暖かくなった日の光が差し込む縁側。そこから遠くに、霞のように咲き誇る梅が見える。
「春、ね」
気がつけばすっかり三月に入った。リリーホワイトの嬉々として弾を撒き散らす様も先
日見たばかりである。春雪異変なんてどこへやら。私は平凡な風流を楽しむために茶を沸
かし、その梅を眺めながら、何の異変もない午後の飲茶タイムを楽しむことにした。
「何も無いってのも退屈かもね」
熱めの茶を一口して、一息と共に独り言。心のどこかで、異変を楽しんでいるのかもし
れない。いけないことねと思いつつ、ほどよく温かいお茶をもう一口。お日様が心地よい。
梅を眺めると、その桃色の地に何やら影が見えた。そしてその影がこちらに近づいてく
る。毎度のように誰かおいでなすったなと思いながら、湯飲みをもう一つ用意した。
「霊夢ー霊夢ーお邪魔するねー」
縁側に戻ったところで、見ると珍しいお客様。風変わりな帽子も相変わらずな、諏訪子
一人がそこにいた。
「後から誰か来ないの?」
「今日は私一人。ねー聞いて、霊夢、霊夢、神からの質問よー」
「いいから座って。お茶用意してるからどうぞ」
私がまず縁側に座り、左手に諏訪子がちょこんと座った。茶を注いで湯飲みを差し出す。
「で、一体どんな質問なわけよ」
「あ、うん。あのね、霊夢の逆って誰?」
ひとまず私はお茶をすすった。そして諏訪子に顔を向けた。
「意味が分からないわ」
「えーそれじゃ困るんだけど。ほらほら神のお言葉よ、巫女なら分かりなさい」
「まず分からないと困る状況から説明して頂戴」
おかしな会話にもすっかり慣れてしまったものかな。一人でいるより幾分ましか。今日
は妙ちきりんな神様と、やっぱり妙ちきりんなおしゃべりでも楽しむとするか。
「えっと昨日の晩のことからかな」
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昨日の晩は守矢神社の宴会があった。私と早苗が一緒に仲良く飲んでいると、お呼びで
ないのに、いつの間にか出席していた魔理沙が早苗に絡んできた。
「お前酒の席でオレンジジュースはないだろ」
「いやいや私が飲むと後々面倒なことに……」
「いいからちょっとでいいから、な?」
「だーめ、早苗に飲ますと片付け役が無くなるもの。それに、後からそれはそれは本当に
怖いことになるわ。それこそ祟りのような」
とこんな感じに早苗を文字通り魔の手から私が守ってあげた。早苗にひっつく虫は追い
払わないと。でも結局そのまま魔理沙と早苗が楽しくお話するようになった。その時に、
あなたの話題になったの。
「早苗って霊夢とかぶってるよな。没個性だぜ」
「それはないわ。絶対ない。むしろ逆よ逆」
「何を言い出すかと思えば、お前が霊夢の逆? それはない。私が霊夢の逆だからな」
「あなたが霊夢の逆なわけないわ。私のほうが霊夢の逆に決まってる」
と、ちょっとしたことで霊夢の逆は誰か論争になった。そこに神奈子も混じってしまっ
て事が大きくなってきた。
「面白そうなこと話してるじゃないか。早苗のほうが霊夢の逆だね」
「ほら、八坂様もそうおっしゃっているもの。私のほうが霊夢の逆よ」
「お前ら、そもそも霊夢の何を知ってるんだ? ここに来て日も浅いのに霊夢を語られち
ゃ困るね」
「霊夢は幻想郷に長いこといるんだろ? 早苗は短い間しかいない。逆じゃないか」
「それに赤色の逆は緑。色からしても私のほうが逆よ」
「おっと、見た目で霊夢を判断するなんざ百年早い。ここだと人を語るには弾幕だ。霊夢
は誘導弾や跳ねる陰陽玉とかで曲線的。私は知っての通り直線的。逆じゃないか」
段々よく分からなくなってきたから私が口を挟んでみた。
「ここは本人に聞いてみるのが早いんじゃないかな」
「それだ。私が明日霊夢に聞きに行ってくるぜ」
そう魔理沙が言ったけれど、神奈子が止めた。
「待った、当事者が行くとまずいだろ。言いだしっぺの諏訪子、明日、よろしく」
「ちょっと神奈子、なんで私が……」
「諏訪子様、お願いしますね」
「あう、うん、がんばる」
こうして私が行くことになって、しかも魔理沙、わざわざ今日もうちの神社に来て、
「答え楽しみに待ってるぜ」なんて言われて、ここに来ることになったというお話。
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「……あんたもあんたでよく来るわね」
「早苗の頼みだもん、仕方ないもん」
「ところであんた、うちの分社から来れば良かったのに」
「あう、出来てたの!?」
知らなかったのか。分社からならすぐここに着くというのに。
「神奈子の奴、教えてくれなかった。わざわざ遠回りさせやがってー」
「それはいいとして、私の逆が誰かってことでしょ?」
「うん、用事はそれだけ。誰か思い当たる人、いる?」
他人のことを語るのは良いとして、自分のことを語るとなるとなかなか難しいものだ。
一通りそれらしい人物を頭に浮かばせる。
「やっぱり魔理沙かしらね、理由は特にないけど」
「えー。理由もちゃんとしろって言われたんだけど」
なかなか面倒な用件を突きつけたものだ。諏訪子も大変だ。もう少しきちんと答えるべ
きだったか。
「逆を知るにはもっと私を知らなくちゃいけないと思うの。私がどういう人か、何か話し
てなかった?」
そういうと諏訪子が首をひねり考えてお茶を一口。思ったより熱かったらしく、あちあ
ち言うのが微笑ましい。
「えっとね、人妖問わず人気だとか言ってた」
「じゃあその逆を考えればいいじゃない。誰からも好かれない、となると魔理沙が近いか
しらね」
あくまで早苗と比べての話だが、これを本人が聞いたらどう思うか気になるところだ。
「あと、いつもはのんびり仕事はきっちりだーて魔理沙が言ってた。えーと逆にしてみる
と、いつもはきっちり仕事はのんびり……」
「それは早苗かしらね。仕事はのんびりかは分からないけど、魔理沙がきっちりには見え
ないわ」
ここまで早苗が一票、魔理沙が一票といったところか。真逆な人間なんてそうそうない。
諏訪子は困るかもしれないけれど、それが普通だ。仕方が無い。
「どっちもどっちってことになると、またややこしくなるよ」
「普通はそんなもんよ。何もかも逆な存在なんていたら怖いわ」
「じゃあ他に何かないかな。ああ、あと、勘が良くて幸運に恵まれることがあるらしいね。
勘が鈍いとなると早苗だね。全体的にみると早苗、てことになるのかな」
「でも早苗も巫女のようなもんなんでしょ?」
そこまで尋ねると、お隣のちっこい神さんが目を開いた。そして元気な声で言った。
「おお、分かったわ。霊夢の逆がやっと」
「へえ、誰よ」
最初から答えなぞどうでもよかったが、ここまで話してみるとどんな結論に至ったのか、
気になるものである。一呼吸おいて、諏訪子が口を開いた。
「私!」
一体何をどう考えてそうなったのだろうか。私の思考には構わず続けて、諏訪子が明る
く話した。
「いままでのをまとめてみると、皆から不人気、いつもはきっちり仕事はのんびり。勘が
鈍くて薄幸、という感じよね」
「まあ、それでいいと思うわ。で、どうしてあんたが私の逆?」
諏訪子が縁側から跳ねて立ち上がり、こちらに向き直る。そして胸に手をあて、ゆっく
りと目をつぶって語り始めた。
「私、洩矢諏訪子。ただの女の子に見えるけれど、ほんとはミシャグジ様を束ねる、神様
なの。昔は色んな人から信仰を集めていた。でも、信仰とはいっても、恐れからのものが
大きかったの」
「もしもし諏訪子さーん」
彼女の思考は今、何処の世界にいて何時の時代にいるものなのだろうか。分からない。
「そして外の人間からは忘れられ、幻想郷に来ても、守矢神社の表の顔はあくまで神奈子。
裏の顔が知られることはないの。そう、私は不人気。ずっと隠れて生きてきた女の子」
「もしもーし」
「表の顔は神奈子でも、実際の神徳は私の力。だからいつもきっちりしていないといけな
い。でも見かけの仕事はみんな神奈子が奪っていく。だから自分の出来る仕事がなくて、
仕事はのんびり。自分が頑張った分、手柄は神奈子が持っていってしまうの。そんな可哀
想な虐げられた女の子。美しいって罪なのかしら」
「脚色入ってるわよ」
「大昔のことでした。勘の鈍かった私は神奈子達に勝てると思っていた。でも、駄目だっ
たの。敗れてしまったの。それ以来、私は神社を乗っ取られ、日陰の方に追いやられてし
まった、薄幸の少女」
諏訪子が片手を斜め上に揚げて言った、まさに悲劇でも始めるかのようだ。
「巫女の対照的な神様である私。神様なのに、人に知られず、虐げられ、日陰の女の子。
でも私、負けない。一人の私の子孫のために、おいしいとこ取りされたって、私はずっと
頑張り続けるの。おお、神よ。いつの日か報われることを……」
「あんたが神様でしょうが」
「まあそんなわけで私が霊夢の逆だと思うの。全部私に当てはまるし、何より巫女に対照
的よ。納得した?」
「分かった。分かった。じゃあそういうことでいいんじゃないかしら?」
そういうと諏訪子は満足げに分社に向かい、守矢神社に報告しに帰っていくのであった。
数刻後。諏訪子が戻ってきた。諏訪子のみならず、守矢一家総員プラス一名を連れて。
そしてやってくるなり私を囲んで皆が皆訴えかけてきた。
「私神様だもん。巫女の逆っぽいでしょ? さっきそういったもんね、霊夢?」
「私だって神様だ。それにオンバシラは直線的だぞ、私が逆だろ、霊夢?」
「やっぱり色的に考えて私よね、霊夢?」
「まあ長い付き合いだ。私が逆だって分かるよな、霊夢?」
こうなってしまうと、私は笑顔で首を傾けるしかできない。そして誰からとなく発せら
れた。
「よろしい、ならば弾幕だ」
こうして弾幕合戦の火蓋が切って落とされるのであった。
ああ、今日も平和な一日だ。梅の花が綺麗、お日様が心地よい。そしてお茶が温かい。
私はお茶をまた一口、飲んだ。
髪が緑より服が緑の方がより霊夢の逆っぽいしね
…誰なんだろう?
タイトルはアレの便乗でしょう、私は良いと思いますがね。
日本人はもっとジョークを大人に受け入れて欲しい物です。
火に油を注ぐ恐れもありますが
個人的にはユーモア心溢れてて大好きです。
でも議題は面白かったし、確かに妖夢が霊夢の逆っぽいと私も思います。背も低いし。一人だけ接近戦だし。いっぱいいっぱいだし。何より「~夢」という名前が、神主が意図して対にしたっぽさを醸し出してるなーと。
とか思うけど、それ以外は確かに妖夢なのかな。言われてみれば