八雲紫×森近霖之助……のような何か。
こういうのがお嫌いな方は、そっと『戻る』を押してください。
外がほんのり暖かくなってきた時分、ストーブを動かさずに済む様になって久しい。
それでも時々は寒くなるので、時々はストーブを動かしている。
生き物が動けば腹が減るように、道具はその燃料が減るものだと霖之助は心得ていた。
「『次に燃料を継ぎ足すことは、また冬が訪れるまで無いだろう』」
「!……君は心を読むことまでできるのかい?」
「そんなことはできませんわ」
「だけどお見通しというわけか。さすがは妖怪」
「さすがは、私でしょう」
気づけば店の中に、八雲紫が満面の笑みを浮かべて立っている。
気配もなく、音もなく、ただそこに立っているだけであった。
霖之助は彼女が苦手である。何もかもを見透かされた気がするからだ。
掴みどころがなく、全ては彼女の理の上で、演算されて走らされているのではないか。
そんな気がしてきて、どうしても苦手なのである。
「本日は何の御用で?」
つとめて冷静に答えたつもりの霖之助だが、自分自身の声が震えているような気がしてならない。
紫はそんな霖之助に答えること無くスカートをやさしく翻すと、そのまま店内を歩いて回るだけだ。
その足取りは歩いているのか、踊っているのか判断に困る。その程度にあいまいなものだった。
息が詰まる、という単語がうってつけの時間だ。
「用事が無くては来てはいけないかしら?」
「……いえ、そのようなことは」
「それじゃあ別に構わないでしょう。私に構ってくださってるの?お優しい」
また満面の笑み。それを見た霖之助は、軽い眩暈にも似た感覚を覚えた。
紫の口から語られる言葉は別におかしいわけではない。話言葉として、過不足の無いものだ。
そして立ち居振る舞いもまた、人に対して敵対心を抱かせない程度には過不足が無いものだ。
だからこそ、半人半妖の僕にはこたえる。霖之助は、そう認識していた。
「お構いなく、店主さま。私はゆっくりさせていただきますわ」
「……はぁ」
だが本を読もうにも、お茶をいれようにも、八雲紫という少女の存在が、霖之助の意識から離れない。
彼女という妖怪を知れば知るほどに、意識の隙間に、視界の片隅に、音の中に彼女は在る。
店の品を眺めるわけでなく、かといってこちらを見てくるわけではない。
わずらわしさを感じさせるわけでなく、さりとて胸をかきむしるような感情を覚えるわけでもない。
なんという妖怪なのだ、と霖之助は口に出さないように呻くばかりであった。
ふと、自身の認識における一切合切から彼女が消えていた。
そんな間が存在していたことに気づき、霖之助は意識と視線を紫に向けようとする。
だが彼女はどこにもいない。
「――何をお探しかしら?」
耳元で囁く声に、霖之助は立ち上がり、振り返ろうとする。
だがそっと抱きつかれてはそれもままならない。
かろうじて首を動かせる程度の隙間が残されていて、ようやく視界に捉えた
「いや別に…何も……だけど、そんな言葉じゃ、立場が逆になってしまいますよ?」
「ふふ、嘘をつくのが下手ですわね」
「別に、そんな――」
反論をしようとして霖之助は気づく。いつのまにか、霖之助の正面に彼女が立っているのだ。
そこにある、笑顔。満面ではあるのだが、どこか寒々しい。
ようやく霖之助は、紫の満面の笑顔にも種類と精度が存在することに気がついた。
「……あら、少し遊びすぎたようですわね」
「?……何のことです?」
返答することなく、笑顔をたたえたまま、八雲紫は帰っていった。
霖之助はようやく自分の呼吸を取り戻しながら、暖かくも冷たくも無いお茶を飲む。
今起こった出来事を振り返り、それを一つの言葉で定義することで、ようやく落着した。
八雲紫、あやしき妖なり。
「……つまり、あやしいというわけか」
こういうのがお嫌いな方は、そっと『戻る』を押してください。
外がほんのり暖かくなってきた時分、ストーブを動かさずに済む様になって久しい。
それでも時々は寒くなるので、時々はストーブを動かしている。
生き物が動けば腹が減るように、道具はその燃料が減るものだと霖之助は心得ていた。
「『次に燃料を継ぎ足すことは、また冬が訪れるまで無いだろう』」
「!……君は心を読むことまでできるのかい?」
「そんなことはできませんわ」
「だけどお見通しというわけか。さすがは妖怪」
「さすがは、私でしょう」
気づけば店の中に、八雲紫が満面の笑みを浮かべて立っている。
気配もなく、音もなく、ただそこに立っているだけであった。
霖之助は彼女が苦手である。何もかもを見透かされた気がするからだ。
掴みどころがなく、全ては彼女の理の上で、演算されて走らされているのではないか。
そんな気がしてきて、どうしても苦手なのである。
「本日は何の御用で?」
つとめて冷静に答えたつもりの霖之助だが、自分自身の声が震えているような気がしてならない。
紫はそんな霖之助に答えること無くスカートをやさしく翻すと、そのまま店内を歩いて回るだけだ。
その足取りは歩いているのか、踊っているのか判断に困る。その程度にあいまいなものだった。
息が詰まる、という単語がうってつけの時間だ。
「用事が無くては来てはいけないかしら?」
「……いえ、そのようなことは」
「それじゃあ別に構わないでしょう。私に構ってくださってるの?お優しい」
また満面の笑み。それを見た霖之助は、軽い眩暈にも似た感覚を覚えた。
紫の口から語られる言葉は別におかしいわけではない。話言葉として、過不足の無いものだ。
そして立ち居振る舞いもまた、人に対して敵対心を抱かせない程度には過不足が無いものだ。
だからこそ、半人半妖の僕にはこたえる。霖之助は、そう認識していた。
「お構いなく、店主さま。私はゆっくりさせていただきますわ」
「……はぁ」
だが本を読もうにも、お茶をいれようにも、八雲紫という少女の存在が、霖之助の意識から離れない。
彼女という妖怪を知れば知るほどに、意識の隙間に、視界の片隅に、音の中に彼女は在る。
店の品を眺めるわけでなく、かといってこちらを見てくるわけではない。
わずらわしさを感じさせるわけでなく、さりとて胸をかきむしるような感情を覚えるわけでもない。
なんという妖怪なのだ、と霖之助は口に出さないように呻くばかりであった。
ふと、自身の認識における一切合切から彼女が消えていた。
そんな間が存在していたことに気づき、霖之助は意識と視線を紫に向けようとする。
だが彼女はどこにもいない。
「――何をお探しかしら?」
耳元で囁く声に、霖之助は立ち上がり、振り返ろうとする。
だがそっと抱きつかれてはそれもままならない。
かろうじて首を動かせる程度の隙間が残されていて、ようやく視界に捉えた
「いや別に…何も……だけど、そんな言葉じゃ、立場が逆になってしまいますよ?」
「ふふ、嘘をつくのが下手ですわね」
「別に、そんな――」
反論をしようとして霖之助は気づく。いつのまにか、霖之助の正面に彼女が立っているのだ。
そこにある、笑顔。満面ではあるのだが、どこか寒々しい。
ようやく霖之助は、紫の満面の笑顔にも種類と精度が存在することに気がついた。
「……あら、少し遊びすぎたようですわね」
「?……何のことです?」
返答することなく、笑顔をたたえたまま、八雲紫は帰っていった。
霖之助はようやく自分の呼吸を取り戻しながら、暖かくも冷たくも無いお茶を飲む。
今起こった出来事を振り返り、それを一つの言葉で定義することで、ようやく落着した。
八雲紫、あやしき妖なり。
「……つまり、あやしいというわけか」
この後の香霖堂がどうなったか、それもみてみたいものですね
乙女してるな
うまくいったのか、いかなかったのか。自分では今ひとつよくわかりません。
確かに紫のスキップは似合わないかもしれない…orz