・作品集23「こぁとあややの妖怪調査」を元にした作品です。
もしかしたら読んでいない方が楽しめるかもしれませんが、その辺りはご随意に。
幻想郷と外界を隔てる、博麗大結界。
それはあまりにも強大ですから、それを維持管理する者にもまた、相応の力量が求められます。
博麗の巫女はその要求される能力の高さから、幻想郷内でも有数の強さを誇るのです。
今代の巫女も例に漏れず、様々な異変の解決に臨み、幻想郷の並み居る妖怪をばったばったと退治していました。
ですが、彼女はこの異変の解決に加わることが出来ませんでした。
――何故ならば、真っ先に犠牲になったのが彼女だったからです。
巫女と共に神社で犠牲になったのは、流星のように素早い白黒の魔法使いと、数多の人形を扱う一騎当千の人形師。
さらには、お酒好きな強き鬼もです。
それぞれ、尋常ならざる力量の持ち主でしたが、その妖怪の前にはあまりにも無力でした。
しかし、博麗神社で起きたこの襲撃も、それから立て続けに起こる事の始まりでしかありません。
妖怪の山にあるもう1つの神社は、その立地条件からか寒波も強く、あっさりとその妖怪の侵入を許してしまいました。
二柱の神も仕える巫女も、その寒さと共にやって来た妖怪にあっさりと食べられてしまいました。
神様が信仰によってその強さを増すように、その妖怪は寒ければ寒いほど強くなれるのです。
人里では人々がなすすべもなく飲み込まれ、その里を守る歴史喰いの半獣と、鳳凰の化身ですらも屈伏せざるを得ませんでした。
冥界の白玉楼では、全断の刄を扱う剣士が膝を折り、彼女と共に桜花の亡霊嬢は食べられてしまいました。
マヨイガのスキマ妖怪は幸運にも、冬眠中のために難を逃れました。
しかしながら、その代償として親愛なる式と、式の式を失うこととなりました。
幻想郷の並み居る強者達を取り込んでもなお、その妖怪の勢いは止まりません。
鉄壁を誇る永遠亭の因幡達は士気も旺盛で、彼女達ならばそれを止められるかも。
永遠を生きる姫はそう踏んでいましたが、彼女の誤算は因幡達が寝返る事を想定していなかったことです。
残された姫と月をも覆い隠す天才薬師は、その強靱な精神力で多少なりとも抵抗を試みました。
しかしながら抵抗も虚しく、彼女達が意識を失った時に大勢は決し、永遠亭は飲み込まれました。
かつてない大寒波の影響を受けて、幻想郷を飲み込まんとするその妖怪。
しかし、そんな妖怪の襲撃を未だ受けていない場所がありました。
――そう、我らが紅魔館です。
その妖怪にとって洋館は手出しの出来ない、聖域のようなものでした。
付け加えるならば、外の寒気が入りづらいことも、その妖怪の侵入を防いでいたのかもしれません。
凛々しく厳しい門番を、触れれば切れそうな従者を率い、立ち上がるのは我らがお嬢様、レミリア・スカーレット。
お嬢様を支えるのは彼女達だけではありません。
万物を破壊する力を秘めた可愛らしい妹様、フランドール・スカーレット。
莫大な知識をその内に収めた、知を極めし賢者パチュリー・ノーレッジ。
その結束は固く、実力も申し分ありません。
――戦いの火蓋は、切って落とされました。
「――こぁちゃん。そんなに真剣に、何書いてるんですか?」
「……!?」
眼鏡をかけ、羽ペンを手に机に向かっていた小悪魔は、耳元からの声にびくりと反応した。
静かに、恐る恐る振り返ると、そこにはかの烏天狗の顔があった。
そう、とても近くに。
「ふふ。メイドさんに案内されて入り口の所で呼んで頂いたんですけど、誰の返事もなかったから来ちゃいました」
「あの、いつから、そこに?」
「うーん……そのお話が、先日私が遭遇した妖怪を題材にしたものだと予想できるくらい、ですね。
あ、私のことはどうぞ気にせず続けて下さい。出来ればその凛々しい眼鏡の横顔を1ま」
その言葉が終わるのを待たず、素早く書きかけの本を閉じ、筆記具をまとめ、眼鏡を外して逃げ出す小悪魔。
しかし相手は幻想郷最速クラスの俊足である。
地の利こそあれ、基礎体力の差で、あっさりと小悪魔は文に捕まえられてしまった。
「う、うぅ~……」
「ふふ、お話は最後まで聞いてくださいな。
ところでですね、このお話には色々な方が出てますけど……もしかして、私もですか?」
「は、はい。暖かい誘惑に屈しそうなお嬢様達に冷たい風を浴びせ、
『お手伝いしましょうか? ただし何でも手加減しちゃいますよ』って助けに入る役回りで」
顔を赤らめながら話す小悪魔。だが頬を染めたのは文も同じだった。
撮るのは慣れているが、撮られるのは慣れていない彼女である。
こうした物語に――それも妙においしい役で――出されることなど、皆無と言ってもいい。
「あ……あのですねこぁちゃん。私はあくまでも記者ですので、そういった所に出されてしまうのはこう、何と言いますか」
「でっ、でも文さんはこの妖怪と引き分けたじゃないですか!
そんな文さんが今度こそ決着をつけようと追っていた所で、苦戦しているお嬢様達を見つけ、
敢えて新聞記者としての特ダネをものにするために一歩引くみたいな流れまで考えていたんですよ?」
嘆きにも似た口調で反論するのは、果たして先ほど逃げ出した小悪魔であっただろうか。
文に捕まえられて、情けない声をあげていた小悪魔であっただろうか。
穏やかに紅茶をご馳走してくれた、悪魔らしくない小悪魔であっただろうか。
――否。
それは、新聞記者たる文だからこそ感じられるもの。
かたや真実を書く者。
かたや幻想を描く者。
対象は違えどペンを武器とすることに変わりはない。
今の小悪魔の目は、まさに物書きとしての輝きを放っていた。
「……ええと、私のように事実を書くのでしたらともかく、
フィクションを書くのでしたら、登場人物を実在の方々にしてしまうのはまずいと思うんですけど」
不覚にも気圧され、その分だけ冷静さを取り戻した文は、言葉を選んで指摘する。
この話に出てくる妖怪が手強いことは、文も身を以て知っているし、証拠写真もある。
だがそれでも、幻想郷の各々がこうも破れ去るかは解らない。
もっとも、フィクションとはいえこれが現実になる可能性はゼロではないのだが。
「え……えっと、私の心の図書館にこっそりとしまっておくくらいなら、構いませんよね」
「私もあまりとやかく言えませんけど、形になって人目に触れられるようになったものには、責任がくっついて来ちゃいますから。
あー……でも、完成したら読ませて頂けますか?
例の妖怪に関しては、私も無関係じゃありませんので」
「は、はい。あれから私も色々調べてますので、文さんから頂いた情報以上の事を盛り込めると思います。
こういうことは初めてなので上手く書けるかわかりませんけど、頑張りますね」
返されたのは、にこやかな微笑み。
しかしながら、それはその直後に引っ込められてしまうのだが。
「それはさておき未来の幻想作家の凛々しき眼鏡姿を」
「だーめーでーすっ!!」
――止められた時すらも忘れさせ、門番の気ですらも通用しないその妖怪。
そんな強大な相手と対峙したお嬢様は、従者達に退くように命じ、自らの愛槍グングニルを手に門前で防衛戦を展開していました。
助っ人に入った黒翼の新聞記者も、その妖怪の魔性とも呼べる誘惑から皆さんを守るため、お嬢様の支援が出来ません。
運命を読み、ただひたすらに魅了されまいと孤軍奮闘するその姿は、まさに戦乙女。
その背中はまるで、主は時として、自らの身を挺しても下々の者を守らなければならないと語るようでした。
ですがその戦いは防衛戦ではなく、お嬢様には守りに入るという気はこれっぽっちもなかったのです。
突如として開け放たれる正面玄関。
幾多のコウモリになって散開するお嬢様。
寒気を切り裂き貫いていく光芒は、その射手を象徴する赤紫色。
それは館内に待避したパチュリー様と妹様による、渾身の魔力を込めた砲撃でした。
それによる勝利の運命を、お嬢様は既に見ていたのです。
その直撃を受けた妖怪は消え去りました。
そして驚くべきことに、そこから爆発的な勢いで春度が幻想郷中に広がっていったのです。
異常な寒波は、その妖怪が春度をその内に貯えていたため。
奇しくも、かつて冥界の亡霊嬢が起こした異変と同じく、春度が関わる事件だった、ということです。
かくして、妖怪KOTA-Ⅱは退治され、幻想郷には再びのんびりした平和と、待望の春がやって来たのでした。
――なお、KOTA-Ⅱを退治した魔力砲はパチュリー様の色である『紫』の読みをもじって、
対KOTA-Ⅱ専用スペル『Yukadang-Bow』となったとかならなかったとか。
「――こぁ。この本、何?」
「!?」
もしかしたら読んでいない方が楽しめるかもしれませんが、その辺りはご随意に。
幻想郷と外界を隔てる、博麗大結界。
それはあまりにも強大ですから、それを維持管理する者にもまた、相応の力量が求められます。
博麗の巫女はその要求される能力の高さから、幻想郷内でも有数の強さを誇るのです。
今代の巫女も例に漏れず、様々な異変の解決に臨み、幻想郷の並み居る妖怪をばったばったと退治していました。
ですが、彼女はこの異変の解決に加わることが出来ませんでした。
――何故ならば、真っ先に犠牲になったのが彼女だったからです。
巫女と共に神社で犠牲になったのは、流星のように素早い白黒の魔法使いと、数多の人形を扱う一騎当千の人形師。
さらには、お酒好きな強き鬼もです。
それぞれ、尋常ならざる力量の持ち主でしたが、その妖怪の前にはあまりにも無力でした。
しかし、博麗神社で起きたこの襲撃も、それから立て続けに起こる事の始まりでしかありません。
妖怪の山にあるもう1つの神社は、その立地条件からか寒波も強く、あっさりとその妖怪の侵入を許してしまいました。
二柱の神も仕える巫女も、その寒さと共にやって来た妖怪にあっさりと食べられてしまいました。
神様が信仰によってその強さを増すように、その妖怪は寒ければ寒いほど強くなれるのです。
人里では人々がなすすべもなく飲み込まれ、その里を守る歴史喰いの半獣と、鳳凰の化身ですらも屈伏せざるを得ませんでした。
冥界の白玉楼では、全断の刄を扱う剣士が膝を折り、彼女と共に桜花の亡霊嬢は食べられてしまいました。
マヨイガのスキマ妖怪は幸運にも、冬眠中のために難を逃れました。
しかしながら、その代償として親愛なる式と、式の式を失うこととなりました。
幻想郷の並み居る強者達を取り込んでもなお、その妖怪の勢いは止まりません。
鉄壁を誇る永遠亭の因幡達は士気も旺盛で、彼女達ならばそれを止められるかも。
永遠を生きる姫はそう踏んでいましたが、彼女の誤算は因幡達が寝返る事を想定していなかったことです。
残された姫と月をも覆い隠す天才薬師は、その強靱な精神力で多少なりとも抵抗を試みました。
しかしながら抵抗も虚しく、彼女達が意識を失った時に大勢は決し、永遠亭は飲み込まれました。
かつてない大寒波の影響を受けて、幻想郷を飲み込まんとするその妖怪。
しかし、そんな妖怪の襲撃を未だ受けていない場所がありました。
――そう、我らが紅魔館です。
その妖怪にとって洋館は手出しの出来ない、聖域のようなものでした。
付け加えるならば、外の寒気が入りづらいことも、その妖怪の侵入を防いでいたのかもしれません。
凛々しく厳しい門番を、触れれば切れそうな従者を率い、立ち上がるのは我らがお嬢様、レミリア・スカーレット。
お嬢様を支えるのは彼女達だけではありません。
万物を破壊する力を秘めた可愛らしい妹様、フランドール・スカーレット。
莫大な知識をその内に収めた、知を極めし賢者パチュリー・ノーレッジ。
その結束は固く、実力も申し分ありません。
――戦いの火蓋は、切って落とされました。
「――こぁちゃん。そんなに真剣に、何書いてるんですか?」
「……!?」
眼鏡をかけ、羽ペンを手に机に向かっていた小悪魔は、耳元からの声にびくりと反応した。
静かに、恐る恐る振り返ると、そこにはかの烏天狗の顔があった。
そう、とても近くに。
「ふふ。メイドさんに案内されて入り口の所で呼んで頂いたんですけど、誰の返事もなかったから来ちゃいました」
「あの、いつから、そこに?」
「うーん……そのお話が、先日私が遭遇した妖怪を題材にしたものだと予想できるくらい、ですね。
あ、私のことはどうぞ気にせず続けて下さい。出来ればその凛々しい眼鏡の横顔を1ま」
その言葉が終わるのを待たず、素早く書きかけの本を閉じ、筆記具をまとめ、眼鏡を外して逃げ出す小悪魔。
しかし相手は幻想郷最速クラスの俊足である。
地の利こそあれ、基礎体力の差で、あっさりと小悪魔は文に捕まえられてしまった。
「う、うぅ~……」
「ふふ、お話は最後まで聞いてくださいな。
ところでですね、このお話には色々な方が出てますけど……もしかして、私もですか?」
「は、はい。暖かい誘惑に屈しそうなお嬢様達に冷たい風を浴びせ、
『お手伝いしましょうか? ただし何でも手加減しちゃいますよ』って助けに入る役回りで」
顔を赤らめながら話す小悪魔。だが頬を染めたのは文も同じだった。
撮るのは慣れているが、撮られるのは慣れていない彼女である。
こうした物語に――それも妙においしい役で――出されることなど、皆無と言ってもいい。
「あ……あのですねこぁちゃん。私はあくまでも記者ですので、そういった所に出されてしまうのはこう、何と言いますか」
「でっ、でも文さんはこの妖怪と引き分けたじゃないですか!
そんな文さんが今度こそ決着をつけようと追っていた所で、苦戦しているお嬢様達を見つけ、
敢えて新聞記者としての特ダネをものにするために一歩引くみたいな流れまで考えていたんですよ?」
嘆きにも似た口調で反論するのは、果たして先ほど逃げ出した小悪魔であっただろうか。
文に捕まえられて、情けない声をあげていた小悪魔であっただろうか。
穏やかに紅茶をご馳走してくれた、悪魔らしくない小悪魔であっただろうか。
――否。
それは、新聞記者たる文だからこそ感じられるもの。
かたや真実を書く者。
かたや幻想を描く者。
対象は違えどペンを武器とすることに変わりはない。
今の小悪魔の目は、まさに物書きとしての輝きを放っていた。
「……ええと、私のように事実を書くのでしたらともかく、
フィクションを書くのでしたら、登場人物を実在の方々にしてしまうのはまずいと思うんですけど」
不覚にも気圧され、その分だけ冷静さを取り戻した文は、言葉を選んで指摘する。
この話に出てくる妖怪が手強いことは、文も身を以て知っているし、証拠写真もある。
だがそれでも、幻想郷の各々がこうも破れ去るかは解らない。
もっとも、フィクションとはいえこれが現実になる可能性はゼロではないのだが。
「え……えっと、私の心の図書館にこっそりとしまっておくくらいなら、構いませんよね」
「私もあまりとやかく言えませんけど、形になって人目に触れられるようになったものには、責任がくっついて来ちゃいますから。
あー……でも、完成したら読ませて頂けますか?
例の妖怪に関しては、私も無関係じゃありませんので」
「は、はい。あれから私も色々調べてますので、文さんから頂いた情報以上の事を盛り込めると思います。
こういうことは初めてなので上手く書けるかわかりませんけど、頑張りますね」
返されたのは、にこやかな微笑み。
しかしながら、それはその直後に引っ込められてしまうのだが。
「それはさておき未来の幻想作家の凛々しき眼鏡姿を」
「だーめーでーすっ!!」
――止められた時すらも忘れさせ、門番の気ですらも通用しないその妖怪。
そんな強大な相手と対峙したお嬢様は、従者達に退くように命じ、自らの愛槍グングニルを手に門前で防衛戦を展開していました。
助っ人に入った黒翼の新聞記者も、その妖怪の魔性とも呼べる誘惑から皆さんを守るため、お嬢様の支援が出来ません。
運命を読み、ただひたすらに魅了されまいと孤軍奮闘するその姿は、まさに戦乙女。
その背中はまるで、主は時として、自らの身を挺しても下々の者を守らなければならないと語るようでした。
ですがその戦いは防衛戦ではなく、お嬢様には守りに入るという気はこれっぽっちもなかったのです。
突如として開け放たれる正面玄関。
幾多のコウモリになって散開するお嬢様。
寒気を切り裂き貫いていく光芒は、その射手を象徴する赤紫色。
それは館内に待避したパチュリー様と妹様による、渾身の魔力を込めた砲撃でした。
それによる勝利の運命を、お嬢様は既に見ていたのです。
その直撃を受けた妖怪は消え去りました。
そして驚くべきことに、そこから爆発的な勢いで春度が幻想郷中に広がっていったのです。
異常な寒波は、その妖怪が春度をその内に貯えていたため。
奇しくも、かつて冥界の亡霊嬢が起こした異変と同じく、春度が関わる事件だった、ということです。
かくして、妖怪KOTA-Ⅱは退治され、幻想郷には再びのんびりした平和と、待望の春がやって来たのでした。
――なお、KOTA-Ⅱを退治した魔力砲はパチュリー様の色である『紫』の読みをもじって、
対KOTA-Ⅱ専用スペル『Yukadang-Bow』となったとかならなかったとか。
「――こぁ。この本、何?」
「!?」
誤字らしきモノ
「正面玄関ゅ」→「正面玄関より」若しくは「正面玄関から」と入れたかったのではないかと。
幻想郷には眼鏡分が非常に不足していると思うのです。
特に家族だった日には・・・首つりものです