「暇なんだよ、霖之助」
「…昔、大陸では十日に一度しか休日が無かったという話なんだけどね」
先日河童の襲来があってから、香霖堂は概ね平和だった。店の外にある『マケイン』を見なかったことにすれば。今日は雨が降り頻り、恐らく客は来ないだろう。それでも一応、一応は店なのでこうして半妖店長と鬼店員が暇になると分かっていても店番をしている。ルーミアは未だ睡眠中。元が夜行性なので早起きしろ、というのが無理な話だった。
「え~。ここはロータスでエイジアな国だろ? 多少のゆとりくらい許してくれるって」
「蓮の花は印度の国花だよ。それにここは幻想郷だ。隙を見せたら食われてしまう」
「いつからそんな遊星からの使者の住処みたいな状況になったんだよ、幻想郷…」
地を打つ雨は激しさを増し始める。それはまるで滂沱の如く。迂闊に走ったらそれこそ服の命が亡くなるだろう。それでも外を走り回る者がいるのはきっと、万国共通だろう。
「違うのかい? 僕はつい最近、河童に襲撃されたり妖怪に食われそうになったりしたんだが」
「それは霖之助が特殊なだけだって…」
行動範囲があんなにも狭いのにこれだけのことがあるのは、確かに少数派だろう。霖之助は心外そうに頬を掻いたが、しかし納得してため息を一つ吐くだけにした。何か変な臭いを発しているのか心配になってきた霖之助をよそに、今度は萃香がため息を吐く。
「暇だ。霖之助、どうにかしてくれ」
「本でも読むかい?」
「…やめとく。ここは気を利かせて、甘言の一つでも言ってくれればいいものを…」
「どうでもいいけど、それ、使い方あっているのかい?」
そういいながらも本を受け取る萃香。しかし読まずに勘定台に置き、パタパタとその上にまた別の本を重ねる。暫くの間その作業をしていたかと思うと、不意に手を止めて考え込み、そして一度崩してからやり直す。そんな事を繰り替えしていたが、突然納得したように頷くと、台所に向かい、あるものを取り出してきた。
「檸檬なんか、どうするつもりだい?」
なんとなく気になって、霖之助は尋ねてみた。すると萃香は悪戯を企んでいる子供のような表情で
「こうする」
と言って、その本の山の上に檸檬を一つ置いた。そしてニヤニヤと笑う。
「どうだ霖之助、爆弾だ。時限式だぞ」
何を言っているのかと一瞬呆気にとられた霖之助だが、対抗するようにクツクツと微笑む。そして一言。
「そうか。でも、その爆弾の解体方法なら知っているよ」
そう言うとレモンを持って台所に消える。こんどは萃香が呆気にとられた。そして数分後、霖之助は一つの皿を持ってあらわれた。
「黄色を切れば止まる」
その皿の上には六つに切られたレモンが置いてあった。暫く呆気に取られていた萃香だが、盛大にため息をつき、レモンに手を伸ばす。そして頬張りながら、また一つ溜息。
「まったく、つまらない人間だな、霖之助は」
しかしそれはどこか楽しそうな雰囲気を纏っていた。そのまま外は暗くなり、もう一人の居候が起きだす。店の中はほんの少しだけ騒がしくなるだろう。
それでも、今日の香霖堂はどこまでも清閑で長閑だった。
しかしあの黄色い時限爆弾を解体して見せたのはあなたが初めてではなかろうか
あーだめだこの空気好きだ
カップリング話も好きだけどこういう雰囲気の話も大好きです
夜の部も頑張ってください
欲を出すなら甘いのも見たいですwww
それにしてもこの霖之助が萃香さんの嫁に見えて仕方ない。
これは実に洒落の利いた、逸作ですな。お見事。
酸っぱそうに顔をしかめた微笑ましい姿も見えてきそうですね。
香霖が肺を患った病弱な男性に思えてくる、そんな不思議な綺麗さがありました。
淡いセピア色の空気が漂うお話、ごちそうさまでした。
…しかし、それもこれも店の外にある『マケイン』で全てぶち壊…うわっ!雨降ったから臭ぇ!!
文章の雰囲気と解体の仕方がすばらしいw
夜の部もwktkして待っておりますw
ニヤりとさせられる作品だった。
いいなぁ、コレ。