あるところに渡し守を生業としている死神がおりました。
この死神は誰もが一目でわかるなまけ者でした。
毎日死者の霊を一人ずつ彼岸へつれていくよりほかには、仕事はなにもありませんでしたが、それでも、一日の仕事を終えてうちへもどってくると、ため息をつきました。
「ほんとにこいつは、ひどい重荷だな」と死神は言いました。決して自身の胸部にある二つの塊のことを言っているのではありません。
「こんなふうに死人を一人一人と毎日毎日、草木が眠るまで彼岸へつれていくというのは、ひどく骨の折れる仕事だよ。番をしながらころがって寝ていられるならまだしも、とんでもない、ちゃんと両の目をあけていなくちゃならない。お客を待たせちゃ怒られてしまうからね。いったいどうやって休みをとり、どうやって暮らしを楽しんだらいいんだ」。
死神は腰をおろして脳みそをしぼり、どうしたらこの重荷を肩からおろすことができるのか、とくと考えてみました。しかしいくら考えてもなかなかよい知恵はうかびませんでした。うとうとと死神の頭が何度か舟を漕いだ頃に、突然目からうろこが落ちるような思いをしました。
実際に落ちたのは眠気なのだけど。
「わかったよ、どうしたらいいのかが」と死神はさけびました。
「働き者と結婚すればいいんだ。そうすればあたいが体をこき使わずともそいつがどうにかしてしまうだろう」。
死神は眠気と一緒に仕事への矜持も落としたようです。
そういうわけで死神は立ち上がると、だるい体を動かして、自分の上司の家を目指しました。死神の知る一番の働き者は、彼女しかいなかったからです。そして、働き者で身持ちのよい貴女を自分のお嫁に欲しい、と言いました。
彼女は長くは考えませんでした。「貴女と共にあれば、胸の内も外も豊かになりそうです」と言って、承知しました。彼女は視線を真下に向けると足が見えてしまうことが嫌いでした。
さて、働き者のお嫁さんは死神のおかみさんとなり、彼女を四六時中支えようと努めました。
いっぽう、死神はすてきな日々をすごしておりました。骨休めといえば、なまけたあとにするだけで、仕事のあとにする必要はなくなりました。それでもときには、働き者のお嫁さんの言うとおりにしましたが、それはあまりにもゆっくりで、掌中のものを左から右へ移す程度の容易な仕事にさえ、たっぷりと時間を費やすほどでした。
これを見て、働き者のお嫁さんは「もう少し仕事に精を出しなさい。そうしておけば、あとでとる休みの味をよくすることができますよ。眠り続けていては休みの味もまるっきりわからなくなってしまいます」と言いました。
ところが死神は、なまけることにかけては誰にもひけをとりません。
「わざわざ暮らしをつらいものにする必要なんてありませんよ。そこらにある花だって日の光を浴びるだけ浴びてのんびりしていればいいんですよ。わたしたちもそれに習ってみましょうよ」。
「花はわたしたちの視界を鮮やかにしますが、貴女のその浅はかな考えもまた鮮やかといえるでしょう。しかし、それではあまりにつまらない」と働き者のお嫁さんは返事をしました。
「しかしですね」と死神は言いかえしました。
「その休みを良くする隠し味も今じゃご飯代わりですよ。わたしはこのなりゆきを、ありがたく受け入れるとします」。
何か、言いたそうな働き者のお嫁さんに死神は続けます。
「いつだって、肝心なときにおくれるなんてことはないんですよ。こんな話を知っていますか?ある男があるとき結婚式に呼ばれて、出かけていきました。けれど着いたときにはその場にいた人たちが子どもの誕生を祝福していたんです。焦った男はどういうことかと知ろうとしたときについ転んでしまい、『急ぐと良いことはない』って言ったんですって。
結局、男が行くべきは隣の教会だったんです」。
鉄拳正妻や映姫様の結婚理由が笑えたよw