ミスティアは困っていた。
最近、歌を歌っていると邪魔が入るのだ。
そいつはどんな場所でも邪魔しにくる。
空高い冥界へと続く門前でも、結界へと程近い境内でも、歌い出すとすぐ駆けつけてくる。
そして、今日こそはとミスティアは魔法の森の奥深くまで来ていた。
森は静寂としていて、周囲には獣の気配すらない。
軽く発声練習をすると、ミスティアは息を吸った。
「ちんちー「そこまでよ!!」
制止の叫びに振り向くと、そこにはやはり本を片手に紫の魔女。
「・・・・」
「・・・・」
「ち「そこまでよ!!」
魔女は真っ青な顔で、良くて病人、眼を閉じればまるで死人だ。
「・・・・なんでよ、どうして邪魔するのよ!歌を歌っているだけじゃない!!」
魔女は答えない、ただただジッと見つめてくる。
「いいじゃない雀の鳴声のち「そこまでよ!!」くらい。だいたいどうやってこんなところまで来たのよ。貴女実はすっごい健康でしょ!」
すると魔女の帽子に穴を開け、小さな魔女が10人ほど出てきた。
その内の1人が看板を立てると、そこには『審議中』の文字が。
そして魔女達は5人ずつで肩を組んで、ダンスを踊った。
「な、なに・・・・?」
理解できないミスティアを余所に、魔女達は新たな看板を立てる。
『否決』
「残念ながら貴女の主張は認められなかったわ」
「うぎぎぎぎぎぎ、いいわ、こうなったら徹底抗戦よ!」
ミスティアは飛び出した。
天狗ほどではないが、それでも早さには自信がある。
あんな鈍そうな魔女に負けるものか。
「ち「そこまでよ!!」ラララ夜の屋台~♪わ・た・し・は、歌うのち「そこまでよ!!」ドキドキミラクルゥ♪素敵なち「そこまでよ!!」だから私は~この大空にけん「そこまでよ!!」で~♪」
逃げても逃げても追ってくる制止の声に、ミスティアは心底恐怖した。
「こんばんはミスティアさん。そんなに急いで何所に行かれるのですかスクープですかでしたら私も是非ご一緒させてくださいいいシーン期待していますよそれで何所で何が起こりそうなんでしょう」
いつの間にか烏天狗まで横へとついてきた。
流石は天狗、ミスティアの全速にも涼しい顔をしている。
「たたたたすけてぶんぶんぶんっ!」
「また亡霊にでも追われているのですか?それはいけない、私の手を!」
ミスティアが射命丸の手を取ると、流れる風景がさらに加速する。
「これなら・・・ち「そこまでよ!!」ヒィッ!ぶんぶんぶんぶんもっとスピード、スピードを!速さが足りないわ!」
「なっ、この私が遅い?私がスロゥリィィ!?・・・・冗談じゃありません!」
射命丸はさらに速度を上げ、とうとう周囲の景色を識別するのが困難となった。
「ぶ、ぶん・・・ちょ、まっ・・・息、でき・・・」
「ダメですよ手を離しちゃ!捕食者は脅威です!」
「ち、ちぃ「そこまでよ!!」
「「ふぃぎゃあああああああ!!」」
「ハッ、ハッ、ハッ・・・・・ハァッ」
射命丸が停止した頃には、すっかり日も暮れていた。
「ハッ、ハッ・・・・大丈夫ですかミスティアさん?」
「・・・・・・・ち・・・ん「そこまでよ!!」
ミスティアは完全に沈黙した。
「な、なぜ、なぜ私の速さに・・・・・」
「・・・・・・」
「私の・・・・・はや・・・・さ・・・・・が・・・・・」
射命丸は崩れ落ちた。
彼女の相棒の烏は射命丸の頬にくちばしを寄せ、反応がないと悲しそうに鳴いた。
「・・・・・それが私の使命だから、よ」
魔女は静かに2人の元へプリンを供えた。
やっぱ例のポーズなんだろうな
ちょっとプリンのカラメル部分の角に頭ぶつけてきます