私は人形。だから病気にはならない。
私は人形。でも体の調子がおかしくなることはある。
私は人形。医者には私は治せない。
だから永琳のところじゃなくて、あの人のところへ行く。
人形が大好きなアリスおねーさんのところへ。
その日はアリスおねーさんに言われた定期健診という日。
動く人形はちょくちょく点検しないとすぐに悪いところがでるらしい。
私も動く人形だから診てもらう。
優しい声で、柔らかな手で、真剣な目で、私を診る。
私の話を楽しそうに聞いてくれる、一緒に笑ってくれる、真面目に聞いてくれる。
そんなアリスおねーさんがスーさんの次に好き。
スーさんにいってきますと告げて、アリスおねーさんの住む森に向かう。
スーさんはゆらゆらと揺れて見送ってくれた。
あちこちと寄り道して森に到着。
ここからは歩いていく。特に意味はない、ただ歩きたくなっただけ。
いつもは飛んでいて知らない何かが見れるかもしれないから。
森の中は居心地がよかったり、ぽつんと陽の射す場所があったり、大きな茸があったり、楽しい。
次にきたときも歩いてみよう。
「かーごめかーごめ、かーごのなーかのとーりーは」
そろそろアリスおねーさんの家につくかなと思った頃、歌が聞こえてきた。
アリスおねーさんの歌声。きれーで楽しそうな声。
歌をもっと聴きたくて静かに近づいていった。
アリスおねーさんは家の前で座り込んでた。そのアリスおねーさんの周りを上海や蓬莱たちがくるくる回ってる。
「うしろのしょーめんだーれ?
う~ん……オルレアンかしら?
あら、外れね。今度は当てるわよ。
かーごめかーごめ、かーごのなーかのとーりーは」
楽しそうに笑ってまた歌いだした。
アリスおねーさん笑ってて楽しそう。上海たちもとても楽しそう。
でもなんでだろう。あの光景を見て、心がきゅーっとなる。目から水が溢れ出る。
なんでだろう。あの光景に踏み込めない。
こんなこと初めて。
わからないことだらけで、その場を離れる。
森の中をさすらってたら黒白に会った。
わからないことは誰かに聞いてみるのもいいと永琳が言ってたから聞いてみた。
見たことを話したら、黒白も目から水を出した。
「もうちょっと優しくあげるか」
水を拭きながら黒白は妙に優しい目をして言った。
「?」
「ああ、すまん。なんできゅーっとなって、水が出たのかだったな?
それは哀しかったからだと思うぜ。人形がたくさんいるっていっても操っているのはアリスだ。
人形のお前にはそれがよくわかっていたんだろう。
一人で騒いで楽しんでいるアリスを見てあわれに思ったのさ。
水が出たのは感情が昂ったせいだ。その水は涙っていうんだ」
「そうなんだ」
「アリスには見たってこと言わないほうがいい。ほかの誰にも秘密だ
嫌がるだろうからな」
アリスおねーさんが嫌がることはしたくない。
「わかった。誰にも言わない」
「わたしはもういくぜ。お前も健診があるんだろ?」
「うん」
黒白は飛んでいった。私ももう一度アリスおねーさんのところに行こう。
アリスおねーさんの家に行くと歌はもう終っていて、笑顔で出迎えてくれた。
目を赤くしている私を心配してくれたアリスおねーさんはやっぱり優しい。
だから見たことは絶対に言わない。
今日だけじゃなくて何度か、楽しそうに人形たちとかくれんぼしたり、おにごっこするアリスおねーさんを見かけることになる。
それらを見るたびに涙が出た。
でも誰にも言わなかった。アリスおねーさんが好きだから。
弁明するとアリスは友達の少なさを人形で紛らせていたわけではない。
当たり前だ。自分で操っている人形相手にそんなことするのは寂しすぎるとわかっている。
ただ新作の人形の調子を動かすことで確かめていただけだ。
動かすうちに少し楽しくなってしまったのは事実だが、最初からそれが狙いだったわけではない。
アリスにとって不運だったのは、経験が少なく心も発展途上のメディスンに見られたこと。
見られたと気づけば言い訳しただろう。しかしいつも飛んでくるメディスンが、森から見ていたと気づけるのは難しい。
さらに不運だったのは、メディスンが魔理沙に見たままを上手く説明できずに、誤解されたことだろう。
一番の不運は、アリス本人が誤解されていると気づいていなくて、以前よりも頻繁に魔理沙が訪れてくることを嬉しがっていることだろうか。
脱字らしきモノ
「~優しくあげるか」→「~優しくしてあげるか」