考えてる守るでは相違点がありますね
そしてあとがきの萃香がだんなの浮気現場を見た正妻みたいだwww
2.名無し妖怪削除
いやいや、なかなかにディモールトよかったですよ。
ルーミアのかわいらしさが存分に表れてました。
3.名無し妖怪削除
撫でるとご満悦なルーミア可愛い
いまなら愛っていうスパイスがきいてて美味しいかも、という妄想が浮かんだ
4.名無し妖怪削除
言い負かされる霖之助とは珍しい。
しかしルーミアのまさかの俺のもの発言に対する霖之助のスルーっぷりが笑える。
5.名無し妖怪削除
りんはるみゃの愛人(ラ・マン)で萃香の出来た嫁。むしろ幻想郷の嫁でオーケィな気がしないでもない。
何故か雨の日の午後、若しくは真夏の静かに暑い夜を幻視しました。個人的にこのテンポは好きです。
6.名無し妖怪削除
りんはるみゃの愛人(ラ・マン)で萃香の出来た嫁。いやむしろ幻想郷の新妻でオーケィな気がしないでもない。
何故か雨の日の午後、若しくは真夏の静かに暑い夜を幻視しました。個人的にこのテンポは好きです。
7.欠片の屑削除
ランプの淡い明かりの中、部屋の中で聞こえる音は風で木の擦れる音くらい。とても渋くていい風景が見えました。
しかしほのかに漂う香りは、牛乳まみれの野良犬臭w
そして、日の出間近から酒を呑もうとすな!萃香さんw
8.名無し妖怪削除
幻想郷はストーキング要員大杉ww
9.名無し妖怪削除
この妻と愛人を囲っている香霖を客じゃない常連二人がみたらどうなるか気になりますねw
10.つくし削除
うおおおおおおお誰も言わないなら俺が言ってやる!

こーりんころs(萃香とルーミアにより排除されました
11.名無し妖精削除
なんという戯言遣いw
ルーミアに言い負かされる霖之助はなんか新鮮ですね

でも、夜明け前まで起きてるって、霖之助はいつ寝てるんだ?
12.名無し妖怪削除
幻想郷中を敵に回しても、こーりんは渡すものか!